艦魂年代史 〜ドキッ☆恋する乙女は大艦巨砲主義〜(12/129)PDFで表示縦書き表示RDF


艦魂年代史 〜ドキッ☆恋する乙女は大艦巨砲主義〜
作:黒鉄大和



第二章 第三節 日本海軍最凶 鬼の金剛


 機動部隊全艦が集まってから数日後、連合艦隊旗艦・戦艦『長門』で祝勝会が開かれた。
『かんぱぁぁいッ!』
 艦魂達が楽しそうに笑い合う。
 機動部隊との久しぶりの再会にみんな盛り上がっていた。その中で、大和、陸奥、瑞鶴、翔鶴、伊勢、霧島、比叡の六人は部屋の隅に陣取って楽しそうに話をしていた。
「それでね、赤城さんに熱愛疑惑が出てるの」
 そう嬉しそうに言ったのは瑞鶴。空になったラムネのビンを横に置き、新しいのを手に取る。
「うっそーッ!? あの超真面目な赤城さんが?」
 瑞鶴の言葉にラムネを飲んでいた大和は驚きのあまりちょっとこぼしてしまった。
「それ本当なの?」
 陸奥もかなり驚いている。食べていた羊羹を一度皿に置いて真剣に話に聞き入る。
「本当だ。私も驚いているのだが」
 翔鶴がお茶をグイッと飲みそう答える。その言葉に確信を持った大和達は盛り上がる。
「信じられへんけど、まさかあの赤城はんがねぇ」
 伊勢はそう言葉で驚くが、その後すぐにお茶をすすって、あまり驚いた様には見えなかった。
「で、でもまだ相手が誰だがわかりませんし」
 そう小さな小さな声言ったのは比叡の手をギュッと握って彼女にくっ付いている霧島。
「本人も否定されてますし、あまり掘り下げない方が・・・」
「何言ってるのよ霧島。ああいうまじめな子の場合、本当だとしても恥ずかしくて首を縦に振る訳がないじゃない」
 そう言って比叡は笑うと、まだまだ子供な妹の頭を優しく撫でる。
「あのまじめな赤城まで恋人持ちなんて、世の中変わったわね」 
 六人は部屋の中央で長門に絡まれている赤城を見る。
「ねぇねぇ、恋人がいるってほんと?」
 長門は赤城にしな垂れかかって茶化すように真相を本人に問う。すると、赤城は顔をボンッと真っ赤に染め、慌てた様子で手をブンブン振って否定する。
「ち、違います! 彼はそんな人じゃありません!」
「ほう、《彼》ね。ずいぶん仲良さそうな呼び方だね。んー?」
「・・・ッ!」
 顔を真っ赤にして右往左往する赤城をさらにニヤニヤした長門がからかう。
 そんな光景を見て陸奥は嬉しそうに「あの赤城がほれた人、会ってみたいな」と言い、大和達はうんうんとうなずいた。その時、
「あ・・・」
 今まで静かにオレンジジュースをちびちびと飲んでいた霧島が初めて大きな声を出した。
「どうした霧島?」
 横にいる比叡が不思議そうに訊くと、霧島はそっとある方向を指差す。
「あれ・・・金剛姉さん」
 その言葉に大和達は霧島の指差す先を見詰める。そこにはまわりとは異なる雰囲気を纏った女性がいた。
 闇夜を神々しく照らす満月の光のような金色の長い髪を優雅に空に流し、蒼穹の空のような美しい蒼の瞳を輝かす、日本人離れした女性。その碧眼の瞳は力強く光を放ち、彼女の美しき光をより輝かせる。
 ――彼女の名は金剛。日本海軍の現役主力艦最古参の戦艦『金剛』の艦魂であり、比叡、榛名、霧島の姉である金剛四姉妹の長女だ。
 金色の髪に蒼き瞳は明らかに日本人のそれとは異なるが、彼女は生粋の日本人。
 なぜ彼女日本人離れした姿をしているかというと、それは彼女の生い立ちにある。
 日露戦争で世界三大海軍国になった日本海軍だが、英国海軍新鋭戦艦『ドレッドノート』の竣工によってそれまでの全戦艦が一挙に旧式化してしまった。俗に言う《ドレッドノートショック》である。特に日本海軍は初の国産新鋭戦艦『薩摩さつま』がドレッドノートショックの影響で竣工前に旧式艦の烙印を押されてしまった屈辱的な記憶でもある。日本海軍は『ドレッドノート』を超える戦艦を次々に竣工させるが、日本の技術力では限界があり、造船先進国であるイギリスに新鋭戦艦を注文した。それが戦艦『金剛』であった。当時は巡洋戦艦(戦艦並みの巨砲を搭載し装甲を減らして高速力を持った戦艦)として建造されたが、その後時代の移り変わりで日本で二度の大改装を受け、機関・防御力の強化を行い高速戦艦となった。
 日本戦艦として生きてきたが生まれはイギリスなので、『金剛』の艦魂はイギリス人なのだ。
 そんな『金剛』をモデルにして日本で建造されたのが姉妹艦『比叡』『榛名』『霧島』。その為、他の三人は日本生まれなので日本人なのだ。
 黒髪黒眼の世界の中で、金髪碧眼の彼女が放つオーラはすさまじく目立つものだった。
 そんな彼女は開戦時は同型艦『榛名』と共にインドシナ方面を担当する南遣なんけん艦隊に配置されていたが、その後機動部隊に合流して艦隊護衛を行い、そのまま機動部隊と共に久しぶりに本土に戻って来たのだ。
「さっきも思ったけど、やっぱり目立つね。あの髪」
 大和は黒い軍服から金色の髪を流す金剛を見てそうつぶやく。
「だよね。あの髪、気にならないのかな?」
 瑞鶴が大和の言葉にうなずき、不思議そうに言う。すると、
「大丈夫よ。姉さんは外見がイギリス人だって事、全然気にしてないから」
「え? そうなんですか?」
 比叡の言葉に大和は驚く。この黒髪黒瞳世界において金髪碧眼はかなり目立つのだ。それを気にしていないというのはどういう事なのか。
 比叡はにっこりと微笑むと、金剛を見る。
「姉さんは、心の底から日本を愛している――生粋の帝国海軍軍人だから」
「貴様ら、何だそのだらしない格好は」
 突如響いた静かな、凛とした声が、大騒ぎしていた部屋を一瞬にして沈黙させた。
「あ、その・・・」
 声を震わせている巻き毛が特徴的な少女――陽炎姉妹長女の陽炎が妹達をかばうように説明しようとする。
 そんな陽炎を鋭い眼光で睨みつけるのは、金髪が目立つ女性――金剛だった。
「貴様ら、陽炎。そいつらは貴様の妹か?」
 金剛のすさまじい威圧的な声に、陽炎は一度ビクリと震えると、静かにうなずく。
「はい・・・」
 陽炎の返答に、金剛は納得したように一度うなずく。
「そうか、新米か」
 そうつぶやくと、再びギロリと陽炎達を睨みつける。その眼光はもはや辻斬りとかのレベルである。
「だが、その格好は何だ? 軍服はちゃんと着こなすよう言ってないのか?」
「す、すみません」
「さっさと直せ」
「はいッ」
 急いで陽炎達は軍服を正す。
 全員が軍服をきれいに着直すと、金剛は満足したように一度うむとうなずく。
「よし。その格好を忘れるな。いくら新米といっても規律を乱す者は万死に値するぞ。今度やってみろ――」
 バシィッと肩にのせてあった竹刀を床に叩き落した。そして、刀のように鋭い眼光でギロリと睨みつける。
「処罰を与えるぞ」
『はいッ!』
 陽炎達は美しい敬礼で答えた。だが、その表情は全て恐怖に染まっている。
 金剛はうなずくと、やっと彼女達に背を向けた。
 そんな一連の光景を見て、大和顔を真っ青にしてガタガタと震える。
「な、何ですか。あの鬼下士官みたいな方は」
 震える大和に対し、他の者はみんな苦笑いしていた。そんな中、比叡は震える大和の頭をそっと撫でる。
「あれが戦艦『金剛』の艦魂――私達の姉さんだよ」
「・・・金剛姉さんは、帝国海軍の艦魂の中で一番軍人らしい艦魂なんです。その勇ましさは獅子を思わせ、皆からは通称《鬼の金剛》と呼ばれ恐れられています」
 霧島がそう説明していた時、金剛がクルリとこちらを向く。大和は「ひっ」と声を上げて縮まる。
 大和の恐怖は見事に――命中した。
「おぉ、比叡、霧島。ここにいたか」
 金剛は大和達に近づいてきた。すると、その後ろには扶桑よりも長いポニーテールをした、気の強そうな少女がいた。金剛姉妹三女――榛名だ。
「金剛さん、榛名さん、お久しぶりです」
