しんしん
しんしん
しんしん
雪が静かに振り続ける。
日本の東北地方のとある町。
まだ夕方なのに、空に立ち込める雲は辺りを暗い色に染め上げている。
もう夜の帳が町を覆っている。
田舎の駅には薄ボンヤリとした黄色い明かりがついているが、それがなんともわびしい色に見えた。
まるで人の心を表すかのよう。
田舎の無人の駅には誰もいない。
その駅から1人の少女が出てきた。
名前をシズネという。
中学2年生で、小柄な姿をした少女。茶色の長いコートを着ていて、頭には白い毛の帽子をかぶっている。
女の子としては、もっとおしゃれをしたいところだが、学校帰りでそんなに派手な格好はしていない。外は冷たく寒いので、毛の帽子は、両の耳まで温かく包んでいた。
人気のない無人の駅を出て、シズネは田舎の道を歩いた。
舗装はされていて、近くを川が流れている。
でも、今は降り続く雪にそのすべてが覆われている。昼間太陽が出ていれば、辺りは白一色の世界になるものの、普段は灰色の雲のせいでとても銀色の世界とは呼べない。もう少し薄暗く、灰色みたいな感じ。
けれども、今は日の光のない暗い闇があたりに広がっている。
道に沿って寂しくたたずむ電信柱から、蛍光灯の光が降り注ぐ。
でも、暗い夜の色の中で、その光はもの悲しげな印象を強くした。
こう表現してしまえば、詩的に聞こえるけれども、実際はいつも通っている通学路の中の光景でしかない。
「うー、寒いのって苦手なんだよね」
生まれも育ちも雪国のシズネだが、どうしても寒いのが苦手だ。
コートだけでも十分に分厚いのに、その下にはさらに5枚も重ね着をしていた。当然、足元の防寒対策だってしっかりしている。
それでも、寒いものは寒くて仕方がない。
「ううっ、電車の中の暖かさが懐かしい」
なんだかおじさん臭いことを呟きながら、シズネは通学路を歩いていく。
誰もいなくて寂しい光景だが、もともと人がそんなにいる田舎でないから仕方がない。
小学生はこの町の学校に言っているけれども、中学は隣町まで電車を使わなければならないと言うひどい田舎だ。
この町には、シズネ以外には、中学生はもう1人しかいない。
少子高齢化に、田舎の過疎化というやつのせいだ。
今日は先生に呼ばれて遅くなってしまったから、その子はもうとっくの先に帰ってしまっていた。
だから、今日はシズネは1人で家への帰路についている。
「早く家に帰って、あったまらなきゃ」
ブルブルと寒さで震えるからだを両手で包み込みながら、シズネは歩いていった。
と、家の近くにまでたどり着いたとき、光に照らし出された電信柱の下に、人影を見つけた。
「あれ、ユウトじゃない。こんなところでどうしたの?」
見つけたのは、この町のもう1人の中学生。シズネとは生まれたときからの付き合いがある、同級生のユウトだった。
それなりに見た目はかっこいい男だ。シズネが小柄なのにたいして、長身なのでシズネからは顔を上に上げないと目が合わない。
同い年なのに、身長の差であるものだから、普段はいろいろとからかってくるヤな奴だった。
(まあ、口は悪いけど、それなりにいい奴でもあるけど)
「よ、遅いじゃないか」
「先生に呼ばれたからね」
「お、何かしでかしたのか」
「何もしてないわよ。手伝いで呼ばれただけ」
軽く笑みを浮かべてからかうような口調のユウトに、シズネは頬を膨らませて反論する。
その顔を見て、ユウトがクスクスと笑った。
「ああ、相変わらず可愛い奴だな」
「なにがよ!」
「頬を膨らませて、まるでハムスターみたいだ」
「ていっ」
問答無用で、鉄拳を打ち込むシズネ。
「ハハハ、残念だが、そんな甘い打ち込みは当たらないぞ」
ひょいと、あっさりと避けてしまうユウト。
「むー、あんた性格悪る。それが女の子に対する態度」
「女の子も何も、生まれたときから毎日顔をあわせてる仲だろう」
「こんな男と同じ日に生まれたなんて最悪」
「お、照れちゃってますます可愛い奴」
「だから違う!」
にこやかな笑顔だが、ちょっと棘のあるユウトに即座に突っ込むシズネ。
「大体、こんな所で何やってるわけ。雪だって降って寒いのに・・・ヒャッ」
こんなところに、なぜユウトがいるのかと聞いていると、シズネは突然ユウトに抱きしめられてしまった。
思わず悲鳴が漏れて、硬直してしまう。
「ちょっと、悪い冗談はやめて!」
突然の事態だが、必死になって腕の仲から逃れようとするシズネ。
だが、ユウトは抱きしめる腕を放さない。
「ねえ、やめてよ」
「・・・」
ところが、シズネの抗議もまるで聞かずに黙っているユウト。
「ユ、ユウト・・・」
「ちょっと静かにしてくれよ。俺、今すっごく緊張してるんだから」
「緊張って、何を・・・」
抱きしめられながらも、ユウトの顔を見たシズネはそこで絶句した。
普段はシズネをからかって遊んでいるユウトの顔が、ひどく真剣でこわばっている。その瞳はまっすぐに腕の中のシズネを見ていた。
(も、もしかして・・・告白)
突然の事態に、頭が真っ白になるシズネ。抵抗することも忘れて、身動きが取れなくなってしまった。
「シズネ、実は俺前からお前のことが・・・」
緊張で言葉が詰まるユウト。
(あ、あわわわわ・・・)
一方のシズネはカーと顔が真っ赤に染まる。
よく見ればユウトも頬が赤い色をしていて、紅潮しているではないか。
「シズネのことが・・・」
「ゴクリ」
唾を飲み込んで次の言葉を待つシズネ。
「シズネのことが・・・オモチャみたいで面白い」
「・・・をぃ」
散々緊張させておいて、なんと言う言葉だ。
「今、なんて言った!」
「オモチャみたいで楽しいぞ」
―――ガスッ
「うっ。み、鳩尾・・・」
抱きしめていたものだから、シズネの繰り出したパンチを避け損ねたユウト。
「あんだけ、期待させいおいて、それはないでしょう」
「ハハ」
笑い声を上げるユウトだが、正直言ってさっきの一撃が痛い。
シズネを抱いていた腕を放して、その場にうずくまってしまう。
「お前、もう少し手加減しろよ」
「うるさいわね。乙女後ごろをもてあそぶからいけないんでしょ。もう、私寒いから早く帰る!」
プイっと顔を背けて、シズネは家のほうへと走っていってしまった。
「バカ!」
去り際、ユウトに叫ぶシズネ。
そんなシズネの姿を腹を抱えながらユウトは見送った。
「・・・やっぱり、無理だよな。あいつに面と向かって告白するなんて」
本当はシズネに告白するつもりでいた。でも、昔からあまりにも一緒にいて、距離が近すぎるものだから、つい告白できずにいつものようにからかってしまった。
「もしかして、俺って情けない奴なのか?」
せっかくの告白の機会を逃し、ユウトはなんだか途方にくれた。
雪はしんしんと降り続ける。
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