第四章 第四節 一抹の不安
一方、日本機動部隊はミッドウェー島を目指して深い濃霧の中を進んでいた。
汽笛が鳴り響く機動部隊。その中の旗艦『赤城』の会議室には各部隊の主力艦魂が集まっていた。
さあこれから会議を始めようとした刹那、
「赤城司令ッ! これは一体どういう事ですかッ!」
飛龍がバンッと机を叩いて立ち上がった。まわりの艦魂達は飛龍のいきなりの激昂に戸惑っている。
そんな飛龍が睨み付けているのは涼しい顔でコーヒーを飲んでいる機動部隊旗艦である赤城だった。
「無線封鎖を解除するとはどういう事ですか!?」
先程、無線封鎖中なのに旗艦から無線で指示が入って来たのだ。無線を使えば敵に傍受され、こちらの動きが丸わかりになってしまい、今作戦の絶対必須の奇襲攻撃が強襲攻撃になってしまうからだ。
怒る飛龍に対し、赤城は涼しい顔をしながら彼女の問いに答える。
「それは私がした事ではない。南雲長官がやった事だ」
赤城はコーヒーを飲みながら静かに言う。その余裕な姿も今の飛龍をいら立たせる。
「だからと言って無線封鎖を解除するのは艦隊の存亡に関わる重大な事ですよッ!?」
「飛龍。少し落ち着きなさい」
蒼龍は怒りをむき出しにしている妹を止めるが、
「姉さんは黙っててッ!」
飛龍は一歩も引かない。そんな飛龍の剣幕に蒼龍はそれ以上口を挟めなくなった。
あまりにも理不尽な司令部の行動に飛龍の中で連戦連勝で浮かれている司令部に対する不満が爆発した。
「司令部は今作戦の重大性を全く理解してませんッ!」
飛龍は怒りで頭がどうにかなりそうだった。
そういった軽率な行動をする事によって艦隊将兵を危険な目に晒す事になってしまう。そんな事もわからない司令部――強いて言えば南雲に対する怒りは壮絶なものだった。
今にも腰の刀を引き抜いて襲い掛かってきそうな飛龍に対し、赤城はカップを置いてじっと飛龍を見据える。
「飛龍。これには理由がある。この濃霧の中艦隊は陣形を保たないといけない。今は汽笛の音で個艦の位置を知らせているが、艦隊を先程変針させた時だけはどうしても無線を使わなければ衝突が起こると思ったのだ。アメリカ軍には《れーだー》という艦艇の位置を感知できる物があるらしいが、我が軍にはそれがない。無線を使うしか手がなかったんだ」
「で、でも・・・ッ!」
赤城の理解できる理由を聞いても、飛龍は食い下がらなかった。
「でも・・・飛龍さん・・・・あの・・・」
その時、いつもはあまりこうした議論の中に入ってくるような、そもそも他人とあまり話さない霧島が口を開いた。
「この無線を聞いて・・・敵機動部隊がやって来れば・・・今作戦の第一段階が完了します。あの・・・その・・・一石二鳥だと・・・思いますけど」
霧島の声とても小さな声だったが、飛龍の激昂で静まり返った部屋ではその声もよく響いた。
「それもそうですね」
赤城も霧島の意見に賛同する。
今回の目的は二つある。軍令部と連合艦隊司令部の意向が合わず、二つの目的を果たさなければいけないのだ。
一つは軍令部が言ってきたミッドウェー島の攻略。
一つは連合艦隊司令部、つまりは山本長官が豪語する敵機動部隊の殲滅であった。
ミッドウェー島の攻略はおそらく問題はないだろうが、機動部隊は来てもらわなければどうしようもない。ならば霧島の言うとおり無線を傍受させてこちらに敵機動部隊を惹きつけられれば万々歳である。
霧島の説明に飛龍はまだ納得してなかったが、一応怒りを抑える事にして席に着いた。これ以上不毛な争いをしていては、実戦の際に問題が生じてしまうと思ったからだ。
静まり返った部屋では加賀がずっと作戦資料を見ていた。いつもはバカキャラだが、作戦実行中は軍人の顔になっている。