 陸奥が立ち上がって最上級敬礼をする。そんな陸奥の敬礼に金剛は静かに答礼する。
「うむ、陸奥か。久しぶりだな」
 金剛は金色の髪を揺らしながら無表情で言う。蒼い瞳は先程のような刀のような鋭さはなかった。だがそれでも目つきは十分鋭い。
 そんな金剛の後ろにいた榛名は、陸奥の敬礼に鋭い瞳を柔らかく曲げて笑みを浮かべる。
「よぉ陸奥。元気にしてたか?」
「はい、お姉様もすごく元気にしております」
 そう答えると、金剛は赤城に絡んでいる長門を見て苦笑する。
「長門か、あいつのキャラはどうにかならんもんか?」
「さぁ」
 長門の悪口を言われると怒る陸奥も、金剛の前では牙を立てられない。いや、きっとこんなやり取りを何十年もやってきたのだろう。互いの瞳は柔らかい光に満ち溢れている。
「金剛。今までどうしていたのだ?」
 大和は目を疑った。翔鶴は金剛に敬語を使っていない上に呼び捨てをしたのだ。
 ガタガタと震える大和に、瑞鶴がそっと説明してくれた。
「大丈夫。姉さんは金剛さんに一騎撃ちで激戦の末に勝利したの。そのせいか金剛さんは姉さんの無礼な態度をある程度は認めてくれてるの」
 きっと、金剛は翔鶴の溢れるような戦士の気を感じ取り、彼女を認めたのだろう。というか重鎮である金剛を認めさせるなんてさすが翔鶴といった所か。
「うん? あぁ、山本長官達の会議を傍聴していてな。それで遅くなったのだ」
 そう言って金剛と榛名は空いている場所に腰を下ろす。
「そっか」
 翔鶴は新しいお茶を湯のみに入れると、「飲むか?」と金剛に向ける。
「いや、私は遠慮する。比叡」
「はいはい」
比叡は笑顔で答えると、どこからかアタッシュケースを取り出した。
「ど、どこにそんな物を?」
 不思議そうにつぶやく大和。
 比叡は内ポケットからカギを取り出しすぐさまアタッシュケースを開く。中にはありとあらゆる拳銃やら機関銃、手榴弾や軍刀のオンパレード。
 サーっと、大和は自分の血が引く音を聞いた。
 比叡はアタッシュケースから何かを取り出す。と、手に持っているのは機関銃やバズーカではなく、
「ティ、ティーセット?」
 比叡が持っているのは西洋風の美しいティーポットとティーカップ。
「はい、姉さん」
 いつの間にか霧島がどこからかお湯の入ったヤカンを持って来ていた。
「ありがとう」
 比叡はそれを受け取ると、再びアタッシュケースの中から何本も小さな銀色の缶を取り出す。
「姉さん、今日の気分は?」
「うん? ダージリンもいいが、今日は祁門キーマン気分だな」
「ふーん、じゃあプリンス・オブ・ウェールズでいい?」
「頼む」
「はいはい」
 大和にはちんぷんかんぷんな会話をし、比叡はてきぱきと缶から茶葉を取り出しお湯を入れたりを終え、ポットでカップに何かを注ぐ。
「うわぁ・・・いい香り」
 大和は漂ってくる香りに思わず気が緩んでしまう。見ると、匂いの発信源はティーカップからだった。
「はい姉さん」
「うむ。ありがとう」
 金剛は比叡からカップを受け取ると、それを優雅に飲む。
「ふむ。やはり貴様が淹れたものが一番私には合うな」
「何年姉さんの紅茶を淹れてきたと思ってるのよ」
「ふっ、それもそうか」
 金剛はそう軽く笑うと、再び紅茶を飲み始める。
「姉さん、俺にもくれや」
「はいはい」
 比叡は榛名にも紅茶を注ぐ。
「あんがとさん」
「陸奥達も飲む?」
 比叡はこちらを見て問う。
「あ、いいえ。私は結構です」
「うちも結構。うちは緑茶の方が好きやから」
 陸奥と伊勢は断った。比叡は「そう」と答えると今度は大和達に「どう?」と訊くが、翔鶴も瑞鶴も断り、大和も雰囲気的に断った。
「さて」
 金剛は半分ほど残ったカップを置くと、大和を見る。
「先程から気になっていたのだが、貴様は誰だ?」
 金剛が今まで話の外にいた大和を見て不思議そうに訊いてきた。
 大和の心臓は限界まで縮まる。
