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我が輩は裏方ハザード
作者:アンデッド
コメディです。
シリアスなバイオハザードを期待して読むと馬鹿馬鹿しいので損します。
バイオハザードを知らない人でも一応読める様にはしています。
興味がある方は是非ゲームの『バイオハザード』シリーズをやってみて下さい。

夏目漱石さんの有名な小説『吾輩は猫である』も一部オマージュしてます。
 我が輩は『ケルベロス』である。特に名前はない。
 ――少し前まで、我が輩は囚われの身であった。虐げられ、苦渋の日々を送っていた。
 だが、今は違っている。
 まるで生命の神秘を象徴しているかのように鬱蒼と木々達が生い茂り、全ての存在を覆い尽くしているこの森。その母なる手の内に、今こうして我が輩はいるのだ。
 森を気ままに闊歩して、自由を満喫している。行こうと思えばどこへだって行けるのだ。
 こぼれ落ちる陽光を受け悠々と風を切り、土を踏みしめ自由に歩く。なんと気持ちが良いことか。
 自尊に満ち満ちていく我が輩は、様々な事柄に思いを馳せていた。

 我が輩が生まれた場所、それがあめりか合衆国にある『ラクーンシティ』という街の郊外。『アークレイ山地』の『ラクーンフォレスト』にある研究所だった。
 表向きは古びた洋館として、森林地帯の中に埋まるようにひっそりと立っている。
 ――けるべろすというのは、いわゆる『コードネーム』というやつである。だからけるべろすというのが、我が輩につけられた固有の名前というわけではない。
 人間共がこーどねーむをつけて、勝手に我々のことをそう呼んでいるのだ。
 正式には、人間共は我々を『MA-39 ケルベロス』と呼んでいた。
 元々我々は、犬科の犬という名前の生物だった。その中でもどーべるまん種と呼ばれる、とても強くて賢い優秀な種類の犬であった。
 そんな素晴らしい犬をわざわざ素体のべーすとして選び出し、実験体に対して『T』という名のうぃるすを意図的に投与して生まれたのが――けるべろすという名の新たな存在である。
 人間共は我々を、軍事利用における有機生命体兵器の一環として生み出した。他にも様々な有機生命体兵器を作り出しているようだった。
 ちーうぃるす自体に関しては、実は我が輩もよくは知らない。そしてちーうぃるすの元締めである『アンブレラ』という会社の人間共も、ちーうぃるすのことを完全には理解出来ていないようだった。
 そんなことを考えている内に――いつの間にか、我が輩は古びた洋館の前に辿り着いていた。
 我が輩の自由を奪っていた忌まわしい場所である。
 だが最近は、自らの自由意思でここに足を運んでいた。とある目的があるからだ。
 研究所である洋館は森の中にひっそり立てられていただけに、部外者に対して建物自体は目につき難かった。
 しかし、鼻の効く我が輩にはそんなことも無関係である。森にいれば嫌でも洋館の匂いが漂ってくる。そしてその懐かしい臭気を、我が輩が忘れることもない。
 目的の場所に向かうため、再びとぼとぼと歩き出す。
 陽も落ち、深き森に闇の戸張が降り始めていた。

 洋館にいた頃、我が輩は狭く汚い檻の中に一日中閉じ込められていた。
 それはもう酷いものだった。ろくに散歩にも連れて行ってもらえず、食事さえもまともに与えられない日々が続いた。
 正に動物虐待。いや、実に犬権侵害である。
 同時に、他には何もすることがなかったので、我が輩は考えることと様々な知識を得た。
 知識といっても、そのほとんどは飼育係からの盗み聞きや、又聞きではあったが。
 その飼育係の男も、実に阿呆で不快な人間であった。
 遂には三日間ほども食事にありつけない日が続いた。
 さすがの我が輩も、我慢と空腹の限界を越えていた。そうなるともはや死活問題だ。
 だから阿呆がいない間に、我が輩を狭い世界に閉じ込めていた元凶である――その檻の格子や網に喰らいつき、死力を尽くしてこれを噛みちぎり引きちぎり、そして見事喰い破って、死の檻からなんとか脱出を果たしたのだ。
 檻から逃げ出したあとのことは、余り覚えてはいない。
 どこをどう走ったのか、いつの間にか深い森の中を彷徨っていた。
 ともあれ、そうして我が輩は自由を勝ち得たのだ。
 我が輩はもはや、ふりーだむであった。今やふりーだむが我が物顔で歩いている、それが我が輩であった。
 そのあとも様々なものを目にして、知識を得ていった。
 それに檻から逃げ出したのは我が輩だけではなかったようだ。実験的に森に放たれている者もいた。
 最近では、当の洋館に何事かただならぬ異変が起こったらしい。人間ではなくなった研究員共も多く目にするようになった。
 多分ちーうぃるすに接触した結果であろう。
 我々と似てはいるが、知能は明らかに低下しており、動きも鈍重になっていた。
 まあ元々下衆で下劣な奴らには、それがお似合いだ。
 時には洋館付近で、まるで類人猿の皮を剥がしたような、緑色の皮膚をしている生き物を見ることもあった。
 もちろん遠目で見ても危険な存在であるのは明白だったので、無闇に近づきはしなかった。君子危うきに近寄らず、というやつだ。
 ――そういえば、あの飼育係はどうしているのだろう。
 この様子では、多分同じように奴らのお仲間入りをしているのではないだろうか。
 いい気味である。
 しかしもしも、我が輩があの阿呆を見つけることがあれば……。真っ先にその喉仏に喰らいつき、即座に八つ裂きにして地獄の苦しみを与えた上で、じっくりあの世へ送ってやろう。
 そうすれば、あの阿呆もあの世で幸せな日々を送れることだろう。

