第七十九話 ハルカの屋敷にて
今回はハルカメインです!
では第七十九話です!
とりあえずこのどでかい門の前に突っ立ているわけにもいかないので、俺はその門に取り付けられているベルを鳴らす。
というのもこの世界には電気を生活に取り込む文化はないようで、当然インターホンのようなものはなく、金属の鐘を自らの腕で鳴らすシステムになっている。
カーン、カーンと高らかにベルは鳴り響き屋敷の中にいるであろう人物を呼び出す。
しばらくすると門のさらに奥、つまりこの屋敷の扉の中から一人のエルフが顔を出した。
そのエルフは流れるような緑色の髪をなびかせ、黄色いワンピースに身を包んだ比較的ラフな格好で現れた。さすがにエルフなだけあってその容姿はとても端整なもので、むさ苦しい野郎どもが見れば一瞬で落ちてしまう恐れさえあるほどだ。
そのエルフは俺たちを発見すると大きな声を上げながらこちらに近づいてきた。
「お久しぶりです、皆さん!」
元気な声で登場したのは魔武道祭でラオより受けた傷を俺に癒されたハルカである。
「あ、ああ。久しぶり」
以前目にした外見とずいぶん違う雰囲気に俺は珍しく緊張してしまった。
だってエルフだぜ、エルフ!
男だったら萌えないわけないでしょ!
『………何をいまさら。これだけの女子を侍らせておいてまだ物足りんのうかのうこの変態主様は……』
『何を勘違いしているのかわからんが、俺は別に侍らしてなんていないからな!?それと変態はお前にもブーメランで当たるぞ』
そんなこんなで俺はその整った容姿のハルカを見つめていると、なにやらどす黒い声が飛んできた。
「……………ハクにぃ。顔ニヤけてる……」
「そうですね……。私にもそんな表情したことないのに……」
アリエスとエリアが俺に冷たい視線を送ってくる。その視線はどこまでも鋭く尖りきっている。
「え!?あ、ははは……。な、何を言っているんだ二人とも………。俺は別に疚しいことは考えてないぞ……」
「どうだか……」
俺の心の中を読むようにキラが俺に追い打ちを仕掛ける。見れば俺のパーティーメンバーは全員俺に痛いほど殺気の籠った目を俺に向けていた。
俺はその状状況に戸惑いながらも、今度からはポーカーフェイスを身に付けようと心に刻み込むのだった。
「あれ?どうしたんですか皆さん?」
唯一状況を理解していないハルカが首をかしげながら不思議そうな顔を浮かべる。
君はこんなドロドロした事実は知らなくていいんだ……と俺は心の中で呟きながらそのハルカの問いに答える。
「いや、なんでもない。そ、それにしてもまさかハルカがお姫様だったとはな。正直驚いたよ」
俺はハルカが出てきた扉から目線をそのまま屋敷全体に移しながらそう呟いた。
その屋敷は綺麗な白い木材を丁寧に削り作られており、その敷地面積はもはや城ではないか?と疑いたくなるほど大きい。また普通の家ではありえないほど高い冊が設けられており、そう簡単には侵入できないようになっている。
さらに外装は所々金属の装飾が入っており、豪華絢爛という言葉がピッタリな景観が目の前にあった。
「そ、そんな、お姫様だなんて。私なんてしがいない里娘ですよ!」
その言葉に反応するようにアリエスがニヤニヤしながらハルカをおちょくる。
「こんな豪華な家に住んでいてよくもまあ里娘なんて言えるよね。これは何かおいしい食べ物でもご馳走してくれたりしないかなー」
アリエスはそう言いなが音のならない口笛を鳴らす。
いやいや、あなたも貴族でしょうよ、アリエスさん。
というか裏の考えがバレバレですよ?
しかしハルカは俺のツッコミとは裏腹に、胸を張りながらアリエスの言葉に肯定する。
「も、もちろんです!全力でおもてなしさせていただきます!」
その言葉に小さくガッツポーズをするパーティーメンバーを尻目に、すまないなハルカ、と俺は脳内で一言謝罪するとハルカに続くようにその巨大な屋敷に足を踏み入れるのだった。
「ふうーーーーーーーーん!!!おいしい!おいしいよハクにぃ!!!」
「あ、ああ。そうだな」
俺はやや引きつった顔でアリエスの言葉に答えた。
あの後すぐに屋敷の中に通され、すぐさま食事の席に向かわされたのだが、案の定そこでは俺の頭を悩ます事態が発生した。
え?何が起きたかって?