「あ、紹介しますね。私の親友。帝国海軍の期待の新生。戦艦『大和』の艦魂です」
 瑞鶴が無邪気に自分の事を大げさ(?)に紹介してしまい、大和は硬直する。瑞鶴を見ると「空気を温めといたからね」と無邪気な笑顔をしていた。それは確実に爆沈的おせっかいであると知らずに。
「こいつが・・・」
 金剛が大和を見る。睨まれている訳じゃないのに、すごい威圧感を感じる。
「あ、あの。戦艦『大和』の艦魂です。よ、よろしくお願いします」
 挨拶+金剛の視線を避ける為に、ペコリと頭を下げる。
「ふむ、貴様が・・・」
 目線を外しているのに、視線を強烈に食らう。
「おいおい、そんなに硬くすんなって。ほら、頭を上げて」
 榛名が笑顔で大和の顔を上げる。
 あぁ、せっかくの視線外しが・・・
 大和は仕方なく頭を上げる。目の前にはもちろんこちらを見ている金剛が。
「・・・軍服の乱れはなしか」
「へ?」
 金剛の言葉に、大和は自然に金剛を見る。こちらを見ている金剛は小さいながらも笑みを浮かべていた。
「新米だが、なかなか礼儀がなっている。戦艦『金剛』の艦魂だ。よろしく」
「あ、はい。こちらこそ」
 出された金剛の手に対し、大和も腕を伸ばして握手する。
「俺の名前は榛名。戦艦『榛名』の艦魂だ。よろしくな」
「こちらこそ」
 榛名とも挨拶をし、大和の緊張はひと段落した。と、
「伊勢ちゃあああぁぁぁんッ!」
 猫なで声で伊勢の天敵の声がし、伊勢の後ろから飛びつく。
「ふ、扶桑姉さん!?」
「あぁーん、伊勢ちゃぁぁぁん」
 扶桑は嬉しそうに伊勢の頬と自分の頬を擦り合わせる。そんな扶桑を見て金剛は苦笑する。
「相変わらずだな、扶桑」
「あら、金剛さん。相変わらずって、私と伊勢が仲いいって事?」
「いや、伊勢も苦労してるだろうと」
「いやーん、金剛さんったら」
「く、苦しいわぁ・・・姉さん」
「あら、ごめーん」
 扶桑はやっと伊勢を離す。伊勢はたった数秒でぐったりと床に倒れる。
「ん? 山城は?」
「むぅ、山城はあっち」
 扶桑は部屋の隅を指差す。そこには相変わらず一人で酒(山城は酒に強いので)を飲んでる山城がいた。
 金剛が無言で手を振ると、山城もそれに気づき、小さく手を振った。
『!?』
「どうした?」
 榛名は急に固まった大和、翔鶴、瑞鶴を見る。
「いえ、山城さんが手を振ったから。驚いて」
 大和が三人を代表して言う。
「あぁ、山城は姉貴に対してだけは少し心を開いてるんだ」
 榛名がいつの間にか紅茶を飲み終えてラムねを飲みながら言う。
 しかしすぐに山城は視線を外した。そんな山城を見て金剛は小さくうなずく。
「ふむ、元気そうで何よりだ」
 軽く笑う金剛を見て、大和がふと言う。
「金剛さんって、怖い人かと思ってましたけど。意外と優しいんですね」
「まぁね。姉さんはアメとムチを使うのがうまいからね」
「比叡。貴様私は厳しいだけで、優しくはないぞ」
 金剛が比叡を睨むと、比叡は苦笑いする。
「何だその微妙の笑いは」
「まぁまぁ、姉貴達ケンカしないで」
 榛名が止め、お互い苦笑いする。
「あ、お姉ちゃん!」
 日向が駆逐艦群の中から伊勢に手を振る。そんな日向を見て金剛は小さくため息をした。
「相変わらず兵(駆逐艦や潜水艦)と仲の良い奴だな」
「すんまへん」
「お前が謝るな。別に兵と仲良くしても構わんが、ケジメだけは付けてもらわないと困るぞ」
「ほんますんまへん。後で注意しときますぅ」
 伊勢はその場に縮まってしまう。
「あーん、金剛さん。そんなに伊勢ちゃんをイジメちゃダメですよー」
 頬ずりを再開する扶桑。それを見て金剛は再びため息する。
「貴様も少し場をわきまえろ」
「はーい、すみませーん」
 大和は呆れ半分、感心半分で扶桑を見る。
(扶桑さん。金剛さんに対しても態度を全く変えないなんて、すごいのか、それともバカなのか)
「まったく」
(あんたも叱れよ!)
「ん? どうした大和」
「い、いえッ! 何でもありませんッ!」
 怖い人にツッコミを入れた刹那に、その本人に声をかけられれば、誰でもビビる。
「何々? 楽しそうじゃない」
「ちょ、司令・・・ッ!」
 突然長門が赤城を引っ張ってやって来た。
「おう、長門に赤城か」
 長門が赤城を無理やり座らせ、その横に長門も座る。
「金剛。相変わらず無粋な顔してるわね」
「無粋で悪かったな」
 長門の言葉も金剛はスルーする。というか長門も金剛に対しては敬語なしだ。妹の陸奥は律儀に敬語を使っているのに。
 その様子を見て、大和は瑞鶴に静かに言う。
「私達大日本帝国海軍の艦魂って、金剛さんみたいな怖い人よりも長門さんや扶桑さんみたいなお姉さんキャラの人の方が強いんですね」
「さぁ、陸奥さんの方が詳しいと思うよ」
 瑞鶴も苦笑いする。
「あ、赤城ちゃん。熱愛疑惑ってほんとー?」
 扶桑が地雷原に竹槍で突っ込むような特攻発言をした。
「もうッ! いいかげんその話題から離れてくださいッ!」
 顔を極限まで真っ赤にして赤城は激昂する。
「どうでも良いが、あまり大声を出すと注目されるぞ」
 翔鶴は遠巻きに見ている駆逐艦群を見て言う。
「・・・翔鶴の言うとおりですね」
 赤城がようやく落ち着きを取り戻し、その場に腰を下ろす。
 機動部隊の主力が集まったので、話は自然と南方作戦の話に流れる。
「しかし、今作戦は大遠征で疲れました」
「あ、赤城が復活したー」
「・・・司令。いいかげんにしてください」
「・・・こりゃ失敬」
 長門が黙ったところで、話は戻る。
「だが、いまいち力不足な敵だったな。私的には互角な戦いをして、敵をったらこっちも殺られるぐらいの方が燃えるんだが」
「萌える?」
「瑞鶴。口は災いの元という古い格言を知らんか?」
「ごめんなさい・・・ッ! ちょ、ちょっと待ってッ! その関節はそっちに曲がらな・・・ッ!」
 瑞鶴の右腕を不自然な方向に曲げている翔鶴は無表情だ。それが余計怖い。
 金剛は翔鶴の言葉に「なるほど」とつぶやき目をつむる。
「ふむ。その気持ちはわからんでもないが、味方に被害が少ないのは良い事だ。戦争とは全て国力で決まる。我が日本海軍はアメリカ海軍と違って艦艇の数が少ない。虎の子の我が艦隊を雑魚相手に失う訳にはいかんのだ」
「姉貴の言うとおりだな」
 榛名が腕を組んで何度もうなずく。
「でも、これほどの大活躍をしている私達海軍も、艦隊決戦はまだよね」
 お茶のおかわりを入れながら言った比叡の言葉に、金剛は深く考える。
「ふむ。艦隊決戦か。アメリカの新鋭艦と手合わせはしてみたいが、私はもう時代遅れだからな。どこまでやれるか、疑問だな」
 金剛は苦笑すると比叡が淹れたばかりの紅茶を飲む。
「確かに、俺達帝国海軍には今現在十一隻の戦艦がいっけど、アメリカ海軍には数に劣ってる上に、速度が三〇ノットを超えるのは俺達金剛型だけだし、主砲も長門型戦艦と『大和』以外は全艦三五・六cm砲だしな。射程の問題もあるからなぁ」
 榛名の説明に、扶桑が頬を膨らませる。
「でも、金剛さん達は連装砲塔四基で八門でしょ? 私と山城、伊勢、日向は六基あって十二門もある異例の重武装戦艦だからバンバン戦えるよ」
「榛名さんが言いたいのは砲門の数ではありません。それはあくまでこちらが敵を射程に入れた時の事。主砲の口径が射程範囲になりますからね。敵の主砲の方が口径が大きければ射程範囲も大きい。近づくまでに一方的に砲撃を受けるだけです」
「つまり、口径が小さい私達は、敵にたどり着く前に大損害を被るって事?」
 陸奥の説明に、扶桑は難しい顔をする。
「はい。金剛、扶桑、伊勢型戦艦の三五・六cm砲最大射程距離は三二キロ。長門型の四一cm砲は三八キロ。大和型にいたっては四二キロまで砲撃できますから。主砲の口径が艦隊決戦の戦局を左右するのは間違いありません」
 陸奥は淡々と説明する。
