艦魂年代史 〜ドキッ☆恋する乙女は大艦巨砲主義〜(30/129)PDFで表示縦書き表示RDF


艦魂年代史 〜ドキッ☆恋する乙女は大艦巨砲主義〜
作:黒鉄大和



第六章 第三節 人間と艦魂


「なんか、僕のせいでとんでもない事になっちゃったみたいで、すみません」
 頭を下げて謝る翔輝に、長門は優しく微笑んだ。
「長谷川君が悪い訳じゃないわよ」
「でも、だからって・・・」
「そう落ち込まないの。長谷川君は笑ってた方がずっといいんだから」
「長門さん・・・」
 ちょっと涙が出そうなきらきらした瞳で翔輝は長門を見詰める。そんな彼に、長門は優しく微笑む。が、すぐに目の前の現実を見てため息する。
「でも、このままって訳にもいかないわよねぇ・・・」
「そうですよね・・・」
 二人が見詰める先では、大和と陸奥、そして武蔵がつーんとしていた。もちろん一方的に敵意むき出しなのは前者の方だが、双方の間にはベルリンの壁よりもすさまじい壁が立ち塞がっていた。
 あれから双方の戦争状態はまだ続いていた。伊勢と霧島はこう表立って敵意をむき出しにはしていないが、水面下からバックアップをしている。
 長門と翔輝、そして扶桑や比叡などは不安に陥っている艦魂達の不安を解消するのに全力を注ぎ、先程一応鎮静したばかりだった。
 そこで初めて翔輝は艦魂四大新聞というものを知った。どうやら普通の四大新聞のようなものらしく、艦魂達の中では絶大に信用されている情報手段らしい。それがあんな報道をしたから不安も過熱したのだろう。
 翔輝はため息すると天を仰いだ。
「昨日のあれは、何だったんでしょうか?」
「あれって?」
「その・・・武蔵の・・・えっと・・・」
 途中まで言って、翔輝は口ごもってしまう。その頬はいつになく赤く染まっている。そんな翔輝を一瞬かわいいなと思ってしまったが、すぐに彼の不安を和らげようとする。
「えっと、昨日武蔵があなたにしたキスの事?」
 長門のストレートな問いに、翔輝は小さくうなずいた。
「そうね・・・まあ、あれは武蔵が長谷川君の事が好きって事なのよ」
「そりゃそうでしょうね。そもそも好きでもない相手にあんな事しませんよ」
「およ? 長谷川君、彼女の気持ちがわかってたの?」
 驚く長門だが、すぐにそれは自分の誤解だったと思い知った。
「気持ち? えっと、それは一体・・・」
「え? だから、武蔵があなた事を好きっていう・・・」
「僕も武蔵は大好きですよ? もちろん大和や陸奥、伊勢や霧島も」
 その言葉に長門はため息した。どうやらこの少年、あれだけインパクトのある一撃を受けてもまだ何も気づかないらしい。ここまで鈍感だとある意味そういうのの天才なのかもしれない。
「とりあえず、まずはあのキューバ危機寸前の状態をなんとかしないとね」
「・・・あの、長門さん。一応歴史語ってるので、そういった時代考証を無視した発言はやめてほしいんですが」
「まあいいんじゃない? 結構適当にやってるんだし」
「いいんですか?」
「いいのよ。それより今はあの子達をなんとかしないとね」
 そう言って長門は武力衝突寸前の大和達をを見てため息した。
 翔輝も小さくため息すると、そっと立ち上がった。
「長谷川君?」
「元はといえば原因は僕にあるんですし。なんとかがんばってみます」
 そう言って翔輝は開戦寸前の三人に近づくと、腰の軍刀の柄を握っている大和の頭を引っぱたいた。
「しょ、少尉ッ!? いらしてたんですかッ!?」
 突然の翔輝の介入に驚く大和。それは陸奥や武蔵も同じらしかった。どうやらお互い相手の事しか見えていなかったらしい。
