34話 『魔王』 vs 『魔界六柱(-1)』
その場は、再び戦争。
ラルドとクロイズル、その二人が戦う所ではない場所。
そこは爆発に巻き込まれた後だった。
「・・・まったく、私が戦っているのに迷惑な事をしてくれる」
そんな言葉を漏らした男は魔神を忌々しそうに睨みつける。
その男は魔王と呼ばれていた男。その頭上には黒い盾が二枚展開されていて、それで魔神の攻撃魔法をどうにかしのいだ。
だが、最初は7枚展開していたのを考えれば、やはり魔神の攻撃は相当の威力だったのだろう。
そして、魔王の目の前では、それぞれ五人が協力して攻撃を防いでいる魔界六柱の面々がいた。
「さて、こっちに集中しなければな」
魔王がそんなことを言うと同時に、黒い衝撃波が放たれ、それを五人は四方にわかれる形で避ける。
「むぁ~・・・」
「お前、魔力の使いすぎだぞっ!!」
ルクライルはぐで~…っと力なく、ジールクに抱きかかえられていた。
さっきの紫色の玉の際にはルクライルがほとんどの魔力を使って赤い水を展開していた。
それでも紫色の玉は消滅せずに落ちてきたので、後の四人でできるだけ魔力を使わずに消滅させた。
ルクライルが全力で魔法を使わなければ、それぞれが魔力を大きく消費し戦いは、より困難になっていたはずである。
「うふふ~・・・」
「なんで、こんなときに嬉しそうな顔してるんだッ!?」
「・・・なんでも~」
そんな会話をしてる二人は置いといて、ほかの三人は魔王に攻撃を開始している。
ちなみに三人とも心の隅でジールクとルクライルに呆れてる感じがあるのだが、それを気にしていると魔王の攻撃を避けられなくなるだろうから無視することに決めているみたいだ。
「・・・シッ!!」
魔王がいくつも放ってくる魔法を右手に持った黒い刀で切り裂いて、更に進む。
「その武器は魔剣か…?」
自分の攻撃を容易く切り裂くその刀を見て魔王が呟く。
それほどまでにリヤナが作った武器は強力な力を持っている。
「いえ、リヤナさんが言うには正しくは〝妖刀"と言うらしいですよ・・・ッ!!」
そんな事を聞きながら魔王は、手からまるでレーザーのような黒いものが五つ放ち、それが違う方向から一斉に襲ってきたのを、リーシは慌てて横に跳んで避ける。
「リーシだけに集中していて下さい!!こっちに気づかなければ、すぐ殺して差し上げますよ、お父様ッ!!」
その声と同時に、雷でできた10㍍の長さの大剣が振るわれる。
それに魔王は反応して、魔力を手に集中させて受け止めた。
「それぐらいで私が死ぬわけ無いだろう」
「じゃあ、これでどうだァ!!」
不適に笑う魔王に対して違う男性の声がわってはいる。
その言葉と共にいくつもの風の刃が混ざった竜巻が魔王を包み込んだ。
風の刃は魔王の体を切り刻むために動くが、次の瞬間には魔王の放った魔力で吹き飛ばされた。
「効くかぁ!!」
魔王が一瞬の内に動き、トールゥの腹におもいきり蹴りを放つ。
それを避ける事ができずにトールゥはうめき声を上げると同時に吹っ飛んでいった。
近くに居た現在の生存者や昔を生きた者達を巻き込みながら吹っ飛んで行き、ちょうどそこを通ろうとしていたジールクがルクライルを抱えてないほうの腕で受け止める。
「おまっ!? こっちに吹っ飛んでくんな!!」
「うっせぇ!! こっちは好きで吹き飛ばされたわけじゃねぇんだよ、お前みたいにイチャイチャしてるわけじゃないんだッ!!」
「「んなァッ!!?」」
トールゥの言葉に、ジールクと抱えられているルクライルが一気に顔をリンゴのように赤くしている。
ジールクは言い返そうとしているが、トールゥはそれを無視して再び魔王のほうに走り始める。
「イチャイチャ・・・ふぉわ~~ッ!!」
そしてルクライルは少しの間は身悶えた後に、最初から疲れていたのに加えて余計に疲れ、最後にはプラーン…と力なく手と足が下がる。
ジールクは再び走り始めたので力の入ってないルクライルの足と手は、プラン、プラン…揺れている。
「くそっ、トールゥめ!調子に乗りやがって!!」
その言葉と共に炎のレーザーを手から放ち、魔王を襲う。
当然それは魔王に避けられる。
「私を相手に余裕だな、お前ら」
魔王はそんなことを言うと同時に、手に魔力を集め始め。
地面に手をつけると口を開く。
「…『闇の衝撃』!!」
魔王を中心に衝撃波が円状に広がっていく。
それはジールクと抱えられているルクライル、あとはトールゥも吹き飛ばされる。
「うわっ!!?」
ミルリアはとっさに電撃を展開させて、地面に深い穴を作りそこに跳びこむ事により衝撃波から避けることにした。
「・・・ッ!!」
そして、リーシは黒い刀で切り裂くことにより、リーシの所は衝撃波が無くなった。
「んぐっ…」
吹き飛ばされながらもジールクはルクライルを抱えて、自分の背中でルクライルが地面に激突する事を防ぐ。
「おわぁぁぁぁぁぁっ!!」
トールゥはその横をゴロゴロと転がって行った。
「おいッ!! トールゥ!!…『極炎』!!」
