32話 ここからギャグは始まるのだ
ここからギャグは始まるのだ
少しばかり時が戻り……。
崩れかけている洞窟の中……そこは銀の毛並みの狼に乗った徹夜たちが出て行った後のことだ。
「あれを殺すかのぅ…」
崩れていく洞窟の中で、老人がうろたえることなく立っていた。
老人の前には、吹き飛んだ死神と刃がへし折られた大きな鎌が転がっていた。
そのへし折られた鎌を、老人は持ち上げる。
「……せっかくの武器じゃし…ここに捨てておくのも、もったいないのぅ」
老人は、そんな事を言うと…老人の後ろに大きな黒いのっぺりとした顔を持つ人形のような物が現れる。
いつの間にか現れたソレに老人は鎌を預け、預けられた人形は再びいつの間にか消える。
「全てに干渉する闇、か……これは面白そうじゃのぅ」
老人は、ただニヤニヤと笑っていた。
洞窟は崩れていく、全てを巻き込んで…
─ ─
…というわけで、私は帰ってきた!! …という、おふざけをしてみたが、特に何もないのでやめようと思う。
まぁ、私じゃなくて俺……景山 徹夜だ。
その後は、どうにか王都に戻り…三日ぐらいほど休んだ後に魔法陣で帰還したわけである。
ちなみに奈菜が貰っていた剣は、奈菜が返そうとしたにもかかわらず、そのまま奈菜にあげていたケイアさんである。
まぁ、いろいろと奈菜がやっていたわけだが…俺はやっと帰れてホッとした訳である。
だって、ゾンビがうろうろしている世界なんて嫌でしょうが……。
そういえば、もう一つの報告なのだが……コアを破壊すると同時に、ゾンビは古い奴らから順番に腐って消えていった。
俺、微妙に疑問に思っていたのだが…動物というものは死ねば血が止まり腐っていくものだ。
それなのに、何故このゾンビ共は腐って消えていかないのか……あえて、骨だけになっても動くとしても、いつかは消えていくものである。
だが、腐って消えていく事はなかった……それは俺の考えなので確かではないのだが…コアがなんかの力を発しており、その結果ゾンビ共は肉体の形を正常に維持していた、というわけだと思うわけだ。
だから、コアを破壊されて、その力を失ったゾンビ共は腐って消えていったわけだ。
これであの世界に生きていた人たちは前よりは、安全に暮らせていけるだろう。
そして、帰還したのは昨日だ。
「…ッ!!」
「オラッ!!」
俺の拳と、瑞穂の遠心力を利用した強力なハンマーの一撃。
それらがぶつかり合った結果、瑞穂が弾き飛ばされ…空中で一回転した瑞穂は地面に足から着地する。
その瑞穂の顔面を横から狙うように蹴りを放ち、それを瑞穂が受け止める。
「…この、やろっ!! 舐めるなよッ!!」
その言葉と共に瑞穂が、俺の足を掴み、思い切り投げ飛ばした。
「っと…」
空中で体勢を立て直すなんて無理なことしないで、俺は闇で翼を作り…綺麗に着地した。
今はいつも俺達が居る王都の訓練場。
昨日雨が降ったらしく大きな水溜りのある訓練場で、青い空がとっても眩しい感じの訓練場である。
なんで俺と瑞穂が戦ってるかって…? いつも通りからかった結果、うんたらかんたらであんちゃこんちゃ……な感じで、こうなったわけだ。
まぁ、別にケンカしてるわけではないので大丈夫である。
なんせ、この小説……戦うことはあっても、喧嘩することはないんだ。…人間性が生かしきれてないだろ?
……小説って何だっけ?
