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体験版
作:灯宮義流



 ケース1「企業の体験版」

 一般企業入社(一年間体験版)開催。
 何故か俺は、そのポスターに惹かれ、それに応募した。
 体験版のため、実際の勤務とは異なりますと書かれていたが、体験版なのだから、そこは当然だろう。
 面接を済ませて合格した俺は、いよいよここの体験社員となった。
 これから一年間頑張るぞ!

 本当にこの一年間は地獄だった。
 天井まで高く積まれた書類の整理や、逆にそれを作る側として製作に追われる。それが基本的な仕事内容だ。
 実際は他にもいろいろ重労働はさせられるが。
 残業なんて、本当に普通だった。というか毎日残業で帰るのは夜中の三時だった。
 起床は朝四時、世界一忙しい司会者よりも酷い生活をしている気がするが、俺は頑張った。
 せっかく寝に帰ってきたのに、夜中突然仕事の電話がかかってくることもあった。
 だから不眠で会社に……ということもよくあったことだ。というか、そんなの普通のことさ。
 いつも顔色の悪い俺のことを、女性社員は笑ったり気味悪がったりした。
 だからイジメなんてこともたまにあった。しかし、俺がそれに対応できるだけの余裕が無いと知ると、それも自然となくなった。
 つまり、シカトが始まったのである。

 そんな精神状況の中でも、休みというものもほとんどなかった。
 今日こそ休みかと思えば会社から呼び出しを食らうのはいつものこと。前日から「来てくれ」と予約さながらなことをされることもあった。
 本当の休みの日でさえ、いつ電話がくるか怖かった俺は、ほとんど寝ることが出来なかった。
 眠らないためにテレビやラジオを大音量でつけて、隣人にボコボコにされたこともあったが、全ては会社のためだ。
 ボコボコにされ続けた俺は、ついには隣人と刃物で切りつけあったが、このことが縁でどういうわけか親友みたいになってしまった。
 でも、仲間が出来たということは、俺にとっては幸せだった。

 やつれた俺のことを、家族は心配した。体験版なんてやめて帰って来いといった。
 でも、一度始めたことだから、最後までやらないと勿体無いと、俺はいつも頑なに固辞した。
 一度決めたことを途中でやめるなんて、それはとっても悪いことだ。大体、会社にも迷惑がかかってしまう。
 病気もしたけれど病院にもいけなかった。そんな暇なかったし、会社の仕事を遅らせることはできなかったからだ。

 思い返せば、本当に地獄のような一年間であった。でも、とにかく、この一年間必死に頑張った。
 くそ、企業というのはこんな酷いところだったのかときよく思ったけど、でも、体験版に参加してよかったと思っている。
 今日までのことは全て、俺にとっていろいろな経験を積ませてくれた。
 きっとこれから、どんな企業に入っても、俺はきっと挫けることはないはずだ。

 そして、ついに最後の勤務の日がきた。地獄に慣れていた俺にとって、こんなのは屁でもなかった。
 最終的に終電ギリギリまで残業させられたが、こんなものは休日出勤+残業に比べたら、何ら辛いことでもなんでもない。
 最後の日、俺は上司に今までお世話になったことを伝えて、会社を去ろうとした。
 と、その前に俺は重大なことを忘れていた。お給料だ。
「すいません、給与はいつ頂けるんでしょうか」
「ああ、体験版だからまだ未実装なんだ」
「あーそっかー! これ体験版だった! じゃあ仕方ないですね、あっはっは」
 俺は血を吐いて倒れて、救急車で運ばれた。
 気づいた時には、俺は天使に囲まれていた。


 ケース2「パウダー体験版」

 学校で、麻薬に関する講習があった。
 正直そういうには興味がなかったし、薬物なんてものに興味のなかった僕は、適当にそれを聞き流していた。
 ビデオも流された、シンナーをやけに生々しく吸うシーンがあったりして、周りのみんなの顔が引きつっていた。
 しかし、僕だけは特に感動することもなく、目を半開きにして見ていた。正直寝たいが、担任の体育教師の竹刀で叩かれるのはごめんだ。
 少年が警察に捕まって、大物俳優がそいつに説教を終えたところで、ビデオは終了した。
 つまらない時間だった。こんなことをしている暇があったら、授業を受けていたほうがまだマシじゃないか。
 ま、どうせ授業があったらあったで、担任の目がないから寝るんですけどね。
 ビデオ上映が終わったあと、警察の人が壇上にあがり、後ろに手を組みながら話を始めた。
 薬物はいけませんとか、そういう話だった。これもまあつまんなかったので聞き流す。
 それくらい、わかんないと思ってんのか、というくらい普通の話が続いて、僕は流石に眠たくなってきた。
 担任の目が光る。
「さて、いろいろと話して来ましたが、やはり実際にそういう目に合わないとわからないものです」
 そう言って警察の人は、後ろから白い粉を取り出した。
「ホワイトパウダーの体験版です、皆さん、どれだけ恐ろしいものか、ちょっと吸って見ましょう」
 辺りがざわめいた。
「大丈夫です。体験版ですよ? 実際のものと異なりますから、安心してください」
 と警察の人が言うので、周りの連中は、それぞれ興味本位で警察からそれを受け取った。
 そしてそれぞれ、スーッと吸い始めた。僕は寒気がした。
「ほら、大丈夫でしょう? 体験版ですから、身体へり害は未実装です」
 そう言われると、僕も段々と興味が沸いて来てしまった。僕は、後ろめたさというか、何か危険な香りを感じつつも、それを受け取った。
 嗅いだ。
「ま、依存性はあるんですけどね」
 警察の人は、平然とそういいのけた。みんな、吐こうとするが、もう遅い。
 僕も、突然息苦しくなった。粉から香りがしなくなったのだ。
 みんなが警察の人にすがりついた。そして、警察の人はいった。
「そうですか。そんなに欲しければ差し上げますよ、あ、一人百万円ね」

 そして僕達は今、マグロ漁船に乗っている。


 ケース3「トイレの体験版」

「トイレの体験版?」
 なんだか興味が沸いた僕は、そこに入って見た。
 そして、個室で排泄物を全て出してスッキリしたあと、水洗を流して見る。
『未実装です。お使いになれません』
 マジカヨ! こんなところ未実装にする意味がわかんねーよ!
 っていうか、冷静に考えたらトイレに体験版なんて、どうして必要なんだよ! くそ、見事にトラップに引っかかってしまった。
 仕方ない。流すことは諦めよう、ペーパーでケツ拭いて、さっさと出よう。
『未実装です。お使いになれません』
 うわあああああああああああああああああああああ!


 ケース4「命の体験版」

 この世へようこそ。人生の体験版です。
 ここでは、人生を体験することができます。
 一部未実装なところがありますが、恐らく日常生活に支障をきたすことはありません。
 さあ、いよいよ誕生ですよ! あ、でも心臓は未実装ですので、ご了承くださいね。

 あれ? どうしました?


むしろこれタイトル「未実装」のほうが良いのではないか……。
あとその4はちょっと問題になりそう、抗議があったらそこだけ消そうかな。













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