ジールクが立ち上がりながらそう叫ぶと共に、上に掲げた手から8㍍の高さはあるであろう炎が噴き出した。
「つぅ~ッ、いてぇッ!!うし、わかった!!…『風魔』!!」
それを見たトールゥはその炎に向かって今までのものより2倍は大きいであろう竜巻が、ジールクの炎を巻き込み、魔王に放たれる。
それぞれが風と火を極めており、その二つは非常に相性が良い。
それにより、一人で出せないような威力の魔法を生み出した。そして、それは魔王に迫る。
「再び後ろ貰いッ!!」
その魔法のほうを向いていた魔王の後ろでは、ミルリアが魔王を電撃を帯びた拳が貫こうとしている。
「・・・・『最強の闇の盾』」
その呪文と共に黒い闇の盾が発動して、ジールクとトールゥの魔法への防御が出来上がり、余裕のある魔王はミルリアに回し蹴りを放つ。
「ぅぐっ…!!」
それによりミルリアは吹き飛ばされ、地面に倒れる形になった。
前方では、闇の盾に火と風の魔法がぶつかり、闇の盾により弾かれた。
そして、火と風の魔法が弾かれなくなった瞬間に、魔王の目の前で盾が横に切り裂かれた。
「・・・なッ!?」
その切り裂いたのはリーシで、もう既に盾を切り裂いたであろう黒い刀を目標を魔王にして振りかぶっている。
それに反応して慌てて後ろにバックステップして避けようとする魔王だったが、それを上から電撃の杭が降って来て地面に刺さり、行き先を無くす事により邪魔をした。
「・・・お父様には、ここで二度目の死を味わってもらう!!」
それはまだ倒れたままのミルリアが、魔力を最大までに使って放ったものだった。
魔王はそれに対して、苦虫を噛み潰したような顔になるが、魔王の正面にいたリーシが刀を横に振るう。
魔王は剣で防御しようとするが、それさえも魔王の体と一緒に黒い刀は切り裂いた。
「ぐぅあッ!!?」
「では、さようならっ!!」
リーシは剣を振った後の勢いを利用して、ダメージを受けて動きが鈍った瞬間に一回転して首を斬り飛ばした。
魔王の体には首から上が無くなり、胴体はゆっくりと倒れていった。
「・・・これで今の魔界にも魔王を倒す戦力はあるという証明になりましたね。
あなたを倒して、初めて自立できるんですよ。勇者というバックがいなくても他の国に舐められる事はなくなる」
リーシは黒い刀を鞘に収めながら、そんな事を呟く。
「さて、後の戦争はぱっぱと終らせてリミが待ってる家に戻りますか」
そう言ったリーシは、黒い戦艦・・・つまり徹夜製の特にデカイ奴に向かって歩き出した。
─ ─
「はぁ・・・やっと・・・倒せた・・・」
ミルリアはさっきの魔王からの一撃と最後の魔力を最大までに使った電撃で、相当疲れたらしく戦場なのだが肩を上下させて呼吸しながら地面に横になっている。
「ミルリア様、とりあえず休める所まで連れて行きましょうか?」
いつの間にかロシアンがミルリアのところまで来て、そんな事を尋ねる。
「ロシアンは本当に良い部下だと思うよ」
「ありがとうございます」
ロシアンはニコッとして、ミルリアをお姫様抱っこの形で抱える。それに対して、このロシアンの行動がミルリアの予想外だったらしく激しく動揺している。
「な、なななな何するのっ、ロシアンっ!!?」
「いえ、主人を戦艦までお連れするだけですが・・・?」
「何でそんなに嬉しそうなの~ッ!!?」
ミルリアは初めてロシアンを異性として認識したかもしれない・・・あくまで、〝かもしれない"だが・・・
─ ─
「うおぉ~・・・勝ったぁ~・・・疲れたぁ~・・・ダリィ・・・」
トールゥがそんな事を叫びながら、座り込む。
「お前・・・一応ここは戦場だぞ・・・いつ死ぬかわからないんだぞ~・・・」
「そう言ってるお前はルクライルとさっきからイチャイチャしやがって」
「はぁぁっ!!?」
そんな感じで、言い合ってる二人とは別にルクライルはジールクの体の傷をせっせとチェックしている。
ルクライルをかばって背中から地面に突っ込んだ時の奴などを申し訳なさそうに撫でている。
「ごめん、ジールク」
「んな事は気にすんな、ルクライル」
そんな彼女をジールクは頭を撫でながら返答している。
「はぁ~・・・よくそれで俺に戦場だなんだかんだ、と言えるもんだ」
「まったくですね」
トールゥが思わず口から漏らした文句に、ロシアンと同様にいつの間にか来ていたメイトが答えていた。
その表情は、怪我はしていても死んでいない上司を見て嬉しそうだった。
「では、とりあえずはあの黒い戦艦に戻りましょう。どうやらリーシ様とミルリア様を抱えたロシアンは黒い戦艦に戻って行ったようです」
メイトがそう言うと懐から定番の魔法陣が書かれた紙を取り出し、魔法で小さな火を出し、紙を燃やす。
すると、あたりを白い光が包み込み、光が収まるとその場には、ジールクとルクライルにトールゥ、メイトの四人は居なくなっていた。
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