皆さん、こんにちは。
オレの名前は緒方遼平。
都内の某私立男子高校一年生。
身長170センチ(成長中)。黒髪黒目の平凡な顔立ち。少なくとも自分ではそう思っています。
得意なものはスポーツ全般。
いま通ってる高校には、スポーツ特待生として入学しました。
最近、ちょっと…いや、かなり大きな悩みがあります。
確かあれは、入学式から約半年経った頃のこと。
二学期も始まり、部活動も好調、気の合う友達もたくさん出来ました。
まだ彼女がいないことが少し残念だったけれど、でも、オレはとても順調な高校ライフを送っていたのです。
あの先輩に、目を付けられるまでは…。
「ぬぅおおおおおおおおおおぉー!!」
鳴り響くチャイムの音と共に、オレは鞄をひっつかんだまま全速力で教室を飛び出す。
うしろからは、「おお、また今日もやってんのか」「あいつも大変だなぁ」「頑張れよー、緒方ー」なんて、非常に無責任なクラスメイトたちの声が聞こえてくるが、今のオレにはそんなものに構っている余裕がない。
来る。
今日も来る。
あの人が来る!
「りょーうーへーいーくーん♪」
来た―――――――ッ!!!!!!
「うぎゃあああああああああ、来ないでくださいぃぃぃぃぃっ!」
「待ってよー。そんな全速力で照れを表現しなくても」
「照れてるんじゃありません! とにかく来ないで来ないで来ないでぇー!!」
「ふふっ、嫌がってる顔もかわいいなぁ遼平君」
「いやーサディストー!!」
「あはは。ねぇねぇキスさせてよー。ディープ1回でいいからー。そしたらもう追いかけたりしないからー」
「うるっせぇ何がディープだッ!! 図々しいんですよアンタ! それにオレは男!!」
「真実の愛に性別と年齢は関係ないんだよ遼平君!」
「なんでそこだけ真顔なんですかー!! ぎゃあああああ助けてぇぇ!!」
そう。
オレは二学期が始まった直後、この変態野郎に目を付けられてしまったのだ。
我が校のボス…つまりは生徒会長である、この先輩。
3年A組・渡瀬透に!
「おー、また今日もやってんのかー」
「渡瀬ぇー、ほどほどにしておいてやれよー」
「あはははははは、やだ☆」
こっちは全速力で逃げているというのに、渡瀬会長は廊下ですれ違う人間とお喋りをする余裕まであるらしい。
恐ろしい人だ。
ルックスは見るからに優男で(確かに美形だし王子様みたいな外見してるけど!)、あまりスポーツができそうなタイプには見えないのに、この体力はなかなか侮れない。
ってゆーか、息1つ乱れてないのはどう考えてもおかしいだろ!
王子キャラは汗すらかかないとでも言うのか!!?
「くっそおおおおおおッ!!」
オレが階段を二段とばしで駆け上がれば、
「なんの、軽い軽い♪」
渡瀬会長は三段とばしで駆け上がる。しかも笑顔で。
…。
…。
…。
…怖っ!!!
「あーもうなんで毎日毎日毎日毎日オレのことばっか付け回すんですかー!」
「遼平君が可愛いからに決まってるだろう!」
「うわぁだからなんでそういうこと言うときだけ真顔になるんですかギャー!!」
渡瀬会長がスピードアップした。
オレも慌てて足を動かし、ついでに周囲を見回して、校内にどこか隠れる場所がないかと探した。
…だめだ。
周り中に見物人がいて(お前らオレの苦労をちょっとは理解してくれ!)、隠れようにも隠れられない。
なにせ相手はあの渡瀬生徒会長。
そこらの見物人を脅してオレの隠れ場所を聞き出すくらい笑顔でやってのけるだろう。
ってか、あの人! オレの後方5メートルにぴったりくっついてきてるし!
どっちにしたって隠れてるヒマなんか無い!!