 全員が『おぉ』と小さな声を上げるほど感心する。さすが連合艦隊旗艦長門の補佐官だ。
 連合艦隊旗艦である長門を連合艦隊司令長官とすれば、陸奥は連合艦隊参謀長と言ったところだ。
 しかし大和は、腕を組んで考える。
「その話は少尉から聞いた事があります。その為に日本海軍は敵の射程外からの一方的砲撃。アウトレンジ戦法を考えた為、私のような超弩級戦艦を造ったそうです。しかし、空母の最大攻撃範囲は一〇〇〇キロ。爆撃機の爆弾の重量は数百キロで命中率五〇パーセントに対し、戦艦の射程距離は三〇キロ〜四〇キロ。砲弾の重量は約一トン。命中率に至っては十パーセント前後で、どう考えても空母の方が強いという結論になるそうです」
「少尉が?」霧島が訊く。
「そう言えば、長谷川少尉は戦艦マニアだったね」陸奥も思い出したように言う。
「ん? 誰だ? その長谷川少尉というのは」
 金剛が無表情で霧島に聞く。
「いえ、その・・・」
「あぁ、長谷川君ってのは大和、陸奥、伊勢、霧島が大好きな士官の事だよ」
 長門爆弾発言!
『違いますッ!』
 四人が全力で否定する。
「え、そうなの? へぇ、嫌いないんだぁ。だったら私がもらっちゃおっかなぁ?」
 長門爆弾発言2!
『それはダメですッ!』
 四人は全力で拒否する。
「あれー? 嫌いなんじゃないの?」
「そ、それは・・・」
 大和が口ごもる。それを見て金剛は呆れる。
「おい長門。部下をからかうのはやめろ」
「えー。楽しいのにー」
 本当に面白そうな顔でにやける長門に呆れる金剛。
 金剛は腕を組むと、大和をじっと見詰める。
「しかし、その長谷川とかいう士官。航空機の事を過信しておる。山本長官みたいな奴だな。空母兵か?」
「ううん。戦艦『大和』の航海士だよ」
 長門の返答に、金剛は顔をしかめる。
「航海士ってのはわかるが、戦艦兵なのに航空機主義とは、一体何者だ?」
「少尉は大艦巨砲主義者だけど、戦艦は航空機には勝てないという事を理解しているようですね」
 大和がそう言った瞬間、戦艦の艦魂達に戦慄が走り空気が凍りついた。
「戦艦が航空機に勝てないだと!?」
 まず先陣切ったのは榛名だった。そのすさまじい激昂に、大和はビクッと震える。
「お前、大艦巨砲主義の頂点に君臨するのに、その大艦巨砲主義を愚弄するのかッ!」
「い、いえ、私でなくて少尉が・・・」
 あたふたとする大和に榛名が詰め寄る。と、
「貴様。日本海軍の象徴がそれでは困るぞ」
 金剛が静かに言う。その声にはすさまじい怒りが込められていた。
 たった一言で、宴会だった部屋が、一触即発の激戦区になった。
 その時、金剛が静かに立ち上がり、腰の竹刀を抜いた。
 波を打ったように静かになる。
 睨み付けるような眼差しで、金剛は大和を睨む。
「大艦巨砲主義こそ海軍の全てだ。それを愚弄するとは、ましてや、その大艦巨砲主義の象徴が・・・立てッ!」
「はいッ!」
 大和はもうなすがまま今にも泣きそう顔で立ち上がった。
「足を開け、腕を上げろッ、腰を出せ! 歯を食いしばれえええぇぇぇッ!」
 すさまじい怒声が響き、竹刀が天空に上る。
 その時、大和のある記憶がフラッシュバックした。
 それは以前艦内で水兵の一人がミスをし、鬼下士官が処罰の為に鉄パイプで水兵の腰を思いっ切り叩いたシーンだった。
 あぁ、叩かれるんだ・・・
 あの帝国海軍伝統の処罰が・・・
 大和が半泣きを始め、竹刀が天空を舞う。その時、
「・・・やめろ」
 どこからともなく静かなる声が響き、竹刀が大和の腰の数センチ手前で止まる。
 まさに、危機一髪。
 金剛や大和、その他全員が見た人物は、驚愕させるには十分過ぎた。
「山城・・・」
 そこには、帝国海軍一の無口の艦魂が立っていた。
 山城は嗚咽を漏らす大和を一瞥すると、金剛を見詰める。
「金剛さん。大和の言ってる事は間違ってない」
「何?」
 金剛と山城が睨み合う。
