第八話 冒険者ギルドとお約束
第八話です!
誤字、脱字があればお教えください!
『……ま。……き……じゃ!』
なんだか頭の中に声が響いてる。なんだろう?
女性の声みたいだ。しかもやけに聞き覚えがあるような。
『ある……ま。……さじゃ!……おきるのじゃ!』
おきる?なんで?
こんなにも気持ちのいい空間から出るわけないじゃないか?
『主様!!いいかげーーーーん起きるのじゃーーーーーーー!!!』
「ん、うーん……。あ、あと五分……」
『駄目じゃ!今日は冒険者ギルドに行くのじゃろう!それに前々から主様自身が朝は弱いから起こしてくれといったのじゃろうが!』
あれ俺、そんなこと言ったっけ?
うん、あれだ。そのときの俺死んでくれ。
それにしても昨日何したっけ?
そもそも昨日は確か……、アリエスの屋敷を出てから宿に行ってそれから……。
「って半分はお前のせいじゃないか!」
『ふう……。ようやく起きたかの。主様を起こすのは骨が折れるわい。……して半分とは何のことじゃ?』
そう、昨日俺が睡魔に負けそうになっていたとき、この変態神妃は意識のなかで俺に襲い掛かってきたのだ。あ、暴力ではないですよ?
いくら意識のなかとはいえ、リアとの会話をよりリアルにするため、俺たちは体のようなものを頭の中に創造して接している。
つまりリアはその擬似的な俺の体に襲い掛かってきたのだ。俺も昨日は疲れていたし、抵抗する体力もなかったので、これは本当にやばいかもと、思ったのだが、リアはそのまま俺の上に覆いかぶさったまま首元に顔を近づけると、チュッという音を立てて首筋に唇を当ててきたのだ。
俺は紛れもない童貞なのでかなり動転していたのだがリアはそれを面白がるように、
『今夜はこれくらいにしておいてやるのじゃ……』
と不敵な笑いを浮かべ、そのまま崩れ落ちた。
つまり寝落ちしたのだ。
昨日はリアも相当意識の表層に出てきていたので疲れていたのだろう。
かくいう俺はというと鳴り止まない心臓を押さえつけながら眠りについた。
否、眠りになかなかつけなかった。
そりゃそうだろう。意識体とはいえ目の前で美少女が首元にキスを帰してきたのだ。興奮して寝れるはずもない。
結果的に俺が完全な眠りに入れたのはそれから三時間後だった。
よって俺は寝不足なのだ。それもすごく。
「お、ま、え、が!昨日の夜、変なことをするから眠れなかったんだよ!」
『ふふん!あのときの主様の顔ときたら、ほんっとうに面白かったわい!カメラがあれば絶対に撮っておったのじゃ!』
「撮らんでいい!……で、今何時なんだ?」
とにかく起きてしまった以上、簡単には二度寝できないので時刻の確認をする。
『えーと、午前八時をちょうど回ったところじゃ』
窓の外を覗いてみれば、道をたくさんの人が行きかっており活気のいい声が飛び交っている。
とりあえず俺は自分の体に「浄化」をかける。無論これも神妃の能力なのだが、なにせ昨日は風呂に入る前に落ちてしまった。このまま出て行けば不潔なので、とりあえず能力で汚れを吹き飛ばしておく。体の状態的には完全に清潔になるのだが気分的には風呂には入りたい。今夜は絶対に風呂に入ろうと決意し、ベッドから立ち上がった。
軽く髪を整え、エントランスへ向かう。
どうやら朝食はパンと野菜スープらしく、エントランスの中央にでーんと置かれていたので、パンを二つ、スープを一杯持って近くのテーブルに腰を落とす。
そして今日やるべきことを頭にまとめ始める。
今日絶対にやるべきことは二つ。
まず冒険者登録をすること。おそらくだが、冒険者ギルドで仕事を請ける際には冒険者でなければいけないだろう。であれば登録しないわけにはいかない。
次にどんな簡単な依頼でもいいから受けてみる。これかこの世界で生活していくには金を稼ぐ必要がある。この世界の情勢にも詳しくない俺が稼ぎを得るにはやはり冒険者ギルドが手っ取り早い。ということで早めに仕事に慣れておきたいのだ。
そしてもし余裕があればこの世界のことも調べたい。一体どんな国がありどんな種族がいるのか、そしてアリエスが言っていた魔法というものの存在。身に付けられる知識は付けれるだけ付けておいたほうがいいだろう。
