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ツキノセ 作者:
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不完全な日常 - 1

ご閲覧ありがとうございます。

 私には妹がいる。
 名前は廻。年齢は私の一つ下で、私と同じ赤みを帯びた白い髪が特徴的な子だ。廻はよく気が利く優しい子だった。私が疲労を隠しているときもすぐに気が付き、心が落ち着く温かい紅茶を淹れてくれた。
 廻は私を物知りだとよく褒めてくれたが、廻だって私の知らないことをたくさん知っている。趣味の少ない私からすれば、自分から様々な情報を取り入れようとする廻は私よりずっと可能性に溢れた人間だ。
 しかし、勉強においては私の方が"月之世家にとって望ましい"成績を修めている為、廻はつい最近まで父から疎まれていた。私はそれが納得できなくて何度も父に衝突したが、先日ようやく廻の才能が認められ、妹は現在絵の勉強の為に海外へ留学している。
 少し寂しくはなったが、数週間前にアルバイトとして入ってきた阿實鈴花という少女のお陰で多少は気が紛れている。最近元気がなかった執事の源次も、鈴花のお陰で少し活力を取り戻しつつあるようだ。
「おはようございます、綴お嬢様。ご朝食の準備が整いました」
 源次がいつものように朝食ができたことを伝えに来た。相変わらず歳を感じさせない、凛とした立ち振舞いである。
「おはよう源次。すぐに向かいます」
「……かしこまりました」
 気の所為だろうか。今、少しだけ間が空いたような。
「どうかしましたか」
「いえ、些細なことですので――」
「いいから」
 最近、こういう些細なことが気になってしまう。不快というわけではないのだが、何故か気持ちを誤魔化されると見過ごせないのだ。
「……以前は、須藤、とお呼びになられていた気がしたものですから」
「はぁ、そうだったかしら」
 記憶違いか、誰かと間違えているのではないだろうか。廻はずっと源次と呼んでいたし、私がわざわざ名字呼びをすることもない。以前、名字呼びにした方がきちんとした主感が出るかも、みたいなくだらない考えを持ったことはあったかもしれないが。
「いずれにせよ源次は源次だもの。今更須藤とは呼ばないわよ」
 私が苦笑しながらそう返すと、源次は「失礼致しました」と謝罪してその場を離れた。彼ももう少し朗らかに振る舞っても良いのではないだろうか。まぁ、あのドーベルマンを思わせる雰囲気が頼もしくもあるのだが。
「さて、と」
 私は小さく伸びをした。今日も一日が始まる。廻はきっと毎日夢に向かって頑張っているのだろう。私も胸を晴れる姉として毎日を有意義に過ごすとしよう。

「おはよう、綴」
「おはようございます、お父様」
 食堂にはいつも先に父がいる。以前は非常に気に食わない男だったが、廻に留学を提案したのは父だった。そのこともあり、今は多少なりとも上辺だけ敬意を払うことにしている。
「何だか顔色が優れないようですけど、大丈夫ですか」
「何?」
 父が少し目を丸くする。何? ではないだろう。普通なら気が付かない程度のものかもしれないが、嫌でもこうして毎日顔を合わせているのだ。それくらいは気付くに決まっている。
「研究がお忙しいのは分かりますけど、寝不足はお体に障りますよ」
「……はは、娘に気を遣わせてしまうとは」
 父は今、本来の仕事とは別に、新しい技術の研究に励んでいる。口外無用の為、どのような研究が行われているのかは教えてもらえないが、常に表情を崩さない父の顔に疲労が浮かんでいるということは、相応に複雑なものなのだということが分かる。
 父が体調を崩そうとも看病などする気はまったくないが、苦労するのは使用人たちだ。自分の健康管理くらいはしてもらはなくては。