その後会議はスムーズに進んだ。皆今回の作戦に対しての意気込みはすさまじいもの。その為皆全員真剣に聞いているから早く済んだのだ。
赤城は話す事を全て言い終えると、自分を見詰めている艦魂達を見て静かにうなずく。
「攻撃地点には六月五日に到達する。到達後、すぐにミッドウェー島を空襲する。気を引き締めてやってほしい」
赤城の言葉に、全員はうなずいた。
これから始まるのは今までの戦いとは違う。
《決戦》なのだ。
負けは絶対に許されない。
だからこそ、皆全力で戦う事に意気込んでいる。
今、日本海軍の士気は史上最大にまで高まっていた。
解散となり散っていく艦魂達の中、飛龍は一人不安を感じていた。だが、そんな飛龍に蒼龍がそっと笑みを送った。
「大丈夫よ。今までだってそうだったじゃない。だから、今度もきっと大丈夫。搭乗員達を信じてあげなさい」
蒼龍の優しい言葉に、飛龍も笑顔でうなずいた。
自艦に戻った飛龍は甲板に座っていた。
まわりは濃霧の為に何も見えない。確かにこんな状態で汽笛だけで艦隊の針路を変えれば衝突事故が起きてもおかしくはない。無線を使うのも仕方がないだろう。
だが、飛龍は心配していた。
開戦以来の連戦連勝で艦隊将兵の士気は大いに高まっている。だが、同時に油断というものも大きくなっている。
つまり、天狗になっているのだ。
こんな状態で敵が全力で反撃してくる戦いに赴いて、果たして勝利する事はできるのだろうか。
戦いとは何が起きるかわからない。
圧倒的な兵力を有していたとしても、それが少数に撃破される事がある。それが戦争なのだ。事実、少数精鋭で大軍に勝った例など世界には数多く存在する。
飛龍は最悪の予想をした。
機動部隊全滅・・・
慌てて首を横に激しく振る。
そんな事は絶対にない。絶対に起きたりなんかしない。
だが、そう心の底から信じる事は、できなかった。
油断だらけの機動部隊。
真珠湾と同等かそれ以上に重要な作戦なのに、『翔鶴』と『瑞鶴』の不参加による攻撃力の不足。
そして、いまだ未知数の敵機動部隊の攻撃力。
何もかもがわからない。
飛龍にとって、これから始まる戦いはまるでこの濃霧のように先が見えないものだった。
世の中に、答えがわかっている事なんて存在しないのだ。
「この戦い・・・勝てるよね・・・?」
不安げに飛龍はつぶやく。だが、返って来るのはもちろん波の音と風の音、そして汽笛の音だけだ。
甲板に座ってじっと濃霧を見詰める。こうしていれば何かヒントでも見つかるような気がしたのだ。だが、所詮は気。そんなものなど見つかるはずもなかった。
飛龍は小さくため息を吐く。すると、
「飛龍? どうしたの?」
その声に振り返ると、そこには不思議そうな顔でこちらを見ている剣がいた。
「剣・・・」
飛龍の顔を見て、自然と剣の顔も真剣なものになる。
「どうしたの?」
剣はそっと飛龍の隣に腰を下ろす。
自分を見詰める剣に、飛龍は一瞬自分の心の中に押さえている不安を言ってしまいそうになった。だが、彼に余計な心配をかけたくなかった。
「な、何でもないよぉ」
飛龍は努めて笑顔を彼に送る。だが、剣はそんな飛龍の額にデコピンをする。
「い、痛ぃ・・・ッ!」
「まったく、お前は何でいつもそうやって一人で考え込むかな?」
涙目で自分を見る飛龍に、剣は少し怒ったような顔をする。
「僕とお前の仲だろ? 今さら隠し事はなしだ」
「剣・・・」
「ったくよ、何でお前は本当に大切な事だけはいつも隠そうとするんだ? バレバレだってのにさ。お前が僕を不安にさせない為にそうしてるのかは知らないけどさ、僕にとってはむしろそっちの方がが不安になるよ」
剣はそう言ってごろんと濃霧で灰色に染まった空を見上げる。そんな剣を、飛龍はじっと見詰める。
「まあ、僕が頼りないってなら言わなくてもいいけど」
