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おねえさん大家の人情派日記 ~こんなアパート、いかがでしょう?~ 作者:みづき
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第3章 A棟203号室 平本浩太さん(9)

 1週間前、私は消費生活相談員をやっている友人、増井靖子ますいやすこに電話をかけた。
「『ギラリン生活』? ごめんね。消費生活相談員は、たとえ知り合いであっても、個別の業者さんについての情報を伝えることはできないの」
 電話の向こうで、靖子が申し訳なさそうな声を出す。
「でも、一般論なら話すことができるわ。その店子さん、契約書はきちんともらってるかしら」
「詳しいことはわからないけど、契約書が何かあるの?」
 アドバイザー資格を取ったのは大分前だ。すっかり忘れてしまっている。
「3カ月か4カ月も前に契約したんだったら、マルチで認められてる20日間のクーリング・オフ期間は、とっくに過ぎてるでしょ? となると、今度は契約書の記載事項が重要になってくるの」
「記載事項?」
「うん」
 靖子は相槌をうつと続けた。
「クーリング・オフの期間はね、法定書面っていう、法律で決められている事項がすべて書かれている契約書を渡された時から始まるの。裏を返せば、決められた事項がひとつでも欠落していれば、法定書面とはみなされない。つまり、クーリング・オフ期間はまだ始まっていないと考えられるの」
「じゃあ、もしそんな欠陥のある契約書だったら、20日間を過ぎてもクーリング・オフができるってこと?」
 受話器を持ち直して聞き返す。
「そういうことね。まあ、最近の業者はそのあたりのことはよくわかっていて、かなり気を付けてるケースも多いんだけど。そのマルチ業者、『ガンが治る』とか、薬事法違反になりそうなことを、平気でパンフレットに書いちゃうような業者でしょ? なんかシロウトがやってる感じがするのよね。だから、もしかしたら、契約書に欠陥があるかもって思ったわけ。ない可能性の方が高いけどね」
「なるほどね。で、欠陥がなかったら、どうしたらいいのかな」
 私が尋ねると、靖子が答える。
「その人、契約してからまだ1年以内なのよね? だったら、90日を超えない間に渡されたもので、使ったり売ったりしていない商品がある場合には、その販売価格の1割の解約損料を支払えば商品も返品できるわ。話を聞く限りだと、1回目に契約したものは、90日を超えちゃってそうだし、難しいかもしれないわね」
「となると、2回目の分だけ、少し返金してもらえるって感じかな」
「そうね。まったく使ってないなら、全額ではないけど返金してもらえる可能性はあるわね」
 平本がいくら借金をしているのかわからないが、返金額で完済できなかったら、大変なことになりそうだ。
「他に方法はないの?」
 私は食い下がった。
「そうねえ。あとは、どういう勧誘を受けたかってところで、契約取り消しに持っていくしかないわね。例えば、絶対もうかるとか言ってたとしたら、交渉材料になるわよね。だって、必ずもうかるとは限らないわけでしょ? 嘘のことを言って、契約させてるわけだから。ただ…」
「ただ?」
 続きを促す。
「言った言わないになっちゃうから、例えば、業者が主催するセミナーに参加した時に話をメモしたノートとか、プリントとかがあれば、より有利になるわよね。録音してくれてれば完璧だけど、普通、消費者はそんなことしないから」
「もし、契約が取り消されたとして、借金も取り消せるのかな?」
「うーん、場合によると思うけど」
 靖子は慎重な口調で続けた。
「金融業者とマルチ業者が完全に組んでいて、個別クレジットとみなされる状況であればそういうケースもあるだろうけど……。あそこに金融機関があるよって言われて行っただけってなると、難しいかもしれないわね。返金を求めて、それを借金返済に充てることになるんじゃないかしら」
「なるほどね」
 話しているうちに、おぼろげながら昔勉強した事柄が思い出されてくる。
「借金に関する交渉って、消費生活センターではできないんだったわよね?」
「そうね。契約した業者と提携しているローンとかだったら、抗弁書を出したりして手伝えることはあるけど、いわゆる借金となると難しいわね。普通は弁護士さんとか司法書士さんとかを紹介することになるけど。今回のケースは金額も大きいし、弁護士さんの方がいいかもしれないわね。既に返済が滞ってるわけだし、取り立ても来てるんでしょ? 弁護士さんから金融会社に書面を出してもらえば、督促はとまるはずだし。その間にマルチ業者と交渉してもらって、有利な条件で解約できればいいんじゃないかしら」
「そうよね。でも、弁護士さんに頼んだら、お金がかかるわね」
「まあ、たしかに無料ではやってもらえないでしょうね。でも、法律扶助もあるから。例えば、弁護士費用が分割で支払えたりとか、所得の低い人でも弁護士さんを利用しやすいようになってるの。それで解決すれば、借金が片付くなり減るなりするわけでしょ? 考え方にもよるだろうけど、私だったら弁護士さんに相談するよう勧めるわね」
 靖子がきっぱりと言い切る。
「そう。でも、弁護士さんだったら誰でもいいってわけでもないのよね? 得手不得手があるって聞いたことがあるけど」
「うん。まあ、弁護士会に、消費者問題に詳しい弁護士を紹介してくれって頼む方法もあるわ。ただ、弁護士会によっては、紹介してくれないところもあるのよね。あとは『ひまわりサーチ』で探すとか」
「『ひまわりサーチ』って何?」
「弁護士さんの検索サイトよ。弁護士さんを、得意分野で検索することができるの。まあ、自己申告だからアレだけど、参考にはなると思うわ。県別になってるし、使ってソンはないと思うわよ。最後は、実際に弁護士さんに会って、費用や相性が合うかどうかってところになるんでしょうけどね」
 お礼と挨拶を終えて電話を切ると、さっそく「ひまわりサーチ」とやらで、消費者問題が得意な弁護士を検索した。うちの県で出てきた弁護士は5人。その中に、見知った名前があるのを見て、私は驚いた。
cont_access.php?citi_cont_id=287044308&s
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