 食後の紅茶を飲みながら、今廻はどうしているだろうかと考える。最早日課のようになってしまっているのだが、それは父にも原因がある。この人がもう少し面白い話でもしてくれれば、常に妹の身を案じてしまう癖も改善されるというのに。
「お父様」
「ん?」
 ということで、暇つぶしに私から話し掛けてみることにする。今日の天気が大雨になったら私の所為だ。
「そういえばお聞きしていませんでしたが、よく廻を留学させる気になられましたね。あれほど廻の才能を認めたがらなかったというのに」
 棘のある言い方になってしまうが、多少慣れたとはいえ、如何せんこの父親が気に食わないので仕方がない。
「ああ、この家の跡取りは一人で十分だからね」
「……結局疎ましい娘を追いやっただけということですか」
「歪曲した捉え方をしないで欲しい。綴は跡取りになる為に積極的に努力しているが、廻はあまり乗り気でなかったように思えた。ならば、廻には好きなように生きてもらった方が本人の為にも良い、という結論を出したまでだよ」
 なるほど。聞こえは良いが、要は跡取りに相応しい長女の私が優秀だから、廻がどう生きようが知ったことではないということか。補足を入れても結局はそういうことなのだろう。特に期待もしていなかったので怒りも湧いてこない。
 捻くれていると思われるかもしれないが、父が廻を大事に思っていないのは事実だ。つい最近まで廻の特技を『余分なもの』扱いしていた人間が、そんな簡単に心変わりなどする筈がないし、仮にそうなら今だって「ようやく廻の才能を理解できた」というニュアンスになるだろう。その言葉が出てこないということは、結局のところ本心から廻を想ってはいないのだ。
「そうですか、なら良いです」
「おっと、いつものようにお説教をされるものだと思っていたが」
「無意味な発言を繰り返すほど愚かではありませんから」
 悪気があるのかないのか、父はいつもこちらの神経を逆撫でするような発言をする。いちいちそれに腹を立てていたらきりがないので、それが始まったら深く考えずに相手をするのが懸命だ。
 そんなことに神経を使うより、もっと有意義なことに思考を傾けるべきである。
「あ、お昼はサンドイッチをお願いします。私の部屋まで持ってくるように」
「かしこまりました」
「……サンドイッチ?」
 ティーカップを下げに来た使用人にそう伝えると、父が少し怪訝そうな顔をした。今日は珍しいことが続くものだ。
「何か」
「私の記憶違いでなければ、綴が昼食にサンドイッチを食べているところを見たことはないのだが」
「ええ、この家ではありませんでしたね」
 なんだ、そんなことを気にしていたのか。この人も細かいことを気にするものだ。
「そうか、この間阿實君の家へ泊まったときか」
 特に肯定する必要性も感じなかったので、ご馳走様、とだけ告げて私は席を立つ。食堂から出る際、妙な父の視線を感じたが、それを追求したところで私の益になるようなことは何もないので気にしないことにした。

