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おねえさん大家の人情派日記 ~こんなアパート、いかがでしょう?~ 作者:みづき
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とりあえず最終章(2)

「え~? それって大変じゃないの。毎日?」
 幼馴染の村西洋子が、驚いたように声を上げる。彼女と私は、新しくできたショッピングモールのフードコートで、イタリアンを食べていた。土日は恐ろしく混むため、洋子は平日に休みを取って遊びに来ている。
「そうなのよ。まあ、どうせヒマだからいいんだけどさ」
 フォークにスパゲティを巻き付けながら答える。
「で、今日は大丈夫なの?」
 洋子の言葉に、壁にかけられた時計を見上げた。もうすぐ2時になろうとしている。夢中で買い物をしていたため、遅いお昼となってしまった。
「うん。今日は出かけるから、無理かもって言ってあるし。憲二郎が来られるみたいだから、大丈夫よ」
「へええ。憲二郎がねえ」
 洋子がピザを手にしたまま、こちらを見る。
「麻奈美を手伝ってくれるようになるなんて、人生って不思議よね」
「ホントにねえ。まあ、ムカつくことの方が多いけど」
 私が顔をしかめると、洋子は声を上げて笑ったが、すぐに真顔に戻った。
「そう言えば、麻奈美のアパートからここに来る間に、橋を渡ったでしょ?」
「ああ、大砂橋ね」
 今夜、洋子はうちに泊まることになっている。そこで、宿泊用の荷物を置くべく、一旦、我が家を訪れたのだ。
 このショッピングモールは、うちから最短の道を通れば徒歩10分の所にある。しかし、今日は小春日和だったため、洋子が少し散歩したいと言い出したのだ。それで、20分以上かかるにもかかわらず、大砂橋を渡るという遠回りルートを通り、ここにようやくたどり着いたというわけだ。
「あの時、河原の所に、ブルーシートが掛けてあったの、気づいた?」
 洋子に聞かれて首を傾げる。
「え? ほんとに? 全然気づかなかった」
「そうよね。麻奈美だから仕方ないわね」
 傷つく言葉をサラッと言うと、洋子は続けた。
「さっき、不審者が汚らしかったって話だったから、もしかしたら河原に住み着いてるホームレスでも現れたのかなと思ってね」
「え、河原のホームレスさんが、うちのアパートを見に来たって言うの?」
「ほら、ボチボチ台風のシーズンじゃない? だからその前に、どこか手頃なところはないかなって感じでさ」
 洋子がピザを頬張る。
「やめてよ、もう。前のボロボロの建物だったらその可能性もあるだろうけど、今はかなり綺麗になってるのよ。女子大生だって住んでるんだし、店子さんに対しての責任もあるし。これからは、身元がわからない人はちょっと…って思ってたところなのに」
 もちろん、困っている人がいれば相談には乗って行きたいと思っている。しかし、危険をもたらしそうな人を住まわせることはできない。
「その方がいいわよね。それにしても、あんなに綺麗になってるなんて、ビックリしちゃった。ほぼ満室なんでしょ? これからの生活は安泰じゃないの」
 洋子が能天気なことを言う。
「前に比べれば少しはね。でも、毎月毎月、リフォーム工事のローンも支払っていかなくちゃいけないし、憲二郎が安くしてくれてるとはいえ管理費だってあるし。固定資産税もいるでしょ? 私自身の社会保険とか住民税とかも支払わなくちゃいけないし。それに、お風呂の換気扇の故障とか、配水管の詰まりとか、これから起こりそうなこと考えたら、お金も貯めていかないと。今でこそこんなに入ってくれてるけど、いつ退去者が出るかもわからないし……」
「わかった、わかった。なんか聞いてるうちに憂鬱になってくるわ」
 洋子が私の言葉を止めた。
「麻奈美も、やっぱり結婚しなくちゃダメよね」
「え? 結婚?」
 いきなり話が飛んで驚く。
「だってさあ、旦那さんがサラリーマンだったら、アパートからの収入が減ったところで生活費は確保されるわけじゃない? やっぱり結婚しなくちゃね」
「全く出会いが無いのに、どうしろって言うのよ。最近会った男性なんて、アパートの店子さんたちと憲二郎と管理会社の人くらいなもんなのよ」
 最後のスパゲッティを巻き取ると、乱暴に口に運ぶ。
「いっそのこと、憲二郎と結婚しちゃったら?」
「何を…げへっ、ぐふっ」
 洋子の言葉にむせ返った。彼女はそんな私の姿を見て、ケラケラと笑っている。
「ちょっと、いい加減にしてよ。冗談にしても、言っていいことと悪いことがあるんだからね」
 私は、セットで頼んでいたコーラを飲んで、胸を落ち着かせた。
「ごめん、ごめん。実はさあ、私、縁談があるのよ」
 洋子は口の周りを紙ナプキンで吹きながら、こともなげに言う。
「え? 縁談?」
「そうなの。同じ商店街に、1コ下の独身男性がいるんだけど、そことね」
 洋子の実家は、砂橋駅前の商店街で薬局を開いている。彼女も薬剤師としてそこで勤めているのだが、同じ商店街ということは、どこかのお店の跡取りだろうか。
「何屋さんの息子さんなの?」
「和菓子屋さんの次男坊。長男が跡継いでて、その子はサラリーマンやってるんだけどね。結婚したら、東京に行くことになると思う。親は、それでもいいって。私、一人っ子でしょ? どっちにしても、私に跡を継がせるつもりはないって言ってるのよね」
「へえ」
 けっこう具体的な話になっているんだ。軽くショックを受ける。
「でもさ、私はどうにも気に入らないのよね。子供の頃から知ってる子だし」
「私も知ってる?」
 洋子とは幼稚園から中学校まで、ずっと一緒だった。
「どうかなあ。小学校は一緒だったけど学年違うし。その子、中学から私立に行ったから、もしかしたらわかんないかも」
「そっか。で、何がそんなに気に入らないのよ」
 私が尋ねると、彼女はため息をついた。
「やたらめったら、プライドが高いのよ。何て言うのかな、人を見下す感じっていうの? 子供の頃から鼻に付くところはあったんだけど、東京の一流大学出てから、余計にそれがひどくなっちゃって。先週、お見合いみたいな感じで会わされたんだけど、どうにも虫が好かないのよね。同じ空間にいるだけで、肩が凝るっていうかさあ」
 洋子は一気にそう言うと、ウーロン茶を一口飲んで続けた。
「今は、どうやって断ろうかなって、そればっかり」
「断り方かあ。難しいね」
 そう言いながら、心のどこかで少しホッとする自分がいる。
「だからさあ、麻奈美と憲二郎みたいに、まったく遠慮しないで付き合えるような関係だと、いいんじゃないかなと思ったのよ。まさか、そこまで拒絶反応が起こるとは」
 洋子はそう言って、カラカラと笑った。
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