灯2:視線。
『私なんて……乙女なんかじゃないよ。体はそうでも……心は乙女じゃない。乙女じゃないよぉ……』
(何で村崎さんはあんなことを……誰かと話してた訳でもないし……)
僕ー矢村進司は悩んでいた。
好きな人―村崎灯さんのことですーがあんなことを呟いてたから……。
「ま、まさか体は女性で心は男とかじゃ……」
自分の考えが嫌になった。
「絶対に違う意味があるんだ。明日聞いてみよ……」
上手く話せるか心配だったけど、
聞いてみることにした。
「よし、さっさと宿題終わらせちまおうっと。」
僕は宿題と格闘を始めた。
ーその頃ー
「灯、ご飯出来たわよー」
一階からする母の声。
「はぁい。」
返事しないと上がって来ちゃうから、
すぐに返事した。
『ご飯なんてインスタントで良いのになぁ……』
『駄目よ。せっかく帰って来てるんだから。』
『だけどさぁ……』
『だけども何もないわよ。作るのは面倒だって言ってたけど、食べるのは面倒だって言ってなかったじゃない。』
『そりゃそうだけど……』
『そ・れ・に。母さんの料理好きでしょ?』
『………………うん』
私は素直に一階に下りた。
「灯、ちゃんと普段食べてないでしょ。」
「ちゃ、ちゃんと食べてるって……」
「肌。荒れてるわよ。」
『村崎さんちゃんと食べないから……』
「……はい。」
「ごめんね、灯。いつも出張ばかりで……。本当は母さんが作ってあげなきゃいけないのに、たまにしか作ってあげられなくて……」
「いいよ、母さん。別に気にしてないから。たまにでも帰って来てくれるんだから、それでいいよ。」
「灯……」
「それより母さん、早くご飯頂戴。お腹減った〜」
「そうね。今日はシチューよ♪」
母さんの前では出来るだけ明るく振る舞う。
母さんを心配させたくないから。
(でも……)
学校でのことを思い出す。
『私なんて……乙女なんかじゃないよ。体はそうでも……心は乙女じゃない。乙女じゃないよぉ……』
(私は、乙女じゃない。私は―)
「灯?どうしたの?」
「ううん、何でもないよ♪」
「そ、そう?」
「うん♪じゃあ手を合わせて〜」
手を合わせる私と母。
「「いっただっきまーす!」」
どこにでもいる明るい少女を装う私。
(でも……)
本当の私を好きになってくれる人なんて、
本当の私を受け入れてくれる人なんて、
―本当の私『達』を受け入れてくれる人なんて―
(いる訳、ないよね。)そう、いないに決まってる。
(いる訳がー)
―その頃、矢村進司は―
「ハックション!」
くしゃみしていた。
「誰か、噂してんのかなー。」
さぁ。
「っとそれより最後の問題やらなきゃ。」
まだ終わってなかったのか。
「ご飯前にすれば良かった……」
成程。
―灯達はー
「やっぱ風呂はいいな〜」
入浴中だったらしい。
「灯〜入るわよ〜」
「え?ま、待って母さん!」
「何で?」
「と、とにかく駄目〜」
ガラガラッ
「駄目って言ったじゃない〜」
「まぁまぁ。女同士、照れなくてもいいじゃないの。裸の会話って奴?」
「わ、私に聞かれても……」
『村崎さんの母さん、相変わらず風呂だと明るくなるわね〜』
『並村さん!』
「灯、彼女出来た?」
「母さん!そ、そんな趣味ないよぅ……」
「じゃあ彼氏は?」
「いないよ。」
「じゃあ好きな人は?」
「いないってば。」
母といる間は少しは私も明るくなる気がした。
―矢村進司は―
「進司、彼女出来たか?」
「お、親父〜。」
「どっちだ?」
「いません。」
普通銭湯で聞くか?
閉めてるとはいえ響くのに。
「好きな人は?」
「………………」
「いるんだな?」
こ、この親父は〜
「そうか。良かったな。青春しとるみたいで良かった。」
「親父……」
「ま、後悔せんように頑張れや。」
そう言いながら肩を軽く叩くと、
親父は男湯から出ていった。
なんだか、親父がかっこよく見えた。
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