ふんわりと焼けたパンを口の中に押し込みスープで流し込んだ後、宿の扉をくぐり外に出る。冒険者ギルドの場所は昨日カラキさんにもらった紙に書いてあったので自分の気配探知と併用し場所を探し出す。
とはいえ本当に凄いな、この村。人が多すぎて前に進むのが困難なほど人が溢れかえっている。さながら何かの祭りでもやっているかのようだ。
よくみると人間よりやけに耳が長く端整な顔立ちをした者や、背丈は小さいが鍛えられた筋肉を身に付けているものなど、とても多くの種族が混じっていた。なかには肌の色が灰色のようなやつもいたが……あれは魔族だろうか。もしそうだとしたら魔族と人間の隔絶はなさそうだ。笑い合って話しているし。
そして俺はやけに人が密集している場所を見つけた。カラキさんの紙と照らし合わせてもおそらく間違いないだろう。
いざついてみるとそこには巨大な建物とともにでかでかと異世界語で「冒険者ギルド」と書かれていた。さすがに入り口から人が溢れだしているなんてことにはなっていないが、それでも中には相当な数の気配が感じられる。
いやーついに来ちゃいましたね、冒険者ギルド。元の世界でライトノベルを読んでいたときは、いつか行ってみたいな、なんて思っていたけれど本当に来ちゃうとは。感慨深いものです。
『うむ、私も楽しみなのじゃ!』
リアと意見が合致したところでギルド内に足を踏み入れる。
そこはやはり屈強な肉体を持った者や、やたら物騒な武器を持った者がたくさん見られる。また少ないが女性の冒険者もいるようだ。また受付の反対側には壁の肌地が見えないほど貼り付けられた依頼書のようなものがある。その前にはたくさんの冒険者がその依頼書と睨めっこしており、真剣な眼差しが見て取れた。
俺は出来るだけ気配を殺しながら、受付に向かう。
ちょうど一つの受付が空いたのでそこにいる受付嬢であろう女性に声をかける。
「あのすみません、冒険者登録をしたいんですが」
ん?なんでカラキのときはタメでギルドでは敬語かって?
それはカラキは初めて会ったときから俺の下に出てきていたし、場の流れってやつだよ。
けっしてこの受付のお姉さんが美人だったとかそういう理由ではないからね!
『疑わしいのじゃ……』
「はい、構いませんよ。ではこちらの紙に必要事項を記入してください。名前と性別、年齢以外は任意ですので書ける範囲で大丈夫です」
ふむふむなになに。名前はハク=リアスリオンとして年齢は十八歳。性別は男。
んで他は……。得意武器?うーん特にないな。まあ強いて言うなら片手直剣かな。よく使うし。で次は得意魔法か。これに関してはわからん!ということでスルー。
ええと、あとは契約聖霊?アリエスのオカリナみたいなやつか?そんなものはいないので空白。
んで次は……。
というような流れで次々と必要事項に答えていく。正直わからないことが多かったので空白が目立っている。
「これで大丈夫ですか?」
「はい。問題ありません。ではこの魔具に手をかざしてください。これにより冒険者カードが作られますので、それを受け取ってもらえば登録完了です」
ほう!てっきり血でも垂らして登録するのかとも思ったが、どうやらこの世界には魔具という便利なものがあるらしい。
俺はその丸い宝玉がはまった魔具に手をかざす。するとその宝玉が光りだし、なにやら装置の下のほうから一枚のカードのようなものが出てきた。
「はい、これで登録完了になります。もし紛失した際には一度ギルドにおこしいただければ何度でも再発行できますので覚えておいてください。ではわれわれ冒険者ギルド職員はハク=リアスリオンさん、あなたを歓迎します。これからの活躍に期待しています。どうか御武運を!」
おお!なんかさらっと凄いこと言ったな。多分新規登録者には全員言う言葉なのだろうけれど、少し感動してしまった。
いやこんなに堂々と言われるとむしろこっちが恥ずかしくなってくるというか。なんだか眩しく見えてしまう。
「では冒険者ギルドについて説明いたしましょうか?」
「あ、お願いします」
そう!それですよ!
なんかのりで冒険者になってしまったけれど一体冒険者というものがどんなものなのかよく知らない。しかもギルドともなれば色々と規則やら制度があってもおかしくはない。
そこのところ詳しく教えてください、受付のお姉さん!
