25話 …は笑う
空を飛んでいる。
竜の形をした黒い闇。その背には三人の人間。そして、その横では「ヒャッハァァァァッ!! アーイ、キャーン、フラァァァーーーーイ!!」とよくわからない事を叫びながら背中から翼の形をした闇を生やして空を飛んでいる俺。
今は、もう王都の上空だ。
いきなりもうこんな場面だが、そんな逐一状況を報告するのは疲れるのだ。なので一気にスキップしたわけである。正直誰に報告してるのかわからない俺が居るのだけどもね。
「・・・ん~、どこに行けばいいんだ?」
そんな俺の言葉、あの黒い生物は結構近くに居るのだがあれにはまだ関わらないほうがいいだろう。イリルさんの話じゃあ俺達四人だと無理そうだ。
「まずは堕勇と堕天使なんだろうけど、どこにいるかわからないし・・・」
それに美月が答える。まぁ、確かにな。倒せるかどうかはさておいて、どうやって見つけるかが問題なわけだ。
「ん、誰と戦うのかも問題だと思うけどな、相性が悪いとボロボロになりそうだ」
瑞穂くんは負けるという考えはないのね。
そこで、和馬がどこかよくわからない場所を見ながら呟いた。
「・・・どうやらあっちから自分で来てくれたらしい。一人だけだからここは俺に任せてもらおうか」
そんなことを言うと同時に、後ろに向かって跳ぶ、その方向には白い翼が生えた人間が居て、そいつの振るった剣と和馬の魔力を帯びた回し蹴りがぶつかり合っていた。
和馬は重力に従い落下し始め、堕天使は白い翼で空に浮かぶ。
「ああ、堕天使か・・・相性悪くないか?」
飛べるのは俺だから俺が相手したほうがよかったかもしれないんじゃないか?
すると、瑞穂が答えてくる。
「和馬が行くって言ったんだから別に良いじゃないか?簡単にやられはしないだろう」
ふむ、瑞穂がそういうなら別に良いか・・・。なんか仲間なのに軽い気がするけどその分だけ信頼してる、って事だ・・・多分。
「じゃあ、とりあえず下りない?」
美月がそれを言った。とりあえずは城の近くに下りよう、城なら何人かはいるかもしれないからね。
じゃあ、レッツゴー!!
軽い感じだけど気にしないでね・・・
─ ─
ある二人が会話をしている。
「さっきの魔神の念話の声、聞きましたか?」
「聞いたでおじゃるな」
「途中から声がカタコトじゃなくなりましたが…これは厄介なものになりましたね」
「ほんの一瞬でこの世界に馴染んだという訳でおじゃるな?」
どんな物にも慣れなどはある。徹夜たちのいう元の世界では、飛行機に乗り遠い国に行くと時差ボケなどがあるが、世界の間でもそういうものがある。
徹夜などでいうと勇者召喚の魔法陣などで、それを自動的に修正されるわけだが、ヒドラのいう話では13人必要な生贄の内、11人しか使われていない。
その時点で召喚の陣は不完全・・・・・なので、その自動的に修正される効果も無効になるのだ。
魔神は不完全なのに加え、時間をかけて世界に慣れる必要があった。
だが、神というものは異常だった。ほんの数分のうちに世界に対応し動きやすいものになる。
「・・・我らは行かなくて良いのでおじゃるか?」
竜王女にその弟が質問した。
その弟…イルリヤの横には姉であるイリルが立っていた。
「あの魔神とやらはゲーム気分ですからね。私達があそこに行ってしまえば気が変わってしまうかもしれません、なので堕勇は徹夜くん達にどうにかしてもらうとして…気が変わった時に潰しにかかったほうが良いですね」
その答えにイルリヤはわかってるのかわからない感じに、ふむふむ、と頷いている。
そして…
「で、何故行かないのでおじゃるか?」
「・・・」
姉は溜息をつく。
その後に「教育はもっと必要だったみたいですね」という呟きはイルリヤをガタガタ…ブルブル…と震わせるものだったらしい。
一ヶ月とちょっと前に受けた教育は相当トラウマに残るものだったのかもしれない。
─ ─
それは過去を生きた者達と現在を生きている者達との戦場だった。
ある者は戦う事を拒否し逃げ、ある者はなにもできず相手に殺され、ある者は泣きそうな顔をしながらも相手を殺す。
そんな戦場。その中でもある一部だけ何かが違った。
そこの居るのは、ある魔族の一人の成人男性と一人の少年なのだが、成人男性を見たものは絶望という感情が湧き上がる。
その男性を知らないものは居ない、顔を知ってるものも居れば知らないものも居る。
ただ…その男性の呼ばれていた名前だけは全ての生き物が知っていた。
その魔族の成人男性を見て、ある五人組だけが挑む事を決心する。
……過去数百年の内に死んだものを全てを蘇らせる。
それはどんな物にも例外ではない。そう・・・魔王も例外ではないのだ。
「・・・人がせっかくあの世でくつろいでいれば、懐かしい場所に呼び出してくれるな。・・・まぁ、この様子だと死んだのは最近の話だろうが・・・」
魔王が忌々しい、というような顔で黒い生物…魔神を睨んでいた。
その横ではある少年が居た。
「魔王様・・・正直、死んだのは昨日のように思えますが、あの世というのはあるものなのですか?」
その少年の名前はクロイズル・リクトン。『魔界六柱』という魔族のトップの六人の内一人だった者。
