艦魂年代史 〜ドキッ☆恋する乙女は大艦巨砲主義〜(32/141)PDFで表示縦書き表示RDF


瑞鳳ずいほう
 祥鳳型航空母艦二番艦――軽空母『瑞鳳』
 出身 横須賀海軍工廠(神奈川県)
 身長 154cm
 髪型 セミロング
 実年齢(1942年8月現在)1歳
 外見年齢 13、4歳
 誕生日 12月27日
 好きなもの 祥鳳・瑞鶴・みんなと一緒にいる事
 嫌いなもの 一人になる事・暗い所・オカルト系
 家族構成 姉・祥鳳 義妹・龍鳳
旧名《高崎たかさき》。珊瑚海海戦で戦死した祥鳳の妹で瑞鶴の親友。当初高速給油艦として建造されるが、その途中に潜水母艦に変更され、さらに空母に再度変更されて完成した最新鋭軽空母。姉と同じくメガネをしているが祥鳳と違って彼女は姉に習って伊達メガネ。瑞鶴の親友で彼女と共に戦う事を嬉しく思っている。赤城達の消えた機動部隊の新たな主力として瑞鶴達と共に敵機動部隊と死闘を繰り広げる。状況判断能力に優れており、新生日本機動部隊では赤城の後任として旗艦となった翔鶴の参謀として活躍する。前回は瑞鶴の親友としてあまり出番のないキャラだったが、今回からの改定版ではかなり活躍させる予定。

飛鷹ひよう
 飛鷹型航空母艦一番艦――商船改装空母『飛鷹』
 出身 川崎重工業神戸造船所(兵庫県)
 身長 154cm
 髪型 セミショート
 実年齢(1942年8月現在)0歳
 外見年齢 14、5歳
 誕生日 7月31日
 好きなもの 隼鷹・姉の幸せ・無血勝利・日本を守る事
 嫌いなもの 何もできない事・自分の無力さ・悲しい雰囲気
 家族構成 姉・隼鷹
旧名《出雲丸いずもまる》。日本郵船が建造していた豪華客船『出雲丸』を海軍が接収。建造途中で空母に変更して建造を継続。後に名前を《飛鷹》に変更されて完成した。建造速度が遅く、妹艦『隼鷹』よりも後に竣工した。その為飛鷹は隼鷹の妹になる。竣工遅延の影響でミッドウェー海戦には間に合わなかった。さらに後の南太平洋海戦でも機関故障の為に参加できず、何かと運の悪い空母であった。ミッドウェー海戦で失った空母の穴を埋める為に主力空母に格上げさた。その理由には商船改装空母としては驚異的な搭載力が認められたのが大きい。そんな『飛鷹』の艦魂は基本的なキャラで特に設定はない。主に何かと暴走する姉の隼鷹を止めるの役目を持っている。オリジナルでは『飛鷹』と『隼鷹』の姉妹設定が通常通りだったが、後に読者から情報提供をもらってこのように訂正された。

隼鷹じゅんよう
 飛鷹型航空母艦二番艦――商船改装空母『隼鷹』
 出身 三菱重工業長崎造船所(長崎県)
 身長 143cm
 髪型 ツインテール
 実年齢(1942年8月現在)0歳
 外見年齢 10、11歳
 誕生日 5月3日
 好きなもの 飛鷹・翔鶴・翔輝・←三人と一緒にいる事・みんなの笑顔
 嫌いなもの 戦う事・人が傷つく事・大切な人を失う事・戦争・特攻
 家族構成 妹・飛鷹
旧名《橿原丸かしはらまる》。『飛鷹』と同じく日本郵船が建造途中だった『橿原丸』を海軍が接収して改造した商船改装空母。一番艦『飛鷹』よりも三ヶ月近く早くに竣工。『飛鷹』の代わりにミッドウェー作戦では陽動作戦としてダッチハーバー作戦に参加した。そんな『隼鷹』の艦魂は艦魂年代史シリーズの中でも正統派の妹キャラ。後に翔輝に好意を寄せる一人となり、彼の事を《お兄ちゃん》と呼び、絶対の信頼を置くようになる。子供っぽいキャラなので翔輝も彼女には少し甘く接する。そんな隼鷹は艦魂年代史シリーズではかなり重要なキャラに位置づけられている。史実では1944年の終わりに敵潜魚雷を受けて修理ドックに入り、そのまま終戦を迎え、修理途中の為にその後復員船として活躍せずに解体されるが、艦魂年代史シリーズではそれらが全てなしとされて戦後は復員船として活躍。艦魂年代史外伝シリーズにも幾度として登場し、戦後の話の中核となっていく。
艦魂年代史 〜ドキッ☆恋する乙女は大艦巨砲主義〜
作:黒鉄大和



