王の剣士1「豊穣の丘」(4/16)PDFで表示縦書き表示RDF


王の剣士1「豊穣の丘」
作:雅◆



第二章(一)


 再び眼を開けた。

 風に騒めく樹々の音に紛れるように、レオアリスが寝転がっている緩やかな斜面の右手から、小さな幾つもの足音が近づいてくる。小さな声も。
 今いる狭い草地を囲む、木立のすぐ向うで足音は止まった。

 樹の陰から自分を恐る恐る覗き込む姿を視界の隅に捉え、レオアリスは敢えて眼を閉じ、眠っている振りをしてみせる。敵意はなく、覗いている姿が皆まだ子供だったからだ。ひそひそと、だが賑やかしく幼い声が耳に届く。

「誰か行きなよ。」
「誰って、誰が?」
「寝てるじゃん、見に行くだけなら恐くないよ。」
「ちょっと寄って、ぱっと戻っておいでよ。」
「だから誰が?」
「でもあれ、落っこちたひとかなぁ。」
「うーん。」

 しきりに囁き交しながら、一向に近寄ってくる気配はない。次第にレオアリスは、寝ている振りをするのが面倒臭くなってきた。何人いるのだろう。子供ばかり十人近いか。

「おばばが言ってたもん。ここにいるって。」
「おばばがちゃんと落としたって言ってたし。」

 その言葉に、レオアリスは堪らず飛び起きた。

「てめぇらかっ!」

 草地を蹴り、木々の間に降り立つと、手近な子供の襟首をひっ捕まえる。

「きゃああっ」

 隠れていた子供達が、一斉に辺りに散った。

「何考えてんだコラ!普通あの高さから落ちたら死ぬぞ!」

「きゃああ!」
「きゃああ!」

 残りの子供達は二、三本離れた木の陰に身を寄せ合い、恐々とレオアリスと襟首を掴まれた少年を覗き込んでいる。少し大人気ないと思い直し、レオアリスは掴んだ手を緩めた。少年がぱっと身を翻し、仲間達の中に駆け込む。

 一、二、三…と人数を数えてみれば、四、五歳位から十一、二歳位まで、男女合わせて九人もいる。

「お前等…」

 口を開いた途端、彼等はびくりともう一本分、樹々の間を後退った。レオアリスは害意のない証拠に、両手を開き、何も武器などを持っていない事を示す。

 実際、黒の上下に包まれた細身の身体には、丈の長いその上衣の下にも、短剣一本身に付けてはいない。

「怒ってねぇからさ。何の用だか…」

「何だぁ、子供じゃん!」
「大人じゃないじゃん!」
「あんなんじゃダメだよ、おばばのばか。」

「…ああ?」

 子供達のいかにも失望した声に、ぴくりとレオアリスの眉が上がる。

「おいコラ誰がガキだ。俺はもう十六だ。大体言っとくけど、お前等よりずっと年上だぜ。」

 しかし子供達は聞く様子もなく、興味を失ったようにレオアリスに背を向けて、来た道を戻りはじめた。何故か、用がある訳ではないレオアリスが、慌てて彼等を呼び止める。

 方法は判らないが、どうやらレオアリスを狙って「落とした」ようなのだ、正直これで放っておかれては身も蓋もない。

「ちょっと…待てって。ほら、何か訳があって俺を、えーっと、落としたんだろ?」

 彼等の前に回りこんで身を屈め、子供達の目線に合わせて顔を覗き込む。だが返ってきたのは無情な返事だ。

「兄ちゃんじゃ役に立たなさそうだもん!」
「はぁ!?」

 いきなりきっぱり断じられたが、さすがにここ最近、役に立たないなどと言われた記憶はない。

「あいつらをやっつけるのに、兄ちゃんじゃ無理だもん。」
「武器も持ってないなんて、がっかりだよね。」
「ねー。」
「おばばは間違えたんだ。」
「すっごい強いひとだって言ってたのにね。」
「ねー。」

 口々に顔を見合わせて頷き交す子供達を眺めながら、レオアリスは考え込むように口元に手を当てた。どうやらこの子供達は、何らかの手助けを必要としているようだ。今まで寝転がっていた草地にちらりと視線を向ける。

 迎えはあとどれくらいで来るだろう。王都からここまではハヤテの翼でも一刻はかかる距離だ。少し状況を聞いてみる位の時間はありそうだった。
 軽く頷くと、レオアリスはに、と笑ってみせた。

「お前等のおばばは正しい。俺は結構役に立つぜ?ま、どうするかは話を聞いてからだけど、取り敢えずそのおばばとやらの所に連れてけよ。」

 子供達はレオアリスの言葉に再び顔を見合わせ、遠慮の無い疑り深そうな視線を向けると、口々に声を揃えた。

「嘘だぁ。」

(――――こんの…、くそガキ共…!)

 レオアリスは思わず両手を握り込み、それからやり場のないまま力なく肩を落とした。







ネット小説ランキング>異世界FTシリアス部門>「王の剣士」に投票
ネット小説の人気投票です。投票していただけると励みになります。(月1回)





ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう