艦魂年代史 〜ドキッ☆恋する乙女は大艦巨砲主義〜(19/130)PDFで表示縦書き表示RDF


艦魂年代史 〜ドキッ☆恋する乙女は大艦巨砲主義〜
作:黒鉄大和



第四章 第三節 リメンバーパールハーバー


 その頃、アメリカ軍は日本軍の暗号を解読してミッドウェー攻略作戦は筒抜けであった。この時点ですでにミッドウェー作戦は奇襲作戦から強襲作戦に変わってしまっていた。
 アメリカ軍は万全の防御体制を徐々に整えていた。小さなミッドウェー島の飛行場には各島々に散っていた航空機を集結させ、その戦力は強大なものになりつつあった。さらに防衛艦隊としてアメリカ機動部隊もミッドウェー島防衛の為に北方海域に待機していた。
 だが、この作戦は明らかにアメリカ軍が圧倒的に不利であった。
 急遽用意した艦隊の総数は空母3隻、重巡洋艦7隻、軽巡洋艦1隻、駆逐艦15隻、潜水艦19隻という50隻にも満たないものだった。普通に見ればかなりの戦力だが総戦力350隻で迫る日本海軍の前では蹴散らされるのが目に見えていた。
 しかし、この圧倒的に不利なアメリカ軍は、機動部隊と基地航空隊の見事な連携で、この危機を乗り越えるのであった。
 そのカギを握るのが、日本海軍が最も恐れていた――アメリカ機動部隊であった。