第七章 第一節 南太平洋防衛戦


 一九四二年八月七日、米軍はソロモン諸島の島々に次々と上陸を開始した。そのうちの一つ、太平洋戦争最大の激戦地となるソロモン諸島最大の面積を持つガダルカナル島にも上陸。目的は日本海軍がミッドウェー海戦後衰退した南太平洋の制空力を復活させる為に建設している飛行場の席巻。完成間近だったので島には正規部隊は配置されておらず、建設員とわずかな守備隊しかおらず、米軍の圧倒的な兵力に全滅。米軍はほとんど完成していた基地(後に《ヘンダーソン基地》と命名)を手に入れた。
 日本海軍はこれを奪還しようと第八艦隊(重巡洋艦五隻、軽巡洋艦二隻、駆逐艦一隻)を向けるが、八日の夜中に米英豪連合国艦隊(重巡洋艦六隻、軽巡洋艦二隻、駆逐艦八隻)と遭遇。夜戦の得意な日本艦隊は直ちに一方的な砲雷撃を開始。連合国艦隊は突然の攻撃に混乱し、まともに反撃できずに壊滅し、第八艦隊は大勝利を挙げた。
 連合軍は重巡洋艦四隻沈没、一隻大破。駆逐艦二隻が中破。それに対して第八艦隊は旗艦・重巡洋艦『鳥海』が小破しただけだった。だが後に米潜水艦の雷撃で重巡洋艦『加古』が沈没した。
 戦闘で勝利した日本軍だが、主目的だった敵輸送船団への攻撃は行われず、米軍は重装備部隊の上陸に成功。この部隊がその後の日本陸軍を苦しめた。
 戦術には勝ち、戦略で敗北。これが第一次ソロモン海戦であった。

 日本軍はガダルカナル島奪還の為に大艦隊の編成を急いだ。
 ミッドウェー海戦後再編成された新機動部隊こと第三艦隊の空母『翔鶴』『瑞鶴』、そして軽空母『龍驤りゅうじょう』、さらにその護衛に戦艦『比叡』『霧島』が参加。第三艦隊機動部隊兼第三艦隊司令長官には南雲中将。参謀長にも草鹿少将が就任した。
 機動部隊は十六日に柱島を出撃。一路トラック島を目指した。
 機動部隊に引き続いて第二艦隊、第三艦隊本隊、陸軍支隊がソロモン海に集結していた。さらに第二艦隊には戦艦『陸奥』までもが参加した。

 翌日、ガダルカナル島奪還作戦の為に、主力部隊も一路トラック島を目指して柱島を出撃した。
 『大和』や『長門』は二ヵ月ぶり、『武蔵』は初めての太平洋の海に翔け出した。

 一方米軍も基地防衛の為にフランク・J・フレッチャー中将(昇級)率いる空母『エンタープライズ』『サラトガ』『ワスプ』を中心とする第61任務部隊が出撃。基地航空隊と合同で日本艦隊を待ち受けていた。
 後日二三日、『ワスプ』は燃料補給の為に南下した。

 八月二〇日、日本軍偵察機が敵機動部隊を発見。急遽機動部隊はトラック島経由をやめ、全速力で南下した。
 翌日、ガダルカナル島に上陸した陸軍支隊がヘンダーソン基地に突撃を行ったが、米軍の圧倒的な火力で壊滅した。

