28話 死んだかな?
そこは戦場。
「・・・・・・シッ!!」
金色の剣を横なぎに振るう。
それを相手の魔族の少年はしゃがんで避け、相手の顔面に向かって手を突き出す。
黄金の剣を持った女性・・・つまりラルドだ。
ラルドはその手を避けるために横にずれて、剣を少年の腕を切断するために黄金の剣を縦に振るう。
「くっ・・・!!」
魔族の少年・・・クロイズルは慌てて手を引っ込めて剣の軌道から避ける。
「・・・(相手の剣を受け止められる武器を持ってないのは少し辛いですね)」
クロイズルは腐食の魔法を使っているので、普段はほぼ素手と言って良い。
だが、相手は聖剣エクスカリバー。
腐らせられるか分からない剣を相手に手を突き出して試す勇気はない。
成功した時には圧倒的優位にたてるが、失敗した際には最低でも片手は持っていかれてしまう。
そんな賭けまでして、剣を腐らせようとは思わない。
だから、クロイズルは避ける。
「ハァッ!!」
そんな声と共に放たれる光の斬撃。
それを後ろに大きく跳んで避ける。
クロイズルの後ろでは兵士がいて、いきなり現れたクロイズルに驚きつつも後ろから剣で斬りかかる。
「あなたにその剣は必要ありませんね」
クロイズルがそんなことを言うと、兵士の手首を掴んで引っ張り自分の前方に持ってきて兵士の顔面を鷲づかみして地面に兵士の後頭部を押し付ける。
「なので、その剣は私が使ってあげましょう」
クロイズルがそんなことを言うと同時に、兵士の掴まれている手首と顔面が腐り始める。
最初に手が完全に腐り、クロイズルの手には剣がおさまり、顔面が腐ることによって兵士を苦しませていた。
「・・・ッ!!」
それを見た瞬間にラルドがクロイズルに斬りかかる。
だが、それをクロイズルは兵士から奪った剣で受け止める。
「どうしたんですか? そのしかめっ面は。雑魚がいくら死んだ所で私達には関係ないと思いますが」
「…下種な考え方の持ち主ですね」
「世の中では強い者が、正しいですからね。
権力でも、暴力でも、どちらでもいい。どっちかが強ければ下の者を好きに使っていい、これがこの世の決まりでしょう?
それは戦場でも同じですよ。強き者は弱き者を殺してもかまわないってね」
「私にとって無縁な事です」
「まぁ、確かに冒険者には関係ありませんね・・・ッ!!」
その言葉と共に二人ともお互いに剣を強く弾き、後ろに跳んで距離をとる。
ラルドは後ろに跳びながらも、光の斬撃をいくつも放つ。
それをクロイズルは剣を持ってないほうの手で、自分に当たる斬撃だけを腐らせていく。
ラルドが乱入したときの斬撃と比べると、いくつも放ってきた斬撃は小さくクロイズルも腐らせることができた。
ラルドが着地すると同時にまわりから蘇ったであろう者達・・・農夫や子供などが武器を片手に持ちが襲い掛かってきた。
それを見た瞬間にクロイズルもこちらに向かってダッシュしてくる。
「・・・ッ!! 邪魔ッ!!」
襲ってくる者達を剣で横になぎ払う。
それによって、襲ってきた者達は今は違えど生前はただの一般人だった。
戦いなどには関係のない人逹だったが、今は自分の剣によって下半身と上半身が別れていたり、腕が切り裂かれたりなどしている。
だが、今の状況でそれを気にしては自分が死んでしまう。
だから、ただ何の感情を感じずに相手を切り伏せる。
最初に襲って着た者達は切り伏せた。だが、他にも順番ずつに数人掛りで襲い掛かってくる。
黄金の剣が凄い速さでラルドの周りで動き、ラルドのまわりがキラキラと光ってるように見える。
そのエリアに入った者は一瞬の内に切り刻まれ粉々にされる。
「・・・ハァッ!!」
周りの者がいなくなり、黄金の剣を振り向きながらも大振りに振るう。
甲高い金属音が響き、ラルドさんの振るう黄金の剣をクロイズルが剣で防いでいた。
「なにやら随分辛そうな表情をしていますね」
クロイズルはニヤニヤと笑いながら口を開く。
「・・・お前には関係の無いことだ」
「まぁ、確かにそうですねっ!!」
ラルドの黄金の剣が動き、クロイズルの物を腐らせる魔の手が狙う。
─ ─
黄色の魔弾が飛ぶ。
それを堕天使が空中で翼をはばたかせて避けた。
魔弾はそのまま空に向かって消えていく
「本気で殺しに来るんじゃないんですか? もしかして、あの程度の速度の魔弾で私を打ちぬくことができるとでも? まぁ、たしかにそれなりに魔力が込められた物でしたが・・・」
堕天使は和馬を挑発する。
「いやいや、別にそんなつもりはないさ。少しばかりの準備だよ」
和馬はそれに対して不敵に笑うだけである。
「・・・?」
それに対して堕天使は疑問の顔になるだけだ。
「上を見てみたらどうだ。たぶんわかるから」
和馬の言葉に堕天使は怪訝な顔をし、和馬からの攻撃に警戒しながら上を見る。
それは真っ黒の空。
説明するのは忘れていて申し訳ないのだが、空は魔神の召喚とともに分厚い黒い雲に覆われていた。