想像してみてほしい。
貴族のような豪華な家で、ほぼ無尽蔵に出てくる料理を目の前にした俺のパーティーメンバーがどうなるのか。
そう、大暴食の始まりである。
むしゃむしゃ、バリバリ、ガッ、ガッ、ともはや人間の食事の音ではない音をその空間に鳴り響かせ、アリエスたちはその料理に食らいついていた。もはやその光景は異様を通り越して異常であり、普段の彼女たちからは考えられないスピードで胃袋に食事を放り込んでいたのだ。
正直言ってキラ以外のメンバーは相当な量を食べるというのはわかっていたことであったが、思いがけずキラも食べることがここで発覚した。
人間の料理は旨いな!とか言ってナイフとフォークを不器用に使いながらエリアに負けず劣らず料理を頬張っている。
その光景を見ていたハルカは以前のセルカさんよろしく、最初はにこやかにその光景を見守っていたのだが、途中からどんどん顔が青ざめていった。
………申し訳なさ過ぎて涙が出そうです。
と俺がその惨劇をお茶を飲みながら眺めていると、不意にハルカが俺に問いかけてきた。
「先程から思っていたのですが、そちらの綺麗な女性は誰なのでしょうか?魔武道祭の時には見かけませんでしたが……」
ハルカはバクバクと料理を口に突っ込んでいるキラを見つめながらそう聞いてきた。
まあ確かにあの大会の時にはキラはいなかったな、と思い説明する。
「ああ、あいつは俺の契約精霊のキラだ。魔武道祭の時にはいなかったからハルカは知らないだろうけど、あのあと色々あって仲間になったんだ」
その言葉と同時にキラはフォークを軽くハルカにあげながら挨拶をしたが、すぐさま料理の中に戻っていく。
「き、キラ!?キラというと精霊女王のキラですか!?」
「まあそうだな」
とその瞬間、その部屋にいた全てのエルフがいきなり頭を垂れた。
「こ、これは申し訳ございません!キラ様とは知らずに無礼を働いてしまいました。どうかお許しください!」
ハルカがその綺麗なワンピースを床につけながらそう口にする。対するキラはというといつもの忌々しそうな表情を浮かべると、もはや目線も合わせずにこう呟いた。
「そういうのはいい。妾はもうすでにマスターの契約精霊だ。普通の人間のように接しろ」
と言いながら右手をひらひらさせながら、ハルカたちの頭を上げさせた。
「は、はあ………。そ、そうですか……」
ハルカたちが煮え切らない表情でそう頷く。
まあキラは俺と契約してから人間と同じ地位を好むようになったこともあり、以前の高飛車な態度はなかなか見せず気性も穏やかになったのだ。
よって高潔な精霊女王としてのイメージが残っている者は依然としてハルカのような態度をとってしまうのである。
「まあ、そういうことだ。できるだけ普通に接してやってほしい」
俺はそうハルカたちに言葉をかけると、お茶を喉の奥に流し込み、今度はこちらからハルカに質問した。
「なあ、ハルカ。結局のところお前はこの里でどういう扱いなんだ?相当位は高いのはわかるんだが……」
するとハルカは少しだけ照れくさそうにしながら答える。
「私はこの里の里長の娘なんですよ。とはいっても私には何の権力もありませんし、できることといえば戦うことぐらいですけどね」
ラオさんには負けちゃいましたけど、とハルカはいまだに悔しそうな表情で笑いかけてくる。
っていうか、本当にお姫様だったんだな………。半分冗談のつもりだったんだが…。
俺はまさかの身分公開発言により、度肝を抜かれていたのだが、そこで料理をもぐもぐと口の中に入れているシラがハルカに問いかけた。
「はふふぁさんふぁ、ふふんさんとゆうふぃふぉをしっていまふか?」
何言ってるかわからん!
せめて口の中のものを飲み込んでから喋れよ!
「え?ルルンさんんですか?ええ、知っていますが………」
通じるんかい!?
もはや口の形も声の音も人間が聞き取れるものではなかったと思うんだが……。恐るべしエルフの聴覚。
後から聞いたことだが、シラはこの時、ハルカさんは、ルルンさんという方を知っていますか?と言っていたらしい。
わかるか、そんなもん!
俺の葛藤とは裏腹に、シラの言葉を理解したハルカは淡々とルルンという人物について話し始めた。
「ルルンさんはこのエルヴィニア秘境に設置されている第三ダンジョンの門番なんですよ。門番といっても常にダンジョンの前に立っているわけではなく、ダンジョンへの挑戦者の選定をしているんです」
ふーん、選定ね。
まあ確かにダンジョンには危険な魔物が数多く出現するし、その命を事前に守るためにもそのような存在は必要なのかもしれないが、シーナが入れないほどの門番というのは少々やりすぎなのではないか?
そう思った俺はさらに質問を畳みかける。
「聞けばその選定は相当厳しいらしいが、実際のところそのダンジョンに入ることができたやつはいるのか?」
「そうですね………。私が記憶しているものとすれば一週間ほど前まで滞在していたSSSランク冒険者の方でしょうか。私自身は魔武道祭に出場していたためよくはわかりませんが、ルルンさん曰く、さすがSSSランク冒険者だ、と言っていましたよ」
うーん、いまいちわからないな。シーナによれば単純な強さだけでは突破できない選定らしいし、いくらSSSランク冒険者だからといってそんな簡単に攻略できるものなのだろうか?
「ということはハクさんたちも第三ダンジョンに?」
「まあそういうことだ。といっても少し落ちついてからにしようと思っているけどな」
「それでしたら是非この屋敷に泊まっていってください!ハクさんには魔武道祭の恩もありますし、キラ様を普通の宿に止めておくわけにもいきません!それにエリアさんは王国の王女様なんでしょう?でしたらなおさらです!」
もの凄く必死な態度でハルカは俺に問いかけてくる。
まあ、俺からすれば願ってもないことなのだが、こればっかりはアリエスたちのも聞いてみないことにはわからないな。
ということで料理に夢中になっているパーティーメンバーにそのことを聞いてみることにした。
「これから暫くはハルカの家にお世話になるかもしれないがそれでもいい……」
「「「「「もちろん!!!」」」」」
「お前ら飯を食いたいだけだろ!!!」
俺は即答してきたアリエスたちに怒鳴り散らすと、そのままハルカに小さな声ですまない、と軽く謝罪しておいた。
すると同じくらいの声で、大丈夫ですよ、と返答してきたので、俺はその優しさに心底感謝しつつアリエスたちの食事が終わるのを待ったのだった。
深夜。
結局、俺たちはハルカの巨大な屋敷に数日間泊めさせてもらうことになった。なにやら洗礼された動きを見せる執事のような人に案内され、各々の部屋に通された。
当然、キラにも部屋が当てがわれたのだが、キラはそれを頑なに拒否し、いつも通り俺の部屋で生活することになった。
で、俺は今から眠りにつこうと思っていたのだが、そこで不意にリアがキラにも聞こえる声で言葉を発した。
『主様もキラも気づいておるか?』
「何にだ?」
俺は本当に何のことかわからなかったのでリアに聞き返す。
「あの木のことか?」
しかし俺の反応とは対照的にキラはリアの質問に答える。
『ああ、そうじゃ。あの中央に聳え立つ大樹。おそらくあれはダンジョンじゃ』
あー、その話ね。
それは俺も気づいていた。この里に入ったときに見た案内板にはどこをみてもダンジョンらしき場所は発見できなかった。普通ダンジョンというのはかなりの大きさの建造物だ。
もちろん第一ダンジョンのように地下に掘り進めたような形状のダンジョンもあるのだが、それでも地上にはそれなりに大きな痕跡を残して作られている。
だがこのエルヴィニア秘境にはそれらしきものは見当たらない。
であればどこかに隠されているか、何かにカモフラージュされているかの二択しかない。他に考えられるとすれば、そもそもこの里の中にはダンジョンが存在しないという可能性も考えられるが、シーナのあのように言っている以上その線はまずないだろう。
というわけで、そのダンジョンがどこにあるかを改めて考えると、明らかにあの大樹が怪しくなるのだ。
それに。
「おそらく神核もすでに目覚めているみたいだしな」
俺のその言葉に二人は頷く。
先程ハルカの屋敷に向かっているときにあの大樹の隣を通過したのだが、やはり星神は俺たちの先を行っているようで、このエルヴィニアの神核はもうすでに俺に対し殺気を放っていたのだ。
『じゃがそのダンジョンに簡単には入れないときた。これはどうしたものかのう……』
俺たちはそのリアの言葉を最後にベッドに入った。
ダンジョンに入るための選定。
一体どんなものなのか気にはなるが、俺たちはどんな無理難題でも突破する必要がある。
その覚悟を胸に俺の意識は闇の中に落ちた。
ちなみにこの後寝ぼけたキラが俺に抱き着いてきて、非常に眠りにくかったというのは余談である。
次回はようやくルルンのところに行きます!
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