29話 アイギスと蛇
……ある戦場。
そこには全身に浅い切り傷の付いた瑞穂がいた。
「チッ・・・本当に相性が悪すぎたな」
舌打ちをした瑞穂は目を鋭くしてまわりを見回す。
すると、左斜め後ろのほうからいきなり現れたハルバードが瑞穂を貫くために突き出された。
それを瑞穂は避けて、ハルバードの出たところに向けて思い切りハンマーを振るう。
だが、ハンマーは何にも当たらず空をきり、瑞穂は手ごたえの無さにさらに舌打ちをした。
全身の浅い切り傷は当然相手の攻撃で付いたものだ。
さっきのように何も無い所からハルバードの突きが放たれ、それを避けるのだが、避けきれずに斧の部分で服と肌を浅く切り裂かれたのだ。
基本的に瑞穂はパワーで押し切るタイプであり、こんな奴を相手にするのは得意ではないのだ。
「私にとって面白い玩具を手に入れたのと同様ですね」
音源のつかめない声が聞こえる。
当然、これは幻術使いの堕勇の少年の声だ。
「うっせぇ、ぶっ潰すぞ」
瑞穂のイラついた声に堕勇はクツクツと笑っている。
ちなみに瑞穂は『感知』の魔法を活用して相手の攻撃時に一瞬だけ出てくる反応で攻撃をかわしている。
そんな魔法があるのなら相手を見つけられるんじゃないか、という疑問もあるだろうが、その魔法に号撃時以外は反応は出ない。
それほどまでに相手の幻術は強力なのだ。
「では、弱るまで騙し続けてあげましょう」
そんな堕勇の声と共に、瑞穂のまわりに何十というハルバードが現れる。
『感知』の魔法はまわり全部に反応してしまい使い物にならない。
いや、実際には周りに反応してはいないのかもしれない。
ただ、相手の幻術で自分が魔法が反応していると騙されているだけなのかもしれないのだ。
そして、その何十というハルバードが瑞穂に向かって迫る。
「・・・ッ!! 『神に与えられし防具』」
それに対して瑞穂は全方位の絶対防御の壁を展開するが、ハルバードを弾いた音は一つだけ、そのほかは弾かれたように見えるものの音は無かった。
瑞穂は完全に遊ばれているのだ。
「騙される人を見ると、とても愉快でたまりませんね」
またも堕勇の笑い声が聞こえる。
それに怒りが溜まりに溜まっている瑞穂。・・・舌打ちを凄い速度で連発していた。
「・・・こんなやつに〝アレ"を使うのもどうかと思うが、やるしかなさそうだ」
瑞穂がなにやら決めた様子で呟く。
「アレ・・・・・・、なッ!?」
堕勇が瑞穂の言葉に疑問の言葉を言おうとした瞬間に驚きで声に詰まる。
それは瑞穂のある行動によって驚いたのだ。
瑞穂の行動は、それほどまでに相手を混乱させるものだった。
瑞穂は懐から取り出したナイフで自分の腕を切り裂いた。
腕がプラン…とまるで糸が切れた操り人形のように垂れ下がっている。
「俺の本当の力を使うには、ある奴の気分をよくしなきゃならないんだよ・・・・」
「それが自分の腕を使えなくするのにどう繋がるのか、よくわからないのですが・・・」
「そいつは俺を恨んでいるんだよ。だから俺がそいつの納得いくまで傷を受ければ、調子を良くして俺に力を貸すようになる。
まぁ、俺が死ねばそいつも死ぬからな、死なない程度にはしてるんだろうが・・・」
その言葉と共に、瑞穂の服の中から一匹の黒い蛇が出てきた。
それは瑞穂の肩辺りに上ったと思うと、あたりを見渡し始め、ある一点を見つめ始める。
「そこか・・・」
すると、瑞穂はその蛇の示す場所に一瞬で近づき、何かの胸倉辺りを片手で掴んで廊下に叩きつける。
そこには完全に手ごたえがあった。
「がはァッ!!?」
完全に堕勇の姿が現れた。
そして瑞穂は胸倉を掴んだまま、堕勇の体を上から膝で押さえつける。
簡単に説明すると、蛇のビット器官を利用して見つけたのだ。
「くそっ・・・なにが・・・」
「神話でのアイギスと蛇の関係を考えてみろ、それですぐわかるはずだぞ」
