第七十一話 蹴散らします! そして次の目的地は?
今回はカリスを吹き飛ばします!
では第七十一話です!
キラを含めた俺たちの前には、プラチナ色のフルアーマーに身を包んだいかにも女性にモテそうな容姿の男が立っていた。
そいつは一昨日、姿を隠した状態のエリアに手も足もでず無様にも準決勝で身を引くことになったSSランク冒険者の聖剣士カリス=マリアカその人だ。
カリスは明らかにこちら、というか俺に敵視した目線を向けており、そのカリスの周りにいる複数の女性達も同様の視線をぶつけてきていた。正直いってなにか憎まれことをした覚えはないし、なにより関わると面倒くさそうだなと思い俺自ら避けていた節さえあったのだ。
それなのにこの疲れているときに限ってなかなかな厄介ごとを運び込んでいたように見える。見ればこちらの陣営は、キラを先頭にエリア、アリエス、クビロの順で続き、俺の両隣はシラとシルが挿むような形で俺の前に立つ。
すると、一番殺気立っていたキラがそのカリスに質問を投げかけた。
「おい、人間。お前妾のマスターに向かってなんという無礼な物言いかわかって言っているのか?」
キラは先程のダンジョンでアリエスたちを抑えていたほどの殺気ではないが、普通の人間であれば痛さを感じるレベルの威圧をカリスらに向かって放っていた。
その威圧になんとか耐えながらカリスは反論する。
「き、君達には用はない!僕は後ろのハク=リアスリオンに用があるんだ!」
「では妾を倒してから行くといい。消耗しているとはいえお前一人ぐらいに遅れをとる妾ではないぞ!」
瞬間、キラの魔力が暴力的に膨れ上がった。それは周囲の風を巻き上げ、住宅のレンガを破壊し、実力の違いを見せ付ける。
といってもキラにここで暴れられては困るので、俺は急いでキラを止めた。
「悪いな、キラ。ここは俺が引き受けるよ。どうやらこいつは俺にしか興味がないらしいからな」
「しかしな………」
「キラはアリエスたちを頼む」
するとキラはしぶしぶといった表情で俺にその場を譲り、アリエスの前に立つと依然通常では考えられないほどの魔力を滲ませ佇んだ。
俺はそれを見届けると、前に向き直り、キラの魔力に若干逃げ腰になっているカリスとその愉快な女性達に向かって口をあける。
「で、なんの用だ?俺たちにもこれから用事がある。何かあるなら手短にしてくれよ?」
「ぐ、お前はどこまでも卑劣な奴だな!」
「なに?」
「後ろの女性達だって君が操って無理やりつき合わせているのだろう!それに王女様までその中に加えてしまうとは!なんという卑劣な奴なんだ!」
その言葉に呼応するようにカリスの引き連れている女性達が、そうよそうよ!とか、カリス様が一番格好いいんだから!とか、よくわからないことを口にしている。
まあ俺のことをどう思ってもらっても構わないが、奴の目的は一体何なんだ?
「だから、それを俺にぶつけてお前はどうしたいんだ?悪いがそんな虚言に付き合っている暇はないぞ?」
「黙れ!全てはお前が悪いんだ!あのラオさんがお前の様な雑魚に負けるはずがない!僕の試合だってお前が裏から王女様を操っていたのだろう!でなければこの僕が負けるはずがないんだ!」
…………。
うん、どうやら狂ってるぽいけど、とりあえず俺には何を言ってるのかわかりません!
責任転嫁?というか、どうやっても自分の敗北を認められないのかな?
それに俺がラオに勝ったことも怒っているみたいだし。
「だからどうした?もし仮にそうだとしてお前は今何しにここいる?」
当然の疑問である。
その良くわからない戯言をぶつけたいがために俺の前に立っているというならば、もはや付き合っている必要もないし早々に足を洗いたい。
だがそれ以上になにかあるというのなら、早く済ませてほしいのだ。どこの狂った聖剣士かは知らないが正直その声も聞きたくなくなってきている。
「勝負しろ!ハク=リアスリオン!僕が勝てば、その後ろの女性達はみんな僕についてくるんだ!それと魔武道祭の悪事を全て吐き出せ!」
結局女目的かよ!
聖剣士の名前が完全に廃るぞ!
