第三章(三)
男は顔を上げて、レオアリスの姿を眺める。年若い、そして武器の一つも手にしていないその姿に、あからさまな嘲笑を浮かべた。
「お前が俺とやろうってのか?俺は剣士だぜ。剣一本持たずに、何しようってんだ?」
レオアリスは暫く男に視線を注いでいたが、やがてつまらなそうにその目を閉じた。
「…お前と、同じはずなんだけどな。」
「ああ?!」
レオアリスの言葉に、男が不可解な表情を浮かべる。レオアリスは右手を鳩尾に当てた。
「何も感じないものなのか、それとも――――、お前、剣士ってのは単なる騙りか?」
「な、何言って…」
青ざめた男の言葉は最後まで発されずに、喉の奥に飲み込まれた。レオアリスの右手の辺り、鳩尾から、青白い光が静かに漏れ出している。
右手が、ずぶりと手首の辺りまで鳩尾に埋まる。
光は一際強くなり、レオアリスが右手を引き抜くと共に、細長く形取られていく。
呆然と立ち尽くした男の前で、それはゆっくりと、姿を現した。
青白く、光を纏う――――
美しい長剣。
完全に姿を現したそれを、感触を確かめるように一度振ると、レオアリスは右手に提げて男へと一歩踏み出した。
呻き声を漏らし、男が後退る。
目の前に在る者が、何なのか――――
「剣…士…」
身体が恐怖に震えるのが判る。
剣士の剣は通常、左右の腕のどちらかに宿る。だがそれ以外にただ一人、十三対目の肋骨に二対の剣を宿す者の名を、男でさえ知っていた。
近衛師団第一大隊大将。
最高位と謳われる剣士――――、レオアリス。
「――――俺は、同じ剣士と剣を合わせた事が無い。だから、少し楽しみだったんだが。」
レオアリスから発される、皮膚を叩くような圧迫感。研ぎ澄まされた剣気。
それは、男からは全く感じられなかった。
「術か何かで、後から付けたか。」
怒りと羞恥とが、男の眼の中で目まぐるしく入れ替わる。レオアリスの指摘どおり、右腕の剣は、術によって後から付けたものだ。
剣士だと言って、ほんの少し岩でも砕いて見せれば、誰もが疑う事無く自分を恐れて従った。
だが、紛い物とはいえ、それなりの力は備えている。
男は唸り声を上げると、右腕を振り翳して地面を蹴った。
レオアリスの右手が動く。
撃ち合った瞬間、男の剣は音を立てて砕けた。
「!」
生じた剣風が、男の身体を弾く。
悲鳴すら上げる間もなく、男の身体は真っ二つに割れ――――
青白い光の中に溶けた。 |