 二四日、両軍機動部隊が動いた。

「フランク! 敵の空母を見つけたのか!?」
 第61任務部隊旗艦・レキシントン級航空母艦二番艦・空母『サラトガ』の艦橋に興奮したエンタープライズが現れた。
「エンター。落ち着いて、ね?」
 そう言ったのは海のように蒼い髪を腰まで伸ばしたエンタープライズより少し年上の少女。《シスターサラ》の愛称を持つ空母『サラトガ』の艦魂。エンタープライズの親友だ。
 そんな落ち着いた物腰をしたサラトガにエンタープライズは激怒した。
「サラッ! 何のん気な事言ってんのよ! 私の姉貴は奴らに殺されたんのよ!? あんただって姉さん殺されてるでしょッ!?」
 サラトガの姉、それは珊瑚海海戦で沈んだ《レディレックス》の愛称を持っていた空母『レキシントン』の艦魂の事だ。
 その言葉に、サラトガは沈黙する。
 二人の会話を見詰め、機動部隊司令官であるフレッチャーはため息する。
「エンター、落ち着け。気持ちはわかるが、それ以上言うな。サラが悲しむ」
 フランクの言葉にようやく我を取り戻したエンタープライズは悲しそうな瞳をしたサラトガに謝る。
「サラ。ごめん。頭に血が上ってて、その、ごめん」
「いいの。気にしないで。お姉さんの仇を討ちたいのは同じでしょ? でも、感情に流されていては戦争はできない。今だからこそ冷静に、ね?」
 サラトガの言葉に、エンタープライズは「わかった」とつぶやいてうなずくと、サラトガに優しく微笑む。
 そんな二人を見て、フレッチャーはコーヒーを飲む。
「二人には悪いが、敵の空母は一隻、しかも小型空母だそうだ」
 フレッチャーの言葉に明らかに落胆するエンタープライズ。そんな彼女にサラトガは優しく微笑む。
「サラ。あんたの仇じゃないみたいね」
 エンタープライズの言葉に、サラトガは気にした様子もなく優しく微笑む。
「ふふふ、そうね。でもあなたの仇でもないわね」
「まあね」
「直情型のあなたの事だもの、きっと『ショウカク』『ズイカク』と戦いたいんでしょ?」
 サラトガの問いに、エンタープライズは「当ったり前だろ?」と不敵な笑みを浮かべる。そんな親友を見詰め、サラトガは優しく微笑んだ。
「もしその時が来たら、譲ってあげてもいいわよ?」
「え、でも・・・」
 驚き戸惑うエンタープライズに、サラトガは優しく微笑み続ける。
「いいの。気にしないで」
 サラトガは青髪の長い髪を靡かせて笑った。外見はまだ十六、七歳ぐらいだが、とても大人びた雰囲気が彼女の特徴だ。
 サラトガの言葉に、エンタープライズは嬉しそうに拳を突き出す。
「おう! サラの分までがんばるからな!」
 エンタープライズは気合を入れて屈託のない笑みを浮かべた。そんな親友の姿を見詰め、サラトガは人懐っこい笑みを浮かべた。
 そんな二人を眺めて、フレッチャーはそっと苦笑した。
「その時には、もう私はお前達の司令官でなくなってるかもな」
 フレッチャーのつぶやきは、はしゃいでいる二人には聞こえなかった。そんな二人をフレッチャーは寂しそうに二人を見詰める。
「これが私の最後の実戦になるかもしれんな・・・」
 実は、フレッチャーは三ヵ月後に北西海域指揮官に転属される予定になっていた。しかし、その事は二人、特にエンタープライズには黙っていた。時が来れば教えよう。そう思っていたからだ。
 そして時は来た。
 甲板に並んだ艦載機群を見詰め、フレッチャーは深く軍帽を被り直した。
「よしッ! 攻撃隊発進!」
 フランクは参謀長に叫んだ。
 空母『サラトガ』から攻撃隊が発進した。

