挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
おねえさん大家の人情派日記 ~こんなアパート、いかがでしょう?~ 作者:みづき
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

57/91

第5章 A棟201号室 星本実莉さん(10)

「幸一、お前、少しやせたな」
 憲二郎に見つめられ、幸一は照れくさそうに頭をかいた。
「まあな。いろいろ大変だったから」
 私たちは今、山下探偵事務所に集っていた。ふたつの一人掛けのソファには幸一と憲二郎が、ソファベッドには志穂未と私が並んで座っている。
「それにしても、あれから10日ですか。よくこんなに早く見つかりましたね」
 事務用の椅子に腰を下ろした山下に話しかけると、彼はほほ笑んだ。
「郵便証紙に記された郵便局名が、ここ何回分か同じ場所になってましたから、その辺りに住んでおられるんじゃないかと当たりをつけましてね。写真に写り込んでいた景色を参考にしながら、簡易宿泊所を中心に探してみたんです」
「偽名の日雇い労働者に貸してくれる借家なんて、なかなか見つからなくて……。簡易宿泊所を転々としながら生活してたんだ。正直、疲れ切ってた。でも、今更戻るわけにもいかなかったし。山下さんに声をかけられた時には、少しホッとしたよ」
 幸一は、ふうっと息を吐いた。
「それで、お袋さんにはもう会ったのか?」
 憲二郎が尋ねる。
「ああ。あまりに弱っててビックリしたよ。色々迷惑かけちまったからな。直人の話では、お袋は俺から肝臓をもらうことを拒否してるって話だったけど、実際に会ってみたらさ」
 幸一は、髪をかきあげながら続けた。
「俺の顔見てポロポロ泣くんだよ。あれにはさすがに参った」
 幸一の目が潤む。
「仕方ないから検査してやったよ、色々と。俺の身体、少々栄養不足みたいだけど、食生活を整えれば何とかなるらしい」
「じゃあ、移植できるのか?」
 憲二郎が身を乗り出した。
「多分。手術は数カ月先の話になるから、それまでにお袋がくたばらなければな」
 幸一が続ける。
「体もだけど、借金の方もきちんと整理することにした。ヤミ金からも借りまくってるし、どうしようもないと思って逃げ回ってたけど……。それも含めて面倒見てくれる弁護士さんがいるからって、山下さんから聞いてさ」
 駒田弁護士の顔を思いうかべる。山下から頼まれて連絡したところ、ふたつ返事で引き受けてくれた。「お嬢さんも、だんだん会長に似てこられましたね」と笑いながら。
「そりゃ、移植手術してるところに『カネ返せ』って踏み込まれても、困るからな。きっちりカタつけとかないと」
 憲二郎が真面目な顔で言う。
「まったくだ」
 幸一はそう言うと、ようやく楽しそうな表情を浮かべた。
「それにしても、ここの大家さんが岩内の親父さんだったなんて、全然知らなかったよ。あの時は、どこの大家さんもなかなか貸してくれなくて困ったんだ、なあ」
 話を振られ、志穂未がうなずく。
「本当に。でも、ようやくOKしてくださる大家さんがいて。2人とも一緒に面倒見るって言ってくださったんだけど、幸一さんがどうしても聞いてくれなくて」
「俺と一緒にいたら、お前も大変なことになると思ったからさ。とにかく、お前だけでも安全なところにって、それしか頭になかったし。いざとなったら、泰治が何とかしてくれると思って」
「なんで俺の所に来なかったんだよ。せっかく不動産屋やってるのに。それに、俺だって、いざとなったら頼りがいはあるんだぜ」
 憲二郎が不満そうに言う。
「悪かったよ。でも、お前の店、西砂橋駅のすぐそばだろ? 同級生に会う確率も高いじゃないか。こんな田舎じゃあ、あっという間に噂が広まっちまうよ。それに、お前とは中学卒業してから、一度も会ってなかったし」
 幸一が答える。
「何だよ、まったく。こっそり連絡くれりゃあ、目立たない所で話してやったのに。ここよりマシなとこ、紹介できたかもしれないぞ」
 憲二郎の言葉に、幸一がちらっと私の方を見る。
「お前、アパートの持ち主の前で何てこと言うんだよ」
「そうでしょ? 憲二郎って、いつもこんな感じなのよ。本当にデリカシーがないんだから」
 わが意を得たりとばかりに、憲二郎を責める。
「はあ? こっちはなあ、他の物件の半分しか管理費もらってないのに、お人よしの大家に振り回されて大変なんだぞ。しかも、そのお人よしは遺伝なんだから、筋金入りだな」
「あのねえ、父親とは血がつながってないのに、遺伝するわけないでしょ?」
「え?」
 私の言葉に、憲二郎が目を見開く。
「血がつながってないってどういうことだよ」
「私、母親の連れ子なのよ。知らなかったの?」
 冗談で言っていると思ったら、どうやら本当に実の父娘だと思っていたらしい。
「お前、知ってたか?」
 憲二郎が幸一の方を見ると、彼はためらいがちにうなずいた。
「ああ。俺は幼稚園も一緒だったからな。岩内は、たしか、幼稚園の途中で引っ越してきたんだよな」
「そっか。憲二郎に初めて会ったのは中学の時だから、知らないかもしれないわね」
 うちの中学校の学区は3つの小学校の学区にまたがっている。憲二郎は、私たちとは違う小学校の出身だった。
「なるほど。親父さんとは血がつながってないのか。じゃあ、お人よしは遺伝じゃなくて、伝染するってことだな。ただし、絵の上手さは伝染しなかったみたいだけどな」
 憲二郎が、余計なことを言いながら腕を組んだ。
「岩内の親父さん、絵が上手いのか?」
 幸一が尋ねる。
「ああ。プロ並みだぜ」
 憲二郎が答えると、幸一が驚いたような表情を見せた。
cont_access.php?citi_cont_id=287044308&s
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