僕は殺される
死を僕は恐れている。死んだ後にどうなってしまうのか、ということではない。天国か地獄のどちらかへ自動的に向かうのか、別の人間となって生まれ変わるのかはわからないし、証拠が無いので問題外だ。
僕が恐れているのは死ぬ時のことだ。僕の予想では、殺されるのではないかと思っている。殺すのは、僕以外の誰かだ。その人物について僕は何も知らないし、何も思えない。それが逆に怖い。これを聞いた人は、単なる妄想だと言って笑うだろう。だが、冗談のつもりで言っていない。しかし、証拠も無い。死んだ後にどうなるのか、という仮説には疑いの目を向けているのに、死ぬ時はどうなるのか、ということは妄想と言っても過言ではないのに信じている。異常だ、と僕も思っている。
そして何故か、僕はどういう風に殺されるのか、予想ができている。まるで予知しているかのようだ。
静かな夜、僕は左も右も住宅がある道を一人で歩いていた。その目的はわからない。遠くから、誰かが僕に向かってくるように歩いているのが見えた。暗いので、特徴がわからない。そして、僕と相手の距離が一メートルくらいに近づく。その時に男性であることがわかった。彼は突然、足を止めた。顔を僕のほうに向ける。僕に何かあるのだろうか、と思い、僕も足を止めて、彼を見た。黒い髪で、黒い服を着ている。年齢は十代後半から二十代前半だろう。彼は無表情で、僕を見つめている。数秒くらいの沈黙が流れると、彼は少しだけ口を開いて、何かを言った。右手にナイフを持っていることを確認した。
僕は我に返る。しかし、目の前は真っ暗だった。僕は部屋の電気をつけた。急に明るくなり、目が光を拒否するかのように閉じようとしている。目を開けたり閉めたりしながら、時計を見た。時刻は午前零時二十分。僕がさっき見たのは、夢だったのだろうか。それとも、妄想だったのだろうか。だが、僕は一度眠りに落ちると、朝まで目が開くことはない。つまり、妄想だったのだ。まあ、どちらでも良かったのだが。
することが特に無かったので、電気を消した。寝ようと思い、僕はベッドに戻る。そして、布団に抱きついた。そして、目を力を少し込めて閉じる。何かを恐れ、何かから逃げるように。
*
静かな夜、僕は左も右も住宅がある道を一人で歩いていた。コンビニへ向かっているのだ。その時に、黒い髪で、黒い服を着て、無表情な男性と出会った。彼の周りも、黒く見えるのは気のせいだろうか。数秒の沈黙が流れると、彼は少し口を開いて、細い目で僕を見つめながら呟いた。彼の目が異常に気になり、何を言っているのか、聞き忘れてしまった。何を言ったのか訊いてみたかったが、それができる雰囲気ではなかった。
そのときに、彼の右手に持っているナイフが僕の視界に飛び込んできた。怖くなり、体温が下がったような錯覚に陥る。
そして、目の前が真っ暗になる。……期待していなかったが、光は現れなかった。
終わり方が微妙な感じになりました。会話文もありません。これは一人の男子の妄想で物語が進んでいますが、最後、同じような文章が出てきています。あれは何だったのか? 単なる妄想か、夢か、それとも……。
死後よりも死ぬ寸前の方が気になる僕が、歌に身を任せて一気に書いた短編です。執筆中の記憶がありません。探しても見つかりません。
だから、この作品はある意味怖いです。面白さは置いておくとして、僕の中では謎です。でも、短編というのはそういうことかもしれませんね。