 ――目標、空母『龍驤』――

「敵艦隊発見! 敵艦隊にはどうやら空母が二隻いるようです!」
 第三艦隊旗艦・空母『翔鶴』の艦橋に報告が入った。
 通信兵の報告に、南雲は一瞬顔をしかめた。頭の中ではミッドウェーの悪夢が蘇る。だが、そんなトラウマを首を振って忘れる。
「長官?」
 心配そうに見詰める草鹿。そんな草鹿に南雲は「何でもない」と小さく笑った。だが、すぐにその顔は真剣なものになる。
「参謀長。もう我々に敗北は許されない。ミッドウェー海戦での責任を不問とし、仇討ちの機械として山本長官は再び機動部隊の指揮官にしてくれたのだ。山本長官の温情を裏切る訳にはいかん」
「長官・・・」
「我々には、もう敗北は許されないのだ」
『はいッ!』
 南雲の言葉に、艦橋にいる者全員が敬礼した。そんな彼らを見詰め、南雲はしっかりとうなずくと、命令した。
「先手必勝ッ! 直ちに第一次攻撃隊発進せよッ!」
『了解!』
 参謀達は南雲の命令に忠実に動き、次々に命令を下す。そんな司令部要員達を見詰め、翔鶴は静かに目を閉じる。
 騒がしい艦橋の雑音から五感を完全に遮断し、翔鶴は神経を集中させる。
 そして、再び瞳を開いた時、その瞳には闘志が燃えていた。
「・・・赤城達の仇、必ず討ってやる」
 翔鶴はそう言って立ち上がると身を翻し、艦橋から静かに消えた。

 海を翔ける『翔鶴』から天空に消えていく攻撃隊を見詰めて、瑞鶴は敬礼していた。
 『瑞鶴』の攻撃隊は第二次攻撃隊として別部隊攻撃用の為に今回の出撃はなかった。
 防空指揮所で瑞鶴は姉とお揃いの軍刀を握る。
 真珠湾攻撃の際、未帰還機ゼロという初陣を飾った瑞鶴に、翔鶴が祝いとしてプレゼントしたもの。彼女の宝物だ。
 天空を翔ける翔鶴攻撃隊を、瑞鶴は真剣な瞳で見詰める。その瞳には、勝利への想いが力いっぱい込められていた。
「必ず、必ず敵空母を沈めて。ミッドウェーで散って逝った赤城司令、加賀さん、蒼龍さん、飛龍さんの為にも、絶対に・・・ッ!」
 瑞鶴はギリッと歯を強く噛み、軍刀を天空に向ける。
 日光を反射してギラギラと輝く。日本刀独特の刃紋が流れるように煌めき、自らの瞳を映し出す。
 蒼い空の下、『瑞鶴』は蒼い海を蹴った。
 マストに掲げられた軍艦旗が、これまで以上に勇ましく風に靡いた。