「……あ」
 食堂から出た直後、一人の使用人と目が合った。彼女は確か白百合といって、使用人歴は一番短い者のはずだ。
「おはようございます、綴お嬢様」
「おはよう白百合さん」
「あの、さん付けはなさらないでください」
 少し振る舞いがぎこちない印象を受ける。あまり会話をしたことがないので緊張している、というわけでもなさそうだ。どちらかというと、何か悩みがあって心ここに在らず、という表現が適切だろうか。
「そう、では白百合、何かありましたか?」
「え、あ、いえ……問題ありません。お気遣い恐れ入ります」
 どう見ても問題なしには見えないのだが、気軽に話せるような悩みでもないのだろう。それをむやみに引き出すほど私も無神経ではない。
「そうですか。何かあれば源次に伝えてください。彼は頼りになりますよ」
 一応、悩みの送り先に最適な人物を紹介してから、私は彼女と別れた。終始こちらの顔色を窺うような素振りをしていたように見えたので、きっと私は適任ではないのだろう。あれは警戒心を含んだ表情だ。なら彼女の心に土足で踏み込むような行為はするべきではない。
「廻なら、違ったのかな」
 部屋へ向かっている最中、不意にそんな独り言が口をついて出た。
 廻は他人に心を開かせるのが上手だった。あの性格の柔らかさに使用人も適度にリラックスし、廻と話す使用人は皆、無意識に心を許しているように見えた。
 そんな廻なら、浮かない顔をした白百合とも打ち解けられたかもしれない。
 最近、ひとつ分かったことがある。私は人付き合いが苦手なのだ。それは人見知りということではなく、人と『心からの付き合い』ができないという意味だ。
 父の仕事上、見知らぬ大人たちと接する機会はたくさんあった。そのお陰で『気に入られやすい振る舞い』や『初対面の人間と無難に会話する方法』は分かるのだが、そこから親しくなる術を私は持たない。向こうもそれ以上に踏み入ってくることはない。
 だから、鈴花のような人間は初めてだった。月之世家の娘であるうえに警戒心も強い私に、彼女は使用人以上の付き合いをしてくれようとした。今思い返せば分かる。他人に心を開かせる廻と、他人に積極的に歩み寄る鈴花。そんな二人だからこそ、あんなにも打ち解けるのが早かったのだろう。
「はぁ」
 溜息を一つして自室に入る。
 私はあの二人のようには振る舞えない。他人は何を考えているか分からないのに、無防備に歩み寄るというのはとても恐ろしいことだ。自分が絶望的な危機に陥ったとき、自らの危険も顧みず助けてくれる人間が果たしてどれほどいるだろうか。
 源次や使用人たちはとても頼りになる。月之世家の使用人になるということは、月之世の人間に絶対的な忠誠を誓うということであり、そのことを証明する書類を書かされる。まるで下僕や奴隷のようで私はそれを良く思っていないのだが、それのお陰で私の安全は保証されている。使用人は何があろうともまず月之世家の人間を第一に考えなければならないからだ。
 だが、それは信頼とは違う。そう決められているから従うのだ。もし自分と主が同時に命の危機に晒されたとき、命を投げ打って主を救う従者がどれほどいるだろう。見捨てたところで使用人を解雇されるだけだ。私なら自分を選ぶ。
 勿論源次からはそれ以上の思いやりが伝わってくるし、第二の父とさえ思ってもいる。しかし、どうしてもほんの少しの警戒心を捨てることができない。それは、源次が私の執事であると同時に、父の忠実な従者であるからかもしれない。父と私、どちらかしか助けられないとしたら、源次は――。
「……あ」
 ふと、私の机の上にある絵本に目が止まった。そういえば、昨日廻の部屋から持ってきたんだっけ。廻が一度も私に見せてくれなかった、唯一未完成の絵本。結局、完成させないままこの家を出てしまった。廻は何を思い、この絵本を描いていたのだろう。
 自分の無力さを嘆くひよこと、孤独になってしまったライオン。この後の展開はどうするつもりだったのだろうか。ひよこがライオンと打ち解けて、それがきっかけでライオンが周りとも馴染めるようになる……というのが王道だが、私でも思いつく展開ならとっくに完成しているはずだ。
 絵本を手に取り、ぱらぱらとめくる。可愛らしい絵が続いたのは最初だけで、あとは白紙のページが続くのみ。ここにどんな物語が紡がれる予定だったのか、本人がここにいない以上、今となっては分からない。
「……まぁ、このライオンも相当問題児よね」
 絵本を机の上に戻し、勉強の準備を整える。そろそろ柿崎先生が来る頃だ。気持ちを切り替えて、今日の学習に備えるとしよう。


