30話 死神
ヴァ~
山についた後は、何とも不気味な雰囲気が漂う洞窟の中に入っていく。
薄暗い洞窟は、前に奈菜達が来たときに立てたらしく…もう火の灯っていないたいまつが壁に刺されているが、さっきも言ったとおり火が灯っていないので、意味はない。
とりあえずは皆何もいう事なく歩き続ける。
数分ほど歩くと、狭い通路だった洞窟が一気に開けた場所…つまり大部屋に変わる…いつもの事ながら定番である。
ちなみに……コードとミサイドは洞窟の外で待機中だ。
どちらも回復したとは言え、相当疲れが溜まっていたので…奈菜が無理矢理の力押しで……その場においてきたと言うわけである。
「ふぅむ…アレがコアってヤツか?」
俺の目線には、卓球で使われるピンポン玉ぐらいの大きさの紫色の球体が、ちょうど俺の目線と同じぐらいの高さに浮いているわけである。
その下には布やら白い何かやらがあるわけだが、多分ゴミだ。
「うん…アレだね……」
奈菜がそんな事を言うが、美月も含め俺と奈菜も、大部屋に足を進めようとしない。
奈菜の話の時に聞いた異様に強い人間型の魔物の姿が見えないので、軽く三人とも警戒しているわけである……お、俺はホントは入ってもいいんだけどさ。
みんなが入らないのに俺だけが入るってなんか空気読んでない感じがするじゃん? べ、別におびえているとか、怖いとか…そんなんじゃないんだからなっ!!
…という、おふざけは置いといて。
「さて…入るか」
俺は、あえて空気を読むつもりはない。
「「……あ」」
そんな俺につられる様にして、二人とも部屋に入ってくる。
だが、特に変化もなく……奈菜から聞いた魔物なんてものはどこにも見当たらないわけである…。
「よし、コアを壊すか」
「……なんかアッサリしてるね、徹夜」
美月の言葉。
「こんな用事、ぱっぱと終わらせて…帰りたいだろ?」
「え、あ…うん、まぁ、そうだろうけど……」
美月は、なんか微妙な返事をしてくるが俺はそれを気にせずにコアまで近づいていく。
なんか、死亡フラグが立った気もしなくもないが……フラグは壊すためにあるものだっ!!
「うぅむ…闇で破壊できるかな~?」
俺はそんな事をいいながらコアをジロジロと見まくっている。
美月は少し微妙な顔をしながらも俺の後ろについているのだが……奈菜はあまり近づこうとはしない。
それは置いといて、俺は手に闇を纏わせる。
「ふぅ…俺を無事に帰らせてくださいッ!!」
俺は、そんなお願いと共に拳を振りかぶるが……
…俺がさっきまでゴミと思っていた布と白い何かが動き始めた。
「徹夜!?」
それと同時に反応した美月が、俺の襟首を持ち後ろに引っ張った。
─ ─
「私達は、ここで何もしないで居て良いのだろうか??」
ミサイドがそんな事をいいながら、コードのほうを見る。
「……だが、今の疲れている僕達が付いて行っても…正直、足手まといにしかならないと思うけどね……」
「……」
コードのスバリとした言葉に、思わず黙るミサイド。
その顔は、眉間にしわを寄せ…とても悔しそうな顔をしているわけである。
「まぁ…あくまで僕たちの任務は、奈菜さん達を無事に連れてくるだけでしたから……一応、完了したといえるわけですから、そんなに悔しがらなくても……」
「俺は…昔のように私達のことに巻き込まれ……関係のない五人の内三人が死んだ時みたいに、死なれるのは嫌なんだ……」
「それは僕も嫌ですけど……」
「……昔の騎士団長のほうが私よりも有能で、とても頼りになる人だったんだ。
…正直、死ぬんだったらあの人よりも、俺のほうがよかった」
「……とりあえず、無事に戻ってくることを祈ろうか」
コードの、そんな言葉。
そんな二人は、その後は黙って、静かに…ただ前を見ていたのだが……。
その方向から、何かが近づいてくるのが見えた。
「ん、アレは…」
「奈菜さんたちが言うところだと…あの虫を操るヤツみたいな堕勇とかいう敵かな……?」
コードとミサイドは、前を向いて身構える。
ミサイドは完全に抜かないものの剣に手を置き、コードはいつも通り…投擲物を投げる準備をしている。
そして、その何かはどんどんと近づいてくる。
……まだ何かはわからないが、シルエットを見る限りだと…人間の形はしていないと判断する二人。
その何かは、相当の速さで走ってくる。
そして…
「「……ッ!?」」
……何かに気づいて驚いた二人の間を、すんなりと通過し…そのまま洞窟へと進入していった。
「……あ、アレは…」
「…僕の見間違いでしょうかね……?」
確認するようにコードがミサイドに問うが、ミサイドは返事を返すことはなく……二人は、暗闇で先が見えない洞窟を、見続けるだけだった。
─ ─
「…ッ!? おぅああああああ~ッ!?」
美月に引っ張られる形で、後ろに下がった俺。
それと同時に、さっきまで俺が居た場所の空気が切り裂かれた。
それは、何か大きな鎌のような物が通過していったからだ。
そして、さっきまで俺の足元にあった布と白い何かが空中に浮かび組み立てられ出来上がったのは…まるで死神をイメージしたような黒フードを着ている骸骨。
つまりこれが人間型の魔物。
そして、さっき俺を狙った鎌が、即効性の毒の効果を持つ武器だと考えられた。
そして、美月に引っ張られる形でかわした俺を追撃するように…死神が鎌を振るう。
「…すまん、美月」
「いえいえ…ッ!!?」
俺の言葉に返答を返しながら、美月は死神の鎌を避ける。
異様なほどの速度でラッシュをかけてくる死神…俺はそれに反応して闇で盾を作り、相手の鎌を弾く。
相当、闇を硬くして盾にしたのだが…どうにか弾くのが精一杯だ……異様に威力があって、少しばかり腕が痺れるが、今は問題ない。
「…オぉぉぉラァァァァァ!!」
奈菜が横から、思い切り大剣を…つまり奈菜の魔法具で言う『重の大剣』を死神に向かって振るう。
それに反応した死神は鎌の長い持ち手部分で、その大剣を防御するが…奈菜は腕力を上げる手袋を装備していたらしく、死神が後ろに少しの距離を吹っ飛ばされた。
吹っ飛ばされた死神は、骸骨の顔…つまり骨である顎を動かし骨と骨がぶつかり合い、カタカタと笑い声のような音をたてる。
なんとも、イラつくヤツだろうか……。
「絶対に、あの鎌で斬られないようにねっ!!」
奈菜が、俺達に向かってそんな事を叫び。
「わかってるよッ!!」
俺はやっと、美月に放してもらったので…自分の足を使って立ち、大声で叫び返す。
俺は斜め前の方向に跳ぶ様にして、死神に向かって急接近して拳を振るう……相手は同様に持ち手で防御するが、思い切り殴っているわけではないので、奈菜のように吹っ飛びはしない。
「…ッ!?」
俺の攻撃と攻撃の間を見計らって、俺に向けて鎌を振るう死神……俺はそれにビックリしながらも、体を後ろにそらす様にしてギリギリでかわす。
チョー、怖いっス!!
「……『光の剣』!!」
美月のそんな声と共に、いくつもの光の剣が死神に襲い掛かる。
だが、まるで見えない壁が死神を覆っているように何かが光の剣を全て弾いた。
「そいつが自分を殺すほどの威力がある攻撃だと、変なバリアみたいなのが防御するから…攻撃が通らないんだッ!!」
奈菜が、それを見て俺達に叫ぶ。
これが、前に奈菜達が負ける原因ともなったものか……。
「…せェい!!」
俺はそんな声を叫びながら、闇の球体を放つのだが…やはり見えない壁に、さっきの美月の光の剣と同様に弾かれて、あたりに小さくなって散らばっていった。
それに返す刃のように鎌を振るう死神。
「……怖いっ!!」
急いで後ろに向かって跳ぶ俺の目の前を鎌の刃が通過して行った。
……こ、怖い。
「……『火波の剣』」
奈菜の静かな声と共に、俺の後方から火が波のように迫ってくる。
俺はそれに驚きつつも、闇で翼を作り…上に逃れるようにして避け……死神は火の波に呑まれる様に見えたが、やはり見えない壁に守られている。
「危ないだろ、奈菜!!」
「徹夜くんなら簡単に避けられると思って!!」
「俺をそんなに過大評価しないでぇッ!! 俺って、そんな大した人間じゃないから!!」
そんな感じで叫び返しながら、動く。
「……ッ!!」
次の瞬間に斬ッ!! という音共に、美月が光の剣で切りかかったが……バリアで防がれる。
バリアが破れなかったことを理解すると同時に、美月は後ろに下がっていく。
それを死神が、追うようにして動き…追撃する。
それなりの速度で動いている死神の周りのボロボロの布が勝手に動き美月の足を絡めとる……そして、足をとられて転んだ美月に対して死神は鎌を振るった。
俺は、慌ててそちらのほうに向かって走り出すが…間に合うわけはない。
「…ッ」
「美月ちゃんッ!!」
美月と死神の間に、奈菜が割り込むようにして…その鎌を防御しようとする。
「……『守の剣』」
奈菜が、名前を呟くと同時に剣の前に盾が現れる。
…だが、盾さえも鎌は切り裂き…奈菜は持っている剣で防御しようとする。
その剣でさえも切り裂かれる。
「…ッ!?」
「……くそっ!!」
さっき美月を助けようとして準備していたおかげで、間に合う。
奈菜と美月の体に闇が巻きつき、この状況なので手加減はなく思い切り引っ張ると…相当な勢いで引っ張られ、それを慌てて俺がキャッチする。
「…どういうこと?」
奈菜が、そんな事を呟いた。
「どうしたんだ?」
「……あの鎌に斬られた剣が…灰になった」
そんな事をいう奈菜の手のほうを見ると…そこに剣はなく、灰まみれになりつつある手があるだけだった。
「…余計に、あの鎌には触れられなくなったわけだ」
俺のそんな呟き。
多分、あれに斬られたら灰になる……それも奈菜が造った魔法具を切り裂くことが出来るほど強力な物だ。
昔は毒だったはずの効果が、何故…切り裂いたら灰になる、という効果になったのかは知らないが……どっちにしても、相当厄介なモノだ。
……ハッキリ言って、チョー怖い。
パワーアップ、死神……軽く初見殺しな大鎌サマです。
(前書きのは、何か1つだけ書きたかったからです)
誤字・脱字があれば御報告宜しくお願いします。