まぁ、とりあえずは戦っている俺達。
隣で奈菜や美月がこちらを見学しているものの、それを気にせずにやっている俺達。
「…ツ」
俺の目の前を通過して行くハンマー。
それにあわせて俺は拳を放ち…瑞穂の腹を思い切り叩き、瑞穂の体が地面から少しばかり離れた。
「…ぐっ」
別に本気で殴ったわけではないので、瑞穂は少しだけ呻いただけで、すぐに攻撃のためにハンマーを振るい…さっきの俺が当てた場所と同様に俺の腹を思い切り叩いた。
「…ッ」
それで少しばかり吹き飛ばされる俺。
自然に距離を離れることになった俺と瑞穂は、そのままお互いに向かって俺は拳を構えながら、瑞穂はハンマーを構えながら猛ダッシュする。
そして、俺の拳と瑞穂のハンマーがぶつかり合う……瞬間に
「ハロ~、やっと仕事が終わったよぉ~!!」
そんな声だった。
「「…ッ!?」」
そんな声と共に、横から風圧が襲い……俺と瑞穂が横に吹き飛ばされた。
「あ、要ちゃん」
美月の言葉…そう、要である。
要は雷鳥のサンに乗っている要であり…アイドルという無駄な役職のせいで学校に来ていなかったのだが、仕事が終わり…やっとの事で来たらしい。
「ビックリさせようと、おもいっきり下りてみたんだけどさ~。
どうだっ……た?」
要が俺と瑞穂のほうを見ると、少しばかり顔が引きつった。
何故かって? そりゃあ…
水溜りに突っ込んだ俺と瑞穂がいるわけだ。
「「……」」
ムスッとしている全身泥まみれな俺と瑞穂。
怒っていても、それはさすがにしょうがないと言えると思うのだが…。
「ああ、何で…神様というものは、俺にばっかり不幸を送り込むのだろうか……」
髪までドロだらけな俺は、遠い目をしながら空を見て…そんな事を呟いた。
「ハッ…見てみろよ。男なのに、この男らしくない姿を……どうせ俺は生まれたときから不幸なんだよ」
そして、同じく遠い目をしている瑞穂。
「あ、あわわわわわ……ご、ごめんっ!! 徹夜君に瑞穂君!!」
それに慌てている要。
肩には小さな小鳥の姿となったサンが乗り、綺麗な泣き声を発している。
「シャワーがある部屋があるから、とりあえず体についている泥を流しに行ったら?」
そこで今まで黙って見ていた奈菜が、そんな事をいった。
─ ─
その部屋は、俺が生まれた世界にもあるようなシャワールームだった。
壁でいくつも小さく区切り、そこに1つずつシャワーがあるわけだ。
というより…小部屋のシャワールームより奥に行くと相当大きなお風呂があり、そこに俺と瑞穂…つまり、二人とも入っている。
「暖かいな~……」
上から温かい水に肩までつかり、体の芯まで温まります。
「そうだな~」
少し離れて隣にいる瑞穂のそんな言葉が聞こえた。
泥だらけだったので、相当汚かった。
……なので…いつも以上に精一杯洗いました、いつも以上に精一杯洗いましたよっ!!(重要じゃないけど二回いいました)
「徹夜ってさ…」
「……ん?」
「いつもの髪型じゃないと、まるっきり女だよな~」
髪が無駄に体に張り付かないようにと…いつもの髪型ではないが、ひとつにまとめている俺。
それに対して、そんな事を言われた。
「……」
「んぶっ!?」
相当な圧力の水が、瑞穂の顔を襲ったわけである。
はっきり行ってしまうと、1cmぐらいの厚さの木の板なら、軽くへし折れるほどの威力で放たれていたので…地味に結構痛いわけである。
「まぁ、あえて瑞穂の言ってることは否定しない」
「……」
「だが、こう考えて、俺を敬え…。
俺は何年にも渡り、いくつもの髪型を試し、シミュレーションすることでこれを発見したわけだ…俺の根気の真骨頂だ」
「それは…まぁ、頑張ったんじゃないか?」
「……ちなみに、これは小学生になる前でやっとの事で発見した髪型だからな」
美月に会う前のギリギリの時期だったりする。
その前は顔を隠そうとボサボサの髪が肩辺りまで伸びているだけだったりしたのだ……どこの原始人だ、俺。
「まぁ、頑張ってるんだな」
