第1章〜悲しみの笛〜(真実の記憶・上)
正月に里帰りした時、警察で働いている兄が、こう言った。
『自分がドラキュラであることをおおっぴらにして、オモテ社会で暮らすのは無理だ。
ドラキュラの存在そのものが、大部分の人間にとっては悪でしかない。
我々がオモテ社会で暮らすならば……正体を隠して人間として暮らし、その上で自分の場所を見つけるしかない』
悟ったような兄さんの口調。
そうかも知れない。と、俺は思った。
人間にとって、『定期的に人間の血を吸わねば生きていけぬ存在』は、化け物でしかないのだろう。
ハーフである俺も兄も、人間の血がないと生きていけない。
おおっぴらになれば、排斥されて当然で……
間違いなく、人間の人種差別よりも根が深い、難しい問題になる。
しかも俺達は自分の身体を色々といじくりまわされる事が嫌いだから……
なおさら、ヴァンパイアと同じように、人間と離れた場所で、『ドラキュラの隠れ里』を作ることを望んだ。
……ただ。
と、オカリナを吹きながら俺は考えていた。
母さんの親戚が大勢いるこの状況下、葬儀場にいる親戚の方々は俺を明らかに嫌悪している。
今後こういう環境で『自分の場所』を作ることは……
果たして、可能だろうか、と。
(by シエルこと浜口至)
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2月26日(金曜日) 午後5時1分・シエルこと浜口至の場合。
「轢き逃げ事件担当のおまわ……じゃなかった、制服じゃなくて背広だから、刑事さんですね。
……お世話になります」
ジャングルジムを降り、オカリナをポケットに突っ込んで……軽く会釈。
高木さんも俺に会釈を返す。
「もう一度確認するけど、浜口、至君、だよね?
僕は高木渉。
君は浜口誠さんと乃梨子さん夫婦の息子さん……」
「……息子って言っても、去年の8月の上旬に養子になったばっかりなんですけどね。
なんで、半年ちょっとで、突然こんな風に養い親が死ぬんでしょうね……」
うつむきながら、乾いた口調で言っていることを自覚する。
「……大丈夫? 浜口君」
「大丈夫です。
外国で暮らしている実の親にも連絡しました。
……飛行機が無くて、3月1日に日本に到着するそうで。
その上で、これからどうするか決めます。……親戚と一緒に」
「……そうなんだ」
泣いてはいない俺の顔に安心したのだろう。
高木さんは、ややほっとした顔で相づちを打った。
当然、実際は違う。
そもそも隠れ里は日本にあるし、母さんは飛行機で来たりしない。わざと遅れてくるだけ。
事情を知らぬ一部の親戚に対し、『外国で暮らしている』事のつじつま合わせの……嘘だ。
おそらく俺をどうするかの協議は、ものすごい話し合いになる。
だが、先ほど見た親戚の方々の視線。
少なくとも母さんが来るまで、葬儀場に、俺の居場所はない。
それを考えると、ため息が出そうだが……
ほかにもある、もう一つの疑問というか心配というか……
「高木さん、今、悲しいんですか?」
「え?」
突然の問いに、高木さんは俺を見つめた。
……チャンス!
そんな感情を表情に出さず、俺はじっと目を見つめる。
……記憶を読むのは、俺の十八番だ。
『捜査一課の刑事だ』と、さっき高木さんは言った。
俺は最近読んだ小説で知っている。
いくらなんでも、轢き逃げは交通課の担当のはずだ。
もし、特別な事情があるのならば、俺が被害者の遺族である以上、知る権利はある。
高木さんが轢き逃げ現場をモロに見ているのかは疑問だが……
それでも、養い親の最期を知りたいと思う。
……刹那。
俺の瞳を見つめたまま動かぬ高木さんの記憶が、俺の頭にフラッシュバックした……
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