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ツキノセ 作者:
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独白

ご閲覧ありがとうございます。
先程もう一つの作品の最新話として投稿してしまいましたが、正しくはこの作品の最新話です。

 私は月之世家の次女として生まれました。
 月之世家は投資家の家系です。考えることがたくさんあります。
 でも私は頭があまり良くありませんでした。しかも内気で泣き虫で、いつも姉や使用人さんたちに迷惑を掛けていました。
 運動も苦手、コミュニケーションも下手くそ、勉強も不出来。
 好きなことと言えば、絵本を描くことくらい。
 絵本の中では悲しいことも辛いこともありません。私はみんなが幸せになるお話を描くのが好きでした。それを姉と母は好きだと言ってくれて、私はとても嬉しかったです。
 父はいつも冷たい目をしていましたが、それでも私は幸せでした。
 でも、そんな幸せもある日突然壊れてしまいました。
 六年前のある日、母が帰ってこなくなって、私はたくさん泣きました。
 そのときはずっと姉が慰めてくれていました。姉も、お姉ちゃんもきっと不安で不安でしょうがなかったのに。ずっと抱き締めてくれていました。
 その次の日から、私たちは母のことを忘れました。
 大好きだった母を忘れてしまいました。
 父がそうさせたのです。五和理己さんという人を使って。
 理己さんは超能力者でした。姉の理世さんと一緒に外国のどこかで酷い実験に巻き込まれてそうなってしまったみたいです。
 姉の理世さんは他人の心を操る力を持っていました。理己さんもそれよりはちょっと弱めだけど同じような力を持っていて、その力で、私たちは母の記憶を消されました。これは後に書くつもりですが、父が自分の研究を隠す為です。

 それから六年後、私は唐突にそのときのことを思い出しました。これを書いている数週間前のことです。
 不思議な感覚でした。昨日の晩ごはんの内容を忘れていたのに、ふと思い出すときの感覚が、何度も何度も連続で起きているようなイメージです。
 私はパニックになりました。私を生んで亡くなったと思っていた母が実は六年前まで一緒に暮らしていて、今も行方不明になっていると分かってしまったのですから。
 私はすぐに部屋を出て、姉のところへ向かおうとしました。
 そのときすれ違ったメイドさんを見たとき、また私に不思議なことが起こりました。
 そのメイドさんが生まれてから現在に至るまで、その全てを、私は夢を見ているような感覚で体験したのです。気づいたときには、もとの場所に戻っていました。タイムスリップのような感じでしたが、その夢のようなものの中で私は動くことができなかったので、きっとそのメイドさんの人生を「ただ見ていた」のだと思います。人生の疑似体験といえば分かりやすいでしょうか。
 時間にして一瞬でしたが、私は二十年以上夢を見ていたような気分で、既にパニックは治まっていました。
 私は姉に会いに行くのを止めて、他の使用人さんにも会いに行きました。すると先程のように、人生の疑似体験が始まりました。
 屋敷中の人とすれ違い終わる頃には、もう私は何十年も生きている気分でした。そして最後に父の人生を見たとき、信じれないような出来事がたくさん起きていたことを知りました。

 父は母がいなくなる数年前から超能力者を作り出す研究をしていて、その過程で五和理世さん、理己さんの二人を協力者としてスカウトしていたこと。
 その研究のことを母が察して、父を止めようとしていたこと。
 母が父の研究所に訪れた日、被験者の人が暴走して、理世さんと母が重傷を負って意識不明になっていたこと。
 それを隠す為に、月之世のお屋敷にいる使用人さんたち全員、そして私たち姉妹に「月之世祈は月之世廻を産んだときに死んでしまった」という記憶を植え付けたこと。
 父の考えは、私にはまったく分かりませんでした。
 父は母のことを「愛しい奥さん」とは思っていません。どちらかというと「ライバル」のように思っていたみたいです。
 高校で自分よりも成績が良いのに、何故か授業にはほとんど出ない。そんな母を父は不愉快に思っていて、よく言い掛かりやちょっかいを掛けていました。でも、口論は母の方が上手だったので、父はいつも言い負かされていました。父は負けず嫌いで事あるごとに母に絡んでいて、いつの間にか「自分と対等に戦えるのは祈しかいない」と思うようになっていきました。
 どうして母がそんな父と結婚しようと思ったのかは分かりません。ですが、二人は夫婦になって、私たちが生まれました。でも父にとっては、娘ができること自体も人生経験の一つでしかなかったみたいです。
 それから母は私たちに付きっきりになり、父はそれが面白くなかったようで、どうにかしてまた母と何かで競い合いたいと思っていたみたいです。
 その結果が超能力の研究でした。きっかけは、理世さんたちがいた研究所が超能力者の開発に途中で失敗したことを知ったからです。
 空想の世界でしか存在しないと思われていた超能力者。それを自分の手で作り出し、管理する。こんなすごいことは自分しか成功させられない。だから祈もきっと興味を持つ。だって、子育てなんかよりずっと楽しいに決まっているのだから。
 それが、父の考えでした。でもその途中で母が意識不明になって、父の目的は「作った超能力者で母を治すこと」に変わりました。その過程で、多くの人が実験に耐えられず命を奪われています。

