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MOND
作:千石御堂



英雄の時代 第一章 (1)


この世はとかく矛盾に溢れているのだ。
それに気付いたときと言うのは得てして手遅れである場合が極めて多い。

年端もいかない少年、イクセル・ベッシュも例外なく、世の矛盾に憤りを感じ始めたのは課題の期限二日前のことであった。





「だぁぁぁーーっ!!!終わるわけねぇぇぇぇっ!!」
イクセルがこう叫んだのはこれが本日五度目であった。
丁度、イクセルが特別に休暇に出されたレポートを手伝い始めてからそろそろ3時間は経っている。
そろそろか、とは思っていたが、予想以上に持たなかった、と言うわけだ。

「それで、結局バテテ僕にやらせる訳だ」
クルトは半ば諦めの表情で突っ伏したイクセルを見据えた。
「しょうがねぇだろぉ?」イクセルはぼやいた。
「だって、ルーの爺さんったら云う事がめちゃくちゃなんだもんよぉ」
見ると、イクセルのレポート用紙は未だ綺麗真ッ白である。書き殴ってある字も古代象形文字と錯覚するような解読不明の文字で書かれている。
「あのクソ爺、『ハッキリ言おう、イクセル、お前は少し足りない』だと!?舐めやがってあんにゃろぉっ!」
「・・・しょうがないんじゃないかな、この際言われても」
「・・・どういう意味だ?」
「そのまんまの意味で受け取ってもらって構わないよ」
「だぁからぁ、その”意味”を知りてぇんだけどなぁクルトちゃん」
「つまりキミが悪いのさ、イクセル」
「・・・・・」
「・・・・・まぁな」


そもそも何故このような事態になってしまったかを説明すると、6日前に遡ることになる。









アルメク大陸マナルタス半島の最南端にあるアウスガルドは比較的他国からの侵略に怯えることなく暮らしてきた国家である。
これから始まる物語もまた、この小国アウスガルドから始まることを記憶しておいて欲しい。

前述の通り、アウスガルドは比較的他国からの侵略などに対して危機感を感じることなく暮らしてきた。だが、ひとえにこれはマナルタスの地形による恩寵である。
マナルタス以北に広がるアグリア山脈は”アルメク最悪の難所”とも呼ばれ、”恐れを知らぬ旅の民”もまた、ここだけは避けると言われる。そのため、マナルタス以北からアウスガルドに来る場合、大回りして、ウィシュゲヒドの大森林地帯を通らなければならない。

しかし、この森も矢張り安全とはいえない。猛獣禽獣が出るのは勿論のこと、エルフ自治区やフォモール族の集落を通らなければならない。彼らは人間に対して敵対的ではないが、決して自分の縄張りに人が入るのを良しとはしない。従って大森林を行くのも賢い選択とは言い難い。

だからこそ長い間アウスガルドは平和を謳歌してきたのである。同時に”アルメク一のド田舎”と言われる由縁もここにあるのだが。

だが、クルトはそれでもいいと思っている。クルトは代々史学家としてアウスガルド・ベルニ地区に住んでいる一家の次男坊だが、それだけに幼い頃から様々な国の歴史を学んできた。
そのため、他国が様々な侵略戦争の魔の手に蝕まれていることを嫌と言うほど知っているからだ。


・・話が随分と脱線した。そろそろ話を戻すことにしよう。


丁度クルトの親友であるイクセル・ベッシュが四苦八苦しているのは、この国唯一の侵略戦争であるダルカ戦争についてのレポートである。
ロクな歴史の残っていないアウスガルド史としては最大のイベントなのだが、このダルカ戦争というのは各国の利害関係が絡んで起こった、
非常に複雑でごちゃごちゃした戦争でもある。

故に、一番のイベントなのに史学の中では一番嫌われている出来事なのだ。

そんなわけだから当然イクセルにも嫌われている。と、いうより彼は学問全般が大嫌いなのだが。
史学家のルスラン先生が彼”だけ”に特別課題を出したのも、恐らく範囲が難しいからと言うよりは、
単に彼が普段サボり過ぎていることに原因があると思われる。

そんな訳で、長期休暇中に彼”だけ”に出された宿題を手伝うことになり、今に至る。


「だぁ〜〜っ・・・終わらねぇ〜〜っ・・・・・・!!!」イクセルは再びデカい声でぼやき始めた。


恐らく、図書館を追い出されるのもそう遠くはないだろう。


クルトは深い溜息を吐いた。












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