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おねえさん大家の人情派日記 ~こんなアパート、いかがでしょう?~ 作者:みづき
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第4章 B棟101号室 高田育代さん(2)

「DVの被害者?」
 ダイニングテーブルをはさんで向かい合った憲二郎に、私は聞き返した。
「ああ。DVって言っても、殴るとか蹴るとかじゃなくて、暴言を吐かれるタイプのものらしいけど」
 憲二郎はコーヒーを一口すすると、続けた。
「言葉も暴力だってこと、わかんないヤツもいるんだよな、世の中には」
「そうね」
 キミもその1人かもしれないよ、と言ってやりたい衝動を抑えながら頷く。
「とりあえず、今はシェルターでかくまわれてるらしいけど、子どもの学校のこともあるし、アパートを借りたいって。福祉事務所の職員から相談を受けたんだけどな」
「お子さんと2人で逃げてきたってこと?」
 驚いて尋ねる。
「ああ。小学2年生の男の子だそうだ」
「小学校だったら、ここから歩いて5分くらいで通えるわね」
 西砂橋小学校。私は隣の砂橋小学校を出ているが、たしか憲二郎はそこの卒業生だったはずだ。
「西砂橋小学校は、そういう事情に理解があるらしい。住民票も移せないし、偽名で通うことになるけど、入学させてもらえるそうだ」
「偽名で…」
 不憫な気持ちが押し寄せる。
「でも、今って、住民票の閲覧制限がかけられるんじゃなかった?」
「たしかにな。だけど、弁護士とか債権者とか、どうしても必要と認められれば閲覧できちまうんだよ」
 憲二郎が吐き捨てるように言う。
「だったら、移動させない方がいいと思うのも、無理はないわね」
 納得して頷く。
「ほんと、どこで居場所がばれるかわからないからな。まったく、ひどい話だ」
 憲二郎はため息をつくと、私の方を見た。
「ただ、どうしても居住地の認定は必要になる。通学のためだけじゃなく、生活保護をもらうためにもな。ずっとシェルターにいるわけにもいかないし、どこか借りなくちゃいけないんだ」
「で、うちのアパートに白羽の矢が立ったってわけね」
 私の言葉に、憲二郎が頷く。
「このアパート、角田のじいさんやら山下探偵やら、よく気がつく店子がいるだろ? 万が一、DV夫に居場所がばれたとしても、ひどいことになる前に何とかできそうな気がするんだよな」
 角田はA棟の103号室に住んでいる。このアパートでは古参の店子さんだ。これまでにも、いち早く情報をくれて助かったことがある。
「入居してもらってもいいか?」
「もちろん、いいわよ。子どもがいるなら、1階の方がいいかしらね。騒いでも、下の階に響かないから」
 私がそう言うと、こわばっていた憲二郎の表情が和らいだ。
「そうだな。生活保護の住宅扶助は、2人家族だと4万8千円が上限なんだ。お前には迷惑掛けることもあるかもしれないし、その上限額で申請してもらおうと思ってる。もちろん、直接振り込みでな」
「直接振り込みって何?」
 よくわからず聞き返す。
「市から直接、大家の口座に住宅扶助分が振り込まれるってことだよ。生活保護者に住宅扶助を渡しちまうと、大家に払わずに勝手に使っちゃうことがあるからな」
「なるほど、そういうことね」
 事情が事情だけに、保証人をつけることは難しいだろう。市から直接振り込まれるのであれば問題ない。家賃回収のために作った銀行口座も、ようやく活用できそうだ。
「礼金は3カ月出るって話だから、そのうちの2カ月をADでもらっていいか? 何か問題があったら、こっちできちんと始末つけるようにするからさ」
 残り1カ月分でも4万8千円は手元に入る。
「それでいいわよ」
 私はそう言うと、さめてしまったコーヒーに口をつけた。憲二郎もつられた様に一口すすると、カップをテーブルの上に置く。
「じゃあ、明日にでも、福祉事務所の職員と本人に物件を見てもらうようにするよ。それでOKが出たら、契約ってことになる。そしたら、すぐ連絡するから」
「わかった。よろしくね」
 私は頷いた。
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