 我が輩はゆっくりと土砂を踏みしめながら、洋館全体から発せられている匂いに鼻を向けた。
 今や外からでも、館自体から独特の臭気が発せられているのが解る。
 様々な匂いが混じり合ってはいるが、その中でも絶対に隠し通すことの出来ない強い香りがあった。
 それは腐敗臭というやつだ。館全てを包み込む腐臭。風により、どこからともなく漂う死臭。
 香りを味わうかのようにして、我が輩は思い切り鼻の奥に空気を送り込む。
 そのなんたる甘美な芳香の全て、素晴らしい刺激か。
 匂いを嗅ぐのに夢中になって立ち止まっていた我が輩は、館の外観を横目にしながらそう思った。

 ――洋館の顔である優美な正面扉。その先の屋内には、壮観で巨大な『玄関ホール』がある。
 爛々と光を灯すしゃんでりあが、二階ふろあへと続く大階段や、各々に拠をなしている家具などを区別なく明るく照らしているのだ。
 玄関ほーるには迷路の入り口を思わせるいくつもの扉がある。一階を右手の壁沿いに行けば、突き当たりに扉を挟んで一つの部屋があった。
 薄暗いらいてぃんぐの中、人間共が美術品とかいうくだらない物を飾ったり、がさつに保管してある部屋だ。
 その部屋からまた扉を挟んで更に東へ歩を進めると、館の東部の壁に面した形で、北へと延びる逆L字形の廊下があった。
 我が輩の目的地は、そこなのだ。正確には、屋外にいるので廊下の外壁がある場所だ。
 我が輩は館の正面から外側を回るようにして、廊下がある方へと確実に足を運んでいた。
 もうすっかり辺りは暗くなっていて、闇夜の静寂とどこかの虫の鳴き声が同時に耳を突いてくる。

 何事もなく目的地に辿り着くと、我が輩は辺りを注意深く見回した。
 ここらは館の外庭の様相を呈していて、周りには刈られることのない雑草が所狭しと繁殖している。
 所々には我が輩の身の丈よりも高い植物、何の植物かは定かではないが、それらが不気味に生えていたりもしていた。
 廊下にはいくつもの『ガラス窓』があり、外側からでも遠目であれば中を少し伺い知ることもできた。
 廊下の幅は、大体人間五人分ほどの広さがある。壁には、これまた趣味の悪い絵画とかいう物が飾ってある。
 そうして廊下を確認したが、どうやらまだ来てはいないようだ。
 我が輩は、少し距離を置いて座り込んだ。あくまでいつでも動けるように気は配っている。
 準備は整った。あとは待つばかりだ――。

 こうして我が輩は毎日ここであることをするのが日課になっていた。
 あることをするその相手とは、最近館を騒がせている侵入者達である。
 彼らがこの逆L字形の廊下を通る時、我が輩が突然目の前に現れてやるのだ。その時の彼らのあの表情といったらもう……、最高に堪らない。
 それにあの音、我が輩はあの時のあの音も聞きたいのだ。
 そういう刺激を求めて、毎晩我が輩はここに来て、彼らが訪れるのを暫く待っているのである。

 そうしている内に、廊下の西側の『ドア』が開く音、閉まる音が我が輩の鋭い耳に届いた。
 何者かの気配も感じる……。
 侵入者が廊下に現れたのだ。
 遂にその時が、来たのである――。
 我が輩は立ち上がると、更に助走距離を稼いだ。
 意を決して一気に駆け出す。
 身体が空気を裂き、四肢が地を蹴る。
 素晴らしいまでのすぴーど。
 力がみなぎり、全身の筋肉と神経が華麗なる走行ただ一点に集中している。
 加速度があがる。
 我が輩の視点は、目標物である窓を完全に捉えていた。
 もうすぐだ。
 もうすぐいつものあの音が聞ける。
 さあ飛ぶのだ。
 飛び込むのだ。
 さぷらいーずに向かって。
 大いなる自由に向かって。
 我が輩は、栄光を目指して、空高くじゃんぷする――。
 そして廊下の窓に向かって、弾丸よろしく飛び込んだ。



 ぱりーん!



自意識過剰で尊大気味、しかし自由で無邪気な「彼」の、奇妙で小さな冒険は如何だったでしょうか。
その後の「彼」がどうなったかは、ゲーム本編で確かめてみて下さい。
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