「ああ…頑張ったんだよ」
「俺のも、なんか発見してくれね?」
「え、やだ…めんどくさい」
そんな感じの会話が進んだ。とっても有意義だったと思う……同じ悩みを持つもの同士として…。
体も洗い終わり…美月たちが洗濯してくれて綺麗になった服を着る。
泥まみれだったのが、あら不思議……綺麗な服になりました~。
「はぁ…わざわざお風呂に入るハメになるとは……」
俺がそんな事をぼやきながら、裸足なのでペタペタと音を立てながら移動している。
まぁ、まだ着替える部屋から出ているわけではないが……。
「…はぁ」
「お前、なんでいきなり溜息ついてんの?」
「いや、こんな姿だし……いろいろと心配じゃん?」
なにやら、相当落ち込んでいる様子。
「お前が心配だったら、俺も結構危ない気がするんだが……」
「いや…お前には美月が居るから平気だろ」
「…んむ? どういう意味だ?」
「お前は、いろんな意味で良いわな~……いい加減に美月との関係をどうにかしろ、って話だが………はぁ」
なんで俺に向かって溜息をついてるんだ、お前は。
そんな瑞穂はほっておいて、俺は無駄に長くしている髪を乾かし始める。
ドライヤーって、この世界にあるんだね…まぁ、電気じゃなくて魔法で動かしているみたいなので機械ではなく、魔法具と言うべきだろう。
「髪の毛って、伸びる限界がある…って聞いたんだが、本当なんだろうか?」
俺の言葉。
「さぁ…? どのくらいまでのびるって聞いたんだ?」
「ん~、腰ぐらいかな…? 正直、覚えてないが……」
「じゃあ、ルルなんてあの髪の毛は可笑しいだろ…あの髪の毛、自分の身長以上有りそうだぞ?」
「確かにな…むぅ」
そんな感じで話している俺達、正直どうでも良いことばっかり話しているわけである。
まぁ、どうでもよくグダグダとやっている俺達。
「ねぇ~? 着替え終わった~?」
そこに要の声が響いてきた。
「ん、終わったから別に入ってきていいぞ~」
俺がソレに返事をする。
ガラガラと着替えの部屋のドアが開く音が響いた。
「徹夜君、瑞穂君…終わった~?」
そんな感じで元気よく、入ってきた……と、思ったらビシリ…ッと固まった。
「「……?」」
それに、はてなマークを浮かべる俺と瑞穂。
「瑞穂君はともかく、知らない女性が一人増えてるッ!!」
定番のアレだぁ~……。
「俺はともかく、ってどういう意味だよ……」
瑞穂のコメントは無視。
「ああ、その人は徹夜だよ~?」
ひょこりとかおを出しながら、美月がそんな事を言うと…再び違う顔がひょこりと飛び出し、その顔も驚きの表情に変わる。
まぁ、つまり奈菜だ。
「え、ええええ…ッ!? これが徹夜くん!? なんか凄い別人だけど……」
奈菜の言葉。
「…確かに、俺だけど」
俺の言葉を聞き、さらに驚く二人。
そして、俺の横では瑞穂は嬉しそうな顔をしながら、同情の念をこめて俺の肩をポンポンと叩いている……お前、どんだけ自分の仲間を見ると嬉しいんだよ。
まぁ、俺は瑞穂よりまだマシだが……。
そして、目の前では奈菜が美月の耳に口を寄せてコソコソと、こっちに聞こえないように何かを言っていた。
……すると、美月は楽しそうに笑う。
「徹夜、あの命令を聞いてもらう権利はまだ残ってたからね?」
「…?」
確認するように尋ねてきた美月に俺は、意味がわからない…という顔になる。
「これから、一週間その髪型で学校生活送って…♪」
楽しそうに笑う美月。
「ちゃんと守ってね、徹夜ちゃん」
美月の後ろでは、奈菜がニッコリとした笑顔で笑っていた。
「はアァァァァ…ッ!?」
俺の悲鳴にも似た叫び声と…
「よっしゃああああああああああああああああああああ!!」
瑞穂の歓喜の叫び声が、部屋に響いた。
…おい、コラ瑞穂。
昨日、雪が降ったんですよ…久しぶりだったので驚きました。
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