「うわーんッ! どう考えたってオカシイでしょ何でスポーツ特待生と同じスピードで走れるんですかアンター!!」
「だってボク生徒会長だもん♪」
「いい歳した男子高校生が『だもん』とか言わないでくださいしかも音符マーク付きで!!」
キキキキキキー!
まるで自動車の急ブレーキみたいな音をたてながらオレは角を曲がる。
…上履きの底がこすれて嫌なんだよな、これ。でもこうしないとタイムロスして先輩に捕まっちゃうし。
ああもうなんでオレがこんな目に!
「それは君が可愛いから」
「人の心の中を勝手に読まないでください!!」
怖いよホント!
オレは先ほど二段とばしで上った階段を、今度は三段とばしで駆け下りた。
こうなったら、また部室へ避難するしかない。
オレはそう思い、一階目指して全力で階段を下りていく。
なぜだか知らないが渡瀬会長は、オレが部室に入るといつも追いかけるのをやめてしまうのだ。やはり生徒会長として、下級生の部活動を邪魔しては悪いと思っているのか。…っていうか、それなら最初っから追いかける行為自体をやめてほしいのだが。
まあ言ったところで聞いてくれるような人ではなかったから、オレはとりあえず泣きながら部室を目指して全力疾走。
(だって本当に怖すぎるんだもん後ろのあの人!)
部室棟は一階の東側。
よし、あとちょっとだ。頑張れオレ! スポーツ特待生が体力勝負で、変態生徒会長なんかに負けてたまるか!
ここまできたらもう意地だ。もちろん恐怖もあったけど。とにかく絶対逃げ切ってやる!とオレは思っていた。
それに階段三段とばしで時間を稼げたはずだから、多分だいぶ距離を空けることが出来たはず…。
そう思ってオレがちらっと後ろを振り向くと。
「てぃやっ」
ひらり、スタッ。
変なかけ声と共に、渡瀬会長が降ってきた。
見物していた生徒達がどよめき、中には拍手をする者もいる。
さすが渡瀬会長、着地のときも見事なフォーム――――…じゃなくて!
「あんたは忍者か軽業師かッ!?」
「違う、王子様だ!」
「だからそこだけ真顔で言うなってばー!! ちくしょう頭沸いてんのかこの変態ドS!!」
うわーん!
負けたらディープキス…いや、それ以上のことをされてしまう。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ絶対に嫌だ!
オレは普通にかわいい女の子が好きなんだー!!
「逃がさないよ…遼平♪」
とうとう呼び捨て!
まるで獲物を追うチーター…ネズミを追っかける猫…。
怖すぎて泣きたくなる(いやもう泣いてるんだけど!)。
とにかく、叫ぶべきはただこの一言。
「うっ…神様の…ばかぁあああああああッ!!」
どうしてどうして。渡瀬透みたいな人間をこの世に誕生させてしまったんですか!
そんなことを言ったって何の意味もない。
涙をちょちょ切れさせながら図書室の前を駆け抜け、資料室を横切り、職員室に助けを求め即行で断られ逃げだし、そして廊下ですれ違った同じ部活の先輩に助けを求めコンマ005秒で断られ逃げだし、オレは息を切らしながら、ひたすら走り続けた。
多分、もうマラソン選手並の走りっぷり。
あははははは、体力作りになって良かったじゃん、なんて。
そんなことをぬかす阿呆がいたら、オレは絶対ぶん殴ってやる。
結局。
オレが渡瀬会長から逃げ切れたのはそれから10分後。
部活が始まる、ぎりぎり5分前のことでした…。
「あー楽しかった。また明日もやろうね、遼平」
「嫌だぁぁぁぁああぁあ!!」
この鬼悪魔。
爽やかな笑顔でなんてこと言うのだろう、この人は。
「ってか生徒会長なら生徒会の仕事してください」
「だってぇ、副会長がやってくれるって言うから…」
「副会長のアホー!!!」
周囲の人間は渡瀬会長を甘やかしすぎる。
オレの受難は、多分、この人が卒業するまで終わりそうになかった。
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