slippage
さて帰路。
幸市と正史は並んで並木道を歩いていた。
正史「なあなあ?本当に『あれ』って何?」
『あれ』とは言わずもな、先程のボールの瞬間移動のこと。
幸市「・・・その質問は、16.2回目だ。」
正史「『.2』って何だ?」
幸市「俺が一回殴って言い損ねた分だ。」
正史「ああ・・・成程。」
幸市「納得しちゃったよこの人・・・」
会話は少しずつ、しかし確実にずれていく。
正史「なあなあ?本当に『あれ』って何?」
その流れを、正史が強引に引き戻す。
幸市「何度も言っている事だが、本当にわからん。わかっているのは、あの時は『意識が飛ぶ寸前』だったってことだけだ。」
正史「自身の身に危険が迫っていると、普段の五倍の力が出ると言うからな・・・『火事場のクソ力』ってとこか・・・」
幸市「馬鹿だな・・・」
正史「何ォオ!!?」
会話の路線はずれて行く。
もう、正史も戻そうとはしなかった。
正史「っと、ここでさよならだな。」
幸市「そのようだ。じゃあな。」
正史「おぅ。また明日な!」
そう言って別れた。
幸市も正史もしっかりと覚えている。
一ヵ月後に、『甲子園を目指すべくあらゆる高校球児が力を比べ合う大会』があるということを。
そして、幸市も正史も忘れていた。
二週間後に、学生である以上決して避けられぬ夏休み前の関門が待ち受けていることを。 |