 一日の勉強を終え、窓から外を見る。夕暮れというにはまだ早い空だ。そろそろあの子が来る時間になる。
「失礼します」
 軽いノックの後に、頭の二つの尻尾を揺らせながら少女が入ってきた。初めて会った頃と比べると、振る舞いに落ち着きが表れている。
「今日は少し早いのね、鈴花」
「はい、今日は午後の授業がなかったので」
 鈴花は明るい笑顔を向けてくる。私にこんな顔を向けてくれるのは廻とこの子だけだ。廻が出た後も鈴花がいてくれて本当に良かった。
「……そういえば、今日はメイドさんが一人いないですね」
「え、そうなの?」
 そんな話は聞いていない。誰かが臨時で休暇を貰っているなら源次が報告を忘れるはずはないのだが。
「ほら、あの大人びた雰囲気の……えーっと、名前何だったかな」
「西原なら今日は出番ではないけど」
「いえ西原さんじゃなくて、んー……そういえばずっと見かけてない気がする」
「長期休暇中の使用人なんて今はいないわよ」
「おかしいなぁ、源次さんといつも一緒にいた気がするんだけど」
「それ貴女でしょう」
「違うんですよぅ私よりもっと親しい……ああー」
 鈴花は難しい顔をして頭を抱えてしまった。来たばかりなのにどうしたというのだろうこの子は。ゲームのやり過ぎて寝不足なのではないだろうか。それとも父の柳一氏が中学生のとき持っていた『封印されし古の記憶』でも受け継いでしまったか。
「あーなんか馬鹿にした顔してるこの人!」
「あら言い掛かりはやめてほしいわ。それよりほら、持ってきてくれたんでしょう? あれ」
「あ、はいはい。……というか最近、ほんとにゲームやりに来てるだけなんだけど、良いのかなぁ」
「使用人の仕事は土日に教えてもらってるんだから良いじゃないの、ほらほら」
 私に催促され、鈴花は持ってきた鞄をテーブルに置いた。そして、ぱんぱんになっている鞄の中からあるものを取り出す。
「確かスーファミやりたいって言ってましたよね」
 そう、何年も前の世代のゲーム機だ。柳一氏から譲り受けたゲームがドット絵で出来ていた為、それと似たようなゲームをやってみたくなったのだ。あの点で表現される世界には、完成された美麗なグラフィックとはまた違った魅力がある。
「来たわね、早速やりましょう。どうすれば良いのかしら」
「……目を輝かせているところ申し訳ないんですけど、テレビがないと無理です。この部屋テレビないですよね」
「テレ、ビ」
「何ですかその初めて聞いた単語を復唱するロボットみたいな言い方」
「失礼ね。知ってるわよテレビ。確か使用人の休憩室に会ったわよね……よし」
「ああ良いですよ私源次さんに訊いてきますから! お嬢様がそういう運搬とかしたら駄目です!」
すっくと立ち上がった私を鈴花が慌てて制する。仕方ないので私はそのまま椅子に座り直した。
「……使用人みたいなこと言うのね」
「いや何だと思ってたんですか……ちょっと訊いてくるので、待っててくださいね。変に触って壊したら駄目ですよ」
 部屋を出る前にそんな忠告をして鈴花は退室した。まったく、私を幼児か何かと間違えているのではないだろうか。


 数分後、鈴花と液晶テレビを持った源次が扉から入ってきた。ノートパソコンの液晶部分より少し大きめだが、休憩室にあるテレビよりは大分小型だった。
「すみません、運んで貰っちゃって」
「この程度どうということはありません」
「ありがとう源次。そのテレビ、どうしたの?」
「物置部屋で眠っていたもので御座います。以前、休憩室のテレビを買い替えた際に不要になりまして」
 なるほど、そういうことなら誰にも迷惑を掛けることなくテレビを使うことができる。不要なものは取っておかない主義の父だが、何かの為に取っておいたのだろうか。何にせよ、物置部屋の肥やしになるくらいなら私が使わせてもらおう。
 源次はもう片方の手に抱えていた折りたたみ式のラックを手際よく組み立て、その上にテレビを置いた。こちらの求めている行動を言わずとも実行してくれる彼の気遣いにはいつも助けられる。
「鈴花さん、そちらは」
「あ、これは私が繋げるので大丈夫です。ありがとうございます」
「では、ごゆるりと」
 あとはゲーム機を繋げるだけの状態にしてくれた源次は、失礼致します、といつも通りの様子で仕事に戻った。
「繋げるの、私も手伝うわ。どうしたら良い?」
「え、良いですよ座ってて」
「……足手まとい?」
「いやそうじゃなく……もーそんな顔しないでください! じゃあこれ、コンセントお願いします」
「任せて」
 鈴花に渡されたコンセントのプラグを差し込む。良かった。上手くいった。私だってこれくらいはできるのだ。ドライヤーとか使うし。
「ちょっと、何そのにやけ顔は」
「お母さんの手伝いを始めた頃の私みたいだなって」
「馬鹿にしているのかしら」
「とんでもない、微笑ましいんですよ」
「……釈然としないわね」
 鈴花は廻がぬいぐるみを見ているときと同じ顔をしていた。私はマスコットじゃないというのに。
「じゃあカセット挿しますよ。取り敢えず爆弾男で良いかな」
 とっくの間に他のケーブルを繋ぎ終わっていた鈴花が、鞄の中からゲームのパッケージが貼られた灰色のカセットを取り出した。パッケージには顔の周りが白くなっている二頭身のキャラクターが丸い爆弾を勇ましく掲げているイラストが描かれている。物騒なキャラクターである。
「カチッと。……あれ」
「点かないわね」
「結構古いからなぁ。えーと掃除スティックあったっけ」
 鈴花が鞄の中をごそごそと漁っている。その間に私はカセットを一度抜き、端子部分に少しだけ息を吹きかけてからもう一度挿して電源を入れてみた。
「あ、点いた」
「えっ、どうしたんですか」
「ちょっと端子部分を吹いてみたんだけど」
「……カセットフーフー、なんでそんな原始的な方法知ってるんですか」
「……さぁ」
 そういえば、どうして瞬時にそうしてみようと思ったのだろう。自分でも分からない。恐らく端子部分に息を吹きかけることによって、微量な水分が接触不良を一時的に改善したのだが、別段それを知っていたから試したわけではない。ただ、何となくこうするべきだと思ってしまった。
「年齢誤魔化してないですよね」
「今日の貴女失礼発言多くない?」
 取り敢えず起動したから良しにしようということで、私達は各自コントローラーを握り締めてテレビに向かった。さて、今回はどういう趣旨のゲームだろう――。