「ではまず冒険者ランクから。冒険者ランクとはその名の通り冒険者を格付けするものです。ランクはFランクからSSSランクまで存在します。ランク昇格には試験のようなものはなくギルド内の成績、討伐した魔物の種類や数、それらを総合的に判断してギルド側が決めます。また基本的に自身のランクから一つ上のランクの依頼までしか受けることは出来ませんので注意してください。依頼は後ろにある掲示板から好きなものを取って私たち受付に見せてもらえば受理されます。またランク昇格は特例として偶に跳ね上がることもありますのでご了承ください。また一応SSSランクの上にEXランクというものが在りますが、いまだに到達者がいませんので、頭の隅にでも覚えていただいていれば大丈夫です。ここまでで何か質問はありませんか?」
ふむ。冒険者ランクか、予想はしていたがなかなかにシビアなようだ。俺の手元にある冒険者カードにはFランクと書かれているのでSSSランクを目指すのはまだまだ先になりそうだ。
「いえ、大丈夫です」
「はい、次はギルド内のルールについてです。基本的に犯罪に絡むものは王国の法律に準じていますが、それ以外のことであれば決闘における完全に実力主義になります。決闘とは両者合意の下、執り行われる戦闘です。そこで負けたものは勝者の言うことを絶対に聞かなければなりません。しかしこれは両者合意の下で行われるので片方が拒否した場合には決闘は成立しません。また決闘ではなく暴力や性的被害を受けた場合には武力による正当防衛が許されます。以上がギルド内のルールになります。では他に聞きたいことはありますか?」
決闘と正当防衛か。これは覚えといて損はないだろう。自分がいつ被害者になるかわからないし、面倒くさかったら力でねじ伏せればいいのだ。
実にシンプルだ。
それに他に聞きたいことか、正直ありすぎて困るのだが……。
とりあえずこれから聞いてみよう。
「この村に来る道中、第一ダンジョンというものを見かけたのですが、そもそもダンジョンとは何ですか」
「はい。ダンジョンとは世界を構成する五大要因、『神核』が住まう洞窟です。基本的にダンジョンは世界に五つ存在し、発見された順に第一、第二とナンバリングされています。ダンジョンでは普段地上にでないような魔物が複数存在し、冒険者は大抵ここで自身を鍛えています。そしてダンジョンの最下層には通常とは異なる強力な魔物が鎮座しており、見事この魔物を倒すことができれば神核から特殊な力を授けられるのです。今までに発見された例だと『念動力』『空中浮遊』『水上歩行』などがありますが、受け取れる力はランダムなので自分のほしい能力が得られるとは限りません。また極まれに神核自身が最深部にいる場合がありますが、今まで討伐できた例がなく詳しいことはわかっていません。なお最深部の魔物はしばらくすると復活するので挑戦権は尽きることがないので心配しなくても大丈夫です。またダンジョンの魔物はダンジョン内から出てくることはありませんので命の危険を感じたら直ぐにダンジョンから脱出してください」
なるほど。この世界のダンジョンはどうやら普通とは異なるなしい。ただ魔物が湧く洞窟というわけではなく、ボスの魔物を倒せば能力という報酬がもらえるらしい。
太っ腹だなダンジョン。
んーじゃ、次は何を聞こうか、どうせなら魔法とかSSSランク冒険者のこととかも聞きたいところなのだが。
俺が手を顎に当てて次の質問を考えていると、後ろからなにやら大きな罵声が飛んできた。
「おい、坊主!いつまでその姉ちゃんと喋ってんだ!後ろが閊えてるんだ。さっさとどけ!」
おっとそんなに話し込んでいたか、これは申し訳ないと思い隣の受付を見てみると、そこには誰も並んでおらず、男性の受付の方がいつでも対応できるように待ち構えていた。それから辺りを見渡してみるといくつかの受付がポツポツと空き始めている。
「あの、他の受付が空いてますので其方にいかれては?」
「ああ!?ガキが楯突いてんじゃねぇぞ!俺たちはそこの美人な姉ちゃんに用があるんだ。他の貧相な受付の奴には興味ないんでな!」
おおう、まじか。これはまたなんというかテンプレだな。
美人な女性を恐持ての男がナンパする。
実に教科書どおり、そしてスタンダード!
ライトノベルで見ていたシチュエーションが今まさに目の前にあると考えるとなかなかに興奮するな。
確かにこの受付のお姉さんは美人だし、凄くスタイルもいい。おまけに髪の毛を一つにまとめており長めのポニーテールのような髪型になっている。こういう女性がタイプという男は見ただけで落とされているだろう。
だが今回は俺もまだ聞きたいことがある。
悪いがここで引く気はないのだ。
「悪いけど、俺はまだこのお姉さんに聞きたいことがあるんだ。それが終わるまで待ってくれないか?」
「ああん!?いいからそこをどけって言ってるんだよ!さもないと痛い目見るぞ!」
でたでた、こういう展開を待てたんだよ。
「痛い目ってどういうことだ?やってみろよ?」
「上等だ、ソンニ、ガルフ!こいつをボコボコにするぞ!やっちまえ!」
「ちょっ、ジュンさん、止めてください。この人は今日冒険者になったばかりなんです!そんな暴力を振るうのは止めてください!」
「姉ちゃんは黙ってな。後で可愛がってやるからよう……へへ。今はこいつを始末する!」
そういうとジョンとソンニとガルフだっけ?
その三人が腰に刺さっていた剣を抜いてこちらに切りかかってきた。
周りにいた冒険者たちは一定の距離と取って俺たちを眺めている。
おいおい、そこは助けてくれてもいいとこだろ!なに腕組んで見てんの!
もしやこれは新米冒険者の試練なんですかね。まあこいつら顔を見る限りそういうわけでもなさそうだけど。
んじゃまあ軽めに追い払いますかね。
「「「くたばれー!!!」」」
「風化せよ」
次の瞬間、俺に切りかかっていた三人はそれぞれ別の方向に、ものすごい勢いで吹き飛ばされた。
そして俺の目の前で呆けている受付のお姉さんに、
「これは正当防衛に入りますよね?」
そう問いかけるのだった。
今回はいろいろと設定を書くことができました。今後に大きく関わってくるものですのでじっくり読んでいただけたら幸いです!