第1章〜悲しみの笛〜(泊まる家・中)
自宅が燃えた時に分かったこと。
人間ではない者の血を引く俺を、嫌悪する人間がいる事実。
なぜ嫌われるのか知った上で、俺は訊く。
「命刻義姉さん、俺の親戚達が反対すると思う?
俺が義姉さんの家に泊まること……」
義姉さんは黙って首を横に振る。
「反対しないと思う。十中八九」
俺の家に放火した者の正体は、分からない。
だが放火犯であろうとなかろうと、バケモノである俺を、家に泊めたがる親戚のかたは少ないはずだ。
……遺産をめぐる下心があるなら、話は別だが。
俺は考えを巡らせ、顔を上げた。
今晩俺が泊まる家について、ちょっとだけ良い考えが浮かんだからだ。
(by シエルこと浜口至)
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2月26日(金曜日)午後6時48分・高木渉の場合。
これ以上葬儀場にいても、僕には何も出来る事は無い。
だから警視庁に帰ろうとしたら、葬儀場の廊下で、帝丹高校の制服姿の女の子に呼び止められた。
「あの、すいません。
浜口乃梨子さんと誠さんの轢き逃げ事件で、ここに来ていた刑事さんですよね?」
焦った様子で僕を確認するその女の子。
僕は頷いた。
「ええ、そうですけど……」
「すいません、殴り合いのケンカの仲裁をしてもらえませんか?」
「えっ?
ケンカ、……誰が?」
「至くんと親戚の人が。
……周りが取り押さえようとしても、止まらないんです。
先に手を出したのが親戚の人だから、なおさらタチが悪くて……」
僕は廊下を振り返る。
ケンカが繰り広げられている場所は、どこなのだろう?
「警察は、家族間や親戚間の諍いには、基本的には関われません」
僕の言葉に、女の子は頷いた。
「知ってます。
確か、……『民事不介入の原則』って言うんですよね、それ。
でも暴力沙汰のケンカの仲裁は、可能じゃないんですか?」
と、突然。
10メートルほど向こうの控え室から、慌てた感じの男の人が飛び出てきた。
直後、ガラスが割れる音や、罵声や、さらには至くんの叫び声らしきものも聞こえるようになる。
確かに、どう見ても仲裁が必要な状況だ。
「他の親戚のかたは、仲裁が出来ないんですか?」
「……無理です、おそらく」
だとしたら結局、僕が至君をなだめるしかないのだろう。
僕はこの女の子と共に、控え室に向かった。
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2月26日(金曜日)午後6時50分・シエルこと浜口至の場合。
要は、親戚の人を怒らせて暴力沙汰にした後、俺が反撃出来ればそれで良い。
では怒らせるためにはどうすればいいか。
それは、……遺産関連の話をしたあとで相手を遠回しに馬鹿にすれば、それで済む。
おそらく相手が先に手を出し、俺はそれに殴り返す。
その間、義姉さんが仲裁出来るよその人間、……葬儀場の職員などを呼んで来る。
そしてケンカが仲裁された後、俺は宣言する計画だった。
『遺産の話でこんな殴り合いになるとは思わなかった。
母方の親戚の家に泊まるのは怖いから、俺は今晩、父方の親戚である命刻義姉さんの家に泊まる』
と。
こうなると、親戚達はこの意見に賛成するしかなく、しかも俺に遺産の話は出来ない。
案の定、俺が反撃するところまでは上手くいった。
しばらくして、命刻義姉さんが仲裁出来る人間を連れて、控え室に飛び込んでくる。
だが、その人間が高木さんだとは思わなかった。
「あ、刑事さん!」
俺は手を止めて言い、殴り合っていた親戚が思わずつんのめる。
服が乱れたりグラスコップが割れたりしている状況下、俺の言葉で、一瞬で部屋はシンとなった。
注目された高木さんは部屋の状態を見、固まり、数瞬後に我に帰って一言。
「あー、……大丈夫ですか?
親戚の人が仲裁出来ない殴り合いを止めて欲しい……って、僕は頼まれて来たんですが」
俺は答える。
「大丈夫です、たぶん。
見ての通り、……刑事さんが来て、雰囲気が凍りつきましたから」
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