 第二艦隊旗艦の任を受けた陸奥は初めての姉抜きの実戦に緊張しているかと思いきや、結構普通だった。翔鶴達とも別部隊だが、しかしさすがは陸奥。長年連合艦隊次席や連合艦隊旗艦を務めていた事はある。作戦参加全艦艇は顔見知りで、怖いという気持ちは一切なかった。
「海がきれいね」
 海風に靡く長い髪をいじり、陸奥は笑顔で海を見詰めていた。
 南国の海は暖かく、日本近海では見られない緑色に輝く美しい珊瑚が、陸奥の心を作戦中だという事を忘れさせて楽しませた。
「陸奥司令」
 陸奥の後ろにいた黒い髪を真っ白なリボンでポニーテールに結いだ少女が立っていた。彼女は高雄たかお型重巡洋艦二番艦『愛宕あたご』の艦魂。今回陸奥の補佐をする事になった第二艦隊艦魂司令部参謀である。
 そんな彼女の後ろには長い髪を流した少女とツインテールをした少女が立っていた。それは愛宕の姉妹である一番艦『高雄』の艦魂、三番艦『摩耶まや』の艦魂だった。ちなみに摩耶の双子の妹にして高雄姉妹四女の『鳥海ちょうかい』は前作戦で負傷して、今は本土のドックに入って損傷を修理している。
 高雄はどこまでも澄んだ南国の海を見詰め、長い髪を風に靡かせる。
「陸奥司令、姉さん、摩耶。そろそろ作戦海域に入ります」
 高雄が三人に声を掛ける。
「わかった」
 愛宕はそんな妹にそっと微笑んだ。
 実は高雄型重巡洋艦の一番艦『高雄』は平均的な速度で竣工したが、二番艦『愛宕』は諸事情によって大幅に工程が高速化され、『高雄』より二ヶ月先に竣工した。
 書類上一番艦は『高雄』、二番艦は『愛宕』だが、艦魂にしてみればやはり先に生まれた方が姉。飛鷹と隼鷹の関係と同じなのだ。
 高雄の忠告に、陸奥は小さくうなずくと蒼い空を一瞥し、自分の部下達に司令官として命令を下す。
「全艦に通報! これより戦闘警戒海域に入る! 気を引き締めるように!」
『了解!』
 三人は陸奥の命令に見事な敬礼をした。すると、その中の一人の摩耶は・・・
「これで衰退していた連合艦隊が復活できるようになるかなですぅ。今の今まで停滞していたから。『いい加減目覚めなさい』って感じなのですぅ」
「お前は女王○教室の阿○津先生か・・・?」高雄がため息してアホな妹に呆れる。
「名前が同じだから? でも向こうは『真矢』であなた『摩耶』。漢字が違うわよ?」まじめな愛宕は見当違いな注意をする。
「ノリですぅ。終わり良ければ全て良しなんですぅ」そう言ってニャハと笑う摩耶。
「いや、終わりもよくわからないんだけど」基本的にこういう情報にはうとい陸奥は話について行けずに混乱する。
 第二艦隊の艦魂達はここが敵地だという事も忘れてちょっと平和だった。

