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ツキノセ 作者:
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私の妹 - 1

ご閲覧頂きありがとうございます。
 私には妹がいる。
 名前は月之世つきのせ めぐり。年齢は私より一つ下で、私と同じ赤みを帯びた白い髪が特徴的な子だ。廻は内気だがよく笑う子だった。私が両親に褒められると自分のことのように喜び、私が廻の知らないことを話してあげると目を輝かせながら耳を傾け、廻が眠れない夜に私が添い寝をしてあげると幸せそうに微笑んでいた。
廻は本当によく笑う子だった。だがそれは私と二人きりのときだけだったことを、私は後々知ることになる。

 私の家、月之世家は名の知れた投資家であり、莫大な資産を持っている。母は廻を出産した際に他界したらしく、父が月之世を一人で支え続けてきた。私たちは世間一般の子供たちのように小学校には通わず、父が雇った家庭教師による教育を受けていた。
 父曰く、私は優秀だったらしい。教師に与えられた課題をただこなすことがそこまで褒められることなのかと当時の私は疑問に思ったが、父が嬉しそうにしているのを見るのは私も嬉しかった。
ある日、授業を終えた私は廻と話したくなり、自分の部屋に戻る前に廻の部屋を訪ねようとした。
しかし、部屋の扉の前に来たところで、部屋の中から話し声が聞こえた。
そういえば廻は自分の授業の話はしなかったなと思った私は、妹がどんな様子で授業を受けているのか気になって、少しだけ扉を開いて中の様子を窺ってみた。
 そこに、私のよく知る廻の姿は無かった。
 教師から出される課題を黙々とこなし、間違いがあれば解説を貰い、次の課題に進む。
私と然程変わらないように見える授業風景だが、廻の表情は暗澹としていて、教師もやりづらそうな雰囲気を醸し出している。いつも笑った顔の廻しか知らない私は、その光景が何だかとても歪なものに見えた。
「お父様がね、私は『平凡でつまらない』んだって」
後日私に授業のことを訊かれた廻はこう答えた。何でも私より勉学や音楽の才能が劣っていた廻は、父からすれば『平凡』に見えたらしい。廻の授業風景を見に来た父は、そのとき小さな溜息を吐くだけで廻を褒めることをしなかったうえ、以後廻の授業に顔を出さなくなった。
家庭教師にそのことを問いただしてみたが、廻は別段不出来という訳ではなく、同年代の子と比べれば優秀な部類に入ると言っていた。ならば何故、廻のことを褒めてあげないのか――その疑問が頭に過った直後、私は気付いてしまった。
 私が廻より優秀な所為だ――と。
 納得がいかなかった。確かに勉強において私は優秀かもしれない。だが、廻は私には無い素敵な才能をたくさん持っている。廻は絵本が好きで、よく自作の絵本を私に見せてくれた。中庭の動物たちにも懐かれていて、よく一緒に遊んでいた。どれも私には無い才能だ。そんな様々な才能を持つ妹を、何故父は認めてあげないのか。
 私の父に対する不信感は、このことをきっかけに次第に大きくなっていく。
ある雨の日のことだった。朝のピアノのレッスンをいつもより遅く終えた私は、少し遅い昼食を摂るべく一階の食堂に足を運ぼうとしていた。すると一階から昇ってきた廻が、私の姿を見つけると側に駆け寄りこう訊いてきた。
「お姉ちゃん、超能力って分かる?」
 昼食はもう済ませたの?――そう言いかけた私だが、廻の神妙な面立ちに思わず言葉を飲み込んでしまった。
「超能力って、念動力とかテレパシーのような? 急にどうしたの、廻」
「あのね――」
 廻は事情を話し始めた。まず、自分に超能力を扱う才能があるかもしれないこと。そして、父の知人が人間の秘める超能力を開花させる研究をしていること。その研究に貢献してみないかと、昼食の際に父から提案されたこと。
「私ね、お姉ちゃんみたいに勉強も音楽も得意って訳じゃないでしょ? だからお父様に嫌われちゃったんじゃないかって不安だったの。でも、やっとお父様の役に立てそうだなって思って」
そう語る廻は、不安の期待の入り混じった笑みを浮かべていた。
 超能力なんて、小説や映画の世界でしか馴染みのない存在だ。現実で『超能力』などと呼ばれるものは、精々第三者の引いたトランプの絵柄を当てたり、手の中のコインをテーブルの上のコップに瞬間移動させるといった手品だ。それを大衆が面白がってそう表現しているだけに過ぎない。当然その手品師たちは超能力者などでは無い。
「そのお父様のお知り合いに手品でも教わるの?」
「ち、違うよ。そういうのじゃなくて、手を使わないで物を動かしたりとかするの」
「ごめんね、分かっているわ」
 あまりに現実味の無い話だったので皮肉めいた発言をしてしまった。そもそも父はああいったマジックショーは好きでは無かったし、廻に手品を教えるほど遊び心がある人間でも無い。ならば――
「廻、何故お父様はあなたに超能力の才能があるなんて言ったの?」
 私が問うと、廻は少し考える動作をしてから――
「なんかね、脳を検査する機械みたいなのを使って検査したら、私の脳って普通の人とはちょっと違うんだって。でね、その私の脳が、昔超能力を使えるようになった人の形とよく似てるって」
「昔超能力を使えるようになった人? ジョーパワーとかユリゲラーのような?」
 ということは、彼らは本当に超能力者だったと証明されたのだろうか。
「ううん、そうじゃなくて、お父様のお友達の研究所に、もう実験で超能力が使えるようになった人がいるらしいの」
「なんですって?」
「私、最初にこのお話をされたときはちょっと怖かったけど、無事に超能力が使えるようになった人がいるなら大丈夫かなって……」
 既に超能力の発現は成功しているということだろうか。いや、仮にそうだとしても、やはり私の想像は当たっていたのだろう。父は自分にとって価値のない娘を、自分の都合で怪しげな人体実験に利用しようとしている。もし超能力の発現に成功しているとするなら、前人未到の記録だと、世間にその事実は知れ渡っている筈なのだ。しかしそんな報道はまったくされていない。つまり、『世間に公表出来ない実験を行っている』ということだ。
 父は自分にとって目障りな存在である廻を排除しようとしている――そう結論を出した私は、もう廻の話に耳を傾ける余裕が無くなっていた。
「廻、その話は後でゆっくり私と相談しましょう。 私は先に昼食を摂ってくるわ」
「あ、うん……わかったよ」
 廻は少し残念そうな顔をして部屋へ戻っていった。ちょっと可哀想なことをしたな、という思いが罪悪感と共に生まれたが、その思いは父への憎悪によってすぐに掻き消される。

 廻が部屋へ入るのを確認してから、私は食堂へと続く階段を降りた――。
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