「そ、そんな事ないよッ! 私、剣の事を本当に信頼してるんだよッ!」
「なら、何で言えないのさ」
「そ、それは・・・」
口ごもる飛龍。そんな飛龍の頭を、剣がそっと撫でる。
「剣・・・?」
驚いた目で自分を見る飛龍に、剣は優しく微笑んだ。
「まあ、言いたくないなら別に構わないさ。僕は一介の戦闘機乗りでしかないから、できる事には限界がある。僕の手の平小さいな」
「剣・・・」
「――でも、これだけは言わせて」
剣は自分をじっと見詰める飛龍に、とても優しい笑みを向ける。
たったそれだけでも、飛龍の心の中にある何かが、溶けていく。
そして・・・
「僕は、ずっと飛龍の味方だから」
たったそれだけの言葉。それだけで、胸がいっぱいになった。
「ひ、飛龍・・・?」
気づいたら・・・
彼に抱き付いていた。
自分は小さな存在でしかない。
たった一人でがんばろうとしれば、必ずできない事も生まれる。
だったら、誰かに協力してもらえばいい。
ただそれだけの事なのに、たったそれだけの事なのに、自分は今まで気づかず、必死にがんばってきた。
こうして、誰かの腕に支えられるのが、どれほど心を支えてくれるのか、考えた事もなかった。
だから・・・
「うっ・・・ひぐっ・・・」
いつの間にか、瞳からは涙が溢れ、頬を濡らしていた。
こんなにも自分の中に苦しみがあったなんて、全然気がつかなかった。
でも、もういんだ。
自分には、支えてくれる仲間がいる。彼がいる。
もう、泣いてもいいんだ・・・
小さく泣き続ける飛龍を、剣は何か言葉をかけたりもせず、励ましもせず、ただひたすら彼女の小さな身体を、抱き締め続けた。
同じ頃、蒼龍も刹那と共に防空指揮所に甲板にいた。
天気が良ければきれいな満月が見えるであろう夜も、今は濃霧で何も見えない。
「これは・・・思ったよりも見えないわね」
蒼龍は、刹那の腕を掴んでいた。何も見えない状況にあって、はっきりと感じられるのは、蒼龍の手の感触だけだ。その手はわずかに震えている。
蒼龍は暗闇が苦手なのだ。なのに、無理をして艦隊がどうなっているのかその目で見る為に外に出た。刹那はその際偶然にも出会って付き合っているのだ。
(泣きそうな顔を必死に隠しながら来てほしいなんて言われれば、ついて行くしかないよな)
震える蒼龍の手にそっと自分の手を重ね、震えを抑え込んだ。
少し驚いたのか、蒼龍は刹那を見た。
「実は、話があるんだけど」
努めて軽い調子で、刹那は言った。
「・・・何?」
「戦争が終わったら、僕は軍をやめるつもり」
「なッ!?」
驚く蒼龍。その表情は驚きのあまり青ざめている。だが、すぐに平静を取り戻すと、刹那に向かって詰め寄るように怒る。
「ど、どういう事よッ!?」
「どうって、言葉どおりの意味だよ」
「何で軍をやめるのよッ! あなたは優秀な戦闘機乗りじゃないッ!」
「それは違う。僕は普通だよ。ただ、今までは運が良かっただけさ」
「運も実力のうちよッ! 何でやめるのよッ!?」
蒼龍の殴り倒そうかというすさまじい迫力にも、刹那は引かない。
じっと蒼龍の瞳を見詰める。
「な、何よ・・・」
「僕は、本当は軍隊なんかに入りたくはなかったんだ」
「え・・・?」
「それでも軍隊に入ったのは、飛行機があったからなんだ。軍隊に入れば、飛行機の技術が学べるから、だから入った」
自分の腕を掴む蒼龍の手が再び震え出す。それは別の理由で震えているのだ。
「――僕は、民間機のパイロットになりたいんだ」
蒼龍の顔を絶望という感情に染まった。
そんな蒼龍の顔などに気づいていない刹那は、遠い目で灰色の空を見上げた。
「僕は、憎しみや悲しみを空に飛ばしたくない。僕は、笑顔を飛ばしたい。空を飛んで、蒼い空と白い雲を見て、嬉しそうに笑う人々が見たいんだ。だから――」
(聞きたくないッ!)