 ガダルカナル島攻撃の為に独立艦隊になっている第三艦隊支隊は、空母『龍驤』を旗艦とし、水上機六機搭載可能な通称航空巡洋艦と呼ばれている利根とね型重巡洋艦『利根』、駆逐艦二隻の小部隊だった。司令官にはかつてまだ『翔鶴』と『瑞鶴』が第五航空戦隊という戦隊に所属していた頃の司令官、原忠一少将だった。
 空母『龍驤』はワシントン海軍軍縮条約の裏をかいて制限のない排水量一万トン以下の小型空母を目指して建造されたが、後のロンドン海軍軍縮条約の際に一万トン以下も制限が加わり、小型の意味を失い、急遽大型化した軽空母である。
 一段格納庫を二段格納庫にして搭載機数を増やした為に艦高が以上に高く、海に浮かぶ箱を思わせるものとなった。小型の為に甲板に艦橋があると邪魔なので、艦橋は『瑞鳳』などと同じ艦内型になっていのがその姿をさらに拍車をかけた。
 そんな空母『龍驤』の飛行甲板では赤い紐でリボン結びをしたポニーテールの少女が海を見詰めて立っていた。彼女の名は龍驤。この空母『龍驤』の艦魂だ。
 彼女は他の艦魂と少し違い腰に軍刀ではなく矢筒、背中には弓を持っていた。そして白い夏服用の軍服の上から弓道のように胸には黒い胸当てをしているので、さながら弓道着に見える。
 龍驤は連合艦隊一の弓使いで日本古来の競技である弓道の達人。その腕前は人間ならば弓道七段クラスにもなる。
 そんな龍驤は先程から蒼く美しい空を見上げていた。
 この空の向こうに敵の空母が進出してきたという情報はすでに彼女の耳にも届いていた。
「敵が近いらしいけど、大丈夫かな?」
 そうつぶやくと、龍驤は見えぬ敵機動部隊への恐怖に空笑いした。
 龍驤はミッドウェー作戦の陽動作戦であるダッチハーバー作戦に参加した。その際は敵を攻撃する事しかなかった。その為敵に攻撃される事はなく、だからこんな敵の近い戦いは初めてで恐怖した。
 ソロモンの海は蒼く輝き、吸い込まれそうに澄んでいた。
 空の蒼と海の蒼。二つの蒼は互いに色を輝かせ、美しい《蒼》の世界を創り上げていた。それはとても幻想的で、心の底から美しいと思える絶好の景色だった。
 ここが戦場でなければ、その美しさに小さな笑みを浮かべる。
 だが、そんな《蒼》の世界にキラリと何かが光った。それは・・・
「左三〇度方向より敵機襲来!」
 横にいた見張り兵が断末魔の叫びを上げ、幻想的な《蒼》の世界は崩れた。
 戦闘開始のラッパが鳴り、兵達が次々に機銃、高角砲に陣取る。その瞳には侍の心が宿っていた。誰もが戦う戦士なのだ。
 上空を旋回していた直掩の零戦隊数機が増槽を落として敵機に向かって突っ込んで行った。一騎当千の勢いで突っ込む零戦隊はとても勇ましかった。
 迫って来る敵機を見詰め、龍驤は恐怖に唇を噛む。
「やっぱり、見逃してはくれないよね」
 龍驤は天空から襲い掛かって来る敵機を見詰めながら空笑いした。
 零戦隊は見事に敵機を次々に撃墜していくが、如何せん敵は零戦隊の数倍の数である。いくら落としても次々に敵機はその防空線を突破して来る。
 その時、敵機周辺で無数の爆発が起こった。その爆発に巻き込まれて敵機数機が火を噴いて落ちる。
「護衛部隊対空戦闘開始しました!」
 見張り兵が叫ぶ。
 二隻の駆逐艦と『利根』が艦体中から火を噴き、敵機に鉛の弾を嵐のように撃ち込む。直掩の零戦隊も反転して来て敵機に機銃の雨を降らす。その結果、敵機は煙を吐いて次々に海に落ちて水柱を上げる。だが、敵機は数に物を言わせて直進して来る。
「対空戦闘開始!」
 双眼鏡で敵機を睨みながら『龍驤』艦長の加藤かとう唯雄ただお大佐は叫んだ。刹那、『龍驤』の艦体中の機銃が甲高い発砲音を立てて射撃を開始し、同時に軽い地響きがと重低音が響く、高角砲が攻撃を開始したのだ。
 『龍驤』は必死に弾幕を張るが、敵機は雨のように爆弾を落とし、高速で海中を走る魚雷が迫る。
「右に二本、左上に三発・・・ッ! 大丈夫これくらい」
 龍驤はギリと歯を軋ませながらも敵機に向かって弓を構え、引き絞った矢を放つ。それは機銃の弾丸となって敵機を撃ち抜いた。
 艦体は左に回避して事を終える。しかし、敵機は次々に爆弾、魚雷を投下していく。
 敵機の攻撃は空母である『龍驤』に集中している。敵機は煙を吐きながら急降下して爆弾を落とそうとする。間一髪龍驤は撃ち落とした。
 さらに敵機は連続して急降下して来る。
 龍驤は矢筒の中の矢を一斉に三本つるにかけて放つ。矢は弾丸となって敵機三機を貫く。さらに迫る敵機に龍驤は目に見えぬ速度で再び三本の矢を弦にかけて撃ち出す。その矢は見事敵機を貫く。
 龍驤の放つ矢の命中率は高確率。その一撃一撃は確実に、的確に敵機の醜い青色に機体を粉々に撃ち抜く。
 迫る敵機は龍驤の腕の前に次々に撃墜される。だが、工業大国アメリカは数に物を言わせて攻撃して来る。撃ち落としても撃ち落としても次々にその倍の数で迫って来る。
「もうッ! 一体何機いるのよッ!」
 矢筒の中から矢を取り出して構え、それを天空に撃ち抜く。その繰り返しを続けても、敵機の数は一向に減らない。
 連射を続ける龍驤にも疲れが出始めた。その為にほんのわずかだが矢を装填する手に一瞬の遅れが出た。が、その一瞬が命取りだった。
「敵機直上! 急降下!」
 気がつくと敵急降下爆撃機数機が急降下して迫っていた。
「何ッ!? と、取舵いっぱぁぁぁいっ!」
 見張り兵の言葉に加藤は蒼白になり、加藤は急いで舵を回すが、既に時遅し。敵機は次々に爆弾を投下して来た。
 避けられぬ死の悪魔に『龍驤』の全将兵が悲鳴を上げた。
 龍驤は迫り来る爆弾を見て、肩を落とし、小さくため息した。
「ここまでか・・・」
 龍驤は死の覚悟をし、静かにその光る黒き瞳を閉じた。
 その刹那、空母『龍驤』は大爆発を起こし、炎に包まれた。