「まさか・・・」
「名前はメドゥーサ・・・体の中で、ずっと俺を恨んでるんだよ。
俺がアイギスを使ってるからって自分を殺した英雄とでも勘違いしてんのかもしれないが・・・・。
まぁ、元の世界の神話ではアイギスにメドゥーサの首をつけることで石化の能力を手に入れていた。」
瑞穂の目の色が段々と変わり、まるで蛇のような目になっていく。
「もともと俺の能力はこっちが本当のものだ。あえて言うならアイギスはそれを応用して造ったものなんだよ。そしたら、なんか余計な逆恨みをかったせいで左腕をそいつにくれてやらなきゃ発動できなくなっちまった・・・」
ようするに、瑞穂の能力の元になっている奴が逆恨みしていて、一定以上の怪我をしないと力を使わせてくれないと言う事だ。
「まぁ、とりあえずは・・・くらえや」
「このっ!! くそっ!!・・・ぐぅっ」
堕勇の少年は体を揺らして逃げようとするが、瑞穂がうまくガッチリと拘束している。
そして瑞穂の顔を見てしまうと同時に体が固まった。
目を開けたまま動く事はない、呼吸ですら止まっている。
すると、瑞穂は拘束を緩め、自分の足で立つ。
「悪いな。もうお前の肉体と、この世の時は…永遠に交わることは無いんだよ」
瑞穂はハンマーを背中に担ぎなおし左腕の治療をしながら歩いていく。
「こんな奴にここまでされちまうとは・・・本当に相性が悪すぎたな・・・。
てか、最初からこの力が使えれば問題ねぇんだよ!!」
瑞穂は悪態と溜息混じりに重い足取りで歩いていく。
─ ─
「せぇいっ!!」
徹夜・・・つまり、俺のそんな叫びと共に闇で造った球を相手に向かって投げつける。
それは相手・・・つまり泰斗の近くに到達すると爆発して周りに向かっていくつもの矢となり泰斗を狙う。
「・・・二重水晶っ!!」
そんな泰斗の言葉。
それと同時に泰斗の前に二重の水晶が壁となり闇の矢から身を守る。
泰斗は身を守ると同時に空中に水晶を造りだす。
それが落下してきた。
「うわっとっ!?」
水晶は城の石でできた廊下を砕く。
水晶は大中小とサイズがいろいろあり、大きいものだと下の階まで突き抜けて行った。
それを避ける俺だったが、さすがによけきれない物はある。
だから、それは受け止める事にした。
正直、それなりに重かったがケルベロスの一撃よりは軽いので受け止めることはできた。
それを泰斗に向かって投げつけるが、あたる寸前で砕け散る。
「・・・・・・俺で造ったものだからな、砕く事だって簡単だ」
そんなことを言うと同時に、泰斗はダッシュし俺に向かって刀を振るう。
それを俺は二本の剣で受け止め、自慢(?)の馬鹿力で泰斗も刀ごと一緒に弾き飛ばす。
それを追撃するために走り、泰斗の横に移動する。
大振りでおもいきり横から蹴りを放ち、それを泰斗は刀の横・・・つまり斬れる刃ではないところで受け止める。
正直、刃のところで受け止められてたら俺の足が切断されてたけど、相手はそこまで考えてる暇は無かったようだ。
というか、それを考えたら俺の戦いセンスってないよね。
まぁ、ただの高校生だった俺にセンスがあったら逆に困るけどね。
「・・・くっ」
泰斗は俺の脚で弾き飛ばされ、数㍍後ろに着地する。
そこに俺は追撃をする。
「はァッ!!」
魔力を手に集めて、手をかざすことでいっきに放つ。
「・・・三重水晶」
それと同時に防御する泰斗。
放った魔力は水晶にあたり四方に分散していった。
そして、水晶が砕け泰斗が居・・・なかった。
「・・・ふっ!!」
そんな言葉が頭上で聞こえた。
危険しか感じなかったので、とっさに横に跳ぶと俺の首があった場所を刀が通過していった。
「・・・うらァッ!!」
上にいた泰斗に向かって剣を振るおうとする。
だが、その前にパキパキ…という音が俺の周りでたくさん聞こえた。
・・・ヤヴァッ!!
