艦魂年代史 〜ドキッ☆恋する乙女は大艦巨砲主義〜(40/129)PDFで表示縦書き表示RDF


巻雲まきぐも
 夕雲型駆逐艦駆逐艦二番艦――駆逐艦『巻雲』
 出身 藤永田造船所(大阪府)
 身長 156cm
 髪型 ツインテール
 実年齢(1942年10月現在)0歳
 外見年齢 13、4歳
 誕生日 3月14日
 好きなもの 姉妹・仲間・午後のティータイム
 嫌いなもの 戦争・人種差別・頭の固い上層部
 家族構成 姉・夕雲 妹・十七人
世界海軍史上唯一空母二隻を魚雷で葬った駆逐艦。空母『ホーネット』の艦魂と出会って対米英戦に疑問を持つが、鬼畜米英を方針にしている帝国海軍の中ではそういう考え方は危険分子。一時期は村八分にされるがすぐに仲直りする。だが、それでもこの大東亜戦争に疑問を持ち続ける。この作品でちょくちょく登場する駆逐艦キャラの一人。
艦魂年代史 〜ドキッ☆恋する乙女は大艦巨砲主義〜
作:黒鉄大和



第七章 第九節 霧島の健気な恋心


 南太平洋海戦から二週間後、いまだ航空戦力の衰えないヘンダーソン基地に対して、日本海軍は苦戦を強いられていた。
 ラバウルを中心に多くの航空隊が攻撃を掛けるが、犠牲は増える一方で、そのほとんどの隊が航空戦力を失いつつあった。
 南太平洋の航空戦力はこの戦争の最後の砦。この戦力が失われるような事があれば、敵を中部太平洋、西太平洋へと進出させる足場を渡すようなもの。そうなれば日本本土が危険に晒されてしまう。
 南太平洋の死守は、この戦争での絶対的な防衛線なのだ。
 だからこそ、ソロモン諸島の中央部に位置するガダルカナル島を米軍に渡す事はできなかった。あそこは南太平洋の東側やオーストラリアへの航空戦力展開の重要な中継地点。そこを奪われればこれ以上東に進出はできなくなり、さらにはアメリカ本土との補給路となってしまう。そうなれば、資源の少ない日本に勝ち目はない。
 なんとしても、ガダルカナル島は死守しなければならなかった。
 しかし航空兵力は頼りにならない。
 そんな苦境の日本海軍は、一ヶ月前に成功した艦砲射撃作戦を再び考えていた。
 だが、今度作戦に参加するのは戦艦『金剛』『榛名』ではなく、その姉妹艦『比叡』『霧島』だった。

 トラック島に停泊している連合艦隊旗艦・戦艦『大和』の会議室では戦艦艦魂が会議を行っていた。
「わ、私なんですか!?」
 普段は目立たず、小さな声でしか話さない霧島が部屋中に響くような悲鳴に近い声を上げた。そんな霧島に全員(十二人二四瞳)が集中し、霧島は顔を真っ赤にしてしぼんだ。
 大和はそんな霧島を一瞥するが、構わず話を続ける。
「今作戦は十月十三日〜十四日にかけて行われた敵航空基地艦砲射撃作戦と同様に戦艦二隻他による艦砲射撃で敵航空基地を破壊するものです。その為、今作戦には戦艦『比叡』『霧島』を中心に前衛、後衛を合計して軽巡洋艦三隻、重巡洋艦六隻、駆逐艦三二隻の部隊で行われます」
 大和は指揮棒で海図に描かれた要所を示しながら淡々と説明する。さすがに何ヶ月も経っているので旗艦にも慣れているのだ。
「ちょっといいか?」
「はい」
 大和が説明している最中に金剛が挙手した。不思議そうに首を傾げながら大和が発言権を与えると、金剛は大和、武蔵を睨みつける。
「今作戦も前作戦も、艦砲射撃で敵航空基地を粉砕するものだが、それなら旧式艦である我々ではなく、貴様ら自身が行った方がいいのではないか?」
「そうだぜ。悔しいけど私達の三五・六cm砲より、テメェらの四六cm砲の方が強力だろ? 砲門数もこっちは八門、そっちは九門。どう考えたってテメェらの方が適任だろ?」
 金剛と榛名(発言権なし)が言うのは当然の事だ。その方が絶対威力があり、作戦も成功しやすい。何より何もせずにのうのうとしているよりはマシだ。
「砲門数なら私達が一番よぉ!」
「はい姉さんは黙ってぇな」
 扶桑が空気を読まずに吐いた言葉に冷静にツッコミを入れる伊勢。
 確かに扶桑型と伊勢型は連合艦隊一の砲門数(六基十二門)を持つ(ただし『日向』爆発事故の影響で一基二門不足)。そんな扶桑を置いて、大和は金剛と榛名の質問に答える。