 ――空母『龍驤』、ワシントン、ロンドン海軍軍縮条約の影響を受けて高を高くした為に海に浮かぶ箱のようなその外見をしていた。その姿は他の空母とまったく違い、異彩を放っていた。彼女は海軍上層部の思惑に振り回されて上に生まれた悲運の空母であった。そんな彼女はは、敵機の猛攻撃を受けて爆弾四発、魚雷一発命中。大破。その四時間後、浸水の為にソロモンの海深くに沈んだ――

 『龍驤』が攻撃を受けてから一時間後、『翔鶴』を発進した第一次攻撃隊がアメリカ空母部隊を発見。これを攻撃。空母『エンタープライズ』が爆弾三発を受けて中破した。
「クソッ! 黄色い猿どもが調子に乗りやがって・・・ッ!」
 黒煙を上げる『エンタープライズ』の防空指揮所で真っ白な米海軍の背広型夏用軍服を真っ赤に染めた少女が痛みを堪えながら、悔しそうに敵機の消えた空を睨みつける。
 ――そして、その場に崩れた。
「エンターッ!」
 エンタープライズが倒れたと同時にサラトガが現れた。
 サラトガは真っ赤な血の海に沈むエンタープライズを抱き上げ、必死にその名を呼ぶ。
「・・・うるさい・・・傷に響く・・・ッ」
 エンタープライスは頭から血を流しながらサラトガを睨む。
 すでに軍帽は脱げていて、長い金色の髪が風に靡く。しかし、そのきれいな金髪は今や真っ赤に染まり、場所によってはどす黒く変色していう所もあった。
「エンター。大丈夫?」
 サラトガがハンカチでエンタープライズ顔の血を拭いながら聞く。そんな親友の問いにエンタープライズは不機嫌そうに答える。
「あぁ、気分は最悪だけどな」
 エンタープライズは小さく舌打ちして吐き捨てるように言う。
 サラトガは持って来た応急処置用の傷薬を使い、包帯を器用にエンタープライズの傷に巻く。その間、エンタープライズは抵抗も何もせず、されるがままだった。
 一連の作業が終わり、サラトガはエンタープライズに満面の笑みで微笑んだ。
「はい。終わり。これで少しは楽になるはずよ」
「サンキュー。サラ」
 エンタープライズはサラトガの肩を借りて立ち上がる。
「悪いな。手当てしてもらった上に肩まで借りちまって」
「いいのよ。で? どこ行くの?」
「とりあえず応接室に連れてってくれ。そこのソファで一休みする」
「わかったわ」
 あの直情感情型のエンタープライズが『休みたい』と言ったのだ。相当痛いし疲れているのだろうとサラトガは感じ取り、あえて何も言わなかった。
 『エンタープライズ』が中破したアメリカ艦隊は、一旦北東方面に撤退した。

