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おねえさん大家の人情派日記 ~こんなアパート、いかがでしょう?~ 作者:みづき
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とりあえず最終章(5)

 思いがけない同窓会から、1週間近くが過ぎようとしていた。今日は、アパート中が何だかソワソワしている。というのも、今夜遅く、台風が来そうだというニュースが流れていたからだ。今回の台風は、今までで一番この辺りに接近し、下手したら上陸するのではないかとの予報もあった。しかも、サイズも特大らしい。
 少し前に屋根を直したところなのだ。またしても屋根瓦を持って行かれたりしたらどうしよう。
 私は、自転車置き場の前に立って、屋根を見上げていた。スクーターを部屋の中に避難させようと思ってここにやってきたのはいいが、曇り空の中で光る屋根を見て、ふと不安がよぎったのだ。
 店子さんたちの自転車についても、悩ましいところだ。玄関の中に入れるように伝える方がいいだろうか。といっても、うちのアパートの玄関は、自転車を保管できるほど広くもないし。
「お嬢さん、おはよう」
 声をかけられて振り返ると、角田が立っていた。
「どうしたんだい、難しい顔をして」
「ああ、角田さん。おはようございます。皆さんの自転車なんですけど、どうやって対策をとったらいいかと思って」
 私が言うと、角田は楽しそうに笑った。
「どれもこれもボロボロだし、今更どうってこともないとは思うけどねえ。家の中に入れるって言ってもスペースの問題もあるから……。あらかじめ倒しておくって方法もあるとは思うけど。まあ、みんな大人なんだし、台風は初めてじゃないだろうからね。それなりに考えるさ」
「それもそうですね」
 私は微笑んだ。
「そうそう、お嬢さん。戸建ての裏にあるゴミ箱だけは何とかしておかないと、飛んでっちゃうかもしれないねえ」
 角田に言われ、はたと気づく。アパートの掃除で出たゴミを入れている、ポリ容器のことだ。
「本当ですね。物置を整理して、中に入れておこうかしら」
 裏には、掃除道具などの雑用品を入れている物置がある。
「それがいいだろうね。あの物置はアンカー工事がしてあるから、台風で倒れることもないだろうし」
「わかりました。ありがとうございます」
 私が頭を下げると、角田はいやいや、と言いながら、自分の自転車の鍵を開けた。
「お出かけですか?」
「ああ。公民館の台風対策にね。すぐ戻るよ」
 角田は公民館で行われるイベントに、しょっちゅう参加しているらしい。頼りにされているのだろう。
「そうなんですか。じゃあ、お気をつけて」
 角田を見送ると、入れ違いに憲二郎の姿が見えた。手にプリントの束を持っている。
「おはよう、どうしたの?」
 私が声をかけると、彼はプリントを掲げながら近づいてきた。
「台風の時の注意書きを持ってきたんだよ。各部屋の郵便受けにポスティングさせてもらうぜ」
 プリントを見ると、物干し竿を固定しろとか、ベランダに置いてあるものは部屋の中にとか、図入りで解説してある。
「わざわざこんなプリントを作ってるの? 大変ねえ」
「小さい台風ならいいんだけど、今回のはかなり大きいって話だろ? 直撃されたら大事だからさ。いくつかの管理会社で集まって、大急ぎで作ったんだよ」
「へえ。気が利くのね」
「当たり前だろ、お前とは違うんだから」
 憎まれ口を残し、A棟に向かって歩き始めた憲二郎の背中に、声をかける。
「ねえ、今度の台風で、また屋根がやられちゃうなんてことはないわよね?」
「そんなこと、俺が知るかよ。台風に聞けよ」
 こちらを振り返ることもなく、面倒くさそうな答えが返ってきた。聞けるものなら聞いている。まったく、どこがどう気が利くというのだ。私は憤慨しながら、戸建ての裏に向かって歩き出した。

「もう、ほんとに腹の立つヤツ」
 怒りをパワーに変えながら、物置の中を整理する。何とか空間を作り、そこにポリ容器を放り込んだ、まさにその時だった。
「何やってるんだ!」
「待て、こらっ!」
 という大声と、人が争うような音が聞こえてきた。アパートの前庭のようだ。私は手を止め、大急ぎでそちらへと向かった。
「どうしたの?」
 アパートと道路の境目辺りで、誰かを抑え込む憲二郎と山下探偵の姿が見える。近寄ると、抑え込まれているのは、汚らしい恰好をした男性だとわかった。道路側に顔を向けているため、男性の表情は見えない。
「岩内、警察呼んでくれ! こいつ、多分、この間からウロウロしてたヤツだぞ」
 憲二郎が叫ぶ。
「わかったわ」
 尻ポケットに手を遣り、スマホが入っていないことに気づく。こんな時に限って、部屋に忘れて来てしまうとは。その様子に気づいた山下が、私に向かって叫んだ。
「うちの事務所の電話使ってください。鍵はかかってませんから」
「ありがとうございます」
 探偵事務所に向かおうとして、私はふと足を止めた。
「おい、何モタモタしてるんだよ」
 憲二郎の怒り声を無視して、不審者に近づく。私は、その男性の顔が見える方に回り込んだ。じっと目が合う。
「どうしたんですか?」
 山下に声をかけられ、私は顔を上げた。
「――この人、私の兄です」
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