「私と武蔵、それと長門さんも陸奥もトラック島で待機だそうです」
 その言葉に、金剛は不機嫌そうに顔をしかめる。
「貴様らは我が帝国海軍を勝利に導く為に生まれたのだろう? なのに開戦よりもう一年が経とうとしているのに、全く動く気がない。貴様らは一体何の為に生まれてきたのだ?」
「そんな事言われましても・・・」
 対応に困る大和はどう答えればいいか考える。そんな大和を次席指揮官である武蔵が珍しく助ける。
「・・・実際に参加艦艇を決めるのは連合艦隊司令部。私達には何もできない」
「それは言い訳に過ぎん! 貴様らは戦う気が本当にあるのか!?」
「そうだ! お前達がまともに出て来たのはミッドウェー海戦だけ! しかもその時も後方にいて海戦にまったく参加しなかったじゃないか!」
 自分もその時は主力部隊に所属していた事を棚に上げて榛名は怒鳴る。
「そうは言われましても、我々が作戦等を決定してる訳じゃないんです」
 大和の言葉に皆もうなずく。
 所詮艦魂は艦の魂であって傍観者でしかない。戦争に直接介入する事はできないのだ。だが、頭に血が上った金剛にはそんな事関係ない。ただ、怒りに任せて咆哮するだけ。
「知らん! 貴様らは南国のこの島で冷房完備の艦内で堕落するつもりか!?」
「そんな事絶対にしません!」
 金剛の失礼な言動に、さすがの大和も激怒してテーブルをバンッと叩く。彼女だって世界最大最強戦艦としての誇りがある。それを汚す事は誰であろうと許さない。
 睨み合う両者に他の者も小さくため息する。
 年長者と若者は度々衝突する事があるものだが、この二人はいくらなんでも衝突し過ぎだろうと思ってしまう。
 二人がこうして言い合うのは結構多い。それは航空機を優先する大和と艦隊決戦を望む金剛との間にある堅固な壁が原因だろう。
 金剛は榛名に持たせてある竹刀を、大和は腰の軍刀に手を掛ける。
 一触即発の空気に誰もが神に助けを求めた。その時、
「やめてぇッ!」
 今まで事の成り行きをおろおろと見詰めていた霧島が泣きながら叫んだ。その意外な人物の大声に部屋はしんと静まり返る。
 瞳からぽろぽろと涙を流しながら霧島は二人を見つめる。
「金剛姉さんやめて! 大和もッ! 私と比叡姉さんががんばればいいんでしょ!? だからケンカはやめてよぉッ!」
「霧島・・・」
「霧島さん・・・」
 そんな霧島の言葉に二人はそっと武器から手を離すと、互いを一度睨み合ってそっぽを向く。
「あうあう・・・」
「大丈夫よ。いつもの事だから」
 二人の険悪な雰囲気に再び泣きそうになった霧島の頭を、比叡は優しく撫でた。
 比叡は優しげな笑顔で二人を見ると、突然拳を突き出し親指を立てて《任しとけ》と言いたげなポーズをとる。
「大丈夫よ。これくらいの任務ちょちょいのちょいって終わらせて来てあげるから」
 比叡の優しげな雰囲気に、険悪な雰囲気全開であった大和と金剛も次第に殺気を噴出するのをやめる。
 やっとの思いで議論ケンカが終わった所で、長門が立ち上がった。
「そうよね。なんやかんやでもこの二人だってすごいんだから」
「当然だ。私の妹達だからな」
 長門の言葉に、金剛は少し照れながら言う。
 部屋の雰囲気が戻った所で、大和は言う。
「では、会議終了。各員解散」

「へぇ、霧島と比叡さんが」
 甲板の日差し避けの布の下で翔輝は椅子に腰掛けながら嬉しそうに言う。その前には大和、武蔵。そして今回の主役の一人である霧島がいた。
「うらやましいな。そんなに活躍できるなんて」
「そ、そんな事ないですよ・・・」
 翔輝の言葉に、霧島は手を大きく振って謙遜する。
 そうは言っても真珠湾攻撃、南方作戦、ミッドウェー海戦(これは『大和』も参加していたが、後方配置。それに対して『霧島』は機動部隊護衛)、第二次ソロモン海戦、南太平洋海戦、そして今度は第二次敵航空基地艦砲射撃作戦という主力作戦にはいつも参加していた。
 そんな大活躍の霧島を見て翔輝はがっかりとため息を吐く。