 そんな三人に翔輝はまたため息する。
「お前らな。いい加減仲直りしろよな」
「嫌ですッ! 武蔵が土下座をしても許さないですッ!」
「大和ちゃんと同意見です。私も絶対に許しません!」
 そう言って、大和と陸奥は断固として武蔵と仲直りするつもりはないらしい。そんな頑固な二人に翔輝はため息する。どうやらこの二人は徹底抗戦の構えらしい。
 翔輝は二人の説得を諦めて比較的穏健派の伊勢に近づく。
「あ、あのさ、伊勢。お願いがあるんだけど」
「何どすか?」
 伊勢は柔和な笑みで翔輝を迎えてくれた。向こうに比べたらずいぶんと話がわかりそうだ。
「あのさ、君はどうなの? 大和達みたいに武蔵と敵対してるの?」
「うち? うちはあの子達みたいに正面からは敵対しないでぇ」
「そっか・・・え? 正面からって?」
 翔輝の問いに、伊勢は満面の笑みで、
「うちな、今闇討ちを勉強しとるんよ」
 そう言って笑顔で見せてくれたのは、『元禄赤穂げんろくあこう事件大全集』という雑誌だった。さーっと血の気が引いた。
 伊勢の笑顔が急に恐ろしくなり、翔輝はそそくさとその場を離れた。すると、目についたのは金剛姉妹であった。
「あ、霧島」
「少尉?」
 比叡と仲良く話していた霧島は翔輝に声を掛けられ嬉しそうに微笑んだ。
 翔輝はそんな霧島と話そうと近づくが、その針路を榛名に塞がれた。
「は、榛名?」
「おい朴念仁。俺の妹に何の用だ?」
 榛名は不機嫌そうな顔で翔輝を睨みつける。明らかに敵対心むき出しである。
「いや、ちょっと霧島に話があって・・・って、朴念仁って、何?」
「うるさい。テメェみたいな奴に俺の妹には手を出させねぇからな」
 そう言って榛名はギロリと翔輝を睨む。その眼光はもはや辻斬りのレベルである。そのあまりの迫力に翔輝はたじたじになる。
「あ、いや、その、ね・・・」
「あぁんッ!? 何だゴラぁッ!」
「ひぃッ!」
「こらこら榛名。あんまり長谷川君をいじめないの」
 そう言って怒る榛名の肩を掴んだのは、金剛姉妹で最も友好的な比叡だった。その登場は翔輝にとっては嬉しい以外何にでもない。
「ひ、比叡さん」
 涙目になりつつある翔輝に、比叡は優しく微笑む。その笑顔は天使のよう。
「ほら霧島。ご指名よ」
 そう言って比叡は自分の後ろに隠れていた霧島を前に出す。隠れていた霧島は頬をほんのりと赤らめて翔輝を見詰めている。
「こ、こんにちは」
「え? あ、うん。こんにちは」
 見詰め合う二人。そんな二人の横では今にも腰の刀を抜刀しそうな榛名を比叡が笑顔で止めていて、一人金剛だけは涼しい顔で紅茶を飲んでいた。
 翔輝は自分の質問を待っている霧島にそっと問う。
「あ、あのさ。武蔵の事なんだけど・・・お前も怒ってるの?」
 ちょっと自信なさげに問う翔輝に、霧島はブンブンと首を振る。
「わ、私はそれほどには・・・あの、ちょっとびっくりしただけで」
「そ、そう? 良かったぁ」
 翔輝は安堵の息を漏らす。これで味方になってくれそうな艦魂が一人増えたという事だ。すると、安心した翔輝に霧島が不安そうに問う。
「で、でも、少尉は良かったんですか?」
「え? 何が?」
「その・・・武蔵さんと・・・えっと・・・」
 その瞬間二人一斉に顔を真っ赤にした。
 うつむいてもごもごとしゃべる霧島と、赤い頬を困ったように掻く翔輝。そんな翔輝に拳銃を向けていた榛名を比叡が必死に止めていた。
 翔輝は照れながらも自分の本当の気持ちを言葉にする。
「ま、まあ、僕はそんなに気にしてないから。それよりも一人になっちゃった武蔵の方が心配だし」