 恐ろしい金剛の眼光に、山城は一歩も引かずに対峙する。
「戦艦の時代は終った。これからは航空機の時代」
「飛行機など戦艦にとってはも同然」
「その蚊に、米太平洋艦隊の戦艦は叩き潰されたじゃないか」
「それはアメリカの戦艦が脆かっただけだ」
「違う。もう大艦巨砲主義の時代は終った。これからは航空機時代だ」
「山城ッ! お前戦艦のくせに大艦巨砲主義を捨てるのか!?」
「待て」
 横から榛名が激怒したのを、金剛が止める。
「姉貴・・・ッ!?」
 驚く榛名を制止、金剛は山城を見据える。
「貴様がそれほど言うのだ。そうかもしれん。私自身、内心大艦巨砲主義時代は終ったかもしれない、本心ではそう思っている」
「姉貴!」
「だが、これはプライドの問題だ」
 金剛は強く言う。
「今まで戦艦は海戦の主力として戦ってきた。たった一度の大成功でおいそれと主力の座を譲る訳にはいかんのだ」
「それはわがままなだけだ」
「そうかもな。だが、その頑固な精神と大艦巨砲主義が日本海海戦で勝利できた大きな理由だ」
「四〇年近く前の海戦と今の戦いが違う。時代は変わるものだ」
 互いを睨み合う金剛と山城。どちらも一歩も引かなかった。が、
「はいはい、もうおしまいねぇ」
 長門が笑顔で飛び込んできた。
「いつまでももめないのぉ。せっかくの宴会なんだからさぁ」
「・・・」
「うむ。そうだな。すまん」
 長門の優しげな笑みに、金剛は軍帽を被り直し、山城も軍帽を深く被る。
 こうして、一触即発の大艦巨砲主義対航空機主義の激論は、旗艦長門の仲介で終結した。
「はう・・・」
 緊張が解けたのか、大和はその場にへなへなと座ってしまった。
 その時、こちらを睨み付けている山城と目が合った。
「・・・」
「あ、あの・・・」
 大和が声をかけようとすると、山城は身を翻して去ってしまった。
「あ・・・」
(お礼を言いたかったのに・・・)
 しょんぼりしている大和を、扶桑がそっと後ろから抱き締めた。
「扶桑さん・・・」
「お姉様って呼んで良いのよ」
(いや、それはちょっと・・・)
「元気出して。私が後であなたがお礼を言ってたって事言っとくわ」
(私の言いたい事がバレてる。侮れないなお姉さんキャラ)
 そこで扶桑は大和を離し、優しい笑みをする。
「山城は仏頂面だけど、本当は優しいのよ。だから、困ってるあなたを助けてくれた。でもこれはかなり珍しい事なのよ。あの子が口を開く以上に」
「はい」
「結構、あなた気に入られてるのかもね」
「え・・・?」
 優しく微笑む扶桑は、突然むぅと膨れる。
「でもいいなー。山城に気に入られるなんて。ずるいー」
「うにゃ!」
 再び扶桑が抱きつく。
(うーむ、このしつこさ恐ろしい。伊勢さんも大変なんですね)
「・・・すまんな」
 突如金剛が話しかけてきたので、大和は扶桑の腕を振り解いて急いで姿勢を正す。
 すると、金剛は恥ずかしそうに、
「すまん。どうも私は大艦巨砲主義を侮辱されると我を忘れてしまう。この通りだ」
 金剛は頭を下げる。
 焦るのは大和の方だ。
「いえ! そんな・・・ッ! 頭を上げてください!」
 おろおろとする大和に止めを刺したのは、榛名だった。
「悪かった。俺も少し熱くなりすぎた」
 不機嫌そうに嫌々謝ってるオーラ全開の榛名に、金剛の竹刀が炸裂する。
「あうあう・・・」
 もはや色んな意味で死にそうな大和に助け舟を出したのは、長門だった。
「ほらほら。金剛もやめてやめて」
「うむ。しかし貴様。私の方が年上だという事忘れてないか?」
「忘れた♪」
 てへ。
「てへじゃない」
 呆れる金剛を長門は気にしない。その時、
「あ、お姉ちゃん!」
 日向が駆逐艦数人と二人の下士官の少女をを引き連れてやって来た。
「赤城さん?」
 セミロングをした長身の少女が不機嫌そうな赤城を見て首を傾げる。
「あ、ごめーん。あなた達の指揮官、ちょっといじめ過ぎちゃった。」