 ミッドウェー島北方海域に、アメリカ機動部隊はその戦力を展開させていた。その攻撃力である空母は全3隻。基地航空隊と合わせれば日本機動部隊と真正面からやり合っても、一応まともな戦いができる程度のものだった。
 開戦以来日本機動部隊の強力な航空戦力に圧倒され、真正面からの反撃を回避し続け、ひたすら敵基地に対する遊撃しかしてこなかったアメリカ機動部隊。それが先の珊瑚海海戦で激突した。だがその結果は戦術的には自軍の敗北となってしまった。日本機の搭乗員の圧倒的な技量の前に、アメリカ軍は蹴散らされていた。
 すさまじい命中率を誇る日本機動部隊の急降下爆撃と魚雷攻撃の前では、必死の回避行動もただの悪あがきでしかなく、反撃の為に舞い上げた戦闘機はジーク(零戦)に次々に撃墜された。
 もはや、日本機動部隊を止められる有用な艦隊など、世界中どこを捜しても存在しなかった。せめて悪あがきできる程度が、アメリカ機動部隊だった。
 その中のアメリカ合衆国海軍機動部隊旗艦兼第17任務部隊旗艦・空母『ヨークタウン』の艦橋にはこの機動部隊を率いる司令官であるフランク・J・フレッチャー少将がいた。
 彼は疲れ切った顔で甲板を眺めていた。
 『ヨークタウン』は先の珊瑚海海戦で中破し、3ヶ月の修理が必要とされていた。しかし、修理工達の不眠不休72時間という奮闘によってなんとか応急処置を終え、今作戦には参加できた。工業大国アメリカだからできる離れ業であった。しかし、あくまで応急処置なので今も修理工を乗せて修理は続いている。この作戦が終われば本格的な修理を受けなければならない。
 フレッチャーは小さくため息をすると、近くにあった椅子にぐったりと腰掛けた。その顔は疲労によるげんなりとしていた。
「司令。どうぞ」
 そんなフレッチャーに15、6歳くらいの長い金髪に碧眼の少女が笑顔で湯気が立ち上るコーヒーを渡した。
「あぁ、ありがとう」
 微かに笑みしながら受けとるフレッチャー。
 コーヒーを受け取ったフレッチャーを見て小さく微笑む少女の名はヨークタウン。この空母『ヨークタウン』の艦魂だ。そんな彼女は頭や腕、足には包帯をいくつも巻いていた。これは珊瑚海海戦で受けた傷で、応急処置しかしていないのでまだ治っていないのだ。そんな姿がとても痛々しい。しかし、ヨークタウンはそんな事を気にしないで笑みを送る。
「お疲れですか? 少し休まれてはいかがですか?」
「それはできん」
 フランクは小さく首を降ると、悔しそうに唇を噛み、口に出すのも辛そうに言う。
「私はコーラル海(珊瑚海)でレックスを沈めてしまったんだ。彼女の為にも私はがんばらなければいけない」
「少将・・・」
 レックスとは《レディ・レックス》の事で、珊瑚海海戦で沈没した空母『レキシントン』の愛称である。
 コーヒーをすするフレッチャーの横で、ヨークタウンは顔を曇らせる。
「レキシントンさんですか、確かに、彼女を失ったのは辛いです。祖国をとても大切にし、皆からもとても慕われていましたのに、残念です。でも、彼女も司令が元気を失うのは嫌なはずです」
 ヨークタウンは顔を伏せているフレッチャーを元気付けようとする。その瞳は真剣そのもの。心の底から彼を想っている証拠だった。そんな彼女の優しさにフレッチャーは顔を上げる。
「・・・そうだな。それに、俺にはまだお前がいる。だからまだ戦える」
 フレッチャーはヨークタウンに優しい笑みを向ける。その笑顔を見て、ヨークタウンも嬉しそうに微笑む。すると、
「しょ、少将・・・」
 フレッチャーはヨークタウンの頬にキスした。それは彼なりの感謝の気持ちだったのだが、ヨークタウンは別の意味で捉えて顔を真っ赤にした。
 フレッチャーは優しく笑っていたが、突然難しい顔になって何かを考え始める。
「でも、日本海軍は総力をもって攻撃して来るらしい。ヤマモトも本気なのだろう。それに、日本には謎の新鋭戦艦『ヤマト』もいるらしい。どれほどの脅威になるかわからん。今回の作戦、成功できるかどうか・・・」
 それはアメリカ人誰もが思っている恐怖であった。
 開戦以来破竹の進撃を続ける日本軍の前には、アメリカ軍の攻撃など跳ね返し、逆に殲滅されてしまう。
 パールハーバーから始まり、フィリピン、マレー、インドネシア、インド、中国と次々に進撃していく日本はアメリカにとっては化け物であった。
 黄色人種など白人の前では雑魚と思われていたこの時代、同じ黄色人種である日本は世界一恐ろしい国になった。
 当初アメリカは日本よりドイツの方が危険と思っていた。だが、すさまじい勢いで太平洋やアジアを席巻していく日本を目の当たりにし、日本こそ真の敵であると認識するようになっていた。
 だが、その強力すぎる機動部隊と航空兵力、さらには空前絶後のメガトン級の戦艦を保有しているという圧倒的な《力》の前に、アメリカ軍は《リメンバーパールハーバー》で高めていた士気を急降下させていた。
 兵達の中では「そのうちアメリカの朝食はパンとミルクではなく、ライスとミソスープに替わってしまうのではないか」という不安が蔓延していた。
 それほど、日本という圧倒的な力を持つ国を恐れていた。
 フレッチャーも、珊瑚海での戦いを経験し、日本の恐ろしさが身に染みていた。
 顔を曇らせるフレッチャーに、ヨークタウンを不安げに見詰める。
(司令は、レキシントンさんを死なせてしまった事を悔やんでるんだ・・・)
 確かに、レキシントンとフレッチャーは仲が良かった。旗艦である自分の艦橋でいつも楽しげに会話していた。そんな2人を見てうらやましく思った事は何度もある。それだけ2人が仲が良かったのだ。
 落ち込むフレッチャー。だが、いつまでも落ち込んでいては何も始まらない。
 ヨークタウンはフレッチャーの手を掴むと、両手で包み込んだ。そんな彼女をフレッチャーが驚いた目で見る。
「少将。弱気になってはいけません。日本軍が全力で来ても、こっちも全力で迎え撃つだけです」
 ヨークタウンは真剣に言った。その瞳には闘志が燃え盛っていた。そして自然に窓の外を見る。その視線の先には第16任務部隊に属する2隻の空母を見ていた。
「それに、この作戦には私の妹達全員が参加してるんです。アメリカ海軍最強のヨークタウン3姉妹がいる限り、絶対に負けませんよ」
「強気だよねぇ」
 ヨークタウンの意気込んだ瞬間、2つの光が出現し、その中から2人の金髪碧眼の少女が現れた。
「エンタープライズ、ホーネット・・・」
 それはヨークタウンの妹達だった。
 ヨークタウンと同じ長い金髪をしているがかなり強気な瞳をしたのがヨークタウン級航空母艦2番艦・空母『エンタープライズ』の艦魂。
 その隣にいる金色の髪をツインテールにしたかわいげな少女が3番艦・空母『ホーネット』の艦魂。
 2人の妹の登場にヨークタウンは不思議そうに首を傾げる。
「2人ともどうしたの? 今は作戦中よ?」
「別にいいだろ。姉貴を心配しにきたんだよ」
「そうだよ。お姉ちゃんは傷が治ってないんだからさ、無理しないで私達に任しておいてよ」
 ヒョコヒョコと揺れるツインテールをしたホーネットが心配そうに言う。そんな彼女の隣でエンタープライズが不敵に笑った。
「そうだぜ姉貴。あたしが全力を出せばジャップの奴らなんて簡単に殲滅できるぜッ! それにあたしはジャップの新鋭戦艦より、新鋭空母の方と戦いたいぜ。コーラル海で姉貴を傷つけた上に、レキシントンを殺した日本空母『ショウカク』と『ズイカク』をなッ!」
 最初の方は強気だったが、後半は辛そうに唇を噛みながらエンタープライズは言う。それほど仲間の死が苦しいのだ。
 この3人、それぞれバラバラな性格をしているがとても仲のいい姉妹なのだ。さらに姉妹であると同時に、大親友でもある。そんな仲のいい3人を見てフレッチャーも自然と笑顔になる。
「フランク。あんまり落ち込むなよ。レキシントンは戦ってるお前が好きだったんだ。そんな弱々しい姿なんか晒すんじゃねぇぞ。レキシントンをがっかりさせるのは絶対に許さないからな」
「そうだよ。今回は私達も司令の配下で戦うだもん。今度こそ絶対に負けない。私、司令の事を信じてるから。必ず勝ってくれるて信じてるから」
 エンタープライズのかなり暴力的だが励ましの言葉と、ホーネットに純粋な気持ちにフレッチャーも静かにうなずき、まだ湯気の立っているコーヒーを一気に飲み干した。
 力強い眼光で蒼い海を睨みつける。そんな彼を3人の少女達もじっと見詰める。
「来るなら来い日本艦隊。我々アメリカ合衆国海軍が返り討ちにしてやる」
 フレッチャーの言葉に3人はうなずくと、強大な敵が迫っているであろう方向をじっと見詰めた。
 蒼い空の下、アメリカ合衆国軍はパールハーバーの仇を討つ為、息を殺して日本軍を待ち構えていた。







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