しかも魔武道祭の悪事だと?妄想を膨らませるのも大概にしてほしいものだ。
どうやら俺の後ろにいる俺のパーティーメンバー達は全員、額に青筋を浮かべ完全に引いてしまっている。さらにキラにいたっては根源を使ってもおかしくないほどの魔力が既に集められており、俺でも止めるのが難しそうな段階まで来ていた。
こ、これは、色々と早めに決着をつけたほうがいいかもしれないな……。余計な被害が出る前に。
「ならお前が負けたときには、今の言葉を全撤回、かつ二度と俺の前に姿を現すなよ?」
「は!僕が君に負けるわけないだろう?そんなことは考える必要はないさ」
うわ、今、サラーっていうイケメン独特のオーラが出てきたんですけど!?
それにつられてカリスがつれている女性達は体をくねくねさせてるし………。なんというかこちらとあちらの温度差が天と地ほど違うんですが……。
「はあ………。ならさっさと始めよう」
俺はそう言うと蔵からエルテナを取り出し、適当にそれを構え一応戦闘態勢をとった。それにあわせてカリスはご自慢の聖剣を抜く。
その剣は深く沈む深海のような色のラインが複数入っており、それを取り囲むように黄金の装飾が施されている。いかにも聖剣といった形状だ。
「後悔するといい、僕に無礼を働いたことを!」
その瞬間カリスは自らの足に力をこめ、地面を蹴った。どうやら身体強化を全力で使っているようで、本気で俺を殺しに来ているらしい。その目には明らかな殺気が滲み出ていた。
正直言って先程の話を聞いてもなぜカリスが俺にそこまでの感情を抱いているのかはわからなかったが、妄想の爆発は怖いもので思い込みだけで人に剣を向けることができるようになるらしい。
「くたばれえええええええええええ!!!」
カリスはそのまま俺の脳天目掛けて聖剣を振り下ろす。対照的に俺はエルテナを地面に突き刺し、まったく動かない。
否、動く必要がない。
カリスの聖剣は見事に俺の頭に命中し衝撃を走らせる。
当然、カリスの顔には歓喜の表情が浮かぶ。それは完全に狂気に飲まれた目をしており、話し合いでの解決の無用性を俺に感じ取らせるのだった。
その聖剣は俺の頭を砕こうと力を流し込む。
だがその均衡が取れていたのは一瞬だけだった。
すぐさまバキンという音が鳴り響くとカリスの聖剣が剣の腹から真っ二つに折れる。
「な!?ば、ば、ば、馬鹿な……!?これは聖剣だぞ!?なんで折れるんだ!?」
俺はそのままゆっくりと地面に刺さったエルテナを持ち上げると、スピードを一瞬だけ上昇させカリスの喉元に突きつける。それは風の塊をカリスの叩きつけ、汗で張り付いているカリスの髪を吹き飛ばした。
「チェックメイトだ。これからは挑む相手を間違えるなよ?」
俺はその一瞬だけキラの殺気を越える威圧を叩き込み、カリスを脅す。するとカリスは目元に大粒の涙を浮かべ、歯をガタガタと振るわせた。
その様子を確認した俺はエルテナを蔵に戻すと、そのままカリスに背を向けアリエスたちの下に駆け寄る。
その光景はそこそこ大事になっているようで、あたりを見れば相当な数の野次馬が群がっていた。俺たちはなるべく目立たないようにその場から離れようとする。
しかし、まだ終わっていないと言わんばかりにカリスが折れた聖剣を片手に、俺を背後から刺そうと突撃してきた。
「お前は俺に負けるべきなんだよおおおおおおおお!!!」
だが俺は今回こそ本当に何もしなかった。
なぜならそれを吹き飛ばしてくれる相棒がいるから。
「近寄るな、愚物」
キラはできるだけ魔力を抑えた力の塊をカリスの鳩尾に叩き込んだ。
吹き飛ばされたカリスは広場の噴水に激突し、完全に気絶した。
俺は一言キラにお礼を言う。
「ありがとう、キラ」
「この程度造作もない。だがマスターは幾分か優しすぎるな。力を使わずとも、首の骨を折るなり、腕を弾き飛ばすなり、出来ただろうに」
いや、さすがにそんなグロいことはしませんから!?
