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こわい話
作:水音灯


 

 電気もコタツも、もう三日はつけっぱなしだった。
 電気代がもったいない、と思いながらコタツに潜り込む。
 身体を丸めて肩を抱いた。
 眠りたいわけじゃない。
 眠ったら、悪夢を見る。朝が来てしまう。

 何か、食べなければ。
 ぼんやりと思いながらも、指一本すら動かす気になれなかった。
 お腹が空いていない。
 
 動いていないのだからお腹がすかないのも仕方がない、と医者に言われたのは昨日のことだった。
 そんなことは分かりきっていて、動いて食べる以外の改善案がないことも分かりきっていて。
 妙にイラついた気分のまま、渡された睡眠薬を薬箱に投げ入れたのも昨日のことだ。

 もう、半年分の薬が溜まっている。
 規則正しく眠ってしまう身体には不必要極まりないものなのだから、溜まって当たり前だと思う。

 眼を閉じることもできなくて、抱いた右手で左肩を優しく叩く。
 規則正しいリズムに、少しだけホッとした。
 ついでに、炊飯器に一昨日から保温されてるご飯のことを思い出してしまって、気が滅入ってきた。

 冷蔵庫の中には、米も野菜も調味料も揃っている。
 鍋だって洗ってあるしご飯は三日前から炊けている。
 あとは、起き上がっておかずを作って食べるだけだ。
 頭の中に思い描くことなら簡単なのに、まったくもって実現できそうにない。
 じゃあ惣菜でも買ってくればよかったのに。

 今日だって買い物に行ったのだ。
 二時間以上、かごを持って食料品コーナーを彷徨って、結局何一つ買わずに帰ってきた。
 恐くて、買えなかった。

 食べなければ、と思いながら、コタツの感触だけを享受する。
 遠からず眠ってしまうだろう自分は、また悪夢を見て、そしてギリギリの時間に眼を開けて、そうして嚥下の仕方を忘れかけた口にビタミンの錠剤を押し込んで部屋を出るのだろう。
 もう三日は続いているその光景が妙にリアルに浮かんで、途方もなく馬鹿馬鹿しいと思えた。

 薄いコタツ布団越しに透ける、蛍光灯の光が恐い。
 唇を噛んでも何の感覚もなく、ただ冷たいばかりの指先をギュッと握った。
 震えたのは、寒いせいだと思いたかった。
 暖かいコタツの中で、それでも寒いと感じる自分がおかしくて、笑った。

 ヒーローが欲しい。
 この安全基地から引きずりだして殴ってくれるような。
 それとも手ずから作ったお粥を、口元まで運んでくれるような。

 どっちが理想形だろう、と思いながら笑って。
 けれど本当は泣いていた。
 止め方を忘れた涙が、邪魔で邪魔で仕方がない。
 こんな逃避の塊が自分かと思うと、情けなくて余計に笑えた。

 ヒーローは来ない。

 それくらい、知ってる。

 知っていて、尚。
 何もしたくないと思う自分は、いっそ消えてしまえばいいと思って。
 それでも、消えたくない、と思って。

 そのぐちゃぐちゃさに嫌気がさして、眼を閉じる。
 光はもう見えない。それに酷く安心した。
 
 

 瞬間、とても簡単なことに気づく。
 恐いのは、食べることではなかったし、眠ることでもなかった。
 

 自分が生きていることが、恐くてならなかったのだ。



はじめまして。もしくは、お久しぶりです。
水音灯です。
あなたがそこに居てくださることが嬉しいです。
この作品を読んでくださって、ありがとうございます。
ご感想・ご批評、誤字・脱字のご指摘などいただけると嬉しいです。
どうぞよろしくお願いします。

◇◇◇◇◇◇◇◇
 ヒーローは来ないけれど。
 明日の朝の彼女が、いつもより少し早く起きてお粥を作れたらいいなぁ、と思います。













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