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おねえさん大家の人情派日記 ~こんなアパート、いかがでしょう?~ 作者:みづき
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第3章 A棟203号室 平本浩太さん(10)

「すみません。お待たせしました」
 そこまで話したところで、平本が手にいっぱい書類を持って戻ってきた。テーブルの上に置きながら、ソファに腰を下ろす。
「契約書がこれですね。それから、借金の方がこれで……」
 憲二郎が歩いてきて、借金の方の契約書を手にとる。
「2社から、それぞれ100万円ずつ、か。1社目が3カ月半前で2社目が2カ月半前ですね」
 平本が頷く。自分が契約した時と、誰かの下に入った時の2回分だろう。
「どちらも、駅前のマチ金です。こんなことになるなんて、思わなかったんで」
 私はマルチ業者との契約書を手にして、中身を見た。細かい内容はよくわからないが、弁護士が見ればわかるだろう。それから、勉強会の時に渡されたというプリントを手にする。よほど真面目なのだろう、平本は細かい字で色々とメモを取っている。中に「月200万円はカタイ」とか「外車も買える」とか書かれている。
「このマルチ業者との付き合い、まだ続けて行くつもりでいるんですか?」
 私が尋ねると、平本はしっかりと首を横に振った。
「ガンが治るとか、世の中の人の役に立つとか言われて、その気になっちゃったんですよね。バイトの掛け持ちにもうんざりしてたし、何もせずに儲かるならいいかなって気持ちもちょっとあって。すっかり付け込まれたって感じです。まあ、僕自身が弱かったってことですけど。反省してます」
「解約したいとか思ってます?」
 私の言葉に、平本は驚いた表情を見せた。
「できるんですか? そんなことが」
「わかりません。でも、相談だけでもしてみたらどうかと思って。借金も滞っちゃってるんだったら、その件も一緒に。その気があるなら、弁護士さんを紹介しますけど」
「弁護士さんですか。僕、お金もありませんし。弁護士費用なんて、とてもじゃないけど払えませんよ」
 私の言葉に、平本が小さくため息をついた。
「平本さん。弁護士からマチ金に通知が行けば、とりあえず取り立ては止まります。このまま精神的な苦痛を受け続けるくらいなら、一度相談してみてはどうでしょう?」
「費用がどれくらいかかるか確認してから、最終的にどうするか決めてもいいんじゃないですか? 今はその、法律扶助とかいうのもあって、頼みやすくなってるらしいですよ」
 山下と憲二郎が口々に話しかける。平本は少し考え込んでいたが、やがて顔を上げて私の方を見た。
「わかりました。紹介してください」
「そうですか。よかったです」
 私は、山下にメモ紙をくれるよう頼んだ。渡された紙に、弁護士事務所の住所と電話番号を書く。
「駒田弁護士…ですか?」
「ええ。知り合いなんです。連絡しておいたから、行ってみてください。相性が悪かったら、断ってもらって結構ですから」
 私の言葉に、憲二郎が口をはさむ。
「お前の実家の会社の顧問弁護士じゃないのか? そんな人が消費者問題なんか引き受けてくれるのか?」
 私は、「ひまわりサーチ」の結果を見て電話した時の、駒田弁護士の言葉を思い出しながら答えた。
「駒田先生、本当は消費者法が専門だそうよ。ただ、それだけでは食べて行かれないから、顧問弁護士もしてるって話」
 私はメモを渡して、平本を見た。
「弁護士さんに相談するにも、相談料がいるでしょうし。とりあえず、家賃はそれからでいいですから」
 先ほど渡された3万円を平本に返す。後ろから、憲二郎の大きなため息が聞こえた。
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