挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
おねえさん大家の人情派日記 ~こんなアパート、いかがでしょう?~ 作者:みづき
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

42/91

第4章 B棟101号室 高田育代さん(6)

 ランチから帰宅し、郵便受けの中身を確認する。すると、ストラップと思しき物体が入っていた。「落し物です」というメモが付けられている。うちのアパートでは、敷地内で見つけた落し物は、こうして大家の郵便受けに入れるのが暗黙の了解となっていた。とりあえず私が預かり、A棟の郵便受けの上に取り付けられた掲示板に「落し物預かってます」という張り紙をしておくのだ。すると、心当たりの人が、うちに取りに来る。先日も、干していて飛んでしまったらしい靴下の片方が、無事に持ち主のもとに戻ったばかりだった。
「ストラップかあ」
 テレビのヒーローものの絵が入った、そこそこ大きめのものだった。子どもの持ち物だろう。ヒモの部分が、擦り切れてちぎれている。かなり長い間使われていたようだ。自然に落ちてしまったのか、いらなくなって捨てたのか。うちのアパートの前を通って通学する小学生もいる。落ちていた場所によっては、店子さんのものではないかもしれない。
 裏返すと、そこに黒いペンで何か文字が書かれていた。どうやら平仮名のようだ。薄くなっているが、頑張れば読めそうだ。角度を変えて判読に挑戦し、ようやく書かれているのが人の名前だとわかった。
「そういうことだったのか」
 その名前を読んだ時、私の中ですべてがつながった。

 階段を上って家に入ると、突然スマホが鳴り出した。画面には憲二郎の名前が表示されている。
「もしもし」
 私はバッグを椅子の上に置くと、電話に出た。
「なあ、アパートの周りを、変な奴がうろついてたってことはなかったか?」
 挨拶もなく、いきなり憲二郎が話を切り出した。
「変な奴って?」
 質問の意味がわからず聞き返す。
「だから、アパートの住人以外の、見かけない奴ってことだよ」
「私は気付かなかったけど」
 ずっと見張っているわけではないので、正直答えようがない。
「店子から何かいわれてないか? 角田の爺さんとか、探偵とか」
「何も言われてないわよ」
「そうか」
 憲二郎が黙りこむ。
「ちょっと、何かあったの?」
 頭の中に、あのちぎれて落ちていたストラップが引っ掛かった。
「もしかして、どこかの子どもが連れ去られたとか?」
 誰かに引っ張られてちぎれたのかもしれない。私は思わず大声で尋ねた。
「いや、そういうことじゃないんだ。ちょっと気になることがあってさ」
「何?」
「それがなあ。今日、高田さんの息子さんが通ってる小学校に、電話があったらしいんだよ。そちらにこういう名前の子どもは通ってないかってさ。それが、高田さん息子さんの本名だったらしくてな。もちろん、個人情報だからってことで電話を切ったらしいんだけど、居場所がばれて確認されたんじゃないかって、高田さんが怯えてるらしくてな」
「でも、こちらに越してきてから、まだ何日も経ってないじゃない? そんなに早くばれるものなの?」
「まあ、探偵か何かに依頼して、片っぱしからあたってるのかもしれないけどな」
「そう」
 私は頷いてから尋ねた。
「ねえ、もし居場所が旦那さんにばれたらどうするの?」
 すると、ややあって憲二郎が答えた。
「また引っ越すことになるんだろうな」
「そうやって、いつまでも逃げ続けるわけ? きっちり話し合って離婚するとか、そういうことはできないの?」
 ビクビクし続ける生活が、子どもにいい影響を与えるとは思えない。理不尽さを感じて聞き返す。
「そんなにあっさり離婚できるもんじゃないらしいぞ。今回の場合、DVって言っても言葉だけだし、暴力みたいに医者の診断書とかが出るわけじゃないだろ? 録音をとってたわけでもないみたいだし、メールとか後に残るものでは、ごく普通のやりとりしかしていないそうだ。色々と難しいみたいだぜ」
「そうなの」
 私は少し考えた後、憲二郎に告げた。
「ねえ、一度話し合えないかしら。高田さんと、福祉事務所の音山さんと。できれば、下の探偵さんの所で」
「わかった。一度声はかけてみるけど……。何を企んでるんだ?」
 企むなどと、人聞きの悪いことを言う。いや、企みといえば、企みか。
「詳しいことは、その時にってことで。よろしく頼んだわよ」
 私はそう言うと、電話を切った。
cont_access.php?citi_cont_id=287044308&s
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