Q3:気がついたら普通なことになっていた時の対応策はなんですか?
全てはあの日から始まった・・・・
と、今思えば的な発言をしてみる。
あの後、由紀によって謝らされた小春は、今度お詫びをするということでから揚げ定食ライス大盛りとラーメンをぺろりとたいらげた。
ちなみにここ、喫茶店です。
まぁ最近やっと手に入れた今日一の携帯に最初に入った女性のメアドが小春だったのは・・・ほら、ねぇ?
★
その日、今日一は暇だった。
綾乃は試合で祭は大学の陸上の練習(入学が決まった時点で参加している)、瑠璃は絵の個展の初日で挨拶回り。
ここ都忘れの休日の昼下がりのお客さんと言えば、この三人のほかには常連さんが4、5人いるのだがそれすら来ない。もう1時間は客足が途絶えている。
「あぁ・・・なんか暇だな・・・」
古本ももう読んでしまった。ちなみに『風と共に去りぬ(上下セットで100円・渋い)』と綾乃から渡された甘いラブロマンス小説だ。
前者の方は感動したし、まぁ後者の方は・・・顔を真っ赤にしながら一気に読みました。
「いいねぇ。こんな恋愛してみたくもないけどな」
どっちっすか?
≪カランコロン≫
「いらっしゃいませー」
「おっ」
「あら」
入って来たのは冬物コートを小粋に着こなした、いかにも働く女バリバリの小春さんだった。
「カウンターとテーブルどっちになさいますか?」
「ん〜一人だしカウンターで」
「はい、ここにどうぞ」
すっと椅子を引く今日一。まぁ暇だからこそ行えるサービスだ。
「えらく空いてるな?もしかして私ひとりか?」
「えぇ。お一人になりますね」
「おぉぉなんか貸切っぽいな!」
「クッ・・」
年柄にもなく(まだ25!)子供っぽい小春に、今日一は吹きだしてしまった。
「なんだよ」
「いえ、知り合いが前に同じことを言っていましたので・・・」
言わずとわかる・・・瑠璃である
「すいません。ご注文は?」
「ん〜カプチーノとトムヤムクン」
「ありません」
あぁー裏メニューにもないもの頼んじゃったよ
「食いたいんだ」
「ん〜無理だと思いますが」
「どうしても食べたい!」
「〜わかりました。少しお待ちください」
作れんのかよ!
「海老フライ用の奴と・・・今日のパスタのマッシュルーム・・・えぇぇ!な、なんでナンプラーがあるんだ??」
調味料庫(古今東西なんでもござれ)の奥にひっそりと、しかしガンガン異彩を放つナンプラー。
ついてるメモを見ると、『コーヒー研究には使えない』との文字が。
「使えるわけないよねー」
まぁ助かった。さっそく調理へ。
トムヤムクンは2年前のタイ料理の店で習った本場流。というより今日一に作れない料理はほとんどないと言っても過言ではないのだ。
「先に、カプチーノをどうぞ」
「あぁ・・・つうかえらく料理うまいのな?」
「まぁ、バイトで鍛えましたから」
「(ズズッ)んー、んまい」
カプチーノの泡を口の周りにつけるという、瑠璃ですらジョークでわざとやるような高難易度ウルトラCを平然とやってのけた、仕事はバリバリこなす適齢期の小春さん(25・女性)
「クックッ」
「あんだよ!」
凄んでも口には茶色のフワフワなお髭。
まるで小さな子が母親にねだっているようにも見える彼女は、まぁいいかと少し体を起こしてカウンターから鍋を覗いた。
「おっ!うまそうだな」
そんな小春がとても可愛らしく思えて(初対面はビンタ&発射)、今日一は紙ナプキンで口髭を拭ってあげた。
「むっ・・・」
「ついていましたからね」
「謝謝」
なぜに中国語?というのは置いといて、そうこうしているうちにトムヤムクン作りはいよいよ佳境に差し掛かってきた。
あとは隠し味のココナッツミルク(紅茶用)を入れて、ナンプラーで風味づけ。レモンを絞ってできあがりだ。
店いっぱいにエスニックな香りが広がる。
「おまたせいたしました。トムヤムクンですよ」
「おぉ!いただきます」
黙々とトムヤムクンを啜る小春に、作った方の今日一はうれしくなった。
まぁ今日一が隋所にほどこしたひと工夫に気づくことは最後までなかったが。
「なんか殻なしの海老って安っぽく見えるよな」
・・・あなたが食べやすいようにわざわざだしを取った後剥いたんですよとは言えない。
時としてこういう時もあるのだ。
★
「ふーっ!うまかったー。ごっそさまでした」
」
ものの5分で熱々のトムヤムクンをたいらげてしまった。
「おそまつさまです」
そのまま皿を洗いだす今日一を、満足した顔で見る小春。
メガネから覗く優しそうな瞳に、不覚にも少しドキッとしてしまった。
「なんですか?」
ん?という顔でこっちを向かれても、困る小春はそっぽを向く。
「クスッまたついてますよ」
ほっぺの上についた赤いスープをこれまた紙ナプキンで拭う今日一。
「うっ・・・カ、カムサハムニダ」
なぜ韓国語!?
≪カラ・・「カランコローーッン」≫
お口で登場由紀さんでーっす
「いらっしゃいませ」
「おいーーーーっす」
「おいっす」
「キョウくんも!おいーーーっす」
「ぼ、僕もですか?」
「はい、おいーっす」
「おい・・「なんだよ由紀、この私の美貌に会いに来たのか?」・・・グスン」
「はい、実は先輩の顔を忘れてしまって・・思い出すために見に来ました」
「なに?ショックで忘れるほどの美貌だと?」
「はい。あまりのショックでアレルギーが起こりました」
「ハッハッハッハ!腕をあげたなこの野郎!」
ガバッとヘッドロックをかける小春に
「あぁー先輩のナイチチに顔が当たるーキャー」
と、ケラケラ笑いながらもがく由紀。
「ナイチチっていつのネタなんすか・・・」
「むぅっ!私はまだ23です!」
小春にロックされながら睨まれてもね・・・
「ご注文は?」
「んーカフェ・ラテのエスプレッソ多めでー」
「かしこまりました。小春さんはおかわりどうしますか?」
「あぁ・・・少し汗かいたからアイスティーのストレート」
「少しおまちください」
そう言って、コーヒーの豆をエスプレッソマシーンにかけはじめる。コーヒーの香りがまた店中にしみわたっていく。
「というか先輩、さっき何食べたんすか?」
「あぁ、トムヤムクンだ」
「なんかアジアっぽーい!」
「それっぽい範囲が大きいですね」
「というより先輩言ったんですか?」
「はい、カフェ・オレとアイスティーのストレートになります。」
「なんのことだ?」
アイスティーをチューッと飲みながら尋ねる小春
「お詫びのデートのお誘い」
≪ブバッ≫
「うわぁぁっ」
「あらあら?顔射?」
「ゴホッゴホッ・・・そういうことを平然と言うな!」
「すいませーん」
顔面に紅茶を吹き付けられた今日一さん。それでも冷静にタオルで拭って机を拭いてるあたりは、さすが場数を踏んでるだけのことはある
「デ、デートですか?」
「うん。デートデート!」
「誰と誰がだよ」
「そりゃ・・・・」
≪カランコロン≫
「チャッラーーーーーーーーーーン!瑠璃平でーーーす!」
「綾乃君、十枚持って行きなさい」
「祭師匠!もう座布団がありません!」
あぁ・・・カオスに染まっていく・・・
続く |