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おねえさん大家の人情派日記 ~こんなアパート、いかがでしょう?~ 作者:みづき
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序章 メゾン・ド・アマン (3)

 復帰予定日の2日前。スマホに思いがけない着信があった。2人いる兄のうち、長兄・則之のりゆきからの電話だった。実家の父が危ないという。実は3カ月前から、肺がんで入院していたというのだ。父自身が、私には知らせるなと言っていたらしい。実家から遠く離れて生活している私に心配をかけたくないというのが、その理由だった。
「すぐに来い。お前に会いたがってるから」
 面倒くさそうな言葉と共に、電話が切れた。私は目の前が暗くなるのを感じた。
 私の実家は、人間関係が少々ややこしい。先ほどから兄とか父とか言っているが、実は私と血のつながりはなかった。父の再婚相手が私の母であり、世間的に見たら、私は父の再婚相手の連れ子ということになる。そして、兄2人は父の連れ子だ。
 母が再婚したのは、私が5歳の時だった。父は当時、会社を経営していた。アパレル業界では名の知れた会社で、かなり裕福な暮らしをしていた。また、父と母には25歳という年の差があったため、財産目当てなどと言われ、母はずいぶん大変な想いをしたようだ。再婚当時、長兄・則之は16歳、次兄・克之かつゆきは14歳。父の前妻は母と再婚する5年ほど前に、若い男性と手に手をとって逃げ、その後離婚が成立したらしい。
 一方、私の母はシングルマザーだった。ホストにいれあげて妊娠し、伝えた途端に逃げられた。周りから反対されながらも、私を生んでくれたことに感謝…した方がいいのだろうか。多分、普通の人に比べて、かなりハードな人生を歩んでいるんだけど。
 父と母の出会いは、母が生活のために働いていたクラブだった。お互い、同じくらいの時期に相手に「逃げられた」ことから意気投合し、再婚に至ったという。何だか笑えない話だ。私が男に「逃げられた」のも、遺伝なのかもしれない。
 母と2人で父の家に住み始めた時、正直言って私は嬉しかった。母は専業主婦になり、私は保育園から幼稚園に移った。家に帰ると母がいて、夜も一緒に寝てくれる。これまでほとんど祖母に預けられっぱなしだった私としたら、本当に幸せだった。新しい父も、私のことを孫をあやすように可愛がってくれた。
 しかし、厄介だったのは、2人の兄だ。父の目の前では可愛がるふりをするものの、裏ではかなりえげつないことをされた。みんなで分けるようにと言われて渡されたケーキの、包み紙しかもらえなかったり。遠足の時に母が作ってくれたお弁当を振り回され、蓋を開けたら中身がグチャグチャなんてこともあった。わけのわからない場所に連れていかれ、置き去りにされたこともある。暴力や性的虐待はされなかったので、それはよかったと思う。ただ、2人の兄の言うことは、疑ってかかる癖がついている。
 母は私が16歳の時、37歳という若さで亡くなった。乳がんだったが、検診も受けておらず、気づいた時には手遅れだった。母がいなくなった家に住み続けるのも心苦しく、大学入学を機に実家を出た。
 父は、私が大学を卒業するのを待って隠居し、社長の座を長兄・則之に譲った。次兄・克之は取締役の1人として経営に参加している。
 そういう事情なので、私はほとんど、いや、全然実家には寄り付かなかった。父とは季節のあいさつ状だけは交わしていた。絵を趣味にしている父から送られる絵手紙は、心温まるものばかりだった。今の私の、唯一の楽しみと言っていいかもしれない。
 その父が危篤だという。もしかしたら、長期の滞在になるかもしれない。仕事はどうしよう。いや、父の命の方が大事だろう。こんな時にも自分の生活の心配が先にくるなど、なんて冷たい娘なんだ、私は。
 葛藤しながらテーブルに手をついて立ち上がる。クローゼットの奥からボストンバッグを取り出すと、箪笥の引き出しを開けた。
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