挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
おねえさん大家の人情派日記 ~こんなアパート、いかがでしょう?~ 作者:みづき
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

79/91

第7章 A棟104号室 伊佐治太作さん(9)

 それから2週間ほど経ったある日。憲二郎に呼び出され、私は植原不動産を訪れた。店舗の奥にある応接セットを覗き込むと、憲二郎がソファに腰かけているのが見えた。テーブルを挟んだ向かい側には、20代後半と思しき気の弱そうな男性が座っている。
「おう、ここだ」
 憲二郎が立ち上がって手招きすると、前に座っていた男性も一緒に立ち上がり、会釈をしてくる。私も軽く頭を下げ、小走りに応接セットに向かった。
「さっき、電話で話した、弁護士の山久隆やまひさたかし先生だ。伊佐治さんの国選弁護人の」
「はじめまして、山久です」
 憲二郎の隣に立つや否や、目の前の男性に名刺を渡され、ワタワタとそれを受け取る。
「ああ、ありがとうございます。岩内と申します。私、お名刺を持っておりませんで……」
「そろそろ作っておけって言っただろ? 最近では家のプリンターでもできるんだから。ヒマな時間だっていくらでもあるだろうし」
「何も、初対面の方の前で、そんな話をしなくてもいいでしょう?」
 パソコンの操作が得意ではない私にとって、そういう作業は最も敬遠すべきもののひとつなのだ。無理矢理ほほ笑んで山久の方を見ると、彼は困ったような顔をしてこちらを見ていた。
「すみません、本当に」
 私が謝ると、
「いえ、あの、大丈夫です」
 と、最近の若者らしい答えが返ってきた。
 憲二郎に促され、皆でソファに腰を下ろす。テーブルの上には、既に三客の湯飲みが置かれていた。
「で、今朝いただいたお電話では、伊佐治さんのこととか?」
 憲二郎が口火を切ると、山久が話し始めた。
「ええ。そうなんです。実は伊佐治さんなんですが、不起訴処分になりまして」
「え? どういうことですか?」
 暴行の現行犯で、しかも相手は重症と聞いていた。何がどうして不起訴処分になったのだろう。
「実は、定食屋さんで、そこの娘さんが酔っ払った男性に絡まれたことが、あの事件の発端だったんです。店長夫婦とその娘さんの3人で切り盛りされている、小さな定食屋さんなんですけど。伊佐治さんは、常連さんだったみたいですね」
 山久は、手帳を見ながら説明を続ける。
「伊佐治さん、その酔っ払いを止めようとして、間に入ったところを殴られたそうで。2発目を避けようと手を上げただけだったそうなんですが、それがたまたま、酔っぱらってふらついていた男性の顎に当たってしまったみたいなんです。それで、その酔っ払いはノックアウトされてしまった」
「だったら、全面的に、その酔っ払いが悪いじゃないですか。なんで伊佐治さんが逮捕されたんです?」
 無性に腹が立つ。すると、山久は軽くうなずいて話を進めた。
「すぐに救急車を呼んで、救急隊がお店に来た。で、倒れた男性を見て、暴行されたと判断したんでしょうね。警察が呼ばれて、伊佐治さんが逮捕されてしまったというわけです」
「お店の人はどうしてたんですか? 伊佐治さんは悪くないって話にならなかったんですか?」
 今度は憲二郎が尋ねる。
「きっかけになった娘さんはパニック状態になっていて、母親はそちらのケアにかかりきりだったそうです。そして、店長はキッチンにいて肝心の現場を見ていなかった。その上、駆けつけた警察官が、たまたま、以前伊佐治さんを逮捕した人だったみたいで、ろくに目撃者の話も聞かないまま、伊佐治さんに手錠をかけたそうです」
「じゃあ、誰も伊佐治さんをかばってくれる人はいなかったってことですか?」
 私の質問に、山久は小さくため息をついた。
「ええ。その場では、結果的にそういうことになってしまったようですね」
「そりゃ、人として扱ってもらえないと思うだろうな。せっかく助けてやったのに、かばってももらえないなんて」
 憲二郎はそう吐き捨てると、ソファの背に体を預けた。
「でも、結局不起訴になったんですよね?」
 私が身を乗り出すと、山久はうなずいた。
cont_access.php?citi_cont_id=287044308&s
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