 夕食を終え、入浴も済ませた私は寝る準備を整えて、自室でノートパソコンに向かっていた。以前の日課は寝る前の読書だったが、今は専らこれだ。
 柳一氏からデータで貰ったツクラー作品のゲーム、『マイライフ』。主人公のるな子の日常をプレイヤーが操作しながら見守っていくゲームだ。
 クラスにほとんどいることのないるな子は、オルタスというクラスメイトに付き纏われることになる。このオルタスという男が非常に気に食わない性格をしているのだが、口の達者なるな子はオルタスの嫌味や言い掛かりを華麗にあしらい、結果的にオルタスが言い負かされることになる。この展開は毎度面白いもので、自分もこういう人間に絡まれたときはこうしよう、という教訓にもなる。
 そんなるな子との付き合いもあってか、オルタスは次第にるな子への嫌味も言わなくなり、ただのクラスメイトとして接することが多くなっていた。

「もうすぐ卒業ね、オルタス君」
「結局君には一度もテストの成績で勝てなかったな」
「その代わり多少の煽り耐性を身に付けられたんだから良いと思わない?」
「誰の所為だと思ってる」
「毎回向こうから口論を持ちかけてきて勝手に返り討ちに合う寂しがり屋さんにも問題はあると思うの」
「僕が寂しいだなんて言ったことがあったか!?」
「あら、そんな反応をするってことは図星だったかしら。ごめんなさいね」
「ぐぬ……!」
 いつも通りのやり取りだ。普段はこんな二人だが、オルタスの方はこう見えて女子人気が高く、嫉妬したクラスメイトにるな子が嫌がらせを受ける場面もあった。
 その場面は何故かクラスメイトの投げる卵を避けるミニゲームになっていて、シリアスなのかコミカルなのかよく分からないシーンだった。加えて面白いのは、それを知ったオルタスが誰よりもるな子を心配していたことだ。るな子が嫌がらせを受けていた間、オルタスはるな子に突っかかることを止め、嫉妬に狂った女子たちに正々堂々と向き合ったのだ。

「僕は陰湿で卑怯な人間が何より嫌いだ。僕に好意があるなら今すぐ嫌がらせを止めろ。るな子さんが気にしていないから良いものの、何なら担任と君たちの親も巻き込んでもっと大事にしたって良いんだぞ」

 正面から啖呵を切られた女子たちは見事に大人しくなり、それ以降嫌がらせはなくなった。オルタスは以前よりもるな子に対し柔らかい態度を取るようになり、周りから見た二人は既に『友人』と呼ぶべき関係になっていた。
 るな子もるな子で捻くれた性格をしているが、不思議と共感できる部分も多く、ゲームを進めていてとても楽しかった。何よりちょこちょこと動くドット絵とキャラクターたちがとても可愛らしい。
 捻くれ者と捻くれ者が次第に打ち解け、たまにぶつかりながらもお互いの長所を認め合っていく。他人とあまり深い付き合いをしない私にとって、彼女らの日常にはたくさんの見応えがある。今日も夜更かしをしてしまいそうだ。








「卒業後は大学に行くのよね」
「ああ、家を継ぐための勉強もしなくちゃならない。退屈な人生だ」
「オルタス君のお家は何屋さんだったかしら」
「特に誇る技術もない。金で人の人生を動かすだけの……まぁ、先見の明とやらは必要になるが」
「それって」
「……投資家だ」

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