trouble
『戸田 幸市』は悩んでいた。
五月中旬と言えば、学生である以上決して避けれぬ最初の難関が待ち受けているからである。
平たく言えば、“定期試験”のことだ。
苦労に次ぐ苦労の末、ギリギリで高校二年生に進学できた幸市にとって、ここを落とすわけにはいかないのである。
またしても赤点三昧になろうものなら、二年生になって、いきなり進学のピンチを迎えることになってしまう。
かと言って、勉強などしない。
“べんきょう”の“べ”の字を見るだけで失神しそうになる幸市は、まさに学生課業の大半を睡眠に当てているわけである。
それではピンチになるのも『当然のこと』と言える。
普段から『何とかなる』で通してきた幸市が真剣に危機を自覚したのは、翌日に試験を控えた五月十七日の午後八時のことだった。
幸市「やばいよやばいよやばいよ・・・」
机に向かい、ひたすらに“やばいよ”を連呼する。
現実からの逃避の典型的な手段である。
一応教科書などを開いてみるものの、そこに描いてある『奇怪な図形』の意味がさっぱりわからない。
ちなみに、幸市が『奇怪な図形』と呼んだのは、三角比の図形のことで、簡単に言えば『サイン』『コサイン』『タンジェント』で有名な“あれ”である。
確かに難しい単元ではあるかもしれないが、図形は『奇怪』ではない。
なぜなら、幸市が開いたページに描いてあったのは、三角形だけなのだから・・・
このことからも、幸市の成績の度が知れるというものである。
結局、悩み抜いた末の答えは、
「何とかなるさ!!」
という単純なものだった。 |