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おねえさん大家の人情派日記 ~こんなアパート、いかがでしょう?~ 作者:みづき
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とりあえず最終章(1)

 いつものごとく、ベッドの縁にもたれながらテレビのワイドショーを見ていると、スマホがメロディーを奏で始めた。モニターには、腐れ縁で天敵の植原憲二郎の名前が出ている。まったく、朝早くから縁起が悪い。
「もしもし」
 応答すると、これまたいつものごとく、ぶっきらぼうな答えが返ってきた。
「おう、今、ヒマだろ? 下の探偵事務所にいるから、すぐに来いよ。じゃあな」
「はい?」
 聞き返すこちらの声を無視して電話が切れる。毎度のことながら、こちらの都合などお構いなしだ。よくもまあ、こうも人をヒマ人扱いしてくれるもんだ。そして、それが事実だから、余計にたちが悪い。
「まったくもう」
 私は、テレビを切って立ち上がった。髪の毛を手ぐしでさっと整え、適当に口紅を引くと、ベッドに放り投げてあったスマホをジーンズの尻ポケットに突っ込む。
 ドアに鍵をかけ、階段を降りながら、私はアパートに目を遣った。

 3カ月前、伊佐治が出ていったことで、単身用のA棟は5部屋が空室になってしまった。どうなることかと思ったが、今では奇跡的に4部屋が埋まり、残る空室は伊佐治が入っていた104号室のみとなっている。
 新たな店子さんたちの顔を、一人一人思い浮かべる。志穂未が住んでいた201号室は、彼女の義理の弟、直人が無料で現代っぽい和風の部屋にリフォームしてくれていた。それが功を奏したのか、2カ月ほど前から砂橋大学の女子学生さんが入居していた。彼女は理系で大学院に進む予定らしく、結構長く入ってくれそうだ。
 そして、あとの3部屋は、最近近所にできた郊外型ショッピングモールの運営会社に、社宅として借り上げてもらうことができた。101号室には20代の若い男性店員、そして102号室は、単身赴任で来ている30代の男性店員がそれぞれ入ってくれた。特筆すべきは204号室。ここには、ショッピングモールの50代の副店長さんが入っていた。独身の女性の方で、もっといい所にも住めたのだろうが、和室にこだわりがあったことと、ご近所づきあいのある所がいいという希望があり、わざわざうちを選んでくれたのだ。入居して2カ月半になるが、アパートの女性たちともすっかり打ち解けている。
「いい方ばっかり入ってくださって、よかったねえ」
 と、他の店子さん達からも喜ばれており、この件については、きっちり人選してくれた憲二郎さまさまと言うしかなかった。

 階段を降り切って、探偵事務所を覗き込む。そこには、憲二郎と事務所の主である山下の姿があった。
「おはようございます」
 ガラスの引き戸を開けて、顔を出す。
「おう、入れよ」
 自分の家かと思うほど横柄な態度で、憲二郎が手招きする。山下が自分の椅子に、憲二郎がテーブルを挟んで1個ずつ置かれている一人用ソファに、それぞれ座っていた。
 山下に勧められ、憲二郎の向かい側に置かれた一人用ソファに腰を下ろす。
「こんなに朝早くから、何なの?」
 珍しく真面目な顔をしている二人に恐る恐る尋ねると、憲二郎が答えた。
「昨日、大樹君が、このアパートの前で、見知らぬ男から声をかけられたらしい。『キミ、このアパートの子?』って」
 大樹というのは、B棟101号室に、母・高田育代と二人で住んでいる小学生だ。
「えっ? いつ?」
 男がウロウロしていたなんて、全く気付かなかった。
「昨日の学童からの帰りなんで、5時頃です。大樹君、うちの事務所に駆け込んできたんで」
 山下が答える。
「え? 学童の帰り? 高田さん、いつもお仕事の帰りに迎えに行かれてますよね? 昨日は大樹君、一人で帰ってきたんですか?」
「いえ、高田さんが用事でどうしても帰れなかったもんだから、お友達のお母さんにお迎えを頼んだみたいですね。車でこのアパートの前に大樹君を下ろして、自宅に帰られたみたいです」
「じゃあ、声をかけられたのは、このアパートの真ん前ってこと?」
 若い女性も住んでいるのだ。これは一大事だ。
「真ん前どころか、下手したら敷地内ですよ」
 山下が腕を組む。
「で、どんな男だったんですか?」
「大樹君が言うには、髪の毛もひげもボーボーで、汚らしかったらしいです。お父さんと同じくらいの歳だったって。
 大樹君がここに駆け込んできた時、僕はちょうど電話中だったんで、すぐに見に行くことができなかったんですよね。電話を切って外に出た時には、もう男の姿はなかったんですよ」
「そうですか」
 大樹の父親――椎野課長は、大体40代半ばくらいだ。私はうなずいて、憲二郎の方を見た。
「警察に連絡した方がいいかしら?」
「一応、高田さんから警察に連絡しておいてもらった。ただ、さらわれかけたってわけでもないし、気を付けておきますくらいだったみたいだけど」
 憲二郎がため息をつく。
「何それ? 頼りないわね」
 何か事が起こってからでは遅いのに。
「しばらくの間、子どもの登下校時には、僕と角田さんで見張ることにしますよ。山崎さんも、仕事が休みの時には付き合ってくださるそうですし」
 山下が微笑む。
「ありがとうございます。私も一緒に見張ります。7時台と3時、4時台くらいかしら」
「ええ。僕らも都合が悪い時がありますので、助かります」
 山下がうなずく。
「俺も、極力気を付けるようにするよ。来られる時には来るから」
 憲二郎が言う。
「よろしくね。それにしても、不審者とはねえ」
 思わずため息が漏れた。
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