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おねえさん大家の人情派日記 ~こんなアパート、いかがでしょう?~ 作者:みづき
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第5章 A棟201号室 星本実莉さん(8)

「はい、これ」
 星本実莉と書かれた契約書を憲二郎の前に掲げる。
「仲介してくれた不動産屋さん、やっぱりハウス高木だったわ」
 憲二郎は契約書を受け取った。
「そうか。やっぱりな」
「でも、どうしてうちのアパートを紹介したのかしら。結構離れてると思うんだけど」
 私が首をかしげると、憲二郎が答える。
「大方、偽名で事情を聞かずに貸してほしいなんて条件では、承諾してくれる大家が他にいなかったってとこだろう」
 そして、契約書をめくりながら続けた。
「ほら、連帯保証人も緊急連絡先も空欄になってる。ここの店子たちの話を聞くと、お前の親父さんも、お前に負けず劣らずお人よしだったみたいだからな。困ってる志穂未さんを前にして放っておけなかったんじゃないのか」
「たしかにね」
 下手に反論すると、過去のいろいろな事件を引っ張り出されそうだ。
「あ、そうだ。さっき星本さんの所に…えっと、志穂未さんって言った方がいいのかな、現金書留が届いてたみたいよ。ちょうど階段を上がろうとした時に見えたんだけど。親御さんか誰かから、仕送りでももらってるのかしら」
 私は先ほど見たことを口にした。
「いや、志穂未さんには親御さんはいないはずですよ。私生児だった上に、母親は高校生の時に亡くなってしまい、天涯孤独だったって…ちょっと調べてみたんですけど」
 山下はそう言うと続けた。
「実は、僕も彼女の所に現金書留が届くのを、何度か見たことがあるんですよ。幸一さんじゃないかと思ってたんですけど。だとすれば、2人はまだつながっているのかもしれませんね」
「でも、どうして、現金書留なのかしら」
「そりゃ、もともと持ってた口座を使えば、すぐに居所がばれちまうし、偽名じゃ新しい口座は作れないし。こっそり金を受け取ろうと思ったら、手渡しか現金書留かになるだろう」
「そっか」
 憲二郎に言われ、納得する。
「あっ、思い出した」
 直人が突然大声を上げる。
「何だよ、ビックリするじゃないか」
 のけぞる憲二郎を無視して、直人は私たちの顔を見回した。
「兄の高校時代の友人に、高木さんっていう人がいたんです。たしか、サッカー部で一緒だったはずです。実家は不動産屋だったような……。ちょいちょいうちにも遊びに来てんたんで、聞いた覚えがあって。ハウス高木って、もしかしたら、その人の実家かも……」
「ああ、そう言えば、俺が社長を継いだ時、取引のある不動産屋にあいさつ回りに行ったんだよ。ハウス高木にも顔を出したんだけど、俺と同い年の息子がいるって話をしてたなあ。不動産屋を継ぐ気はないらしいけど。
 あそこ、住まいと店舗が一緒になってるから、社員じゃなくて、その息子かもしれないな。それなら、志穂未さんをかくまう部屋を紹介してほしくて、ハウス高木を頼ったっていうのも説明がつく」
「ねえ、ハウス高木に直接聞いてみたら? 取引があるんでしょ?」
「植原さん、お願いします」
 口々にせっつかれ、憲二郎がスマホを取り出す。契約書に書かれた電話番号に電話をかけると、少しして相手が出た。
 憲二郎が名乗った後、志穂未がここを借りた際の状況を尋ねる。はじめは個人情報ということで渋っていたが、母親の病気のことを伝えると、幸一の友人である息子・高木泰治たかぎやすはるが電話口に出た。スピーカーにしているため、私たちにもその内容が聞き取れる。
 失踪直後、幸一自らが志穂未を連れて泰治の元を訪れたそうだ。志穂未は幸一と共に暮らすことを望んだようだが、必ず迎えに来るからという言葉を残し、幸一は彼女だけを置いて去っていった。それ以降、泰治にも、幸一の行方はわからないとのことだった。知り合いも土地勘もない所に一人残された志穂未が心配で、たまに様子を見に来ているらしい。
「ここも手掛かりなし、か」
 直人ががっくりと肩を落とす。
「こうなったら、直接、志穂未さんに聞いてみるしかなさそうですね」
 山下に言うと、彼はうなずいた。
「正体がバレたと知ったら、逃げてしまうかもしれませんけど……。やむを得ませんね。直接話してみましょうか」
 その言葉を機に、私たちは一斉に立ち上がった。
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