相手が神核クラスであれば、悠長なことはいてられないだろうけれど、あのレベルであればきちんと手加減はしますよ。
まあカリスは勝負の後、無抵抗な相手に剣を向けたのだ。これだけ多くの人が見ているし、なんらかの処罰は受けることになるだろう。下手をすれば冒険者の称号すらも剥奪されるかもしれない。
俺はその伸びているカリスを横目で観察すると、すぐさま足を王城に向け歩き出した。キラを除くメンバーはいまだにカリスの気持ち悪さに寒気を抑えられていないようだったが。
その光景にある意味カリスは俺たちに特大の攻撃かましたのか?と馬鹿な考えを抱きながら王城へ向かうのだった。
実に三回目のシルヴィニクス王国王城。
何度通っても小心者の俺は落ち着かず、若干そわそわしてしまう。それはアリエスとシラ、シルも同じようで、唯一まともに歩けているのが第二王女のエリアだけである。
キラにいたっては目を輝かせ、まるで子供みたいに周囲の景色を観察している。
そして俺たちは国王との謁見の間にたどり着き、その扉を開けた。
「おお、ハク君。戻ったか!」
するとエリアの実の父である現国王アトラス王が俺に向かって話しかけてきた。
その表情はなにやら煮え切らない様な表情をしており、俺たちの身を心配していたのが見て取れた。
「で、どうだったのだ?無事に第二ダンジョンは元に戻ったのか?」
その問いに俺は今までのあらましを出来るだけわかりやすく説明した。当然俺の能力やキラとの戦闘内容は伏せるし、移動中にエリアが抱きついてきたなど口が裂けてもいえないので、そういう部分は割愛した。
「ふむ…………。まさか精霊女王とはな……。で、そこにいる美しい女性がそうなのか?」
「ええ、まあそうなりますね」
「言葉を弁えろよ、人の王。妾やマスターはその気になればこの国の全領土を灰に出来るのだぞ?」
その言葉は若干の威圧が含まれており、その言葉を聞いた瞬間、アトラス王は顔を引きつらせ返答した。
「も、もちろん、わかっておる……。われわれはハク君たちにもキラ殿にも迷惑をかける気はない」
このキラの威圧を受けて敬語にならないあたりがさすが王の器ということなのだろう。
「というわけで、俺たちの当初の目的は達成しました。数日ほどここで体を休めてから、また再び旅に戻ります。そこでなのですが、この王国から一番近いダンジョンがどこにあるか知っていますか?」
これは今の俺たちにとって一番知りたい情報であった。アリエスを初めとするパーティーメンバーにこれを聞いてもみんなわからないらしく、頼みの綱であるクビロやキラにいたっても、どこかはわからないらしいのだ。
クビロは世界各地を回っていたらしいが、第一神核に負けて以降ダンジョンには近づいていないらしく、キラはそもそも精霊たちの安定した住処を探していたためダンジョンなどという場所には気を止めたことすらなかったという。今回の件が非常にイレギュラーであり、第二神核がいなくなったことが原因であの場所に現れていたようだ。
「ふむ、そなたらがそう言うと思って私も調べてある。二度も国の危機から救ってもらったそなたらを無碍にはできんからな。で、ここから一番ダンジョンはおそらくエルヴィニア秘境の第三ダンジョンだろうな。それとその後で言えば、学園王国の第四ダンジョン、オナミス帝国の第五ダンジョンの順で近いようだ」
なるほど、エルヴィニア秘境か。
エルヴィニア秘境はエルフの発生の地と言われいまだに多くのエルフ達がその場所に住んでいるという。ただそこは深い森の中にあるとされ、歴戦の冒険者でなければその秘境にすら到達できないのだとか。
まあハルカの出身地だし、いずれ寄ろうと思っていたところなので問題はないだろう。
「エルヴィニア秘境に関してはシーナが良く知っている。この国にいる間に聞いてみるといいだろう。それと………」
するとなにやらアトラス王の表情がいきなり曇りだし言葉が喉で止まった。
「それと?」
アトラス王は非常に言いにくそうにそのことを話し出した。
「おそらくじゃが、第三ダンジョンは挑むことはおろか、入ることすら厳しいだろう。それも間接的に抑えられてな」
「は?」
俺は言っている意味が理解できずその場に固まってしまうのだった。
次回は久々のシーナが登場します!
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