序章
この世にはすでに、心や意思を持つアンドロイドが造られている。
一般的にアンドロイドの力といえば、人以上の記憶力と、疲れ知らずの体力を持つことである(燃料さえあればの話だが)。
その力と競うように、人はもともと1/3しか活用していなかった脳を、最大限に利用する方法を編み出した。それにより莫大な記憶力、発想力、時には体のリミッターさえも意識的に外すことが可能となった。
どんなに知能が優れていようとも、悪事を働く者はいる。
また、人とアンドロイドの中でも互いを良く思わない輩もいる。
それを取り締まるために創られた組織がポリスである。
ポリス
それはこの世界でアンドロイドと人間を共に制すことができる唯一の機関の名称だ。
より優れた人間やアンドロイド(心を持つものに限る)が集められ、時には国家さえも制す権限が与えられている。
彼らは国に属さず、ただ独自にすべての者の平和と安定を目指している。
たったひとりの頭に従って……
そして今、これまで姿を消していたもう一つの一族が、世界に顔を出そうとしていた。
俺は風と戯れながら草原を歩いている。
この草原は、元はとある研究所の敷地だった。……現在は俺の一族の敷地となっているが。
『一族』
考えると少々頭が痛くなる。
外の世界では人間とアンドロイドが火花を散らしているらしい。まぁ、この一族も人間といえば人間だが。
俺たちはなぜ、この地に結界を張り、人もアンドロイドも寄せ付けず、彼らを見下すようにして生きているのか。
彼らからしてみれば、俺たちは不思議な力を持っているからだろうか。
「……くだらねぇな。」
思わず呟く。
風たちが草原を駆けるのをやめ不思議そうに俺を見つめた。
抜け出してやろうかな。と思う。
いっそのこと、巻き込んでしまおうか。
一族のなかで、人間離れしているのは俺だけなんだ。
事実、ここにいる『風』をはっきりと視ることが出来るのは俺くらいだ。他のやつには風が立ち止まるのは、風がやんだと認識されているらしい。
俺がいなくなれば、ここを覆う結界は力を失うのだろう。
この一族も、外の世界に出れば天狗になることをやめるかもしれない。俺たちは『神』ではないんだ。
確かに不思議な力を使えるかもしれない。でも人は、俺たちが持っていない何かを持っているんじゃないのか。どんな人にも得意不得意があるように。
それはアンドロイドにも言えることだと思う。
俺たち一族は、外を知るべきなんだ。
うん、と一回頷いて俺は歩き出す。
記録も何も残されていない元研究施設を目指して。
歩きながら今後を考えてみる。
そういえば、最近ポリスの頭がかわったとか風に聞いたな。
名前は確か……
綾瀬佚滋 と。
前頭はまだまだ現役でもやっていける年齢(確か30代)であったはず。それなのに、頭が代わる。
意味することは今回の頭は相当にすばらしい人材なのだということ。
ポリスと、手を組んでみるのも良いな。
視線を数十年前に破壊されつくした建物、元研究施設に向けながら、にやり、と口の端を上げる。空気が震え、風も共に笑っていることを知る。
俺は、すぐ横を駆けていった風に、一族の長(要は俺のことなんだけど)の考えを一族全員に伝えてもらった。
天狗になっているやつらは反対するかもしれないけれど……この際無視しよう。
ガラスの砕けるような音と共に、何もなかったはずの空間から、破壊されつくした建物が現れたのはその数分後のことであった。 |