第1章〜悲しみの笛〜(役立たずの刑事・上)
やたらと重苦しい沈黙の後、気を取り直した高木刑事は、今後の予定を告げた。
どうやら俺は、警視庁に行かねばならないらしい。
養父母の轢き逃げ事件について、俺に説明しなければならない事項があるようだ。
わざわざ警視庁で説明しなければならないほど、重要な事項なのだろう。
もっとも、それがどういう事項なのか……
高木刑事の記憶を覗いた時に、予想は出来ているのだけど。
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2月26日(金曜日) 午後5時30分・シエルこと浜口至の場合。
えらくボロい高木刑事の車に乗せられ、葬儀場から約三十分。
都内の結構立派な場所に、立派な建物がある。
それが、警視庁だ。
俺と一緒についてきたのは、俺の母と、死んだ乃梨子叔母さんの、父親。
つまり、俺の母方の祖父だ。
車の中は、それぞれの立場のせいで、少しばかりピリピリとした空気。
高木刑事も、俺も、俺の祖父も、乗車した皆が、無言だった。
警視庁に到着すると、高木刑事と、千葉と名乗ったぽっちゃり体型の男性刑事に誘導された。
興味を押さえきれずに、キョロキョロと周囲を見ながら歩く。
やがて祖父と別々になり、小さな、会議室のような部屋に案内された。
まず目に入ったのは、部屋の中央にある、長方形型の大きな机。
そして、机の右側の、3脚のパイプ椅子(既に2人座っている)。
机の左側には、誰も座っていない、パイプ椅子が1脚ある。
と、机の右側の椅子に座っていた2人が、こちらを見て会釈した。
無言で、小さく、手と視線を動かす。
左側の椅子に座って下さいと、そういう意味のようだ。
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同刻・高木渉の場合。
浜口君は、ゆっくりと椅子に座った。
「……」
既に椅子に座っていた、白鳥警部・目暮警部の2人と、目が合ったのだろう。
彼は小さく会釈。
僕がパイプ椅子に座ったのを確認し、目暮警部は小さく咳払いした。
ピンと張り詰めた、少し重苦しい雰囲気。
……と、浜口君が口を開いた。
「俺の、養父母の轢き逃げ事件について、説明する事項があるそうですけど……
俺の祖父も……別室で、説明を受けているんですか?」
「……」
白鳥警部と目暮警部がちらりと目配せし、そして白鳥警部が言う。
「君の、お祖父さんは……君と一緒に、説明を受けたほうが良かったかな?」
浜口君は、少し慌てて言った。
「……いえ、むしろ別々の方が嬉しいです。
俺の、実の母親の事とか……。
結構、複雑な事情があるから。
俺、ほかの親戚と一緒にいると、気まずい雰囲気になるんです」
「そうか……」
目暮警部は嘆息する。
今から、告げなければいけないのだ。
浜口君にとって、とてもつらいはずの、真実。
すなわち。
……轢き逃げ事件の、真相を。
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