第1章〜悲しみの笛〜(オカリナの少年)
その音色は、周囲に響き渡っていた。
悲しみと共に……
(by 高木 渉)
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2月26日(金曜日) 午後5時・シエルこと浜口至の場合。
葬儀場の隣が、小さな公園になっていた。
初めて会う母の親族に化け物に対する目で見られた俺は(いや、実際にドラキュラのハーフなのだが)
そこで、オカリナを吹いた。
ほんのわずかなスキ間の時間、夕日を浴びながら、ジャングルジムの上で。一心不乱に。
すると、ジャングルジムの下から拍手の音。
パチパチパチパチ……
おそらく長い間気付かずにいた俺と目が合い、開口一番にその人はこう言った。
「君も……悲しいんだね」
と。
それは哀れみでなく、共感の言葉。
誰なのか尋ねる前に、その人は警察手帳を俺に見せ、言った。
「僕の名前は高木渉、本庁の刑事です。
君は、浜口至君ですか?」
……話を聞くと、叔母さんの轢き逃げ事件担当になった刑事さんだった。
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その少し前、高木渉の場合
轢き逃げ事件の被害者は、中年の夫婦だった。
子どもはいないが、去年の8月、親戚の少年を養子にしたらしい。
その少年の名は、浜口至。2月20日生まれ。
13歳で、杯戸中学の1年生。
利善町の葬儀場に行ってみるとその少年はおらず、代わりに被害者夫婦の親戚がいた。
なぜかえらく冷たい親戚の方々。
仕方なく自分で捜していると、澄んだメロディが流れていた。
もしやと思って調べてみると、公園で……
正確には、公園のジャングルジムの上で、学ランの少年がオカリナを吹いていた。
夕日をバックに、赤く染まっている周囲。
とても綺麗な……だけど悲しい、どこか懐かしいメロディが、哀愁を帯びていて……
気がついたとき、僕は近づいて、こう言っていた。
「君も……悲しいんだね」
と。
我に返ってあわてて確認してみると、やはり学ランの少年は至君だった。
二言ばかり言葉を交わし、ふと思う。
本来ならば交通課が担当するはずの轢き逃げ事件を、わけあって捜査一課が担当している。
……そのわけを至君が知った時、彼はどう反応するだろうか?
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