No,2…そして『腐土』という名で呼ばれていたりした少年だ。
「ようは気分の問題だ」
そんな事をいう魔王。シリアスキャラは終ったのだ。・・・あ、いや、なんでもないです。
さっきのは忘れてください。
「まぁ、呼び出されては従うしかないらしい・・・さて、少しだけ暴れるか」
そんな事を言いながら魔王は大軍へ手をかざす。
その手には魔力が集まっている。それが放たれれば相当の命を奪う事になるだろう。
「…死ね」
そして、その魔力が放たれる。
…だが、誰も死ななかった。放った魔力は、ある刃によって切り裂かれた。
それは黒い刃の日本刀。そして、それを持っているのは魔族の女性だ。
「・・・魔王様、わざわざこんな時まで現れるのですか」
その女性・・・『漆黒』のリーシ・トルゥマアがしゃべる。
「リーシか・・・。私が死んでお前が生きている。そして、私とお前が戦うと言う事は、人間と魔族は手を結んだ、というわけか?」
「まぁ、そんな感じですね」
魔王の問いにリーシは軽く答える。
「・・・人間と手を結んだ所でいつかは裏切られるだけだというのに・・・・・・そんな間違いは私が直してやろう」
その言葉と共に攻撃を放とうとする魔王。
だが、これにも邪魔が入る。リーシではなかった。
魔王周りに上空から落ちてきたいくつもの電撃の槍が突き刺さる。
それを魔王は軽くバックステップして全て避けた。
「お父様、死者は死者らしく黙って動かなければ良いのですよ?」
そんな言葉と共に軽い足音が聞こえる、その方向には『魔雷』のミルリアが居た。
右腕には変なマークがついていて、それが魔法の攻撃力を増加させる。
「・・・ミルリアか」
そんな魔王の呟き。
「何もしゃべらなくて良いですよ。そろそろ他の三人も来るでしょうしね」
そんなミルリアの言葉。その言葉と同時に魔王を三方向から火、水、風の三種類の属性の魔法が襲った。だが魔王は動かない。
それらの三つの魔法は魔王に当たる前に腐るように消えていった。
「お前ら、魔王様に歯向かうとは・・・・何回腐り殺されても文句はないでしょう?」
それらの魔法を消したのはクロイズル。名前のとおり自分の近くにあるものから腐らせる魔法を有している。
「お前も蘇ってたのか、その考え方からクソな野郎だな」
そんな言葉を言ったのはジールク・ライ。No,5の『死炎』。
「めんどくさいのがいるね」
ジールクの横に立っている人物がいる。それは赤い酸性の水を操るルクライル・リーン。
将来はルクライル・ライになるのか・・・?めっちゃ読み辛いぞ・・・。
…あ、忘れてくれ。
「ん~、みんな決め台詞みたいなの言ってるのはいいのだが、俺の言う事がなくなってくるぞ・・・」
そんなことを言っているのはトールゥ・マイラスだった。
魔王とクロイズルの二人を五人が囲む形になる。
だが、あまり良い状況とは言えない。魔王一人でさえ相当強いのにクロイズルは『魔界六柱』の中で二番目の実力を持っていた。
リーシなら一人で倒す事もできる。ミルリアなら一人で長い間戦う事もできる。
ただNo,4~No,6の三人の場合、複数で戦わなければ確実に殺られてしまうだろう。
リーシかミルリアのどちらかをクロイズルに向けるとしても、魔王と戦うのにはよけいつらい状態となるのだ。
その状況にクロイズルはニヤリと笑い、魔王はその事なんて気にしていない。
ただ、その状況も『魔界六柱』の五人の他に、もう一人の乱入者によって話が変わってしまう。
乱入者の最初の行動は攻撃。そして、それは光の斬撃だった。
それはクロイズルに向かって突き進む。それをクロイズルは腐食の魔法を使い受け止めるが、消しきれずに吹き飛ばされ空中を舞い、空中でどうにか体勢を立て直し地面に着地する。
これにより魔界六柱の五人による魔王の包囲から離れる事になる。
「・・・『戦争』の時には魔法で拘束されて戦うことができませんでしたからね。丁度良いのでその男は私が預かりましょう」
その言葉と共に歩いて来たのは聖剣を背中に担いでいる女性。
『聖剣』のラルドだ。
黄金の剣は鞘から抜かれ金色の金属が輝いている。それを見たクロイズルは楽しそうに笑う。
「私に敵うとでもお思いですか?」
「さぁ?わかりませんね。あなたの腐らせる魔法がどこまでのものかはよくわかりませんので・・・ただ、私とこの聖剣を腐らせる事などできるとは思わないほうが良いですよ・・・ッ!!」
その言葉と共に放たれる光の斬撃。それをクロイズルはかわし反撃に移る。
・・・そして再び場所が戻る。
「・・・では、お父様。再びあの世に帰っていただきましょうか」
パチパチと電機の弾ける音が聞こえる。それと同時に他のメンバーもそれぞれ臨戦態勢に移る。
それを見た魔王は創造属性の魔法で一本の剣を作り出し、右手で剣を掴む。
「…自分の部下だった者の実力を、この身で体験してみるのも一興だな」
魔王は笑う。
『聖剣』のラルドと『腐土』のクロイズル。聖剣と腐食がぶつかり合い。
魔王という一人の魔族と魔王の部下であった『魔界六柱』という五人の魔族が殺しあう。
そこは戦場。
縁のある者達が殺しあう。
上司、部下、魔族、人間、兵士、冒険者…それらが戦う場所。
誤字・脱字があればマジで御報告ください