「はぁ、『霧島』に比べて『大和』は全然動かないし、どうせなら戦艦としてたくさん活躍できる『霧島』に乗っちゃおっかなぁ」
 翔輝の軽い冗談に、大和は「えええぇぇぇッ!?」とすさまじく驚愕し、霧島は「ほ、本当ですかッ!?」と大喜びした。
「絶対にダメですぅッ!」
 泣きながら翔輝に抱きついて抗議する大和。そんな彼女を見て、翔輝は大笑いした。
「冗談。冗談だよ」
 翔輝があはははと笑うと、顔を真っ赤にした大和は「少尉のバカぁッ!」と怒鳴ると必殺の鉄拳を打ち込んだ。
 見事みぞおちに入った一撃に翔輝は声も出せずに悶絶する。そんな翔輝を大和は「もうッ!」とそっぽを向き、霧島は「少尉ぃ! お気を確かにぃッ!」と泣き出し、武蔵は無言でどこから出したのか機関銃を大和に向ける。
「む、武蔵・・・ッ! それ・・・は・・・ダメ・・・ッ!」
 翔輝は痛む身体を引きずって武蔵の足を掴んで止める。
「・・・でも」
「い、いいから・・・ッ! むしろ・・・起きるの手伝って・・・ッ!」
「・・・わかった」
 翔輝は優しい武蔵の肩を借りて立ち上がる。が、そんな姿を見て大和が怒る。
「な、何で武蔵と抱き合ってるんですかッ!」
「お前のせいだし抱き合ってもないからッ!」
「・・・翔輝、好き」
「ほらぁッ!」
「武蔵ッ! お前もややこしくするなッ!」
「あ、あの・・・私の存在、忘れてません・・・?」
「「あ・・・」」
 大和と翔輝は顔を見合わせると、引きつった笑顔を浮かべてごまかす。
「そ、そんな事ないよぉ」
「そうですよねぇ」
「そ、そうですか・・・?」
「・・・完全に忘――」
「だからお前は余計な事言うなッ!」
 翔輝は何か言いそうだった武蔵の口を慌てて塞ぐ。すると・・・
「・・・な、何で顔を赤らめるの?」
「・・・(ペロ)」
「な、舐めるなッ!」
「・・・やっぱり、忘れてますよね?」
 そんな感じで四人が楽しく(?)団欒だんらんしていると、艦内のハッチが開いて誰かがやって来た。
「大和! 武蔵!」
 そうかわいい声で言う天真爛漫な笑みを浮かべる軍服が似合わないほどかわいい外見をした少女――日向だった。
「どうしたんですか日向さん?」
 大和が訊くと、日向は「そうそう」と言って胸の前で手を合わせた。どうやら軽く忘れていたらしい。彼女らしいと言うかなんと言うか、
「あのさ、長門が呼んでるんだ」
「長門さんが?」
「うん。何か司令部の仕事をやってほしいって」
 その言葉に大和はため息し、「あれか・・・」と小さくつぶやいた。
「大和。もしかして司令部の仕事・・・さぼったの?」
 翔輝の言葉に、大和は「あははは」と笑ってごまかす。そんな大和を見て翔輝は「やっぱり・・・」とため息する。
 呆れる翔輝に慌てて大和は必死になって弁解する。
「だ、だって三〇センチ以上の高さに積み上げられた訳のわからない書類にひたすら目を通してサインをし続けるなんて耐えられないです!」
「それが連合艦隊旗艦である君の仕事だろ?」
「だ、だからって、あんなの拷問ですよ!」
 まぁ、普通に考えれば十三、四歳の少女が各地域の戦闘結果や進行状況、敵軍の動き、決して助けられない友軍のからの援軍要請等の書類を処理するのは難しいというより拷問である。特に援軍要請書が辛いだろう。でも、それが連合艦隊旗艦である彼女の役目なのだ。
「・・・嫌なら旗艦を私に譲って」
 武蔵は駄々を捏ねる大和に旗艦委任の意を告げる。そう言えば大和も自分が旗艦である事を自覚するだろうと(武蔵が思ったかどうか知らないが)翔輝は思ったが、大和は一枚も二枚も上手だった。
「それはいいかも」
「おい」
 翔輝の冷たい視線に気づき、大和は「冗談です。冗談」と笑ってごまかすが、全員は冷たい視線を大和に容赦なく浴びせる。それに耐えられなくなったのか、大和は踵を返してそのまま走り出した。逃げたな。
「じゃあ、また後で!」
 走りながら言う大和にようやく気づき、日向は嫌がる武蔵を「あなたも参謀長でしょッ!?」と連行してその後を追って走って行った。
 残されたのは翔輝と霧島の二人だけ。
「えっと、その・・・」