「私は少尉がいいというなら、構いません」
 そう言って、霧島は笑顔で微笑んだ。その笑みは天使のようで、翔輝はそれだけで彼女の優しさに感動した。
「霧島。君っていい子だね」
「そ、そんな事ないですよぉ」
 顔を赤らめながら嬉しそうに微笑む霧島に、一瞬ドキリとしてしまう。そんな翔輝に機関銃を向けていた榛名は比叡のバックドロップで轟沈した。
「あ、そうだ霧島。これって何に使うの?」
 そう言って比叡は彼女が座っていた座布団の下から雑誌を取り出した。
「あッ! 姉さんそれは――」
「何それ?」
 比叡の手から慌てて取り返そうとした霧島だが、なぜか何もない所で転倒した。そのせいで、雑誌の表紙が見えてしまった。
「えっと・・・『明るい拷問大全集初級編』・・・?」
 翔輝は崩れかけた笑みでその雑誌を手に取ると、なぜか付箋ふせんのついた所を開いた。そこには明るい文字で『激辛唐辛子汁満載のじょうろを憎き恋敵の口に突っ込ませよう! 目標1リットル!』と書かれていた。
 翔輝の中で、何かが音を立てて崩れた。
 霧島は慌てて翔輝の手から雑誌を奪うと、それを座布団の下に再び戻し、硬直した翔輝に弁明する。
「ち、違うんですッ! これは金剛姉さんの書斎を整理していた時にたまたま見つけて、整理していただけなんですぅッ!」
「そ、そうだよね。霧島がこんな物を読むなんてね」
「そ、そうですよ」
 あははははと、ぎこちない笑いを上げる二人。だが、ここに来て最悪の追い討ちが炸裂した。
「うん? 何を言っている。それは貴様が「拷問に関する知識を教えてッ!」って血走った目で言ったから貸したんじゃないか。そういえばあの時殺気のようなものを纏っていたが、一体何の為に借りたんだ?」
 と、今まで沈黙していた金剛は今世紀最大の暴露をかました。
 霧島の顔からさーっと血の気が失せた。慌てて弁明しようと振り返った時には、翔輝の姿はどこにもなかった。
 霧島から逃げ出した翔輝は心に《人は第一印象で決めつけない》と深く刻み込んだ。
 結局、全滅だった上に、一番怖いのは大和と陸奥ではなくあの二人の方だったという認めたくない現実を見るはめになった。
 翔輝はふらふらとした足取りで向かったのは、大和達に敵対し、翔輝の唇を奪った――武蔵だった。
「あ、あのさ武蔵」
 翔輝が声掛けると、武蔵は無表情で振り返った。
「・・・翔輝? どうしたの?」
「あ、いや・・・なんか、ごめんね。僕のせいで」
 翔輝の言葉に、武蔵は小さく首を横に振った。
「・・・翔輝のせいじゃない。悪いのは愚姉達」
 そう感情なく言った武蔵の額を、翔輝は軽くデコピンした。その突然の攻撃に驚く武蔵に、翔輝は少し怒ったように注意する。
「自分の姉をそんな言い方しちゃダメだよ」
「・・・ごめんなさい」
「わかってくれればいいんだよ」
 翔輝は素直に謝った武蔵に優しく微笑む。
「・・・翔輝。お願いがある」
「うん? 何?」
 翔輝が不思議そうに見詰めると、武蔵は一度顔を伏せ、再び上げて真剣な瞳で彼を見詰める。
「・・・私にも、して」
「え? 何を?」
「・・・だから、私も、頭なでなでして」
 真剣に言う武蔵に、翔輝はくすりと笑ってしまう。
「・・・何で笑うの?」
「いや、武蔵があんまりにもかわいいからさ」
「・・・」
 翔輝の何気ない言葉に、武蔵は顔を赤らめてうつむいてしまった。そんな武蔵に翔輝は優しく微笑むと、そっと彼女の頭を撫でた。
 翔輝に頭を撫でられ、武蔵は小さく微笑んだ。それは彼女が出せる最高の笑顔なのだろう。