 私はたくさんの人の記憶を辿って、いろんな考えの人がいることを知りました。
 そうして、考えました。どうしたら父を止めることができるのか。
 父は私たちを愛していません。あの人が見ているのは母だけです。その母が意識を取り戻したら、いろんなことが解決するんじゃないか。そもそもどうやって母を治すのか。私に何ができるのか。
 何十年生きている気でも、私は私です。ドジで弱気で頭が悪いです。それでもたくさん考えました。
 父は私を超能力者にして、その力で母を治すつもりだったので、私は何も知らないふりをして父の言いなりになりました。
 ただ一人、超能力者になった後でも命を落とさず精神を保ったままでいる被験者。その子の能力は人の周りに防護壁を張るというものでした。そして、私の脳波はその子とよく似ているそうで、私が超能力者になったときには似たような力が発現するかもしれない。それが父の説明でした。
 きっと、怪我や病気を治す力が芽生えると思っていたのかもしれません。でも、そうじゃなかったら私は用無しです。また別の人が実験に巻き込まれてしまいます。だから、そのときの為の対策も考えました。もしかしたら死んじゃうかもしれないけど。
私はそれでも良いと思って、実験に協力しました。私の力で母が治る可能性があるならそうするべきだと思いました。母が戻ってくれば、父を止める方法も分かると思ったからです。
 難しい名前の薬を打たれて、気味の悪い画像をたくさん見て、吐きそうになる音声を聞かされました。父の考えだと、薬物中毒になった人に近い状態にすることで、超能力が発現しやすくなるそうです。実際、唯一の成功者だったみどりちゃんも同じことをされたそうです。
 そして、理己さんたちが受けた実験でも似たような状態になっていたみたいです。私は理世さんの記憶を見てないので詳しいことは分かりませんが、理己さんたちは何か怪しい宝石のようなものに触ることで超能力者になっていました。理己さんの周りにいた研究者の人たちはそれを「ルナキューブ」と呼んでいました。そのルナキューブが被験者の人たちに強烈な精神負荷を掛けていたみたいです。
 そのルナキューブという単語は、父の記憶の中にもありました。
 人類が初めて月面に着陸したとき、そこには人類が未だ見たことのない不思議なものがありました。地球には存在しない物質で構成された正六面体の謎の物体。それがルナキューブです。私では上手く説明できないので簡単に書くと、そのルナキューブの破片を持っていたのが理己さんたちのいた研究所で、その破片によって被験者の人たちは超能力者にされていたようです。これは父が持っている資料の中にあった情報です。その資料は今、父の研究所にあります。

 そして今、私は月之世家のお屋敷の自室にいます。土日は家に帰れるという話をされていたので、お姉ちゃんとたくさん遊んだ後です。ちっちゃいときに戻ったみたいで、とても安心しました。私はやっぱりお姉ちゃんが大好きです。
 お姉ちゃんに実験のことと注射のことを訊かれてしまって、少し困りました。本当は苦しい実験だけど、それを正直に話したら、きっとお姉ちゃんは私を助けようとします。それはだめです。ところどころをぼかして説明しました。でもお姉ちゃんはとっても頭が良いので、もしかしたらばれてるかも。
 でも、たとえばれても父がごまかすと思うので、きっとお姉ちゃんは研究所の場所を探すことはできません。

 ちょっと腕が疲れてきました。絵本と違って、こういうことを書き残すのはちょっぴり苦手です。

 今日はいいお天気です。天気の良い日は、お庭をお姉ちゃんとお散歩したことを思い出します。
 この家には思い出がいっぱいつまってます。楽しいことばかりじゃなかったけど、それでも、この家は私の居場所でした。大好きな人たちと大切な時間をたくさん過ごした場所でした。
 お部屋を見渡すと、私のおともだちがたくさんいます。この子たちのお世話をしてあげられなくなるのはちょっと寂しいです。
 でも、ずっと思っていました。
 私をずーっと守ってくれたお母さんとお姉ちゃんと、使用人の皆さん。
 そんな皆を、今度は私が守れるようになりたいって。いつか皆が困っているとき、私が皆を助けたいって。
 だから、私は一人で行きます。そして、母を治してきます。
 本当はいろんな人に真実を伝えようと思ったこともありました。でも、母以外をどうでもいいものと思っている父のことです。真相を知っていることがばれたら、皆に何をするか分かりません。お姉ちゃんたちを危険な目には絶対に遭わせたくないんです。
 でも不安な気持ちはやっぱりあるので、この絵本に内緒で書いて、不安な気持ちを何とか拭いたいと思います。未完成の絵本なんて誰も読まないから、この文章も読まれることはきっとないでしょう。
 この絵本はあえて未完成のままにしておいて、私が無事に帰ってこられたら続きを書こうと思います。
 でも、もし、もしも誰かがこれを読んでいたなら、私のお姉ちゃんに、月之世綴に伝えてほしいことがあります。

 私は幸せでした。お姉ちゃんと一緒の時間が私の一生の宝物です。いっぱい遊んでくれてありがとう。守ってくれてありがとう。大好きだよ。ずっと元気でいてね。あんまり無理しないでね。

 そう伝えてください。ほんとはもっといっぱい書きたいけど、書ききれなくなっちゃうので我慢です。
 それでは、私の日記はこれでおしまいです。書きたいことが上手くまとまらなくて変な文章になっちゃいました。絵本よりずっと難しいです。
 ここまで読んでくださってありがとうございました。

                  2013年 6月12日 月之世 廻


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