 困っている霧島を見て、翔輝は頭を掻くと霧島に笑顔を向ける。
「散歩でもしよっか?」
 翔輝のお誘い(?)に、霧島が返す反応はもちろん。
「はい!」
 満面の笑顔での了承だった。

 翔輝と霧島は艦首にいた。艦首は艦の最先端。前を見れば蒼く輝く海が広がり、後ろを振り向けば『大和』の勇姿を望む事ができる。
 海には多くの艦艇が泊まっている。少し離れた所には同型艦『武蔵』が泊まり、その奥には『長門』『陸奥』がいる。そして、一際目立つのは、忙しく動き回る内火艇が弾薬等を補給している今作戦の主力を務める戦艦『比叡』『霧島』だ。
 内火艇が艦に接舷すると、兵達がラッタルを上って弾薬や食料等に物品を甲板まで運び、その荷物を今度は艦の兵達が艦内や各機銃、高角砲や弾薬庫まで運ぶ。そんな単調でものすごくしんどい作業を遠くで見ながら、翔輝はつぶやく。
「やっぱりいいよな。出撃できて」
 どこか残念そうな翔輝の言葉に、霧島は慌ててフォローを入れる。
「『大和』もいつか任務を受けて出撃する時が来ますよ」
 霧島の元気付けようとした言葉に、翔輝は「どうかな」とつぶやくと首を傾げる。
「連合艦隊司令部は『大和』や『武蔵』、『長門』『陸奥』は温存しておきたいそうだから、夢のまた夢でしかない艦隊決戦以外での出撃はないかもな」
「でも、刻一刻戦況は悪化しています。いくら温存したくてもそれを使わなければ本末転倒。必ず出撃はあります」
 霧島の自信たっぷりな言葉に、翔輝は小さく笑みを浮かべるとうなずく。
「だな。確かにお前の言うとおりだ。連合艦隊司令部もそこまでバカじゃないよね」
「しょ、少尉ッ! そういう海軍に対する暴言はやめてくださいッ! 誰かに聞かれたら大変ですぅッ!」
 この時代、軍隊に対する不満や暴言は禁句である。もしそれが上層部に伝わってしまえば軍法会議という恐ろしい結末が待っているのだ。だからこそ霧島はそれを心配しているのだ。だが、当の翔輝は・・・
「そういえばそうだね」
「自覚ないんですかッ!?」
「うーん、たぶん大丈夫だと思う」
「危機感ってものがまるでないんですね・・・」
 さすがの霧島も翔輝の楽観的な考え方にため息する。
 そんな霧島も気も知らずに翔輝は何も考えていなさそうな笑顔をする。
「ま、みんないい人ばっかりだから大丈夫さ」
「少尉は本当に人を疑わないんですね」
 霧島は翔輝のすさまじいお人好しに呆れ半分感心半分といった感じにため息するが、すぐに笑顔になる。そんな優しい翔輝が、大好きだからだ。
 おもしろそうに笑う翔輝。そんな彼の笑顔を見詰め、霧島はうつむいた。
「霧島?」
 うつむく霧島を翔輝は不思議そうに見詰める。
 そんな翔輝の見詰める霧島は、しばしの沈黙の後、何かを決意したように顔を上げた。その表情は真剣で、瞳には強い想いが込められていた。
「あの、長谷川少尉!」
「うん? 何?」
 翔輝は霧島のいつにない迫力に驚きながらも顔を向ける。その瞬間、霧島の鼓動は一際速くなった。心臓が爆発しそうなほどドキドキして、焦る気持ちを落ち着かせる。
「霧島? 大丈夫? 顔赤いけど、熱でもあるの?」
 翔輝が心配そうに訊くが、艦魂が熱を出されても彼にはまったくその対処方法がわからない。それでも心配する事はできる。
「だ、大丈夫です!」
 霧島は顔を真っ赤にさせたまま断言する。
「で、でも・・・」
「大丈夫ったら大丈夫ですぅッ!」
 霧島は身体全体を使い必死になってそう断言する。こうまでハッキリ言われてしまうと顔が依然赤くてもそれを言う事はできない。翔輝にできる事と言えば、「そう、ならいいんだけど・・・」というなんとも弱気な言葉だけだった。
 翔輝はふと空を見上げる。
 太陽が、ギラギラとまぶしかった。
 青い空に白い雲。耳に響いて来るのは水兵や下士官がしきりに叫んでいる声と、波が打ち寄せるざざーという音。それは何度も見たり聞いたりしたものなのに、それがなぜか昨日とはまた違い、今に流れ、明日にはまた違ったものになる。それは毎日感じていても飽きない。翔輝はそれがまるで世界が動いているように思えたから。世界はいつも動いている。それが良い形でも悪い形でも現れ、そして消えていく。その単調な無限のループが古今東西、未来永劫一度も変わらずに《今》を作り出し、《過去》や《未来》に繋がっている。それは、この戦争がどういう結果になろうと、世界はただ傍観しているだけにすぎないという空しさにも繋がる。