 そんな嬉しそうな二人だが、そんなおいしい事を許さないのが、
「ちょっと武蔵ッ! 何やってるのよッ!」
 早速大和が食いついてきた。すぐ二人に近づくと慌てた様子で武蔵の肩を掴む。
「・・・何?」
「少尉からいますぐ離れなさい!」
「・・・嫌」
「離れなさいッ!」
 必死になって大和は翔輝から武蔵を引き剥がそうとするが、武蔵も必死になって翔輝に抱きついているので離れない。それでも大和は必死になって引き剥がそうとする。
「おい大和ッ! 乱暴はやめろよなッ!」
 そう叫んで翔輝は必死で止めるが、女の子(いくら艦魂と言えど)に暴力を振るうのは気が引け、暴れる大和を離して武蔵を助けた。が、それが新たな戦いの火種になってしまった。
「少尉・・・? どうして武蔵をかばうの?」
 武蔵の方を助けた翔輝に大和は心底驚いている。そんな大和の問いに翔輝は当然でしょと言いたげな顔をする。
「どうしてって、そんなのお前が武蔵に乱暴するからだろ!?」
「ちょ、ちょっと待ってください! 私が悪いって言うんですかッ!?」
「どう見てもそうでしょッ!?」
 大和の顔がみるみる青ざめていく。それはもうまるで、大切なものをなくした子供のように。
「少尉? 少尉はいつも私の味方でした。今回も、今回もそうですよね?」
「いや、今回は武蔵に味方する」
 ガガガガガアアアアアァァァァァンッ!
 音にすればこんな感じの衝撃が大和に走った。あわあわあわと口を震わせ、信じられないという顔で翔輝を見詰める。
「しょ・・・ッ!」
 次の声は、いつもの大和の声より一トーン高い声だった。
「少尉のバカアアアァァァッ! 裏切り物おおおぉぉぉッ! 絶対に徹甲弾を撃ち込んでやるうううぅぅぅッ!」
 大和は大泣きしながら翔輝を突き飛ばすと、無表情で自分を見詰める武蔵を睨みつけ、大泣きしながら部屋を出て行ってしまった。
 残された二人は呆然とする。
「・・・」
 武蔵はいつの間にか脱げた軍帽を被り直し、服の乱れを直す。
「ヤバイなぁ・・・」
 後でうるさいだろうなぁ。と先の事を考えてため息する翔輝。
 翔輝は立ち上がると近くの椅子に腰かけ、軽く頭を抱える。すると、
「・・・ありがとう」
「え?」
 武蔵が突然礼を言ってきた。顔を上げると、武蔵が微かに微笑んでいた。すごく純粋で、とてもかわいかった。
「・・・私に味方してくれて」
「いや、別に。今のは大和が悪かったしな」
 翔輝は軍帽を脱ぐと暑そうに顔を扇ぐ。もう八月なので夏真っ盛り。かなり暑いのだ。
 武蔵は翔輝の横の椅子に腰掛ける。同じく暑いはずなのに彼女は汗ひとつかかずに無表情を貫いている。さすがといおうかなんとおうか。
 そんな武蔵に、翔輝は少し怒ったように言う。
「確かに大和は悪いけどさ、お前ももう少し自分の姉を大切にしろよな」
 そう言うと、武蔵は無表情で翔輝を見詰める。
「・・・私はまだあの人を姉と認めた訳じゃない。そんな急に認められるような関係じゃない」
「そ、そりゃそうだろうけど」
 武蔵はそれだけ言うと再び無表情で沈黙した。そんな彼女の横で翔輝は困ったようにため息する。
「さてと、どうすっかな」
 どうやったらあの二人を仲良くする事ができるか? 翔輝は頭を掻きながら必死に考える。その時、
「少尉?」
 その声に顔を上げると、そこには霧島がいた。
「霧島」
 霧島は頭を抱えている翔輝に気づいて声を掛けてきたのだ。そっと翔輝の隣の椅子に腰掛ける。その位置は武蔵の反対側だ。
 霧島は心配そうに翔輝の顔を覗き込む。
「どうしたんですか? 頭を抱えて」