 悪びれた様子もなく長門が謝る。
「そうですか」
「どうしたのお姉ちゃん?」
 ため息をした少女にピョコピョコと揺れるツインテールをした少女が心配そうに顔を覗き込む。
「いや、何でもない」
 少女が笑うと、ツインテールの少女も嬉しそうに笑う。
 この二人が真珠湾攻撃に『赤城』『加賀』『翔鶴』『瑞鶴』と共に活躍した空母の艦魂である。
 セミロングの髪をしたのが蒼龍型航空母艦一番艦・空母『蒼龍』の艦魂。ツインテールの髪をしたのが飛龍型航空母艦一番艦・空母『飛龍』の艦魂だ。
 飛龍型は改蒼龍型とも言うので、二隻は準同型艦となる。つまり、義姉妹なのだ。だが、蒼龍の身長が高いのに飛龍が普通なので、二人の身長差は実に二〇センチもある。
 日向は伊勢に自分の友達である駆逐艦の子を紹介していた。
「ま、いいでしょ。それより宴会を続けようぅッ!」
 長門の楽観的な言葉で、宴会は続行された。

 その日の夜。翔輝は航海科の会議で遅くなり、深夜に部屋に戻った。
「あれ?」
 部屋に入ると、宴会に出ていた大和が戻っていた。
「大和。戻ってたんだ」
 翔輝があくびしながら言うと、大和は翔輝を睨みつける。だが、その瞳には力強さはまるでなかった。
「・・・少尉のせいで、死ぬかと思いました」
 大和の元気のない声で言った。
「どういう事?」
 いきなりそんな事を言われても、何も知らない翔輝は全くわからない。
 大和は大きなため息を吐く。
「少尉が戦艦は航空機に勝てないなんて言うから、冗談抜きで死ぬかと思いましたよ」
 そう言うと、翔輝の顔が真剣な表情に変わる。
「・・・おい、それ戦艦の艦魂達の前で言ったか?」
「そうですが」
「お前はバカか!?」
 突如怒鳴られ、大和は「な、何がですか?」と震えながら聞き返す。
 翔輝は大和を見て、呆れたようにため息を吐くと、大和に理由を説明する。
「日本の戦艦はみんな大艦巨砲主義を信じてるんだぞ? そんな奴らの前で航空機主義を推進するような事を言うのは、イスラム教徒の協会のステージで堂々と『私はキリスト教信者です!』って言うような自殺行為だろ」
「・・・よくわかりませんが」
「艦魂じゃなきゃ、今頃死んでるぞお前」
 ようやく理解できたのか、大和の顔から血の気が失せる。
 翔輝は椅子に座り、呆然としている大和に言う。
「まぁ、僕も大艦巨砲主義者だけどね」
「そうですよ。少尉も大艦巨砲主義者なのに、どうして航空機の有利性を認めてるんですか!?」
 復活した大和に、翔輝は笑いかける。だが、その笑みには悲しみが含まれていた。
「僕も大艦巨砲主義を信じたい。好きだからね、戦艦が。でもね、好きな事と得意な事が違うって事もあるだろ? それと同じさ。大艦巨砲主義は好きだけど、航空機の方が強いというのも理解している。結構大変なんだよ。こういう微妙な気持ちって」
 力のない笑みをする翔輝を見て、大和は何も言えなくなってしまう。
「ま、そういう事さ」
 翔輝は立ち上がり、大和の頭を撫でる。前にやった時はかなり怒られたが、今回は抵抗されなかった。
「それに、お前が心配する事じゃないよ」
 その言葉に、大和は不機嫌になる。
「子供扱いしないでください」
「えー、僕子供の方が好きなんだけどな」
「・・・やっぱり、子供でも良いです・・・」
 大和は急に顔を赤らめた。
「ん? お前顔赤いけど、熱でもあるの?」
 翔輝は大和の頭の上にのせていた手をおでこに当てる。
 大和はさらに顔を真っ赤にさせる。
「んー、やっぱ熱あるよ」
「だ、大丈夫です!」
 大和は翔輝の手を振り解いて離れる。
 まだ、彼女の心臓はドキドキしている。
「?」
 首を傾げる翔輝をよそに、大和は「何でもないです!」と顔を赤らめたまま自分で布団を敷いて寝てしまった。







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