 毎日が違い、それが楽しく悲しい時もある。それが世界なのだ。
 翔輝が一人で自己世界に入ってしまったのも知らずに、霧島はずっと顔を下げてぶつぶつとおまじないのように「大丈夫。大丈夫・・・きっと大丈夫・・・」とつぶやく。
 しばらく自己暗示するかのようにつぶやいていたが、ついに霧島は何かを決意したような表情で頭をバッともたげる。
 気持ちを落ち着かせる為に大きく深呼吸して気持ちを整えると、霧島は真っ赤な顔で翔輝を見詰める。
「あ、あの・・・ッ!」
 気合のせいか、予想以上に声が出てしまい言った本人も聞こえた少年も少なからず驚いた。
「えっと、な、何?」
 霧島の必死な声に振り向いた翔輝は不思議そうな表情を浮かべている。
 翔輝の瞳と霧島の瞳が一直線に繋がる。
 霧島は頭の中で八三回シミュレーションした言葉を出そうとするが、いざ本番となると出るのは「あ、あの・・・」とか「その・・・」、さらには「えっと・・・」とかまで出てしまう。これではせっかく八三回もしたシミュレーションも無駄になってしまう。でも、もうここまできたらあとは勇気の問題。あと少し勇気があれば言えるのだ。
 霧島は再び大きな深呼吸と一度目を閉じ心を整える。そして、次に見開いた瞳には、もう迷いはなかった。
「長谷川少尉」
「何?」
 勇気を出して、霧島は渾身の勇気を絞って心の中にある彼に伝えたい想いを言葉にした。
「今回の作戦が終わったら、一度でいいですから、デートをしてください!」
「・・・」
「・・・」
「・・・え?」
 たっぷり数秒の間の後、翔輝の口から出たのはあまりにも典型的過ぎるひらがな一文字だった。
 霧島は自分の言ってしまった事に対し、顔を限界まで真っ赤に染める。だが、その瞳の奥には強い想いが込められている。
「えっと、デートって・・・デートだよね?」
 突然の事に混乱している翔輝に、霧島はキッパリと、
「言葉どおりの意味です」
 そう返した。もちろん意味は日付ではない方の意味だろう。
 翔輝は必死になって自分を見詰める霧島を一瞥して顔を伏せるとしばらく考え込む。そんな彼を見て霧島は恐怖で心が押し潰されそうになった。その目には薄っすらと涙が浮かぶ。
 だが、そんな泣きそうな霧島に、翔輝はそっと優しく微笑んだ。
「別にいいよ」
 そう軽くオッケーした。
 この翔輝の意外なほど軽い返答に、霧島の顔は見る見るうちに歓喜の色に染まる。
「本当ですか!? 後悔しませんか!? 本気なのかな平気なのかなぁッ!?」
 霧島は嬉しすぎて一人驚愕と自己解釈を笑顔で続けている。そんな霧島に翔輝は笑顔で続ける。
「うん。別に暇だしね」
「暇・・・」
 その言葉に、霧島はがっくりと落胆する。
 どうやらこの少年、まったく彼女の言っている意味をわかっていない。何も考えていなさそうな笑顔がそれを物語っている。
「いや、でもいいのかな? どうなんだろ? 妥協かな、チョロいのかな、どうなんだろ?」
 たっぷり数秒考えた霧島は、とりあえず納得したのか一度小さくうなずくと、頬をほんのり染め、
「じゃ、じゃあ・・・お願い、します。デート、約束しましたよ?」
「うん。約束だ」
 二人はお互いに小指を絡ませ、約束の契りを結ぶ。その時、一際大きく波が立った。ざざーんッ! という大きな音がした後、二人は笑い合った。
 時は一九四二年十一月八日、明日はいよいよ比叡と霧島の出撃であった。
 そして、それが無事終われば、翔輝と霧島はデート(?)をする。霧島はそれだけを考え、明日の出撃に備えた。

 ――だが、この約束は、永遠に叶う事はなかった・・・――







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