「いや、ちょっとね」
 その時、ふと霧島を見る。少し頬の赤い霧島に翔輝はふと浮かんだ疑問を訊く。
「ねぇ、霧島は金剛さん達を《お姉さん》って思えたのは、出会ってからどれくらいだった?」
 霧島はいきなりの謎の質問に戸惑っていた。翔輝が大和と武蔵がケンカした事(大和が泣いた事は控えた)を言うと、ようやく霧島も理解したようで、考え始めた。
「そうですねぇ。私の場合は三人もいましたからね。三人とも《お姉さん》って思えるようになったのは一ヶ月くらいかかりましたね」
「最初に《お姉さん》って思えたのは誰?」
「やっぱり、比叡姉さんですね。比叡姉さんは一週間で懐きました」
「あぁ、比叡さんか。確かにあの人以外は一癖も二癖もあるような人達だもんね」
「だぁれが一癖も二癖もある人達だ。ああぁん?」
「は、榛名!?」
「姉さん!?」
 そこには金剛、榛名、比叡の三人がいた。金剛四姉妹、今ここに全員集合。
「貴様。霧島と何をやっている?」
「あら、長谷川少尉。こんにちは。いつも霧島がお世話になってます」
「つーか、お前今私達の事何て言ったんだゴラ」
 三者三様の言葉を放ち、三人は二人を見る。特にかなり凶悪な二人に睨まれているので、翔輝は苦笑いする。
「いや、その、霧島に相談を」
「霧島って、呼び捨てとは良い度胸してんじゃねえか、ああぁん?」
「榛名姉さん。私が呼び捨てにしてって言ったの」
 霧島の言葉に、榛名は少し驚いたような顔をする。
「お前が? ふーん」
 榛名は翔輝を天然記念物を見るような好奇なまなざしで見る。
 金剛は榛名に見詰められて苦笑いする翔輝をじっと見詰める。
「貴様。霧島に相談とは何事だ?」
 金剛は威厳のある声で聞く。その声にビビリながら翔輝はその問いにギクシャクながら答える。
「あ、いや、その、大和と武蔵がケンカしちゃって」
「うむ? まだ会って間もないというのにもうケンカとは。ケンカとは双方の事を知り、そこで生まれた溝が原因でなるもの。まだ互いをよく知らぬのにケンカとは、一体何が原因なのだろうか?」
「あ、その・・・」
 翔輝が返答に困っていると、霧島がフォローを入れてきた。
「姉さん達は姉妹って思えるのにどれくらいかかった?」
 霧島の質問に、三人は不思議そうな顔をするが、妹の質問という事もあってか考え始めた。助かった。霧島ナイスフォロー。
「俺はそんなにかからなかったな。姉貴も霧島も一週間くらいだ」
 榛名は細かい事を気にしない豪快な性格らしい。予想通りといえば予想通りだが。
「私は一ヵ月くらいだな。ちゃんと知らなければ互いに不幸だと思ってな」
 金剛は奥が深い。さすが武人。
「私は三日もかからなかったなぁ。えへへ」
 比叡は長門や扶桑と同じお姉さんキャラなのでかなり友好的らしい。というかそれはさすがに時間かからなさすぎ。
「そうですか、最低三日。最長一ヵ月ですか。いや、いい参考になりました。ありがとうございます」
 本当に参考になったかは微妙だが、翔輝は礼を言って立ち上がる。
「これから大和と武蔵を仲直りさせる為の策を考えます」
「ふーん。がんばれよ。あまり期待はしていないけど」
「大変ね。私できる事があったら何でも相談して」
「はい。ありがとうございます」
 榛名と比叡の激励(?)に感謝する。すると霧島もそっと立ち上がって翔輝を見詰める。
「手伝いましょうか?」
「いや、いいよ。その気持ちだけ受け取っとく」
 霧島は「そうですか」と言って小さく笑みを浮かべた。
 最後に金剛を見ると、金剛は窓の外を見ていた。そっと翔輝を見ると、口元に小さな笑みを浮かべた。