その真っ黒の雲の内部のところどころで黄色い光が見えた。
それと同時に昔から人を怖がらせる大きな音が聞こえる。
つまり雷の光と音である。
それはさっきまでの雲になかった変化だ。
「これは・・・」
それに堕天使は驚き、和馬のほうを見る。
「予想が当たってたりしてるかもな」
和馬はそれを言うと同時に引き金を引く。
それは今までの魔弾のスピードとは違い、一瞬の内に堕天使の翼を貫いた。
「・・・ッ!?」
それに驚きを表す堕天使。
堕天使は自分の体がかすかに痙攣している事に気づく、さっきの魔弾で貫かれたときに少しだけビリッっとした感覚があったことを思い出す。
それに対して和馬はすこし不適に笑いながら喋る。
「風属性の魔法の加速でコーティングしてある。
まぁ・・・あくまでコーティングしてあるだけでメインの魔弾の属性は雷・・・つまり、大きな攻撃を誘導するための小さな火種だよ」
「・・・ッ!?」
その言葉と共に轟音が響いた。
すると、堕天使は翼がコントロールできずに建物の中に墜落した。
堕天使は一瞬の内でわからなかったかもしれないが、大きな黒い雲から雷が堕天使に落ちたのだ。
「死んだかな?」
和馬は屋根と屋根を飛び移りながら確認のために移動する。
そして堕天使が突っ込んでいった建物の屋根にたどりつく。
そこで和馬はふ~む、と呟いた後耳を済ませてみることにすると完全に音が聞こえ、次第に近づいてきている。
「おぅわぁっ!?」
慌てて後ろに跳ぶ様にして避ける。
それと同時に堕天使が屋根を切り裂き飛び出してきた。
そして、それに巻き込まれて魔弾を放つ銃が一つ切り刻まれて粉々になった。
「この程度で死んだと思ってもらうと困りますねっ!!」
そんなことを言う堕天使だったが、体はボロボロになり、少しだけ息も荒い。
さっきのは結構ダメージを負わせたみたいだ。
だが、堕天使は和馬の拳銃を一つ潰したと言う事とある弱点の事を考え不敵に笑う。
「・・・ですが、確か魔力はあなたは少ないはずですよね。今ので魔力も相当消費されたのではありませんか?」
堕天使は和馬の弱点である魔力の事を言う。
堕天使だって元は天使、相手の嘘を見抜くことだってできる。
和馬がその情報を言ったときの様子は完全に嘘はついていなかった、そう堕天使は確信している。
「ああ、確かに普通なら魔力はもう尽きはじめてるころだな」
「〝普通"なら・・・?」
和馬の言い方に怪訝な顔をする堕天使。
「もう少しばかり隠してても良いと思ったんだが、可愛そうだからネタバラシしてやるよ」
「は・・・? 魔力が少ないって言うのは嘘とでも?」
「いや、嘘じゃないさ。
まぁ・・・俺は魔力を増やすことができるから」
「・・・・・・・・・・・・・・は?」
「いやいや、言ってなかったけど俺って『増殖』の魔法を使うからさ、元があれば何個でも増やせるわけだよ」
和馬はそう言いながら、一丁だけになった拳銃を増殖の魔法で増やし、再び二丁拳銃に戻る。
それをみた堕天使は完全に呆けた顔になる。
「俺の『増殖』の魔法って見えるものや個数で表すものだけを増やせるって言うわけじゃなく、俺の認識できるもの全てを増やせるんだよ。
この世界では魔力ってのは全ての人に認識されてるだろ?当然俺も異世界ってので魔法使ったりして生きてりゃ自然に認めるわけだよ」
「ですが、そんな反則な魔法だったら増殖した際の消費する魔力は相当のものでは・・・?」
「あ~、俺の増殖ってのは消費魔力よりも増殖量のほうが五倍は多いからな」
「なっ・・・!?」
「まぁ、つまりあれだよ。
俺は勇者の誰よりも少ない魔力で、誰よりも多い魔力ってわけだ」
そこで和馬は拳銃を構える。
「まぁ、こんな無駄話は終わりにして、そろそろこの戦闘も終わりにしようか」
「ッ!! こぉんのォォォオオオ!!」
堕天使は凄いスピードで和馬に迫る。
一発の弾丸なら体を貫かれても再生はでき、その一発を我慢する事で和馬の首を切ろうという考えだった。
当然それを和馬は見抜いている。
その上で避けずに迎え撃つ。
「悪いな、俺の増殖は一つから二つになる、っていうわけじゃないんだ」
その言葉と共に右の拳銃からは火属性の魔弾が数十発、左の拳銃からは風属性の魔弾が数十発という数が発射された。
風属性の魔弾は堕天使の体中を貫き蜂の巣にする、そして火属性の魔弾は蜂の巣にされた堕天使の体にぶつかり、爆発してズタズタにする。
そして…もう、人間の姿もしていない肉の塊が地面に落ちてベチャッ…という生々しい音が聞こえた。
和馬は拳銃を懐にしまう。
「天国に帰れってな…いや、こいつの場合は地獄行きかな?」
そんな軽口を叩きながら、城の方向に歩き出す。
「うん・・・まぁ、今日の目標であるモテ顔イケメンを一匹駆逐完了、と」
堕天使との戦闘の時に言っていた軽口は、どうやら本気のようだった
誤字・脱字があれば御報告ください