「おぅわぁぁぁ!!?」
俺が叫び声を上げて横に跳んで逃げるのと、俺を突き刺すために生えてきた水晶のトゲの山が現れるのはほぼ同時だった。
どうにか避けるのを成功し無傷な俺。
だが、それだけでは終らない。俺を追って水晶のトゲの山が次々と現れる。
俺は最初は転がった後にすぐに立ち上がり、走り出す。
「なんだこのゲームみたいな光景はッ!!?」
逃げゲーっぽいよな、こういう展開。
とりあえずは逃げるために天井に向かってジャンプする。
結構高かったがちゃんと手を付く事ができ、そのままの勢いを利用して天井に足をつける。
そして天井を足場に思いっきり跳ぶ。
・・・まぁ、天井から跳ぶって言う事は落ちるっていうことだけども・・・。
とりあえず、狙いは泰斗。
泰斗はいくつも水晶で俺を狙ってくるが全て砕いて通る。
そして天井から跳んで勢いをつけた俺の剣と泰斗の刀がぶつかり合う。
「「ハァッ!!」」
二人ともおもいきり力を込めて弾く、そして二人とも吹き飛ばされる。
基本的に俺のほうが力が強いので泰斗のほうが大きく弾かれ吹き飛ばされていた。
その吹き飛ばされてる間にも二人は動き。
泰斗の水晶と俺の闇が俺達の間で攻防を繰り返す。
俺の闇が泰斗の水晶を砕き、泰斗の水晶が俺の闇を引きちぎる。
「あ~、もぉ!! めんどくさくなってきたッ!!」
ごめんね、俺・・・飽きやすいんだ。
「・・・じゃあ、勝負はこの一発に賭けさせてもらう」
泰斗がそう言うと複雑な造形の水晶がいくつもできる。
そして、そこに泰斗が魔力を流し込んでいく。
「・・・この水晶は魔力を反射することができる。だから魔力を一点に集中して強力な砲撃にする」
ふむふむ、そういうことですか。
「まぁ、ありがとう。説明してくれて」
俺は右手に魔力を集めまくる。
魔力を集めた末にまるで湯気のような黒い魔力が手から出ているのだからカッコイイ。
俺みたいなかっこいい人だったらめっちゃ良さそうだ。
はい、すんませんした。ナルシなこと言いました。別に本心ではありません。
てか俺は俺のことかっこいいとは思ってませんので。
「・・・時間制限などがなければ、基本的に平等な戦いがしたい」
「んじゃあ、決着をつけましょうかァッ!!」
俺がそんあ事を大声で叫びながらダッシュし始める。
そして泰斗のほうでは魔力の弾は発射され、俺の魔力のこもった拳とぶつかった。
爆発音が響き、爆煙がまわりをつつむ。
そこを俺が突っ切って姿を現す。
「・・・ッ!?」
それに驚きの表情を表す泰斗。
「悪いな、俺の勝ちだァッ!!」
そして俺の拳が泰斗の腹に突き刺さった。
「・・・かはぁっ」
そんな泰斗の声が聞こえると、泰斗がズルズルと倒れていった。
気絶したようだな、うん。
「ふぅ、少し拳が痛かったな~・・・」
魔力の弾に俺が拳で殴ったときの衝撃が結構痛かった。
うむ?泰斗の髪で隠れてる後ろの首。
そこにはよくわからない魔法陣が書かれてある。むむむ?
なんだこれは…?
「まぁ、気にしてもしょうがないか・・・・自爆みたいな物騒な魔法陣じゃあ、なさそうだしな」
とりあえず考えんのやめます。考えても無意味なので・・・。
「徹夜、お疲れ~」
そう言って美月が俺に近づいてきた。
ふむ、クッキーは全部食べられてしまったようだな・・・ガッカリなんてしてないですっ!!
そんな感じで戦い終わって俺が油断していた時・・・。
俺は横腹辺りに激痛が走る。
「・・・・?」
俺の横腹辺りから剣の刃が生えていた。
背中のほうを見ると背中にも剣の持つ方が生えている・・・つまり背中から突き刺され横腹から出たと言う事だ。
剣の刃が引き抜かれ足に力が入らないせいで支えをなくし、その場に倒れる俺。
「・・・徹夜ぁぁっ!!?」
俺の耳に美月の悲鳴にも似た声が聞こえた。
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