「貴様。私は助けてやらんが、あいつなら武蔵の気持ちがわかるかも知れんぞ。何て言っても同類だからな」
 金剛の言葉に、彼女の視線を見る。そこは甲板であった。兵達が世話しなく動いている中にいる人物を見詰め、そして納得。
「わかりました。ありがとうございました」
 翔輝は金剛達と別れて部屋を飛び出すと、甲板に向かって駆け出す。後ろからは武蔵の声が聞こえたが、翔輝はそれを無視して走った。
 甲板に出ると、そこは風がそよそよと吹いて心地良かった。
 翔輝は甲板にたたずんでいるその人物に駆け寄る。
「あのッ!」
 翔輝は海の無効を見詰めている武蔵と同類の人物――山城に声掛けた。
 山城はその声に振り返るといつものように無表情で翔輝を見る。やっぱりちょっと怖い。
「山城さん。実はお願いが・・・」
「私に配属されたいのか?」
「いえ、違います」
 というか、まだその話続いてたんだ。
「では何だ?」
 山城は近くにあった椅子に腰掛ける。
 翔輝はどう切り出すか少し迷ったが、直球勝負をする事にした。
「あの、山城さんは扶桑さんを《お姉さん》と思えるのにどれくらいかかりました?」
 その質問に、山城は迷った様子もなく。あっさり、
「今も姉とは思ってない」
 うわぁ・・・姉妹関係が根本から成り立ってないよ。これが武蔵というキャラの最終進化形態だとしたら、関係修復は不可能だろう。
 翔輝が戸惑ってると、山城は「それがどうした?」と言いたげな目をする。そんな山城に翔輝は慌てて理由を説明する。
「あ、いや、大和と武蔵がケンカしちゃって。どうやったら仲直りできるか考えていて、それでまずだいたいどれくらいで姉妹という意識が生まれるかと思って・・・」
「なぜお前がそんな事する」
「え?」
 驚いて山城の顔を凝視する。山城は相変わらず無表情で、感情は読めなかった。
「お前とあの二人の関係はそれほどのものでもないだろ? 友人でも、あまり関わると、それはおせっかいになるぞ?」
 山城は無表情で淡々と言葉を繋ぐ。
 そして、山城の次の言葉は翔輝の心を凍らせるには十分すぎる言葉だった。
「それにお前は・・・」
 異様に冷たい風が吹き、翔輝の軍帽が空に舞った。
「艦魂ではなく、人間だろ?」
 その瞬間、翔輝は自分の全てが凍ったような感じがした。
 山城は続ける。
「人間のお前が艦魂の世界にあまり関わるのはよくないと思う。艦魂に感情を抱いてしまえば、戦争で駆逐艦一隻――いや、水雷艇一隻を失うのにもためらいが生まれる。戦争とは必ず犠牲が出る。その犠牲を気にしていては軍人として戦えなくなる」
 その後の言葉は何も聞こえなかった。
 翔輝が聞きたくないといわんばかりに山城から逃げ出したからだ。
 後ろの方で山城が何か言ってるようだったが、もうどうでもよかった。
 艦魂と人間。本当は交わってはいけない存在同士じゃないか? そう思えてしかたなかった。
 山城の言うとおり、今は戦時中だ。水雷艇一隻失うのに戸惑っていては戦争はできない。戦争とは、勝つも負けるも犠牲が必要なのだ。その犠牲が多いか少ないかで勝敗は決まる。それが戦争なのに、その犠牲をためらっていては戦う事ができない。
 ――戦争はできないのだ。
 翔輝は全力で走って艦内に消えて行った。
 甲板で主を失った軍帽が風に揺れた。山城はその軍帽をそっと掴み、翔輝の消えた扉をいつまでも見詰めていた。







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