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おねえさん大家の人情派日記 ~こんなアパート、いかがでしょう?~ 作者:みづき
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とりあえず最終章(3)

 思ったよりも荷物が多くなってしまったので、帰りは最短距離のルートで戻った。これだけの荷物を担いで一人で歩いていたら、10分の道のりでも長く感じただろう。しかし、今日は洋子としゃべりながらだったため、むしろ楽しい道のりだ。
 アパートに近づくにつれ、角田と憲二郎の姿が見え始めた。下校途中の中学生に「さようなら」と声をかけているが、なかなか返してもらえないようだ。前まで来た時、二人はようやく私たちに気づいた。
「おや、お嬢さん。今日はお友達とご一緒かい?」
 角田が声をかけてくる。
「ええ、そうなんです。角田さんに警備を押し付けておいて、遊びに行っちゃってごめんなさい」
 私が軽く頭を下げると、角田はいやいやと顔の前で手を振る。
「はじめまして。村西といいます」
 洋子が頭を下げたところで、憲二郎が声をかけてきた。
「おお、村西か? 久しぶりだなあ。お前みたいな優等生が、いまだに岩内みたいな出来の悪い奴と仲良くしてるなんて、びっくりだな」
 なぜ、いちいちこういう余計な一言が付くのだろう。私の怒りをよそに、憲二郎は角田に向かって話しかける。
「角田さん、実は俺たち、同じ中学だったんですよ」
「ああ、そうなのかい。いいねえ、幼馴染が集まれるっていうのは」
 角田が微笑む。
「それにしても、憲二郎、ずいぶん貫禄が出たわね」
 洋子は楽しそうに笑うと続けた。
「たしか、幸一君もここに住んでるのよね?」
「ああ、そうだよ。――どうでもいいけどさ、幸一には『君』が付くのに、俺のことは呼び捨てかよ。久しぶりに会ったっていうのに、ひどいじゃないか」
 まったく、細かいことを気にする男だ。
「はいはい、ごめんね。憲二郎クン。もう、なんか子どもみたい」
 洋子が呆れたところで、角田が声をかけてくる。
「今夜は囲碁の会があるから、俺はこれで失礼するよ。皆さん、楽しんでね」
「ありがとうございます」
 お礼を伝えると、彼は軽く片手を振って、自室へと戻っていった。
「ところで、今日の夜の予定ってあるのか?」
 憲二郎に尋ねられ、洋子と二人、顔を見合わせる。
「駅前の居酒屋さんにでも行こうかって話はしてたけど」
「そうか。だったら、俺も一緒に行かせてくれよ。幸一も呼んでおくからさ」
「幸一君を呼ぶんだったら、志穂未ちゃんも誘ってよ。新婚さんを一人にさせるのも可愛そうだし」
 私の言葉に、憲二郎がうなずく。
「わかったよ。じゃあ、時間と場所は、お前のスマホに入れるから」
「うん。お願いね」
 私はうなずいた。

 4時間後、私たちは、西砂橋駅前にある居酒屋にいた。掘りごたつタイプになっている個室。壁際から、志穂未、私、洋子が並んで座り、向かい側には、幸一と憲二郎と、なぜか幸一の弟の直人が並んで座っている。テーブルの上には所狭しと料理が並び、いい感じにお酒の入った私たちは、かなりの盛り上がりを見せていた。
「――ああ、面白い。もう、こんなに笑ったのって久しぶり」
 私の隣で、洋子が涙を流している。幼馴染同士の飲み会だったはずが、いつの間にか、私の昔の恥を暴露する会へと変貌を遂げていた。
「私は、全然面白くないけど」
 ムスッとする私の表情を見て、残りの5人がまた爆笑する。よくもまあ、こうも人のドジ話を覚えているものだ。私自身でも忘れているネタが、どれだけ披露されたことか。
 少しして、酔っ払い気味の憲二郎が話題を変えた。
「そういやあ、株式会社イワウチ、どうなってるんだよ。お前んとこの兄貴、ちゃんと経営できてんのか?」
「兄の会社のことなんて知らないわよ。私はノータッチなんだから」
 株式会社イワウチとは、私の父が立ち上げたアパレル系の会社だ。一部上場し、こんな田舎に本社を置く会社としては、かなりの知名度を誇っていた。父の死後は、長兄が跡を継いでいる。次兄が副社長を勤めていたが、事業失敗の責任を取り、解任されたという話を耳にしていた。
「最近、BSでテレビショッピングを始めたでしょ? 人気のモデルさんを使って、洋服の着こなし方をレクチャーしたりとかして。あれ、かなりうまくいってるみたいですよ。お陰で、私の勤め先も忙しくさせてもらってて」
 隣から志穂未が無邪気に話しかけてくる。彼女は、先代の大家である父の紹介で、株式会社イワウチの子会社のひとつ、砂橋コットンに勤めているのだ。
「へえ。本業の方はうまくいってるのか。それならよかったな。不動産の方はさっぱりだったみたいだから。今、不良物件の売却を始めたみたいだけど、問題起こした張本人の、下の兄貴は現場に出て来ないんだってさ。懲戒解雇になったんじゃないかとか、高飛びしたんじゃないかとか、ここらの不動産業界では、すっげえ噂になってるぜ」
 顧問弁護士の駒田から、次兄の克之が行方不明だという話を聞いたのは、今から4カ月近く前のことだ。あれ以来連絡が無いので、てっきり問題は解決していると思っていた。
「もう、いいじゃないか、そんな話をここでしなくても」
 幸一が憲二郎を止める。
「そうよ。相変わらずデリカシーが無いんだから」
 洋子が怒気を含んだ声で言う。
「相変わらずってことは、憲二郎さん、昔からデリカシーがなかったんですか?」
 直人がさりげなく話をそらす。
「そうよ。中1の時の担任の先生が、若い女の先生だったんだけどね……」
 洋子が、憲二郎の無神経エピソードを暴露した。
「もう、やめろよ」
 憲二郎の懇願むなしく、幸一からも様々な出来事が披露される。一座は再び、爆笑の渦に包まれた。
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