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空の夢
作者:高砂イサミ

 いつもの公園にあそびにいったら、いつものおばあさんが、いつもみたく上を見上げてた。

「こんにちは」

 あいさつするようになったのはちょっと前から。
 そうするとおばあさんはいつも、顔をこっちに向けてゆっくりおじぎする。
「こんにちは。今日も来たの」
「友だちとやくそくしてるんだ」
「そう。いいわね」
 でもまだ、みんなが来る時間じゃない。
 いつもふしぎに思ってたことを、今日こそ聞いてみたかったから。
「ね、おばあちゃん。いつもどこを見てるの?」
 おばあさんはまた目を上に向けた。
「空を見たくてねえ」
「空?」
「知っているかしらね。空というのは青くて、雲が浮いていて、
 時には雨が降ったり雪が降ったり」
 わたしもおばあさんが見てる方をながめてみる。
「お魚が飛んでたり?」
「空にお魚はいないわね」
 おばあさんはわらった。
「鳥がね、もっと高いところを飛ぶの」
「ふうん?」
「海よりもずっと広いのよ」
「海より!?」
 わたしも“空”という言葉は知ってるけど。
 ここから見上げる“海”の、もっと向こうがわがあるっていうのも、知ってはいるんだけど。
「人は、わたしが若い頃までは、海の上に住んでいたからねえ」
 おばあさんはなつかしそうに言った。
 わたしはなんだか、うらやましいようなきもちだった。
「わたしもいつか見てみたいな」
「そう。見られるといいわねえ」
「どうしたら見られるかな?」
「どうかしら。大気の状態が元に戻るまでは、このドームから出ることはできないっていうからねえ…」
 おばあさんのかおが、ちょっとだけさびしそうになる。
「わたしももう一度、空を見ておきたかったけれど。きっと無理でしょうね。…だけど…」
「?」
「ふふ、おかしいでしょう?こんなおばあちゃんだけど、やっぱり夢見てしまうの。いつか…って、思ってしまうのねえ」
 おばあさんはまたドームの天井を見上げて。
 こどもみたいに眼を細くした。


 それから20年後のこと。私は調査員として海底ドームから陸上に派遣されることになった。
 防護服越しに黄色く濁った“空”を見上げて、私はあのおばあさんを思い出す。
 ――私が、おばあさんが見たかったものはこれだろうか。

 空は青いんじゃなかったっけ。
 雲が浮いてて、鳥が飛んでて――

 ぐっとこぶしを握る。防護服の分厚い手袋をしてるから、うまく握れないけど。

 …ぜんぜん、おかしくないよ、おばあちゃん。
 何歳になったって夢は見る。私も――私の夢を追いかけてみるよ。


 青い空を、取り戻そう。

                                  END
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