蒼龍は心の中で悲鳴を上げる。
だが、耳を塞ぐような事はしなかった。いや、できなかったのだ。
彼の本当の気持ちを、聞きたいという想いもあったからだ。
そして・・・
「僕は軍隊をやめる。そして、旅客機のパイロットになるんだ」
「・・・させない」
隣から聞こえてきた小さな声に、刹那は「え?」と振り向く。
そこには、キッと自分を睨み付ける蒼龍が。その瞳は濡れていた。
「絶対にそんな事させない・・・ッ! 私は、あんたを降ろす気は絶対にないからッ!」
「そ、蒼龍・・・?」
彼女なら賛成してくれると思っていた刹那は、予想外の彼女の言葉に驚く。
蒼龍はいきなり刹那の胸倉を掴むと、睨み殺しそうな鋭い眼光で刹那を睨む。
「戦いに背を向けるなんて、刹那は非国民よ」
「ち、違うよッ! 言っただろッ? 戦争が終わったらの話だ!」
「例えアメリカとの戦争が終わっても、まだ中国やロシアが残ってるッ! 世界から戦争が消える事なんて絶対にないッ! この大東亜戦争が終わっても、あなたにはまだ戦ってもらうわよッ!」
「い、嫌だよッ! 僕は民間の――」
「絶対にダメッ!」
蒼龍の高圧的な言葉に、刹那もいら立つ。
「何でダメなんだよ。僕以外にも優秀な戦闘機乗りはたくさんいるだろッ! 何で僕じゃなきゃダメなんだよッ!」
「そ、それは・・・ッ!」
蒼龍は口ごもる。
言える訳がない。
そんな事、言える訳がないじゃないか。
黙ってしまった蒼龍に、刹那は自分の胸倉を掴んでいる彼女の手を剥がす。
「とにかく、僕はやめる。何があろうと、旅客機のパイロットになるのが、僕の夢なんだから」
刹那の言葉に、蒼龍の中で何かが崩れた。
もう何もかもどうでもいい。
もう好きにしてほしい。
そんな気持ちが、心の中から湧き出した。
「・・・勝手にすれば」
「蒼龍・・・」
蒼龍は刹那に背を向けると、苦手な暗闇の中に消えていった。
その背中は、刹那が今まで見た事もないほど、小さく、簡単に折れてしまいそうなものだった。
「蒼龍・・・」
残された刹那はその場に立ち尽くすしかなかった。
一方、旗艦『赤城』の防空指揮所では赤城がぼーっと立っていた。
思うのは、飛龍の言っていた言葉。
確かに、兵達の油断はかなりある。敵を過小評価している所もある。
だが、自分は南雲長官を信じていた。
あんなに兵達の事を想ってくれる指揮官を、信じたかった。
でも、彼女が言ったように、彼は仲間を危険に晒すような事をした。
一体何を信じればいいのか、わからなかった。
「まあ、深く考えない方がいいわよ」
そう言ったのは隣にいる加賀だった。
赤城の様子がおかしい事に気づいた加賀は、こうして赤城を尋ねてきたのだ。赤城はそんな幼なじみに自分の葛藤を話したのだ。
そして、返ってきたのはそんな無責任な言葉だった。
「やっぱりあんたに話したのが間違いだったわ」
呆れる赤城。
いつも楽観的な加賀にこんな難しい話をしてもダメだって早くに気づけば良かった。
一方、加賀は呆れる赤城を怒ったように見詰める。
「あんた、何か勘違いしてない?」
「何がよ」
あんまり関心がなさそうな赤城に、加賀はため息する。
「な、何よ、そのため息は」
「あんた、私が適当な事言ったなんて勘違いしてない?」
「勘違いじゃないでしょ?」
「まったくあんたは」
加賀は赤城の肩を掴むと、いつになく真剣な顔で見詰める。そんな幼なじみの顔に赤城は驚く。
「人は何か必ず迷うものなの」
「私は人じゃないわ」
「そういう揚げ足は取らないの。私が言いたいのは誰でも必ず迷うって事。それは決して避けられないもので、いつか必ず選択の時が来る。でも、あんたの悩みはまだ決断の時じゃないわ。今私達が考えるのは、この戦いの勝つ事、違う?」
赤城はハッとする。
そうだ。自分には責務がある。
必ず、この作戦に勝利する事。
今の自分はただそれだけなのだ。
迷っている暇はないのだ。
「加賀・・・」
自分に大切な事を気づかせてくれた親友は、優しげな笑みを向けていた。
「やっといつもの赤城に戻ったわね」
「加賀・・・私・・・」
「あーもう、礼とか謝りはなし。私とあんたの仲でしょ?」
「加賀・・・」
嬉しそうに微笑む赤城に、加賀も優しく微笑んだ。その時、
「おーい、赤城ー!」
下の方から声が聞こえた。その声に赤城と加賀は互いに顔をほころばせる。
「ほら、彼氏が呼んでるわよ」
「べ、別に彼氏って訳じゃないわよ・・・でも、ちょっと行ってくる」
そう言う赤城は頬を赤らめていつもは見せない《女の子》の顔になっていた。
防空指揮所から降りていく親友を見詰め、加賀は微笑む。
「いってらっしゃい」
機動部隊は確実にミッドウェー島に向けて進んでいた。
その頃、機動部隊より後方数百キロ地点を進む主力部隊に、ある情報が入って来た。
「報告します! 敵信傍受班がミッドウェー島北方海域に敵空母から発進されたらしき無線を傍受しました!」
通信兵の報告に、山本は目をつむった。
「やはり、出て来おったか」
「長官。この情報を機動部隊に知らせますか?」
宇垣の質問に、山本は答えなかったが、参謀の一人がそれを否定した。
「参謀長。今は無線封鎖中です。むやみに無線を使っては味方を殺すようなもの。報告はしないでいいと思います。それに、一航戦(第一航空戦隊)は連合艦隊から優秀な敵信傍受班を派遣してあります。当然『赤城』もこの情報を捉えているでしょうから、特に知らせる必要ないと思います」
「・・・そうだな」
参謀の言葉に、山本も了解した。
しかし、実際には機動部隊はこの情報を知らず、ギリギリまで敵機動部隊の存在を知らなかった。
山本達が話している所から少し離れた所に、翔輝と大和はいた。
翔輝は不安そうに顔を曇らせる。
「大丈夫かな? 赤城達ちゃんとわかってるといいけど」
「たぶん、大丈夫だと思います。あの参謀の言った通り『赤城』『加賀』には一流の敵信傍受班が配置されてます。とっくに傍受してるでしょう」
「・・・そうだといいけど」
大和の言葉にも不安を拭いきれない翔輝に、大和が心配そうに問う。
「不安なんですか?」
「うーん、どうだろ? でも。何か嫌な予感がするんだ」
「変な事言わないでください」
弱気の翔輝を、大和は一喝する。
こんな弱気な翔輝は初めてだった。
翔輝はしばし考え込むが、すぐにいつものような笑みに戻る。
「そうだな。考え過ぎだよね」
「そうです。今は赤城さん達を信じて待つんです」
「あぁ、わかった」
翔輝と大和は互いを見合って優しく微笑み合った。
――しかし、この翔輝の予感は、最悪の形となって現れた。 |