 一方、日本軍も作戦を中止してトラック島に撤退した。
 帰り道、翔鶴と瑞鶴はまた仲間を失ってしまった事で傷心し、すっかり元気をなくしていた。
「姉さん。また、仲間が・・・死んじゃった」
「あぁ、そうだな」
 『翔鶴』の防空指揮所に二人はいた。二人とも龍驤の死にショックを受け、一睡もしていなかった。
 やつれた瑞鶴を、同じくやつれた翔鶴がそっと抱き締める。自分が辛くても、妹を最優先にする所は、翔鶴も姉なのだ。
「これで、赤城司令、加賀さん、蒼龍さん、飛龍さん、祥鳳さん、龍驤さん。この三ヵ月で六人も空母仲間が死んじゃった・・・」
「そうだな。クソッ・・・外道鬼畜米英め・・・ッ!」
 翔鶴も悔しそうに唇を噛む。
 腕の中でほろほろと泣いている妹を抱き締めながら、翔鶴は行き場のない怒りを堪えていた。その時、
「翔鶴、瑞鶴」
 突然の声に振り向くと、そこには陸奥、比叡、霧島がいた。
 見詰め合うだけで、お互いに何もしゃべらない。
 気まずい無言の沈黙はしばらく続いた。
 この中では最年長組である霧島が、何とか落ち込んだ雰囲気を変えようとがんばろうとする。
「あの、その、元気だして・・・ね?」
「すまん。心配を掛けさせてしまって」
 翔鶴の言葉に、霧島は顔を真っ赤にして手をブンブンと顔の前で振る。
「いえッ! その、すみませんッ!」
「なぜ謝る?」
 翔鶴は心底不思議そうに首を傾げる。そんな翔鶴と慌てふためく霧島を見て比叡は優しく微笑む。
「はいはい。そこまでにしてあげてくれる? 霧島の心臓が破裂しちゃうよ?」
 比叡がこの場をなんとかしようと前に出る。さすがは最年長組である。
 比叡はそっと柔和な笑みを浮かべながら、瑞鶴の頭を優しく撫でる。
「辛いだろうけど、それをバネにしてがんばらないと、ね?」
「比叡さん・・・ッ!」
 瑞鶴は比叡の胸に飛び込み、今まで以上に大きな声で泣いた。
 そんな妹の様子を翔鶴は眉をひそめ不機嫌そうに見詰める。
「なぜ比叡の方に行くんだ?」
 そんな翔鶴の不機嫌そうな質問に、瑞鶴を抱き締める比叡は柔和な表情で返す。
「そりゃあ、胸の中で泣くなら、母性を感じる大きな胸の方がいいでしょ?」
「・・・」
 翔鶴は比叡の大きな胸を一瞥し、自分のぺったんこな胸を見る。
 避けられない現実を見て、翔鶴は顔を真っ赤にして大激怒する。
「貴様・・・ケンカを売ってるのか・・・ッ!」
 顔を真っ赤にさせた翔鶴は野獣のような恐ろしい目で比叡を睨む。そんなブチギレる翔鶴に対し比叡は気にした様子もなく「よしよし」と瑞鶴の頭を撫でる。
「無視するなあああああぁぁぁぁぁッ!」
 翔鶴は激怒し、軍刀を振り回して比叡を追い掛ける。それに対し比叡は柔和な笑顔のまま翔鶴の荒くれるの剣跡から逃げる。
 そんな二人を見て、三人は微かに笑った。
 傍から見れば一一〇番で通報されそうな事をしている二人は防空指揮所から飛び降りて甲板でさらに過激になる。
 陸奥はふと無邪気に笑う比叡を見る。
 彼女はきっと、皆の重苦しい雰囲気を変えてくれたのだ。先程の空気のままでは心が重い。だからこそ彼女はそんな空気を変えてくれたのだ。
 陸奥は頼りなさげな雰囲気をしながらも、本当は誰よりも仲間の事を想ってくれている比叡に対し、そっと敬礼した。
 作戦を中止した日本艦隊は一路、トラック島を目指して北上した。

 この海戦で日本海軍が軽空母『龍驤』を失ったのに対し、米海軍は空母『エンタープライズ』が中破しただけだった。さらにガダルカナル島への輸送作戦も失敗し、ガダルカナル島は米軍の手に落ちてしまった。
 この海戦は戦術・戦略どちらでも日本の敗北に終わった。
 これが、第二次ソロモン海戦である。







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