覇王(5/39)PDFで表示縦書き表示RDF


覇王
作:緒俐



第五話:喧嘩


 「困ったことがあったら図書館にいけ」。
 いつか誰かが言ってたはずだが、
 それをこの状況で実行する人間が本当にいたらしい・・・・

「まったく、手間のかかる女だな」

 瑞貴はほとほと呆れながら抱えていたスズナを地へ下ろした。

「・・・・悪かったわよ」
「いいえ、どういたしまして」

 瑞貴は口元だけ微笑んだ。

「とりあえず、改めて自己紹介しておく。
 俺は瑞貴。年はあんたより一つ上だ。
 それと面倒なことは嫌いだから、
 その辺よく理解しておけよ」
「それだけ?」

 もっと自己紹介なら、得意な魔法とか、
 戦術とかをこの状況なら話してもらいたいところだが・・・・・

「それだけも何もこれ以上必要があるのか?」
「必要も何もこの国から抜け出すんでしょ?
 得意な術とかぐらい教えてくれてもいいじゃない」
「高等魔法のイロハも知らない奴に言っても仕方ねぇよ。
 俺の時空魔法でさえここまでしか飛べないんだ。
 別の方法を考えないと・・・・」

 瑞貴は考え込むが、それをスズナが一言で遮った。

「やっぱり弱いんじゃないの? あんた」

 瞬時にゴン!という鈍い音がスズナの頭上に落とされた。

「いったあ! 何すんのよ!」

「おてんば娘もほどほどにしとけよ!
 お前強い魔法使いになるためにここにいるんじゃないのか!?」

「そうよ! 私は強い魔法使いになりたいの!
 ナルシストなんかに興味はないわ!
 自信過剰の自惚れバカが一番嫌いなの!」

「だれが自惚れてるんだよ! 
 お前なんかピーピー泣いてただけじゃないか!」

「当たり前じゃない! 私は人間だもの!
 悲しければ泣くし、嬉しければ笑うの!
 あんたみたいなのと一緒にしないでよ!」
 
「ああ、そうかよ! やっぱり助けるんじゃなかった!」

 会って早々口論。
 瑞貴のファンがここにいたならば、
 まさか「涼やか」というイメージを持つ少年が、
 ここまで熱くなれるとは思いもしない。
 夢見た王子様が一気に崩れ去っていくだろう。


 そして十分後・・・・

「はぁはぁ! 全く、これ以上やってもしかたねぇ。
 とにかく、お前より俺のほうが断然強い! それだけ分かっていろ」
「それも嫌! だいたい、何で図書館なんかに来てるのよ!
 もっと隠れるのに最適な場所があったんじゃないの?」

 確かにスズナの言う通りだった。
 あくまでもこの幻想の国には、
 結界を張った場所がいくらでもある。
 それも地下に多い。
 そこに逃げ込んだほうが安全といえば安全なのだが・・・・

「簡単なことだ。俺たち以外まともな奴はいない。
 第一、教師たちでさえやられてるんだ。
 結界なんか一瞬のうちに消されるさ」
「そっか・・・・」

 案外素直なことに瑞貴は驚いた。
 この少女は、正論を受け入れる器はあるらしい・・・・

「だからここで脱出法を調べるんだ。
 あいつらから発見される前にな」
「えっ・・・・だったら私たち・・・・・」

 そのときスズナはようやく気づいたのである。

「そうだよ、喧嘩してる場合じゃない。
 さっさとこの膨大な本から俺たちに出来る方法で
 この国から脱出する方法を探せ」

 本に向き合った瑞貴は少し赤くなった。
 少なくとも初めてだったのである。
 これほど冷静を欠いてしまったことなど・・・・

「冗談じゃないわよ〜〜〜!!」

 スズナの声が図書館にこだました・・・・












ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう